「ミア、お残しは許さないと言ってくれ」
「急に何を言い出すんだい」
カウンター越しにレヴェリアから突然言われたことにミアはそう返しつつも、手際よく調理を進めていく。
昼時というには少し早い時間帯だが、レヴェリアは他の団員達より一足早く食事を取るのが常だ。
順番待ちをしなくて良い為に。
レヴェリアの注文したものが出来上がり、彼女の前に大皿が置かれた。
「はい、できたよ。しかし、エルフもダークエルフも似たようなもんだと聞いたことがあるけど……アンタは違うらしいね」
「菜食主義は故郷に置いてきたんだ」
大皿に載っていたのは分厚いリブロースステーキ。
3Kgはあるそれを彼女はぺろりと平らげてしまう上、何ならおかわりもする。
またパンよりも極東の米を好むという、かなり変わっているダークエルフだ。
今回の注文もご飯であり、ミアは炊きたてご飯をどんぶりに山のように盛ってレヴェリアの前に置いた。
「いただきます」
いつもと同じく両手を合わせた彼女は食事を始めた。
見惚れるほどに美しい所作でありながら、食べる速さは飢えた獣である彼女を見つつ、ミアは肩を竦める。
彼女との出会いは中々に衝撃的だった。
すまない、うちのバカ女神が迷惑を掛けた――
フレイヤに容赦なくデコピンを食らわせ、悶絶する彼女を尻目に頭を下げてきた――それがレヴェリアだった。
ミアは生まれ育った貧しい炭鉱街で酒場とは名ばかりの炊事場を1人で切り盛りしていた。
数年前、食材の買い出し途中であった彼女をフレイヤが偶然見つけてしまったのが、そもそものきっかけだ。
ミアのことを気に入ったフレイヤは彼女を眷族とする為に故郷の街を救ったのだが、これはまともな職を与えたというだけに留まらない。
傷病人だけでなく鉱山の事故で手足を失った者や寝たきりとなった者まで含めて、誰も彼もレヴェリアが癒やし尽くした。
彼女の噂はミアも何度か耳にしたことがあった。
世界最高峰の治療師にして不殺を貫く慈悲深き聖女。治せないものは【老化】と【死】だけである――
その噂が誇張でも何でもなくただの事実であったことを、まざまざと見せつけられた。
ともあれ、これを借りと考えたミアは条件付きで眷族となり、またその料理の腕を買われてファミリアの料理番を任されている。
なお、レヴェリアの本性が聖女とは程遠いことが眷族となってすぐに分かった。
普段は真面目でしっかりとしている上、博識で腕っぷしも強いのだが――色ボケである。
フレイヤと乳繰り合っていたり、15、6歳年下のディース姉妹を侍らせている光景はもう見慣れてしまった。
色ボケ以外はマトモなんだけどねぇ、とミアが思っていたところ、レヴェリアが食べ終えた。
「豚肉の生姜焼きと普通盛りのご飯を頼む」
「あいよ」
リクエストを受けてミアが調理に取り掛かったところで、騒がしい姉妹が食堂にやってきた。
「レヴェリアお姉様! ここにいたのね!」
「探しちゃったわ! 部屋にいると思ったのに!」
ディナとヴェナはきゃいきゃい言いながら、レヴェリアの左右に座った。
適当に注文をしたところで、2人はあれこれと楽しそうに話し出す。
姉妹の話に笑みを浮かべながら聞くレヴェリア。
一見、微笑ましい光景であるが――ファミリアの中でもっとも危険であるのがこの姉妹だ。
他の団員達と違ってフレイヤを悪く言ったくらいでは何ともないどころか同意することすらあるが、レヴェリアを悪く言った瞬間にスイッチが入る。
大半の団員達はフレイヤを尊崇し、その寵愛を求めるが姉妹はレヴェリアをその対象としていた。
もっとも、その残虐性はファミリア内で随一だ。
なまじレヴェリアが全てを癒やせてしまうからこそ、姉妹は死んでいなければ何をしてもいいと思っている節があった。
とはいえ、普通に接する分には無邪気な少女達に過ぎない。
ミアが注文されたものを全て作り終えたところで、フレイヤがふらっとやってきた。
団員達から尊崇されている彼女であるが――今、食堂にいる面々は良くも悪くも特別扱いしない。
「あら、フレイヤ様が来たわ。暇そうね」
「暇そうだわ。レヴェリアお姉様に構ってもらいに来たのよ、きっと」
「ええ、そうよ。レヴェリア、構って」
姉妹の言葉に同意して、フレイヤは堂々と宣言した。
「なぁ、ミア。コイツを厨房で働かせてみないか?」
「正気かい?」
「正気だ。レシピに忠実であればフレイヤも料理を作れるぞ。味も良い」
ミアとレヴェリアのやり取りを聞いたフレイヤは首を左右に振った。
「私の手料理を食べていいのは、レヴェリアだけって決めているの」
「嬉しいことを言うじゃないか……」
レヴェリアもフレイヤに対しては何だかんだで甘い。
彼女の頬が緩んだのを見て、フレイヤもにっこりと笑う。
「だから、私と遊びましょ?」
その誘いに対して、そうは問屋が卸さないとばかりにディース姉妹が頬を膨らませる。
不満をこれでもかと顔に出しながら彼女達は口々に言う。
「ずるいわ、フレイヤ様。レヴェリアお姉様は私達と遊ぶのよ」
「そうよ、私達が先だったわ」
「駄目よ。私が一番って決めてあるもの」
ディース姉妹に対してフレイヤは勝ち誇った笑みを浮かべながらそう答えた。
当然、姉妹がそれで納得するわけもない。
姦しい面々に対してミアは呆れながら言う。
「メシを食ったらさっさと出ていきな」
彼女がそう言っている間にもレヴェリアは追加注文した分を食べ終えた。
「ごちそうさま。今日も美味かったぞ」
レヴェリアはそう言って、姉妹と言い合うフレイヤの首根っこを引っ掴んで食堂を出ていった。
それを見たディース姉妹は慌てて自分達が注文した分を食べ終えて、後を追っていく。
相変わらず騒がしい連中だ、とミアは軽く肩を竦めながら食器を片付けるのだった。
フレイヤと追ってきたディース姉妹をひたすらに構い倒した後、レヴェリアは食後の運動も兼ねて団員達との戦いに身を投じた。
レヴェリア対希望した団員全員という、フレイヤ・ファミリアにおいては一般的な形式だが毎回ほぼ全員が希望して参加している。
団員達は彼女のことを認めているとはいえ、虎視眈々と倒す機会を狙っている。
女神の寵愛を独占していることや、不敬極まりない接し方をしているのがその原因だ。
己の強さを証明し、女神の寵愛を得ん――団員達の大半はそう考えていた。
なお、レヴェリアの陰口を叩くとディース姉妹の耳に入った瞬間に酷いことになるが、真正面から彼女と戦う分には頼もしい味方となる。
そもそも、この戦いに姉妹は毎回参加していた。
2人にとってレヴェリアは尊崇し、寵愛を求めつつ愛を捧げる何よりも大事な相手であるからこそ――苦痛を与えたい、与えられたいという歪んだ思いがある。
世間一般的にはまったく理解されないその思いであるが、レヴェリアは理解できてしまう上に魅力的だと感じてしまう。
故に彼女は姉妹のそういった思いを当たり前のように受け入れてきたのだが――それによってますます姉妹は心酔するというループになっていた。
そしてフレイヤはというと、レヴェリアの勇姿が見られるので大満足だ。
彼女が負けることはステイタス的にも技量的にもありえないという確信があるからこそだが、もしも負けたらたっぷりと慰めてあげようという欲もあった。
どちらに転んでもフレイヤにはメリットがある上、レヴェリアに勝つ程の眷族がいたならばそれはそれで喜ばしい。
しかしながら、レヴェリアが全力で戦うと同格であったとしても、まったく戦いにならない。
それ故、彼女はかなり抑えめかつスキルも魔法も一切使わずに戦い、『技と駆け引き』を磨くことに主眼を置いている。
ルールに関しても即死させないことだけでその他の制限は一切なく、実質的な殺し合いであるのだが――それでも彼女からすれば物足りなかった。
レヴェリア・スヴァルタ・アールヴ
レベル4
力:SSS2322→SSS2345
耐久:SSS2517→SSS2542
器用:SSS3151→SSS3172
敏捷:SSS2482→SSS2510
魔力:SSS3312→SSS3315
幸運:G 神秘:G 魔導:G
スキル
魔法効果増幅。
単独戦闘時、強化補正倍加。
魔法円の性能強化。
精神力消費の効率化。
自身の魔法円内で消費された自身の魔素を精神力に変換し吸収する。
技能の習熟・熟練度の成長速度強化。
精神力増幅及び成長率に高補正。
魔法系スキル及び修得発展アビリティの効果増幅。
射程距離及び範囲に高補正。
魔法の同時多重行使可能。
先行魔法の魔法円保持。任意発動。
起動鍵【
飛躍する。
思いが続く限り効果持続。
思いの丈により効果向上。
【力】【器用】【敏捷】に高補正。
攻撃回数が増加すればするほど攻撃力及び攻撃速度に補正。
戦闘時、発展アビリティ『物攻』『連攻』『破砕』の一時発現。
補正効果はレベルに依存。
【耐久】に高補正。
攻撃を受ければ受けるほど防御力に補正。
戦闘時、発展アビリティ『物防』『魔防』『治力』の一時発現。
補正効果はレベルに依存。
【魔力】に高補正。
精神力を消費することで任意のアビリティを上昇させる。精神力消費量含め任意発動。
戦闘時、発展アビリティ『魔攻』『治療』『精癒』の一時発現。
補正効果はレベルに依存。
両性具有化。部位の任意変更可能。任意発動。
任意発動。
人類種に対し攻撃力の高域強化。
怪物種・竜種に対し攻撃力の超域強化。
闘志の丈に応じて効果向上。
呪詛・状態異常・苦痛に対する高耐性。
不眠時間の継続力強化。
逆境時もしくは瀕死時、全アビリティ能力に超高補正。
単独戦闘時、全アビリティ能力に高補正。
大敵交戦時、全能力超域強化及び所持スキル・全発展アビリティの効果増幅。
能動的行動に対するチャージ実行権。
魔法
ボルカニックノヴァ
速攻魔法。
炸裂鍵:【
リーヴスラシル
範囲内における先天的・後天的傷病の治癒、状態異常回復、損傷・欠損部位の再生・復元、体力・疲労回復、解毒、解呪、精神治癒・安定、浄化。
効力の取捨選択により出力上昇。
詠唱式:
【嘆きの夜、悲痛の夜、苦痛の夜、呪いの夜、あらゆる死に至る夜を超え、迎えるは黄金の夜明け】
【癒やし、清め、祓い給え。黄金の恩寵よ――我が名はアールヴ】
グリモワール・オブ・メモリーズ
再現魔法。
行使条件は詠唱文及び対象効果の完全把握。
詠唱式:【魔導の足跡、叡智の鼓動。昔日の彼方に忘却された煌めき。起動せよ――グリモワール】
団員達との戦闘後のステイタス更新にて、書き写されたステイタスをレヴェリアは眺めていた。
「熟練度が全然伸びないわね」
フレイヤの言葉にレヴェリアもまた頷いてみせる。
常識的に考えるならば、熟練度が限界突破をして2000だの3000だのという数値に到達しているのは異常だ。
しかし神時代史上、後にも先にも出てこないだろうバグみたいな存在がレヴェリアである。
彼女がレベル4となってから6年。
それだけの年月を費やしてこの程度しか伸びていないというのは、不満が残る結果だ。
この原因は明らかであり、格上との戦いが皆無であったことだ。
一方で大勢の団員達にとって、彼女を超えることが目標となって久しい。
彼等彼女等は夜も明けないうちから殺し合い寸前の戦いを日が暮れるまで行い、不定期に開催されるレヴェリアとの戦いに備えている。
「まだ猶予はあるがオラリオに行くか? 私の我儘になってしまうが、より大きな成長を遂げる為にはそれしかないように思える」
10年の猶予期間はまだ数年残っていたが、世界各地を巡って思い出をたくさん作ってきた。
そして、その過程でファミリアも大きくなった。
オラリオへ進出するには高い派閥基準が求められるが、フレイヤ・ファミリアは人員も資産も十分過ぎる。
戦力面ではレベル5こそいないがレヴェリアを筆頭にレベル4、レベル3が大勢揃っていた。
これは毎日の模擬戦とレヴェリアとの戦いによる成果であり、オラリオを除いたファミリアとしては圧倒的な強さと言っても過言ではない。
そういったファミリアの現状に加え、オラリオ進出はレヴェリアだけでなく他の団員達にも大きな成長を促せるだろう――とフレイヤは判断した。
「オラリオに行きましょう」
その答えにレヴェリアは頷いた。