転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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GOサイン

 

 ある日の昼過ぎ、真剣な顔をしたカサンドラがレヴェリアの執務室を訪ねてきた。

 間引きを間近に控えていることや彼女の表情から、その意味をレヴェリアは正確に理解した。

 

 予知夢を視たのだ、と。

 

 これまで彼女は間引きの時期が迫るとカサンドラに対して、黒竜の偵察を前倒しで実施する旨を伝えてきた。

 実施できる水準に達しているかどうかを確認する為だ。

 そして、その度にカサンドラが視た夢と『予言』の詩は全て最悪のものであった為、それを信じてレヴェリアは偵察を実施することなく、ただの間引きで済ませてきた。

 元々ギリギリまで間引いてから実施予定であったこともあり、直前になって中止しても特に問題はなかった。

 間引きが終わったところで、ついでに偵察もしてみてはどうかと言われることもあったが、レヴェリアは頑として譲らなかった。

 

 ちなみにレヴェリアはカサンドラに対して、黒竜討伐に参加する戦力は勿論、装備やアイテム、魔道具の種類と数量などを事細かに教えており、また変更などがあった場合も随時伝えていた。

 『予知夢』に影響を与えることができるかは分からないが、やらないよりはやっておいた方がいいと思った為だ。

 その為かは不明だが、間引きに関係なく突発的に黒竜関連の夢をカサンドラが視ることもあった。

 しかし、こちらも例外なく全て最悪なものであった。

 

「レヴェリア様……」

 

 名を呼ばれ、レヴェリアも真剣な表情でカサンドラを見つめる。

 フレイヤがいれば茶化すところだったが、幸いにも今日はデメテルのところに行っている為、ここにはいなかった。

 

「先程、レヴェリア様が山のように大きな竜を間近で眺めている夢を視ました」

 

 それはカサンドラからの実質的なGOサインだった。

 その言葉を聞いたレヴェリアは数回瞬きした後、意味を理解して不敵な笑みを浮かべてみせる。

 

「次回の間引きか?」

 

 問いかけにカサンドラは頷き、答える。

 

「次で封印の間近まで辿り着ける……そうとしか解釈できない詩も出ました」

「前回との違いは……戦力もそうだが、やはりこれかな」

 

 そう言ってレヴェリアが懐から取り出したのは1つの腕輪だった。

 その正体はアスフィが開発した魔道具『ハデス・ヘッド』にヒントを得て、レヴェリアが開発した隠密特化型魔道具であった。

 

 これを身につけて起動すれば、目に見えなくなるのは勿論のこと、発する音や匂いなどまで消してしまう代物だ。

 70階層以下で採取できる希少素材をふんだんに使っている上、製作に労力がいることから1個あたりの調達コストは最硬精製金属(オリハルコン)製の武具に匹敵する。

 

 だが、それだけの価値はあった。

 

 実験では70階層以下のモンスターは勿論、四派閥の冒険者達ですらも、コレをつけたレヴェリアを探知できなかった為に。

 業を煮やしたアルフィアを筆頭とするヘラの眷族達が、魔法を乱射して階層構造を広範囲に渡って破壊してジャガーノートを沸かせたが、よくあることなので気にした者は誰もいなかった。

 なお、遠距離通信型魔道具はこの腕輪よりも早く完成していた。

 試作品はブレスレットタイプであったが、完成品はヘッドセットに形状が変更されていた。

 

 黒竜偵察の為に必要なラインはクリアできた、となれば早速関係各所に伝えに行かねば、とレヴェリアが考えた時だった。 

 

「あ、あのぅ……レヴェリア様」

 

 上目遣い気味にカサンドラがレヴェリアをおずおずと呼ぶ。

 彼女が何を求めているのか、察したレヴェリアはにこやかな笑みを浮かべ、手招きした。

 ゆっくり歩み寄ってきたカサンドラが間近まできたところで、レヴェリアは優しく抱きしめて、その額に口づけた。

 

「えへへへ……」

 

 嬉しそうに笑みを浮かべるカサンドラ。

 要するに、彼女はレヴェリアと()()()()()()になっていた。

 

 入団以来、カサンドラは予知夢を視た時はすぐさまレヴェリアに伝え、『予言』の詩について一緒に解釈をしてきた。

 また、黒竜関連に限らず良くない夢をカサンドラが視た際、レヴェリアは彼女に寄り添って心を落ち着かせる一方で予言が現実とならないよう、自身の名でもってあちこちに働きかけてきた。

 カサンドラにとっては、ここまで自分の予言を信じて動いてくれる人はレヴェリアが初めてだ。

 そういったことがきっかけとなって、あっという間に関係が進んでいった。

 ダフネが呆れ返ったのは言うまでもない。

 

「んっ……」

 

 やがてカサンドラは甘い声を洩らす。

 レヴェリアの手が彼女の大きくて柔らかな臀部を撫でて、揉みしだき始めたからだ。

 

「今夜、空いているか?」

 

 レヴェリアの誘いに対して、カサンドラは小さく頷いてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アストレア・ファミリアのホーム『星屑の庭』。

 その団欒室では団員達が駄弁っていた。

 そんな中、真面目くさった顔でアリーゼが輝夜に問いかけた。

 

「輝夜、レヴェリア様が乙女になる相手ってどんな人だと思う?」

 

 食後のお茶を啜っていた輝夜は突然のことに咳き込んだ。

 その反応に大体の団員達は察した。

 

 あ、コイツ――そういうプレイもやっているんだな、と。

 

 輝夜がレヴェリアと結ばれたことは、翌日には主神のアストレアとアリーゼ達にも知られていた。

 レヴェリアと夕食に行く、と告げての朝帰り。

 これで察せられない筈がなかった。

 

 なお、夜通しレヴェリアに稽古をつけてもらったのだ、と考えたのはリューだった。

 だが、すぐにアリーゼからそれが間違いであることと何があったのかを勘違いする余地のない直球な表現で伝えられた。

 その結果、顔を真っ赤にして破廉恥だの不敬だの不潔だの何だのかんだのと大騒ぎとなった。

 平然としていたセルティとは対照的である。

 

 閑話休題。

 

 輝夜に対して、ライラが意地の悪い笑みを浮かべて問いかける。

 

「輝夜、お前まさか男装でもしてヤツを誘惑したのか?」

「違う! あの変態淫乱妖精が全部悪い!」

 

 顔を真っ赤にして否定する輝夜。

 彼女が言う通り実態は違った。男装して誘惑してきたのはレヴェリアである。

 だが、そこでリューが噛みついた。

 

「変態淫乱妖精とは何事だ!」

 

 事実である為、「撤回しろ」とまでは言えないのが彼女の辛いところだった。

 

「ええい! お前は黙っていろ! クソ雑魚ポンコツ鈍感妖精ぇええええ!」

「クソ雑魚ポンコツ鈍感だと!?」

「向けられている好意にも気づかないお前はクソ雑魚ポンコツ鈍感妖精で十分だぁあああ!」 

 

 年下白髪赤眼ヒューマンの少年という癖に刺さる人にはトコトン刺さる人物――ベル・クラネルから、一途な思いを向けられているリュー・リオン御年21歳。

 その年齢差は7歳だが、レヴェリアと輝夜の年齢差からすれば誤差みたいなものである。

 もっとも、リューと彼が並んで立つと何故かそこはかとなく犯罪臭が漂う、と神々の間で囁かれていた。

 そんなこんなで、わいわいぎゃーぎゃーといつものように賑やかな団欒室。

 

「あらあら、何だか盛り上がっているわね」 

「歓談中、失礼する」

 

 アストレアと共に、レヴェリアが団欒室に入ってきたのはそんな時だった。

 出先から戻ってきたアストレアは玄関先でレヴェリアとばったり出会った為、用件を聞きながらここまで案内してきたのである。

 

「タイミングが悪い! このたわけ淫乱変態色情狂妖精ぇええええ!」

 

 悪口マシマシで叫びながらレヴェリアの胸ぐらに掴み掛かる輝夜。

 だが、レヴェリアはまったく動じない。

 

「今日も元気があって良いな」

「ええい! 何の用だ!?」

「黒竜の偵察についてだ。次回の間引き時、実施する」

 

 輝夜からの問いかけに対して、レヴェリアは端的に告げた。

 予想外の言葉に、輝夜は目をパチクリと瞬かせてアリーゼ達もまた固まった。

 

 7年前からアストレア・ファミリアは合宿及び間引きに参加を始めており、それに伴って黒竜に関する情報開示及び共有が随時されてきた。

 黒竜偵察の件も聞いており、そろそろやるんじゃないか、と派閥内では度々話題になっていたところだった。

 

 レヴェリアからの言葉に、胸ぐらを掴んでいた輝夜はゆっくりと手を離す。

 そして、真正面からその瞳を見つめながら問いかける。

 

「それは本当か?」

「ああ、本当だ」

 

 レヴェリアは答えた。

 カサンドラのGOサインを受け、彼女はデメテル・ファミリアに赴いてまずフレイヤに伝えた。

 その後、ホームに戻り幹部達や弟子達、次いで三派閥(ゼウス・ヘラ・ロキ)、ギルドといった順番で回ってきた。

 この後はガネーシャやイシュタルなど間引きに参加している派閥に伝えに行く予定だ。

 

「何かきっかけがあったのかしら?」

「隠密に特化した魔道具ができた、というのがやはり大きいな。あとは……夢見が良かったからだ」

 

 アリーゼの何気ない問いかけに対して、レヴェリアは答えた。

 夢見の部分は冗談めかして告げた彼女だったが、アストレアには分かってしまった。

 彼女の言葉に嘘がないことに。

 しかし、特に気に留めることでもない為、口を挟んだりはしなかった。

 

「確かにアレはズルいだろ」

 

 ライラの言葉に、アリーゼ達は各々頷いてみせる。

 アストレア・ファミリアの面々も実験に付き合っていた為、その効果がどれほどのものであるかよく分かっていた。

 それからしばらく黒竜に関する話題が続き、それらが一段落したところで、アリーゼは満を持して尋ねる。

 

「ねぇ、レヴェリア様……あなたが乙女になる人ってどんなタイプなのかしら?」

「本人に聞きやがった、このアホ団長……」

 

 呆れた顔のライラだが、彼女も含めて他の面々――アストレアですら――も知りたくない、と言えば嘘になる。

 そして、レヴェリアはこの手の話題で機嫌を損ねるような輩ではない。

 故に彼女は得意げな顔でもって、性癖詰め込み高速詠唱を炸裂させた。

 

「長身銀髪ポニテ碧眼爆乳爆尻イケメンクール王子様系スパダリ年上美女」

「なんて?」

 

 問い返したアリーゼは悪くない。

 彼女だけでなく、アストレア・ファミリアの面々は誰もが似たような反応だが、唯一アストレアは理解できた。

 レヴェリアの感性が神々寄りであることは、神々の間ではよく知られている。

 無論、アストレアもその事は知っていた為、驚きもなく素直に感想を述べる。

 

「うーん……中々難しいんじゃないかしら?」

「任意の姿に変身できる魔道具を開発して、フレイヤに変身して演じてもらえればワンチャンあると思っているんだが……」

「それならワンチャンあるかも……?」

 

 そう言いながら、とある出来事をアストレアは思い出す。

 

 娘に化け、ロールプレイをしているフレイヤを街中で目撃したことがあった。

 皆には――特にレヴェリア――内緒で、とフレイヤからお願いされたので、アストレアはこれまで知らない振りをしてきた。

 【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】か【叡智の戦乙女(アルヴィト)】が変身できる魔道具を開発して、それをフレイヤが断りなく黙ってこっそり使っているのかと思っていたが、この口ぶりからするとどうやら違うようだ。

 

 ともあれ、レヴェリアとアストレアのやり取りで求める水準が高いことをアリーゼ達は理解した。

 だが、リューは理解が追いつかずに固まっていた。

 

 一方、輝夜には思い当たる節があった。

 レヴェリアばかりが攻める側ではなく、輝夜がそうなる場合もよくある為に。

 そうなった時、それっぽい言葉を掛けてやるととても喜ぶのだ。

 まったくこいつは、と輝夜は呆れつつも、今度軽めに男装して髪型もポニテにして迫ってみるか、と心に決めた。

 

 そしてその時、アリーゼは重大な事実に気がついたと言わんばかりに、深刻な表情をしてわなわなと震え始めた。

 

「……レヴェリア様、もしかして私のことを……!?」

「おいアホ団長。何をどう聞いたらそうなるんだ?」

「だってほらポニテよ?」

「ポニテしか掠ってない」

「爆乳と爆尻はどこにあるんだー?」

 

 ライラの問いかけに対してドヤ顔で胸を張ったアリーゼ。

 そこへ団員達から容赦ないツッコミが浴びせられていく。

 悪ノリが始まったところで、ようやく理解が追いついたリューが叫ぶ。

 

「は、破廉恥だ!」

「おい、リオン。アリーゼから聞いたこととはいえ、【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】が自ら望んでいることだぞ。そこらへん、どうなんだ?」

「い、諌めるのも務めだ!」

「いや、無理じゃないかなー」

「セルティ!? 諦めては駄目だ!」

 

 ライラの指摘に対してリューはそう返すが、同胞であるセルティの言葉に吃驚しつつも叱咤する。

 いつも通り賑やかなアストレア・ファミリアの面々に、レヴェリアは自然と微笑みを浮かべるのだった。

 

 





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