「……アスフィさん」
何とも言えない微妙な表情のレフィーヤは、案内役のアスフィに声を掛けた。
ここはフレイヤ・ファミリアの敷地内にある巨大倉庫。
レヴェリアが作るだけ作って、諸々の理由で世に出ることなく仕舞いっぱなしになっている魔道具の保管場所だ。
前々から何があるのか気になっていたレフィーヤがアスフィに尋ねたところ、見学と相成っていた。
今、レフィーヤの前にあるのはベッドである。
だが、そのベッドは一箇所を除いて降りられないよう柵が取り付けられていた。
人に言えないようなことをヤる為の特殊なベッドではないか、と彼女は予想しつつ、単刀直入に尋ねる。
「何ですかこれ?」
「空飛ぶベッドですね」
「ううん?」
自分の耳がおかしくなったかな、とレフィーヤは思ってしまう。
その反応にアスフィは生暖かい視線を送った。
数年程前、アスフィは空を飛ぶサンダル――後にブーツ型も開発――の開発に成功し、レヴェリアに披露した。
絶賛した彼女が私も作ってみよう、と言ってしばらくした後に作ってきたのがこのベッドであった。
柵がついているのは飛行時に落ちないよう、安全性を考慮した結果である。
「飛ぶんですか? これ」
「残念ながら飛びます」
「えぇ……」
レフィーヤは困惑した。
正式入団後、レヴェリアとアスフィから空を飛ぶサンダルやブーツ型の魔道具があることを教えられており、体験もしたことがあるので空を飛ぶことに関して驚きはない。
どうしてベッドを飛ばそうと思ってしまったのか、それだけが疑問であった。
「どうしてレヴェリア様はこれを?」
「空を飛ぶベッドは浪漫だから……だそうです。幻の大地を探してみたいとか何とか言っていました」
宝探しか何かだろうか、とレフィーヤは考えながら、視界に入っていながらもあえて無視していたベッドの隣に並んでいるモノ達に言及する。
「ところでアスフィさん、そこに絨毯と流し台と便器とバスタブがあるんですが……?」
レフィーヤの言葉に、アスフィは首を左右に振って答える。
空飛ぶ魔法の絨毯はカイオスのお伽噺にも出てくる為、分からないでもない。
だが、残る3つはアウトだった。
「残念ながら、全て飛びます」
「どうしてそんなものを飛ばそうと思っちゃったんですか……?」
「レヴェリア様曰く、飛ばせないものはないことを証明したかった、後悔はしていないと……」
「そこは後悔してください」
もっともなツッコミであった。
勿論、当時のアスフィも同じツッコミをしていた。
「どうして死蔵されているか、理解できたかもしれません……」
そう呟いたレフィーヤは、空飛ぶシリーズも含めてこれまでに見て回ってきた魔道具を思い返す。
珍しいものであることは間違いなく、効果もスゴイものが多い上、レヴェリア謹製ということもあってかなりの値段がつくだろう。
けれども、しょうもなかったり残念なものばかりであった。
その時、アスフィが別の棚からあるものを持ってくる。
「ちなみにコレは……それなりに使える代物ですよ」
そう言ってレフィーヤに見せたのはモーニングスターであった。
苦悶に満ちた人の顔みたいな装飾が鉄球に施されており、我こそが呪われし武器だと盛大に主張している。
「……何ですか? その呪われていそうな武器」
「『おはようフレイヤ、はよ起きんといてこましたるぞ1号君』です」
レフィーヤは天井を仰いだ。
その名から用途はとても分かりやすい。
寝坊したフレイヤを叩き起こす為のものだろうが、そこには殺意しか感じられない。
「殴ったんですか?」
「殴るフリだそうです。一瞬で起きるらしいです」
「そりゃそうでしょうね」
いくら寝坊しているからといって、寝起きにこんなものを出されたら一瞬で目が覚めるだろうことは想像に難くない。
もしも自分だったら襲撃と勘違いして反撃しそうだ、とレフィーヤは思っていると、衝撃的な事実がアスフィから明かされる。
「ちなみに2号君はレヴェリア様の私室にあるらしく、現役だそうで……」
「2号君まであるんですか……」
レフィーヤは呆れ顔となって、軽く溜息を吐いた。
その様子を見て、アスフィは苦笑するのだった。
一方その頃、レヴェリアは輝夜と食後のお茶を啜っていた。
ここは2人だけの密会場所として、数年前に購入した極東風建築の庭付き平屋だ。
2人は昨晩から肌を重ね、昼前にのそのそと起き出してつい先程、昼食をとったばかりであった。
会話が途切れたところを見計らい、輝夜はからかうように告げる。
「三条家の娘を手籠めにしたそうだな」
「してないぞ」
「どうだか」
レヴェリアが否定するも、問いかけた輝夜は肩を竦めてみせた。
そして、更に問いかける。
「将来的には手を出すんだろう? 違うか?」
ジト目の輝夜に対して、レヴェリアは沈黙を貫く。
それだけで答えとしては十分だった。
春姫がフレイヤ・ファミリアに入団したことは、神々によってあっという間にオラリオ中に広まった。
レヴェリア様が極東出身の狐っ娘を手籠めにしたぞ!
夜な夜な狐耳と尻尾をモフりながらエロいことしているんだろ!
うらやまけしからん!
その間に挟まりたい!
だいたいそんな感じである。
ゼウスが一目見ようと――ワンチャンお近づきになれるかもと思いながら――フレイヤ・ファミリアへ赴こうとしたところでヘラに捕まったりしていたが、いつものことなので誰も気にしなかった。
「お前の色ボケは今に始まったことではないが……どういう経緯で?」
「春姫から聞いた話だが……」
レヴェリアはそう前置きし、経緯を話す。
輝夜は顔を顰め、話を聞き終わると深く溜息を吐いた。
「経緯については分かった。その小役人だけじゃない。父親もグルだな」
「どうしてそう考えた?」
「母親が娘を産む時に命を落とした。それ以来、娘を疎ましく思っていると噂に聞いた」
そう断言した輝夜は、少しの間を置いて告げる。
「お前のことだ、私の出自はある程度予想がついているだろう?」
その問いかけに対して、レヴェリアは頷いて言葉を紡ぐ。
「極東の貴族だとは前々から予想していた。サンジョウノが三条家ならば、お前は五条家か?」
「ああ、そうだ。先祖代々
輝夜は肯定し、にやりと笑みを浮かべた。
「うちのご老人方はお前を見かけたらブチ殺せと常々言っていたぞ。昔、暗殺を仕掛けて返り討ちにされて、大損したらしいが……」
「すまない、多すぎて覚えていない。世界中から暗殺者や殺し屋、しまいには闇派閥までわんさかやってきたからな」
「そんなに?」
思わず輝夜は問い返してしまった。
大昔はあちこちから狙われていたとは聞いていたが、そこまでとは予想外であった。
「昔から人気者だったんだ」
いけしゃあしゃあと宣ったレヴェリアに、輝夜は肩を竦めて尋ねる。
「おそらく春姫は体の良い厄介払いだろうからまずないと思うが……もしも親が取り返しに来た場合はどうするんだ?」
「相手の出方によるが、お前の予想は?」
「家柄を笠に着て傲岸不遜に返せ、
「私相手でも?」
「お前相手でもだ」
輝夜の言葉に対して、レヴェリアは大きく頷いてみせる。
そして、素知らぬ顔でわざとらしく尋ねる。
「三条家はどのくらい続いているんだ? 私に対してそのような物言いをするならば、最低でも数千年くらいは歴史があるんだろう?」
「お前、分かってて言っているだろ?」
「さてな……何分、浅学非才の身。極東のことはよく分からないんだ」
ジト目で輝夜が問い返せば、レヴェリアは惚けてみせる。
その反応に輝夜は軽く溜息を吐く。
そして、レヴェリアは更に言葉を続ける。
「まあ、ギルドが何とかするだろう」
「そうだな」
その言葉に輝夜もまた肯定して頷いた。
普段から何だかんだで忙しいギルドであったが、三条家の出方次第で面倒事が1つ増えることが確定した瞬間であった。
ロイマン「おいバカやめろ」