転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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集積開始

「疲れた……」

 

 ぐでーん、とレヴェリアは机に突っ伏した。

 彼女はアスフィと共につい先程、注文されたモノを全て納品してきたところだった。

 

 間引きに参加する各派閥及びギルドに対して、次回間引き終了後に偵察実施の旨を伝えたことが事の発端だ。

 

 かねてより偵察に関しては、起こり得る最悪の事態が想定されていた。

 それは何らかの原因によって黒竜が大暴れしてしまい、レヴェリアが死亡した上で封印が破られ、黒竜が解き放たれるというものだ。

 この想定は各派閥及びギルドにて共有されており、そうなった場合はレヴェリア抜きでの黒竜討伐戦にそのまま移行するとされている。

 

 なお、これまでカサンドラが視てきた黒竜に関する最悪の夢は大半がソレだ。

 その場合はレヴェリアだけでなく討伐隊が全滅した上、黒竜がオラリオに襲来するという結末だった。

 

 それはさておき、レヴェリアが疲れている理由はまさにその最悪の事態――レヴェリア抜きでの黒竜討伐に移行すること――に備え、膨大な数の魔剣や隠密特化型の魔道具を含む多種多様な魔道具、エリクサーなどのアイテム類の発注がかかったことに起因していた。

 これらは偵察時に何事も起こらなければ、討伐戦においてそっくりそのまま使用される為、どう転んでも無駄にはならない。

 

 レヴェリアにとっての誤算は、黒竜討伐戦を見据えて作り貯めてきた分を足しても要求量を満たせない、過去最大規模の発注であったことだ。

 前々から予定していた数よりも多い為、彼女が尋ねたところフィンの独断によって上方修正したらしい。

 レヴェリアだけでなくアスフィにも発注されており、かつてない量に彼女は白目を剥いた。

 ベヒーモス、リヴァイアサン討伐時に大量発注を経験していたレヴェリアとは違い、アスフィには経験が無かったので仕方がなかった。

 

 ダンジョン篭もりがてら、素材を採ってくるからヨロシク――

 

 大量注文を投げつけてきたフィンはニッコリ笑顔で宣って、団員達を引き連れてダンジョンに行った。

 これはロキ・ファミリアに限った話ではなく、間引きに参加する各派閥はどこも似たようなものだった。

 フレイヤ・ファミリアでもレヴェリアとアスフィを除いて団員総出であった。

 

 納期は指定されていないとはいえダラダラやるわけにもいかず、必要最低限の休息や親しい面々が差し入れを持ってきてくれた時を除いて、2人共それぞれの工房に篭って働きっぱなしであった。

 レヴェリアの治癒魔法で疲労や体力回復ができる為、自身とアスフィに定期的にかけていたとはいえ、それでも精神的な疲労やストレスは溜まる。

 ダンジョン篭もりや合宿といった戦闘行動とは違って、身体を動かさないというのもよろしくなかった。

 ストレス解消がてら、同じくストレスを溜め込んでいるアスフィとイチャコラするなどという選択肢はさずがになかった。

 目の前にある殺人的な仕事量をどうにかしないと落ち着けなかった。

 ひぃひぃ言いながら2人は無事に仕事をやり終え、ようやく休暇となったのである。

 

「圧倒的に強いのは分かっているが、考えようによっては黒竜が一番戦いやすいといえるかもしれないんだよな……」

 

 机に突っ伏したまま、レヴェリアは呟く。

 黒竜が封印されていて動けないというのが討伐隊にとって最大のアドバンテージだ。

 しかも周囲は荒地であり、砂漠のように足を取られやすいこともなく、海のように船を用意したり魔剣で凍らせたりして足場を作る必要もない。

 そして、何よりも物資の集積が容易かつ空間的制約がないことが何よりも重要だ。

 極論、ピラミッドのように物資を天高く積み上げることだってできる。

 つまるところ戦場となる環境が、ベヒーモスやリヴァイアサンと違ってかなりマシな部類であった。

 これらを踏まえて黒竜討伐作戦は計画されていた。

 偵察の内容次第で多少の変更はあるが、大枠は変わらないだろう。

 

 

 その時、扉が叩かれてレヴェリアは顔を上げた。

 フレイヤはデメテルのところに行っているので、彼女ではないことは間違いない。

 

 許可を出せば入ってきたのは先程、別れたばかりのアスフィだった。

 お風呂に入って寝ます、と言っていた彼女だが、何やらもじもじとしており、妙に落ち着きがない。

 その様子を見て、レヴェリアは察した。

 だが、彼女が何かを言う前にアスフィが意を決して告げる。

 

「レヴェリア様、どうにも眠れないので……私の部屋でお話しませんか?」

 

 その誘いに対して、レヴェリアはにんまりと笑みを浮かべる。

 お話などと言っているが、そこに込められた意味を彼女は正確に把握した。

 

 仕事終わりのムラついたアスフィ――

 

 長耳をピンと立たせ、レヴェリアは満面の笑みで頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……スッゴイわね」

 

 アリーゼが羊皮紙に釘付けとなったまま呟いた。

 

「何を食ったらこんな作戦を考えつくんだ?」

「女を食っているからだろ」

 

 ライラの問いかけに、輝夜が忌々しげな顔で即答した。

 その返答と表情にリューを除いて団員達は笑ってしまう。

 

 かつては風呂上がりに裸でホーム内をうろついていたこともよくある輝夜だが、レヴェリアと関係を持って以後、そういうことは無くなった。

 口の悪さも若干マイルドになったような気がしなくもない。

 輝夜も乙女なのね、と余計なことを言ったアリーゼに輝夜がイラッとしたのは御愛嬌だ。

 女を食っているという言い回しも、自分以外の女に現を抜かしやがって、という輝夜的な嫉妬心の発露であることがその表情から読み取れた。

 

 だが、リューは発言内容を真正面に捉えた。

 人を食っているという言い回しは他人に対して尊大あるいは図々しいというもので、ネガティブな表現。

 それが女を食っているという形に変わったということは、色ボケや色情狂といったネガティブな意味合いだと考えた。

 そして、否定したいが否定できる要素が皆無の為、変な顔になっていた。

 

 

 彼女達が目を通しているのは、黒竜討伐に関する作戦計画書だ。

 この分厚い計画書を持ってきたのはフィンであり、彼は黒竜討伐作戦の総指揮を執る。

 物資の調達がほぼ終わった、と彼は計画書を持ってきた時に言っていたが、ヘファイストスやゴブニュをはじめとした各種生産系派閥が全力稼働しただけでなく、レヴェリアとアスフィもそこに含まれていることをアストレア・ファミリアの面々は知っていた。

 

 この情報源は輝夜である。

 

 彼女は罵りながらも、差し入れを渡す為にフレイヤ・ファミリアへ度々行っていた。

 そして、帰ってくると惚気なんだか愚痴なんだかよく分からないモノをアリーゼ達は聞かされる羽目になった。

 手を出してこなかっただの、口づけの一つくらいしろだの、せっかく好みの下着をつけていったのにだの、【静寂】と鉢合わせして斬り合っただのといった類だ。

 アリーゼが余計なことを言ってイラッとさせたり、リューが一々反応して顔を真っ赤にしたりしたが、他の面々は適当に相槌を打って流していた。

 

「何だよこの、火力はパワーって……」

 

 ライラが呟いた、頭の悪そうな文言は計画書に書かれているものだった。

 フィン曰く、レヴェリアが言ったことそのままだというのだから驚きもひとしおだ。

 黒竜討伐作戦は案が幾つも出されたが、そのうちレヴェリアが出した案が採用されていた。

 

「この作戦はそう表現するしかないわね! さすがはレヴェリア様!」

「あほ団長が共感している……」

 

 ウンウンと頷くアリーゼを見てライラは天を仰いだが、実際そうとしか言えない。

 やること自体はオーソドックスであり、作戦の流れも単純明快。

 しかし、投入される魔剣の数が尋常ではなく、その使い方も贅沢過ぎるものだ。

 

 魔剣の主たる配備先は真っ先に封印内に突入し、黒竜の部位破壊を行う四派閥の主力ではなく、封印外で待機する助攻側だ。

 助攻の役割は主攻が第一目標たる黒竜の片翼をへし折った段階で封印内に全方向から突入し、無数の竜達に対して総攻撃を仕掛けて主攻側に目を向かせないことだ。

 斬撃を飛ばしながら攻撃魔法を放ちながら魔剣を振れ、出し惜しみ厳禁と書かれていた。

 アストレア・ファミリアは助攻側主戦力の一つとして配置予定であり、竜達の駆逐に専念しつつ余裕があれば黒竜への攻撃に参加することとなっている。

 つまり、魔剣を振りながら攻撃し続けるお仕事だ。 

 

 一方、主攻側には隠密特化型魔道具が全員分配備されるというのだから、こちらもこちらで凄まじい。

 黒竜にも通用すると想定して、この魔道具は当初から作戦計画に組み込まれていた。

 この魔道具を用いて、こっそり行って初撃に全力を叩き込み、黒竜の片翼をへし折って飛行不能にするという。

 またベヒーモス並の再生能力を黒竜が持っていた場合、リヴァイアサン並の魔法無効化効果のある霧を展開してきた場合など想定される全ての事柄とその対策が事細かに書かれていた。

 

「当日までにもっともっと強くならないと! 早速ダンジョンに行きましょう!」

「おい、団長。せめて明日にしてくれ、もう夕方だ」

 

 やる気に満ちたアリーゼの宣言に対して、ライラは冷静にツッコミを入れた。

 

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