「むむむ……」
レフィーヤは自室のクローゼットを全開にして、ハンガーに掛けられた洋服達とにらめっこしていた。
明日はレヴェリアと出かける――要するにデートなのだが、何を着ていこうか、かれこれ1時間程悩みに悩んでいる。
レヴェリアとデートをするのは今回が初めてではない。
彼女が初めてレヴェリアとデートをしたのは正式入団後、数ヶ月程が経過した時だった。
それ以来、順調に関係を深めている。
学生には手を出さないが、卒業をしたらその限りではない――
ナッセンが言っていたことは正しかったのだ。
「ちょっと冒険してみたり……」
ティオネ、ティオナと買い物に行った時、勧められて購入した煽情的な衣装が目に留まったレフィーヤは呟いた。
勿論、今まで着ていったことはない。
煮詰まってきたと感じたレフィーヤは一息つくべく椅子に腰掛け、背もたれにもたれ掛かる。
これまでデートで着ていった服を思い出しながらクローゼット内を眺めていると、端っこにあるハンガーに掛けられた『学区』の制服に目が留まった。
制服の返却は任意である為、レフィーヤは記念として貰っていた。
入団後、埃がつかないよう薄布を被せてクローゼットにしまい込んだことを思い出しながら、ぽつりと呟く。
「確か、レヴェリア様は……制服も大好き」
レヴェリアったら、制服も大好きなのよ――
ステイタス更新時、そう言いながらフレイヤはクローゼットから出してきた見慣れぬ制服を取り出して見せてきたことがあった。
さすがに『学区』の制服を着てデートに行く勇気はないが、フレイヤが見せてくれたような制服を作ってもらえれば――
「よし、行こう」
レフィーヤは立ち上がり、足早に部屋を出る。
目指す先はアスフィの部屋だ。
困った時はまずアスフィという具合に、皆の長女役として頼りにされていた。
「制服を作ってほしい……ですか?」
「はい、そうです。お願いします」
アスフィからの確認に、レフィーヤは肯定して深々と頭を下げた。
遂にそのステージに到達したのか、とアスフィとしては感慨深く思いながら、書類棚へ向かう。
そして、羊皮紙の束を取り出してレフィーヤへ差し出した。
「これは……?」
困惑しながら受け取ったレフィーヤの問いかけに、アスフィは告げる。
「フレイヤ様をはじめ、『色んな人達』からの要望で作った様々な制服のデザインです。好きなやつを選んでください。時間に余裕がないので細かな改修くらいしかできませんが、そこは了承してください」
レヴェリアにサプライズしたい――その思いでフレイヤ達が頼ったのは他ならぬアスフィであった。
なお、『色んな人達』とは
どう反応していいか分からない様子のレフィーヤを尻目に、アスフィはクローゼットから紺色のブレザータイプの制服一式を取り出す。
「ちなみに私のオススメはこのブレザータイプですね。似合うと思いますよ」
「今、手に持っているのはアスフィさんの制服ですか?」
「レヴェリア様が作って持ってきたんです。私は悪くないです」
顔を背けて答えたアスフィに、レフィーヤは苦笑してしまう。
そして、彼女はアスフィの言葉に従うことにした。
「えっとじゃあ、ブレザータイプで」
「分かりました。明日の朝までには完成させますので、採寸だけさせてください」
「ありがとうございますっ! お礼は後日に……!」
頼りになる
「レフィーヤ、本当によく似合っているぞ……!」
待ち合わせ場所にやってきたレフィーヤに対して、レヴェリアは驚きと興奮混じりに告げた。
茶色のブレザー、白いブラウスと赤いリボン、チェック柄のプリーツスカート、紺色の靴下、焦げ茶色のローファー――レフィーヤの装いはレヴェリアの広くて深い性癖を直撃した。
まさしくそれは
後輩のレフィーヤと一緒に学校へ通う、甘いアオハル生活。
先輩先輩と慕ってきてくれる彼女と放課後、誰もいない教室で抱き合って愛を囁いた後、口づけをかわし――
「レヴェリア様?」
頬が緩みっぱなしのレヴェリアに対して、首を傾げながら覗き込むような形で名を呼ぶレフィーヤ。
それによって我に返ったレヴェリアは真剣な表情でレフィーヤに告げる。
「……レフィーヤ、様付けではなく先輩と呼んでみてくれないか?」
「えっと……レヴェリア先輩?」
若干困惑しながらも、レヴェリアの要望通りに呼んでみたレフィーヤ。
対するレヴェリアは満面の笑みを浮かべ、ぐっと親指を立ててみせる。
スゴイ食いつき具合にレフィーヤは喜びつつも、悪戯心が芽生えてきた。
「レヴェリア先輩、行きますよ」
にこやかな笑顔と共にレフィーヤが手を差し出せば、レヴェリアはよろめいた。
「くっ……先輩呼びの威力が高すぎる……!」
「じゃあやめますか?」
「いや、やめないでくれ。うん、これはいいものだ……」
レヴェリアの言葉に、レフィーヤはくすくすと笑う。
なお、2人のやり取りは行き交う人々や神々にバッチリと見られていた。
冒険者や市民はまたいつもの色ボケか、と特に気にしていないが、神々は別である。
彼等彼女等は眼福だとニヤニヤした笑みを浮かべつつ、いつものように好き放題に感想を述べていた。
「学校の先輩後輩は無理があるだろ、常識的に考えて……」
「犯罪臭しかしない件」
「ドスケベダークエロフ先輩によって、清楚真面目委員長系優等生な後輩エルフが快楽に堕ちていくのは……いいよね」
「この前、レヴェリア様がブレザータイプの制服を着て同じくブレザータイプの制服を着たヘルンちゃんと制服デートしてた」
「うわきつ」
「だが、待ってほしい。そのキツさがいいのでは?」
「長身の大人びた学生にしか見えなかったのでセーフ。お嬢様系生徒会長っぽい感じだった」
「他の子達とも制服デートしているのを見たぞ」
「フレイヤ様とかイシュタル様とかアフロさんともしていたな。俺もしてぇ!」
「ロキともしていたが……まあうん、そうだなぁ」
「制服デートとかうらやまけしからん! 間に挟まりたい!」
やいのやいのと騒いでいる神々であったが、レヴェリアは勿論のことレフィーヤも気にしない。
オラリオではいつものことだったからだ。
「レフィーヤ、普段からお前は愛らしいが、今のお前は私の語彙力ではその愛らしさを表現できない。最高だ」
「えへへ、ありがとうございますっ」
はにかんだ笑みを浮かべるレフィーヤに、レヴェリアは悩ましげな吐息を洩らす。
今のレフィーヤは紛れもなく最強であると思いつつも、焦っては負けだとレヴェリアは理性を総動員して冷静さを保つ。
「よし、それでは行こうか。幾つかオススメしたいところがあってな」
そう伝えたレヴェリアがレフィーヤの手を握れば、満面の笑みを浮かべて彼女は頷いたのだった。
「すごくすごかったです」
「でしょうね」
語彙力を喪失したかのようなレフィーヤの感想に、アスフィは肯定してみせる。
無事にデートを終え、制服作製のお礼として巷で人気のスイーツを持ってきたレフィーヤに対して、アスフィは今回の感想を尋ねてみた。
返ってきた言葉は予想した通りのものだった。
アスフィもレヴェリアとの制服を着てデートをした経験は多くあるが、毎回レヴェリアは色んな意味で大ハッスルとなった。
他の面々に聞いても同じだったので、制服というのはレヴェリアに対して特攻があることは間違いない。
もっとも、他の服装でも彼女にはよく刺さるのだが。
「ところでアスフィさん、レヴェリア様が言うにはセーラー服タイプもあるそうですね?」
「ありますね」
「そのぅ……お願いできますか?」
「構いませんよ。皆さん、そうですから」
「アスフィさんもセーラー服を?」
「ブレザータイプの制服でデートをした後、レヴェリア様が作って持ってきました。私は悪くないです」
前と同じく顔を背けて告げたアスフィに、レフィーヤは苦笑するのだった。