転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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万全を期す為に

「……これだけの戦力があっても、まだ届かないと判断するのか?」

 

 渋い顔のロイマンはレヴェリアが持ってきたリストを眺めながら、喘ぐように問いかけた。

 その問いに対して、彼女は頷いてみせる。

 

 ギルドの最上階にある執政室――ロイマンの居城にて、レヴェリアは厳然たる事実を突きつけていた。

 

 彼の執務机に置かれているリストには、黒竜討伐における本隊のメンバーが記載されていた。

 暫定的なものである為、ゼウス・ヘラ・フレイヤ・ロキの四派閥分しか載っていないが、錚々たる面々だ。

 これに加えて、討伐実施が正式に決定されたならばイシュタル・ファミリアなどの大手派閥も参加を表明するだろうことから、さらに戦力は増える。

 

 派閥の垣根を超えた協力関係が当たり前となって久しく、合同遠征や竜の間引きでよく見られた。

 だが、それでも下界における現時点での最高到達点――いわば『英雄軍団(オールスターチーム)』をリスト化されて見せられれば、ロイマンとて興奮を覚えずにはいられなかった。

 

 戦力の強化・拡充は順調といえた。

 ここ数年、レベル7以上の面々は軒並みランクアップをしており、レベル6以下では半年から1年程度でランクアップを果たす者も多い。

 けれども、討伐にGOサインを出すどころか、レヴェリアによる偵察すらも見送っているのが現状だ。

 

 黒竜が人知を超えた、天変地異の如き存在であるのはロイマンも過去の記録等から理解していた。

 『頂天』たるレヴェリアであっても、黒竜のように100K以上先にある国家を一撃で消し飛ばす能力はない。

 またその鱗はレベル9以下の攻撃は実質無効と言っても過言ではない、絶大な防御力を誇っていることが様々な実験でもって判明していた。

 そして、黒竜が撒き散らす汚染瘴気(ドラグマ)も極めて厄介だろうと予想されている。

 通常の竜種によるものでも消耗を強いられる為、黒竜ともなるとレベルダウンに匹敵するような下降付与(デバフ)効果があってもおかしくはない、と考えられており、さらに何らかの厄介な特殊能力を得ている可能性も否定できなかった。

 極めつけは最低でも推定レベル11以上とされているが、それより高くても――レベル12やレベル13、あるいはそれ以上――不思議ではないことだ。

 

 矢面に立つ冒険者達からすれば、どれだけ準備をしてもやり過ぎることはない。

 むしろ、自分達の強さを過信せず、慢心も油断もしていない慎重な姿勢は称賛されるものだ。

 

「本隊に参加できるよう、レフィーヤを育てたい」

 

 レヴェリアの言葉はロイマンの予想したものであった。

 同胞の魔法を召喚できる稀少魔法【エルフ・リング】はレヴェリアも対象に含まれる。

 それ故、魔法に関してはレヴェリアが実質的に2人いるようなものだが、レフィーヤのレベルが低ければ黒竜戦には参加できず、宝の持ち腐れとなってしまう。

 派閥体験(インターン)時も含め、この1年半で彼女はレベルを2つ上げてレベル4に至っているが、まったく足りていない。

 戦闘の余波だけで消し飛んだりしない為にも、最低でもレベル7は欲しかった。

 

「まだ猶予はあるだろうが……10年、20年もあるとは思うな」

「分かっているとも。どうにか間に合わせるさ」

 

 ロイマンに対して、レヴェリアは答えながらついでとばかりに尋ねる。

 

「ところで春姫の件で何か言ってきたか?」

 

 問いかけに対して、彼は首を左右に振った。

 何も知らぬままではさすがに対応が難しくなると考えたレヴェリアは、春姫に関する懸念についてロイマンに伝えていた。

 新たな稀少魔法が発現する可能性もある為、三条家が難癖をつけてきても春姫を返すという選択肢は彼にもなかったことから、レヴェリアとの間で利害は一致している。

 

「彼女が入団してから半年以上経った。さすがに大丈夫ではないか?」

「おそらく大丈夫だろうが、念の為だ」

 

 レヴェリアの言葉に、ロイマンは肩を竦めてみせる。

 女のことになると、いつも以上に気を回すのが彼女であった。

 

 

 

 

 

 ロイマンとの話を終え、ギルドの受付や換金所がある1階へ降りるとレヴェリアを見つけて半妖精(ハーフ・エルフ)の少女が駆け寄ってきた。

 かつてレヴェリアが癒やしたリヴェリアの従者にして友人、アイナの娘――エイナ・チュールだ。

 『学区』の生徒でもあったことから、2人は見知った間柄だ。

 

「レヴェリア様、この間、助けて頂いた冒険者パーティは私の担当、マリス・ハッカードがリーダーでして……本当にありがとうございました!」

「気にするな」

 

 深々と頭を下げるエイナに対して、レヴェリアはにこやかな笑みを浮かべて告げた。

 数日前、ダンジョン篭もりから帰還する最中に16階層でミノタウロスの大群に襲われていたパーティを助けていた。

 だが、レヴェリアがそのパーティを助けたのは今回が初めてではなかった。

 2年程前、12階層でインファント・ドラゴンに襲われていた時も助けていた。

 それ以後、冒険を重ねたそのパーティは今やレベル2に至り、中層を主として探索していた。

 

「マリス達を助けたのは二度目だな」

「ホント、キツく言っておきますので……」

「三度目も助けられるとは限らない。今度、彼女達に指導をしてもいいかもしれん」

「お忙しいのに、ありがとうございます! 厳しくやってください!」

 

 レヴェリアからの提案に、エイナは礼を言って再び頭を下げる。

 そこでレヴェリアはミィシャ・フロットがやや離れたところから、エイナを見守っていることに気づいた。

 当然、ミィシャのこともレヴェリアは学生時代からよく知っている。

 

 ふぇーん! レヴェリア様ー! ギルドの試験対策、手伝ってくださいー!

 試験だけでいいのか?

 面接もお願いしますー!

 

 そうやって泣きついてきたのは良い思い出だ。

 彼女達もギルドへ入職して3年半。

 今や制服に着られているのではなく、しっかり着こなしていた。

 あっという間だなぁ、とレヴェリアは2人の成長ぶりを微笑ましく思い、目を細めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドを出たレヴェリアはホームに帰るのではなく、別のところへ向かう。

 ダンジョン篭もりの後は基本的に休暇となっており、それは彼女も例外ではない。

 存分に休暇を楽しめるよう、篭っている間に溜まっていた書類は帰還直後に処理してあった。

 気分良く、彼女が向かった先は服飾店街。

 その一角に佇む小洒落た格好をしたアスフィを見つけると同時に、向こうもレヴェリアに気がついた。

 天気晴朗、風弱し。絶好の逢瀬日和であった。

 

 

 

 

 

「午後は2人きりになれるところで、のんびりしないか?」

 

 レヴェリアの言葉に含まれた意味を、アスフィは正確に理解した。

 

 合流した2人は服飾店街を見て回った。

 ああだこうだ、と話しながら品物を見ていき、幾つか衣類や小物類を購入した後はレヴェリアのオススメ店で昼食を終えたところでの誘い。

 

 もう本当にこの人は――

 

 そう思いながらも、実のところアスフィ自身もその気であった。

 何ならこっちから誘おうかなと機をうかがっていたところだ。

 

 2人きりでなければ、性格的にアスフィは全てを曝け出して心の赴くままに甘えることができなかった。

 仕事や鍛錬などに大きなストレスや悩みがあるわけではないが、それでもやはり重圧はあった。

 

 数年前、レベル7であった彼女は今やレベル9に至っている。

 ランクアップは喜ばしいのだが、将来的にミアの後任として副団長となるのではないか、とアスフィはヒシヒシと感じていた。

 

 単純な強さのみを考えるならばミアの後任はオッタルが相応しいのだが、副団長は武力以外のことも高い水準で求められる。

 実務的なことや対外折衝、武力では解決できない突発的に起きる厄介事・面倒事といった頭を使う場面がとても多い。

 能力面だけを考えるならばヘディンであるのだが、口の悪さがとても大きな減点要素となっている。

 外部との連携・交流は円滑であるのに越したことはない為、総合的に考えるとアスフィが適任となってしまう。

 故に明言こそされていないものの、それとなくそういった言葉をレヴェリアからちょくちょく掛けられていた。

 

 それはさておき、レヴェリアからの誘いにアスフィは答える。

 

「ええ、その方がゆっくりできますから……」

 

 そう言った後、彼女は声を潜めて視線を逸らして羞恥に頬を染めつつ、更に言葉を紡ぐ。

 今までも要望がある度に受けていたことから、今回が初めてではないが恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

「その、言われた通り処理してませんから……」

 

 ダンジョン篭りでの休息は必要最低限。

 女としての身だしなみを整える時間などない為、常ならば帰還してから処理するのだが、レヴェリアからの要望でしていなかった。

 彼女の言葉に、レヴェリアは笑みを深める。

 

「愛らしいな、お前は」

「も、もう! 本当に恥ずかしいんですからね!」

 

 そう言うもののアスフィもまったく同じ要望をレヴェリアに伝えてあった為、お互い様である。

 勿論、レヴェリアもその要望に応じて処理していない。

 そして、2人は休憩ができる宿へ向かうのだった。

 

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