「……私が言うのも何だが、甘やかしすぎではないか?」
「そうか?」
問いかけるリヴェリアに対して、レヴェリアは首を傾げてみせる。
2人の前ではカールが魔石をパクパク食べているが、リヴェリアにとっては目を疑うものがあった。
カールは前足を器用に使い、魔石にソースをつけて食べていたのだ。
舌がすっかり肥えてしまい、素の魔石では物足りない。
そんな彼女の悩みに対する回答は、様々な風味のソースを用意するというものであった。
「実は魔石を使った料理も試してみた」
レヴェリアの言葉にリヴェリアの好奇心がくすぐられる。
魔石製品は数あれど人類にとって魔石は食べるものではない為、魔石料理はこの世に存在していない。
故に未知の代物であった。
「どんな料理を作ったんだ?」
「まず作ったのは魔石を細かく砕いて、野菜と煮込んだスープだ」
「ほう。どうだった?」
「人類の味覚では石が混入したスープだったが、カールによれば美味しかったとのことだ」
「……試食したのか?」
言い方に引っかかりを覚えたリヴェリアがまさかと思いつつ問いかけると、レヴェリアは頷いてみせる。
呆れるリヴェリアに対して、レヴェリアは更に告げる。
「少し口に含んでみたが、すぐに吐き出した。石の味とジャリジャリ感で、食べられるものではなかった」
「そうだろうな……」
さもありなん、と頷いてみせるリヴェリア。
だが、そこで彼女はあることに気がつく。
人類には合わなかったとしても、カールに合うのならば凝り性なレヴェリアがフルコースの魔石料理を作り上げて提供していてもおかしくはない。
どうしてソースとなったのか、その疑問に対する答えは程なくして齎された。
「他にも色々と試作してみたんだが……料理にすると他の食材も一緒に食べることになるから、魔石の摂取量が減るという根本的な欠点があった」
「……いや、最初に気づかないか?」
「魔石は別腹かもしれないだろう?」
そう宣うレヴェリアに対して、リヴェリアは肩を竦めてみせた。
リヴェリアの訪問から数日後、レヴェリアはカールと共にダンジョンにやってきていた。
カールはレヴェリアの胸元にすっぽり身体を収めて、顔だけ出していた。
極上の感触と良い匂いに包まれて上機嫌であり、キュウキュウと鳴いている。
そんな彼女の可愛さにレヴェリアはほっこりとしながら目的地へ向かう。
彼女達がダンジョンにやってきていたのはウラノスより
もっとも、指令書と地図を持ってきたのが黒尽くめという怪しい風体をしたフェルズなる輩であった為、どうにも信じられず本神へ確認しに行ったのは余談である。
ともあれ、レヴェリアが指令書と共に渡されたのは20階層の地図であった。
その行き止まりとなっているルームに赤いバツ印が描かれており、そこが邂逅地点だという。
特に何事もなく、そのルームへ到着したレヴェリアは数多の石英水晶の中で、一際発光が弱いものを発見する。
そこを壊し、隠れていた穴を通って更に奥へ進めば泉があった。
先程のようなギミックは見当たらないが、透明度の高い水のおかげで水面下にある穴が確認できた。
「水中から進むのか?」
レヴェリアの問いかけに、正解と答えるかのようにカールが短く鳴いた。
そんな彼女を撫でた後、レヴェリアは泉へ入り、潜って穴の中を進んでいく。
突き当たりまで来たところで、淡い緑光が水面から差し込んでいた。
ゆっくりと浮上すれば大樹の迷宮とは打って変わり、鍾乳洞のような洞窟が視界に飛び込んできた。
「道理で見つからないわけだ」
呟きながらレヴェリアは細い通路を進んでいき、広大なルームに出た。
石英の僅かに光を放っているものの、真っ暗闇と言っても過言ではない。
だが、レベル10ともなると夜目もきく。
右手にシミター、左手にロングソードを持ち身体に胸当てなどを身につけたリザードマンを筆頭に、多数の武装したモンスターが自身を取り囲んでいるのをレヴェリアは確認した。
今回の件はウラノスから持ってきた事であり、先方には話が通っている筈であった。
何だかよく分からないが、レヴェリアは警告する。
「攻撃行動に移った瞬間、通常のモンスターとして対応する。
その言葉を理解したのか、モンスター達は唸り声を上げるものの襲ってはこない。
そこでカールがレヴェリアの懐から飛び出して地面に着地するや否や、大きく鳴いた。
何を言ったのかレヴェリアには分からなかったが、モンスター達には理解できたらしく彼等彼女等から戦意と敵意が消え失せる。
やがてリザードマンが手に持っていた武器を置いて、口を開く。
「試すようなことをして悪かった! カールと仲良くしている冒険者がどういう輩なのか、確認したかったんだ!」
リザードマンの言葉に、カールが威嚇するかのように鳴く。
彼女が威嚇しても可愛いだけであるが、彼女自身は大真面目だ。
そんな彼女は抗議するかのように連続して鳴いてみせる。
「カール、本当に悪かったって! ともあれ、オレっちはリド! リザードマンだ! よろしくな!」
「レヴェリア・スヴァルタ・アールヴだ」
リドが差し出した手をレヴェリアは躊躇なく握ってみせる。
すると彼はギョッとして、他の
「あー、えーと、オレっちのこと……怖くないのか?」
「あいにくとまったく怖くないな。ところで、お前達はこの真っ暗な空間で生活しているのか?」
レヴェリアの問いかけに、リドが明かりをつけるよう指示すれば隠されていた魔石灯が次々とつけられていく。
灯りに照らされて露わになる多種多様なモンスターの
「60階層や70階層に出現するモンスターの
「いねぇよ! っていうか、そんなドラゴンがいるのを初めて知ったよ!」
「そうか……」
残念そうなレヴェリアを見て、リドは深く溜息を吐く。
そしてフェルズが言っていたことを思い出す。
色ボケだけど、人格はマトモだ。
あとエルフとは思えないくらいに柔軟かつ自由奔放だ。色ボケだけど。
フェルズは色ボケを重ねて言っていたのでそんなにスケベな人物なのかと考えていたが、自由奔放なところも相当なものではないか、とリドは思う。
彼がそんなことを考えている間にも、
フレイヤがいれば察して頬を引っ張っているところであるが、あいにくと彼女はここにはいない。
「所詮ハ人間ダ。信ジルニ値シナイ」
離れたところにいる
その周囲には
リドが何かを言う前に、レヴェリアが尋ねる。
「もしかしてその原因は、喋るモンスターを稀少だと考えた輩に捕らえられそうになったからか?」
「ソウダ」
「それはどれくらい前だ?」
「カナリ前ダ。1年ヤ2年デハナイ」
グロス達を狙ったのは、かつて
金策の為、ダンジョンに潜っていた冒険者に扮した闇派閥の一党が喋るモンスターの一団――グロスを筆頭とした現在非好意的な面々――を偶然発見。
闇派閥側は好事家に売れば大金を得られると考え、襲いかかるが返り討ちにされてしまう。
慌てて根城に帰って人員をかき集めて捜索したものの、
何の成果もないまま月日だけが経過していき、四派閥及びアストレア・ファミリアによる全面侵攻を受けたという顛末であった。
グロスの言葉に、レヴェリアはピンときた。
「6年程前、そいつらを根城ごと潰した。下界にはもういない」
「ダガ、オ前ガソウデハナイトイウ証拠ハナイ」
「それもそうだな。その言葉を聞いて安心したぞ」
まさかの発言にグロスだけでなく他の面々も目を丸くしてしまう。
驚く
「人類には底抜けの善人もいればどうしようもない悪人もいる。善人の振りをし続けて、最後の最後にようやく本性を見せる悪党だって多い」
そこで彼女は言葉を切り、少しの間を置いて続ける。
「信頼関係は長い時間を掛けて築いていくもの。ちょっとの時間、触れ合った程度で大丈夫だと信じ込むのはよろしくない。リド達はもう少し疑り深くても良いと思う」
その言葉を聞いたリドが尋ねる。
「でも、あんたはカールをすごく可愛がっているって聞いたぞ? 売り飛ばす素振りも一切ないって」
「ああ、そうだとも。私は
グロスをはじめとした非好意的な面々もそれならば、と納得して頷いた。
彼等彼女等の反応を確認したレヴェリアは、ここぞとばかりに提案する。
「信頼関係を築く為には互いを知ることが大事だ。私のこれまでの軌跡を伝えよう。その対価に、お前達のこれまでの軌跡を教えてほしい」
そう告げて、レヴェリアは頭を下げるのだった。