転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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ベル・クラネル

 それは2年前、ベル・クラネルが10歳の時だった。

 

 

「よぉし! ベルよ、今から恩恵を刻むゾイ!」

 

 軽い感じで宣ったゼウスに対して、ベルは苦笑してしまう。

 

「えっと、ゼウス様。よろしくお願いします」

 

 彼がそう言った瞬間、ゼウスはガビーンとショックを受けた顔となって、よろめいて床に両膝をついた。

 

「ベルが……あのベルが! ゼウス様なんて呼び方に! いつもみたいにお爺ちゃんと呼んでくれないとやだやだ!」

 

 首だけでなく全身を左右に振って拒絶アピール。

 この場にヘラがいたならばはっ倒されるところだが、あいにくとベルしかいない。

 

「……本当に大丈夫かな?」

 

 思わずベルは小声で呟いた。

 彼がゼウスを選んだのは、父親が所属していることもあって幼い頃から主神や団員達と交流があったことが大きい。

 

 エルフの口説き方、教えちゃるゾ。

 リューちゃん、昔から気になっているんじゃろ?

 

 そんなことをゼウスはベルに度々囁いたが、それが決定打となったわけではない筈だ。多分。

 

「嫌じゃ嫌じゃ! お爺ちゃんって呼んでくれないと嫌じゃああああ!」

 

 フレイヤの如く駄々っ子戦法を発動するゼウスは、神々が見れば「キッショ」と口を揃えて言うだろう。

 だが、(メーテリア)の優しさを受け継いでいるベルはそんな事は言わなかった。

 

「お爺ちゃん、こういうのはキチンとしないと駄目ってお母さんが……」

「儂が許すから問題ないゾイ!」

 

 ベルの言葉に対して、腕を組んで大きく頷いてみせるゼウス。

 どう答えていいか困ったベルは苦笑してしまう。

 ともあれ、呼び方が元に戻ったことで満足したゼウスは話を元に戻す。

 

「気を取り直して……いざ刻むゾイ!」

「あ、うん。よろしくお願いします」

 

 そんなこんなでゼウスはベルの背中に恩恵を刻み――現れた2つのスキルに目を疑った。

 

 

 【英雄憧憬(ステイゴールド)

 早熟する。

 思いが続く限り効果持続。

 思いの丈により効果向上。

 英雄との共闘時、全アビリティ能力高補正。修得発展アビリティ強化。魔法効果増幅。

 

 【妖精一途(リアリス・フェアリー)

 妖精との共闘時、全アビリティ能力高補正。

 対象への好感度に応じて効果向上。

 戦闘時、発展アビリティ『狩人』『連攻』の一時発現。

 補正効果はレベルに依存。

 

 

 

 1つ目、成長スキルじゃね? 自己強化もくっついているとか超ヤバすぎ!

 さっすが儂の孫じゃな!

 2つ目はリューちゃんへの情熱的な愛とカッコいいところを見せたい男心の発露!

 アオハルじゃな!

 これ、どっちも伝えんほうがいいかもしれん。その方が伸びそうな気がするし――

 

 

 ゼウスがそこまで考えた時、突如として神室の扉が吹き飛んだ。

 ベルはビクッと身体を震わせるが、予期していたゼウスは動じない。

 ベルが驚いている間に、ささっと恩恵をロックして素知らぬ顔で問いかける。

 

「アルフィアよ、扉が可哀想だとは思わんか?」

「糞爺の部屋に備え付けられるくらいならば吹き飛んた方がマシだろう」

 

 いけしゃあしゃあとアルフィアは宣った。

 彼女の言葉に嘘偽りはまったくないからこそ、ガックシとゼウスは項垂れてみせる。

 そんな彼に対してアルフィアは単刀直入に尋ねる。

 

「刻み終わったか?」

「終わったゾイ。ベル、ちょいと席を外してくれんか? お主の育成方針でアルフィアと話したくてのぅ」

 

 そう宣ったゼウスに対して、アルフィアは意図を理解した。

 わざわざ彼がそう言ってくるということは、何らかのスキル――それもベルには聞かせたくないものが発現したのだ、と。

 素直なベルは疑いもせずにそそくさと部屋を出ていった。

 こっそり盗み聞きをしているなどがないことを念の為に確認して、ゼウスは羊皮紙にベルのステイタスを書き記す。

 

「……さすがは私の甥っ子だ」

 

 発現したスキルに、アルフィアは口元に笑みを浮かべて呟いた。

 なお、ゼウスは話が拗れることを避ける為に2つ目のスキル【妖精一途(リアリス・フェアリー)】に関しては書かなかった。

 嫁の作法を教えてやる、などとアルフィアが宣ってアストレア・ファミリアに突撃することを防ぐ為だ。

 ベルがリューのことをどう思っているかなど周知の事実であったが、リスクは減らすに越したことはなかった。

 そんな彼女にゼウスは尋ねる。

 

「のぅ、アルフィア。一応聞いておくが……やっぱりお主が鍛えるのか?」

「当たり前だ」

「儂の眷族なんじゃが……」

「何か問題があるのか?」

 

 文句があるならば言ってみろ、魔法で吹き飛ばしてやるから――

 

 そんな雰囲気を漂わせながら、アルフィアが問いかければゼウスは首を左右に振った。

 

 さすがのアルフィアも可愛がっている甥っ子相手に、やりすぎることはないだろうたぶんきっとそうだといいな――すまん、ベルよ。儂じゃ止められなかった。

 

 ゼウスは心の中でベルに謝った。

 アルフィアの表情は常と変わらぬ澄まし顔だが、やる気満々であるのは誰の目にも明らかであった。

 

「安心しろ、終わったらホームに送り届けるからな」

 

 そう告げてアルフィアは部屋から出ていった。

 

「……スキルのおかげで、とんでもないことになりそうじゃのぅ」

 

 彼女を見送ったゼウスはしみじみと呟く。

 ベルのスキルについて、彼はアルフィアだけでなく【英傑】をはじめ、幹部陣にも伝えるつもりだ。

 彼等が面白く思わないわけがなく、また成長具合から何かがあると察したヘラの眷族もベルの育成に参加してくるだろうことは想像に難くない。

 レヴェリアにはアルフィアが伝えることは確実だ。

 彼女の治癒魔法とベルの成長スキルが組み合わされれば、とんでもないことになるのは想像に難くない。

 現時点における唯一の問題は、アルフィアがどのくらいの期間でベルを帰してくれるかであった。

 彼女がどんなことをするかは分からないが、過酷であることだけは間違いなかった。

 

「ベルよ、強く生きるんじゃ……」

 

 そう呟いたゼウスだが、超過酷な英才教育により僅か2年でベルがとんでもねぇ成長を遂げるとは、さしもの彼にも予想できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョン18階層の端っこでベルは眼前に立つレヴェリアを見据え、己の得物である長剣を構える。

 戦闘開始から僅かな時間で4回瀕死となったが傷も痛みもどこにもなく、万全の体勢だ。

 これまで幾度となくお世話になっているレヴェリアの治癒魔法のおかげだった。

 

 地面を砕くかのような勢いでもって踏み込み、己の腕が千切れても構わないとばかりに全力での剣撃を見舞う。

 さながら刃の結界であるが、その全てを紙一重で避けられる。

 

 彼女の剣は未だ抜かれておらず、これまでベルを瀕死に追い込んだのは拳であり蹴りであった。

 そもそも軽く撫でられるだけで、巨人に体当たりされたかのような衝撃が襲いかかり、全身が千切れ飛びそうになる。

 手加減された状態でそうなのだから、ベルは己の未熟さと弱さを痛感していた。

 

 2年前、ゼウス・ファミリアに入団した彼は今やレベル7に至っていた。

 この年月で彼がこの階位に至ったのは、2つのスキルが入団時に発現したこと、そしてそれを活かす為の環境に恵まれすぎたことだ。

 もっとも、そのスキルについてはどちらもまだ本人には知らされていないのだが。

 

 そんな彼だが、入団初日からハードであった。

 恩恵を刻み終わるや否やアルフィアにダンジョンへ連れて行かれた。

 以前よりアイズに稽古をつけてもらっていた為、最低限の知識や技術はあるが、新米であることに代わりはない。

 だが、アルフィアは気にしなかった。

 現地で実際に体験した方がよく覚えられる、というのが彼女のスタンスだ。

 本当にヤバい時だけ助けると伝えられ、ベルは上層にてモンスターの群れに放り込まれた。

 いきなり中層に連れて行かなかったのは彼女なりの優しさだったが、ベルには分かるはずもなかった。

 

 満身創痍になりながらベルはモンスターをどうにか殲滅したが、即座にエリクサーをぶっかけられて今度はアルフィアと戦うことになった。

 神々が目撃したならば超馬鹿(クソゲー)と叫んだことだろう。

 

 ボロ雑巾のような酷い状態にされた後、再びエリクサーをぶっかけられてモンスターの群れに放り込まれ、モンスターを倒したらエリクサーをかけられてアルフィアと戦う――

 

 そんな生活を2週間に渡って最低限の休息のみで延々と繰り返した結果、初めてのステイタス更新ではゼウスが驚きに固まった後、叫び出す程度には【魔力】以外の熟練度(アビリティ)がエグい伸びとなった。

 

 どうだと言わんばかりに胸を張ったアルフィアに対して、メーテリアが激怒したのは言うまでもない。

 1週間、メーテリアに口もきいてもらえず、さすがのアルフィアも落ち込んでレヴェリアにたくさん慰めてもらったという顛末であった。

 いきなりハードな体験をしたベルであったが、彼は折れなかった。

 英雄達への憧憬と高潔にして可憐な妖精(リュー・リオン)への一途な思いを胸に秘め、強くなるという一点においては世界最高峰の環境にて、ひたすら走り続けちゃったのだ。

 

 

 

 

 ベルは苛烈に攻め立てるが、レヴェリアは涼しい顔で全てを回避していく。

 やがて焦りによるものか、彼の動きに僅かな隙が生まれた。

 

「その動きは良くないな」

 

 レヴェリアの声が聞こえた直後、ベルは激痛と共に意識が強制遮断された。

 

 

 

 

 ベルが目覚めると、大きなお山が2つ視界いっぱいに広がっていた。

 後頭部に感じるのは程よい柔らかさと張りが両立した極上の枕のような感触。

 

 レヴェリアによる膝枕だが、ベルが焦ったり混乱したりすることはない。

 彼からすれば彼女は家族同然であり、何よりも昔から膝枕はよくしてもらっていたからだ。

 アルフィアが幼い頃からベルに対して、レヴェリアを恋愛対象としないようアレコレ吹き込んできた成果が表れていた。

 

 とはいえ、12歳になった彼からするとちょっと恥ずかしいものでもあった。

 何よりも、こんなところをリューに見られたら堪らない。

 起き上がったベルに対して、レヴェリアは尋ねる。

 

「ん? もっと横になっていてもいいぞ?」

「は、恥ずかしいから……」

「リューに見つかると大変だからな」

 

 レヴェリアの言葉に、ベルは顔どころか耳まで真っ赤になった。

 幼い頃、暴漢達に襲われた彼を助けたリュー・リオン。

 その時の光景は彼の心に強烈に焼き付いて、色褪せていない。

 要するに、一目惚れだ。

 

 純情なベルの反応にレヴェリアはほっこりとしてしまう。

 

「もう一戦! まだ時間はあるから!」

 

 今日の模擬戦は前もって決めてあった予定ではない。

 偶然リヴィラでレヴェリアを見つけたベルが、短時間でもいいからと頼み込んで彼女が快諾したという経緯だ。

 

 休んでいる暇はない、と羞恥を誤魔化したいベルに対して、レヴェリアはにこにこ笑顔で応じるのだった。




ゼウス「儂だってフレイヤみたいに駄々っ子してもいいじゃろ」
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