転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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今年最後の更新です。


知己

「で、レヴェリア。どうだったの?」

 

 フレイヤの問いかけに、レヴェリアは無言で親指を立ててみせた。

 

 異端児(ゼノス)達との交流を無事に終え、レヴェリアはカールと共にフレイヤ・ファミリアのホームへ戻ってきていた。

 帰り際、当たり前のようにレヴェリアの胸元に入ったカールに対して、リドがツッコミを入れたり、羨ましがったフィアがついてこようとするなど色々とあったのは余談である。

 

「性癖にぶっ刺さる子がいたのね」

 

 そう言いながらフレイヤはレヴェリアの頬を引っ張るが、彼女は甘んじて受け入れる。

 数分後、頬を弄るのをフレイヤがやめたタイミングでレヴェリアは真面目に報告をしていく。

 ふんふん、と頷きながら聞いていたフレイヤであったが、レヴェリアのとある予想――リド達の証言からモンスターにも魂が存在し、死んだらダンジョンへ魂が還ってダンジョン内で転生しているかもしれない――を伝えたところで、良いこと(しょうもないこと)を閃いた。

 

 子供達は『ダンジョンとは何か?』と神々に問いかけてくることがある。

 神々の答えは『ダンジョンはダンジョンだろ。ダンジョンに他の何を求めているんだよダンジョン』が定番だ。

 だが、これまでレヴェリアは問いかけてきたことがなかった。

 

 異端児(ゼノス)なんて神々にとっても予想外――つまり、『未知』な存在が現れたこのタイミングならばこちらから振れば尋ねてくれる筈。

 問いかけてきたレヴェリアに対して、定番とは違う答えを返して反応を見たい、とフレイヤは考えた。

 オチがどうなるかは予想できていたが、たとえそうであってもやってみたいと思ったので仕方がなかった。

 

 回りくどい言葉を使わず、フレイヤは直球で尋ねる。

 

「ねぇねぇ、レヴェリア。ダンジョンのこと……気にならない?」

 

 ワクワクした表情で尋ねたフレイヤだが、レヴェリアの返答は予想外のものであった。

 

「幾つか予想はしている。大地母神という概念が前世の神話にはあってな。それを元にアレコレ考えてみたり……」

「その予想も気になるけど……違う、そうじゃないわ」

 

 フレイヤの言葉を聞いて、レヴェリアはジト目になる。

 そして、どう聞いてほしいのか察した。

 

「……ダンジョンとは何だ?」

 

 仕方がなく問いかけたレヴェリアに対して、フレイヤはドヤ顔で告げる。

 

「それは自分の目で確かめてみて!」

 

 するとレヴェリアはにこりと微笑み、それを見たフレイヤも同じように微笑んだ。

 そして、レヴェリアは微笑んだまま選択肢を突きつける。

 

「フレイヤ、拳骨と強めのデコピンどっちがいい? 選ばせてやる」

「どっちも嫌!」

 

 叫んでフレイヤは脱兎の如く駆け出した。

 しかし、回り込まれてしまった。

 何とか隙をついて逃げ出そうとするも、レヴェリアからは逃げられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃいいいいいいん! レヴェリアが拳骨もデコピンもしたー! どっちもやるなんて酷い酷い!」

「当たり前だ、このたわけ」

 

 わあわあと泣くフレイヤに対して、レヴェリアは無慈悲に告げながらも治癒魔法を唱える。

 あっという間に痛みが消え去ったフレイヤは、むすっと頬を膨らませながらレヴェリアに抱きついた。

 そして、彼女の胸に顔を埋める。

 

「痛かったの」

「だろうな」

「撫でて」

 

 フレイヤの要望に従ってレヴェリアが彼女の頭を撫でる。

 機嫌を良くしたフレイヤは強く抱きしめてきた。

 そんな彼女に対してレヴェリアは軽く溜息を吐きつつも、撫で続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

「どうしたものか……」

 

 フレイヤ・ファミリアのホーム『戦いの野(フォールクヴァング)』を遠目に見ながら、ヤマト・命は呟いた。

 タケミカヅチより不用意な行動は慎むよう言われてはいたものの、どうしても気になってしまい、ここまでやってきていた。

 

 出稼ぎの為、タケミカヅチの先導により命達は1年程前、極東からオラリオへやってきた。

 日々ダンジョンに潜る中、ある噂を聞いた。

 

 フレイヤ・ファミリアには極東から来た狐人の娘がいる――

 

 もしやと思い、調べてみたらところ、件の狐人は勘当されて行方知れずとなったサンジョウノ・春姫に間違いなかった。

 だが、春姫がフレイヤ・ファミリアに入団した経緯が厄介だった。

 奴隷オークションでレヴェリアが300億ヴァリスで落札して連れてきたという、冗談にしか思えないものである。

 

 レヴェリアが色ボケであるのは命達も知っているが、いくら何でもそこまでぶっ飛んでいるとは予想外であった。

 どうにか春姫をレヴェリアの毒牙から救い出したいが、相手が相手だけにどうにもならない。

 悔しさに奥歯を噛み締めながら命がその場を離れようとした時、背後から甘い声が聞こえた。

 

「ねぇ、何をしているのかしら?」

「私達のホームに何か用かしら?」

 

 反射的に後ろへ跳んで距離を取れば、そこにいたのは10代半ば程の容姿である白黒妖精。

 踊り子のような服を纏った彼女達が誰であるかを理解し、命は戦慄する。

 【双天秤】の二つ名を持つ白黒妖精姉妹――ディナ・ディースとヴェナ・ディース。

 姉妹揃ってレベル10に至っている実力者だ。

 

 命は己の軽率さを悔いるも、同時にこれはチャンスではないかと考えた。

 下手に取り繕ったりせず素直に用件を伝えれば、会えるかもしれない、と。

 

「じ、実はそちらの団員であるサンジョウノ・春姫殿とお会いしたく! ヤマト・命と伝えてくだされば分かりますゆえ!」

 

 上ずった声で告げた命を見て、姉妹はくすくすと笑う。

 不審者であれば遠慮なく嬲るところだが、客と名乗られれば手を出すわけにもいかない。

 また春姫の経緯はレヴェリアから聞き及んでおり、自分達と重なる部分もあったのでよく構っていた。

 だが、それはそれとして姉妹は悪戯好きであったので早速からかい始めた。 

 

「ねぇ、ヴェナ。春姫と会いたいんですって」

「ええ、ディナお姉様。春姫を攫うつもりよ、きっと」

「もしかしてニンジャかしら?」

「きっとそうよ、ディナお姉様。ニンジャはキタナイってレヴェリアお姉様が言っていたから、不意を突く為の演技かもしれないわ」

 

 嗜虐的な笑みを浮かべて、そんなことを言い始めた姉妹に命は血相を変えた。

 

「自分は忍者じゃないですから! 春姫殿に会いたいだけですから!」

「ねぇ、ヴェナ。随分と必死になっているわ。嘘がバレそうだからかしら?」

「きっとそうよ、ディナお姉様。四肢を斬り落として、レヴェリアお姉様へ献上してはどうかしら?」

「駄目よ、ヴェナ。一応お客様だもの。レヴェリアお姉様に怒られちゃうわ」

「そうだったわ、ディナお姉様。きっと拳骨されちゃうわ」

 

 そのようなやり取りをして姉妹はくすくすと笑う。

 何が面白いんだ、と命は言いたかったがぐっとこらえた。

 下手なことを言えば、本当に四肢を落とされかねない。

 

「……あのー」

 

 その時、横から声が掛かった。

 命が視線を向ければ、そこにいたのは【千魔の戦乙女(シグルドリーヴァ)】レフィーヤ・ウィリディスだ。

 現在位置はフレイヤ・ファミリアのホームに近いこともあって、通りかかっても不思議ではないのだが命からすれば生きた心地がしなかった。

 

「あら、レフィーヤ。何か用?」

「私達、今からこの子にお話を聞かせてもらおうと思っているのだけど?」

 

 揃って小首を傾げて尋ねる姉妹に対して、レフィーヤは肩を竦めてみせる。

 

「『お話を聞く』と書いて、『拷問する』と読むとかじゃないですよね?」

「ヴェナ、聞いた? レフィーヤったら酷いわ!」

「聞いたわ、ディナお姉様。こんなこと、昔は言わなかったのに……!」

 

 レフィーヤが擦れてしまった、とディース姉妹はわあわあと泣いた。勿論、嘘泣きである。

 そんな姉妹を放置して、レフィーヤは命へ視線を向けた。

 

「うちに何か御用ですか?」

「自分はサンジョウノ・春姫殿と知己で……ヤマト・命と申します! 春姫殿とお会いしたく!」

「分かりました」

 

 あっさりと告げられた言葉に、命はポカンとしてしまう。

 ディース姉妹とのやり取りはいったい何だったのか、と彼女が思うよりも早く、レフィーヤが更に言葉を続ける。

 

「ディナさんとヴェナさんは気にしないでください。この人達、誰彼構わずちょっかいを掛けるので」

 

 そう言って苦笑するレフィーヤは更に言葉を続ける。

 

「では行きましょうか。春姫さんはホームにいると思いますので」

 

 レフィーヤの言葉に対して、命は躊躇せず頷いた。

 ホームの中に入るのは虎穴に入るのも同然であるが、ディース姉妹に声を掛けられた時点で彼女は腹を括っていた。

 

 

 

 

 

「腕や足が飛んで……! あそこには臓物をぶち撒けている人がっ……!」

 

 目を見開いて命は喘ぐように告げた。

 レフィーヤ、ディース姉妹と共に通用門を潜った命の目に飛び込んできたものは、原野にて繰り広げられている殺し合いに等しい鍛錬であった。

 噂には聞いていたが、実際に見るのは初めてである為、命には衝撃的過ぎる光景だ。

 

「いつものことですね」

「即死していないから大丈夫よ」

「死ななければ問題ないもの」

 

 しかし、レフィーヤ達にとっては日常風景だ。

 そんな彼女達の反応に命が困惑していた時だった。

 

「はいはーい、ちゃっちゃと治ってくださいねー。【ゼオ・グルヴェイグ】」

 

 のほほんとした声と共に、発動するのは原野全てを効果範囲に収める治癒魔法。

 重傷を負った者達が瞬く間に癒やし尽くされて、闘争を再開していく。

 命が仰天していると、その治癒魔法を発動した主――ヘイズはレフィーヤ達を見つけ、歩み寄ってきた。

 彼女は命へ視線を向けながら問いかける。

 

「入団希望の方ですか?」

「あ、いえ、違います。自分は春姫殿とお会いしたくて……」

 

 命が告げるが、ディース姉妹がすかさず茶々を入れる。

 

「ホームの近くで監視していたわ」

「きっとニンジャよ」

 

 ニヤニヤ笑いながら告げたディース姉妹に対して、ヘイズは大きく頷いてみせる。

 

「つまり、春姫を拉致しようって魂胆ですか? いい度胸ですねー……お相手しますよ?」

 

 にこりと笑ってヘイズは長剣の柄に手を掛けた。

 

「違います! あと忍者ではありませんから!」

「ヘイズさん、悪ノリはそこら辺にして下さい」

「ちょっとした冗談ですよー。で、春姫とはどういう関係ですか?」

 

 ヘイズからの問いかけに、命は春姫との関係を簡潔に説明していく。

 そして、信じられないならば自分の名前を伝えて確かめてほしいと締めくくった。

 話を聞き終えたヘイズは告げる。

 

「じゃあ私が聞いてきますねー。レフィーヤ、彼女を応接室に案内してくださいー」

 

 その言葉を聞いて、どうにか春姫殿と会えそうだ、と命は安堵した。

 そして、応接室に通されて待つこと数分。

 やってきたヘイズから告げられた言葉に、命は目を剥いた。

 

「レヴェリア様とフレイヤ様がお会いしたいとのことです。くれぐれも粗相のないようにお願いしますねー」

 

 ヘイズは笑顔であるものの、目は一切笑っていなかった。

 命は己の軽率さを改めて悔いるが、もはやどうにもならない。

 鬼が出るか蛇が出るか、戦々恐々としながらヘイズの先導で2人が待つ執務室へ向かうのだった。

 

 

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