転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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怪物祭で大騒ぎ

 

「ぬわーーっっ!」

 

 叫びながらヘイズは後ろにひっくり返った。

 その傍らでヘルンが左胸を両手で抑えながら両膝をつき、アイズは目を奪われていた。

 

「くっ、ヤらせろ……」

 

 悔しげな表情でアイシャは言って舌なめずり。

 アウラ、フィルヴィス、メルーナ、レフィーヤのエルフ4人組は目を大きく見開いて、佇む人物を頭から爪先まで何度も視線を行き来させているが、ある一点が特に気になっていた。

 

「あぁもうこれ誘ってんだろ!」

「ダメだよティオネ! 抑えて!」

 

 飢えた獣のような顔つきとなったティオネを後ろから羽交い締めにするティオナ。

 

「お姉様って呼びたい。ディナさんとヴェナさんの気持ちが分かった……」

「カサンドラ……あんたねぇ」

 

 心の声が零れ出てきたカサンドラに対して、呆れ顔でダフネはツッコミを入れた。

 

「わーお……スッゴイニャ」

「へー、いいじゃん。いつもとは全然違うけど似合っているわ」

「……本当にこの人、何を着ても似合うから困りますね」

 

 クロエとルノアは素直に評価し、リリルカは凝視しながら呟く。

 春姫は顔を真っ赤にして、両手を抑えつつもその視線は真っ直ぐ固定されていた。

 そして、アスフィは唾をごくりと飲み込んで、わなわなと震えながら尋ねる。

 

「レヴェリア様……その格好は……?」

 

 弟子達の前にいたのは、レヴェリアその人だ。

 ただし、普段とは方向性が違う格好をしていた。

 エルフらしいローブ姿でもなければコスプレやキワモノ系、あるいはマイクロビキニといった扇情的過ぎるものでもなかった。

 

 長い金髪は1つに束ねられてポニーテールとなっており、両耳には月を象った大きなイヤリング、右手首にはシルバーブレスレットがあり、小さめのショルダーバッグを肩に掛けている。

 白い無地のクロップドタンクトップは胸の大きさをこれでもかと示しており、更にお腹が丸出しとなっていた。

 エルフ4人組が特に気になっていたのは、この丸出しのお腹であった。

 そして、ズボンは七分丈の紺色デニム、靴は爪先から甲にかけて革製のストラップで編み込まれたデザインのサンダル――いわゆるグルカサンダル――だ。

 

 男装もしたことがあるレヴェリアだが、それも含めてこういう方向性の格好はこれまでになかった。

 

「一言で言うと……たわけが原因だ」

 

 レヴェリアはそう告げて、昨晩のことをアスフィ達に説明する。

 

 いつもとは違う格好をしていった方がシルも喜ぶんじゃない?

 というわけで、今までにないものでよろしく!

 

 さぁこれは楽しいことになるぞと言わんばかりの、にっこにこの笑顔でフレイヤは宣った。

 彼女に対してレヴェリアは拳骨を食らわせた後、彼奴のもちもちほっぺをこれでもかと弄くり回してやったのは言うまでもない。

 なお、シルのおめかしを手伝ってくる、と当の本人はヘルンに言伝を残して、朝早くから出かけていったので、このレヴェリアをまだ見ていなかった。

 

「まあ、偶には良いかと思ってな。こういう格好にも前々から興味があったし」

 

 そう語るレヴェリアに、アスフィ達の心は一致する。

 

 シルが色んな意味でぶっ壊れてしまうのでは?

 

 彼女とレヴェリアがズブズブの関係であることは周知の事実。

 コレはあまりにも破壊力がありすぎる、とアスフィ達は考えたのだが、唯一全てを知っているヘルンはシル(フレイヤ)が大暴走することを確信するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――っ!」

 

 シル・フローヴァは両手で口元を押さえて、これでもかと大きく目を見開いてレヴェリアを真っ直ぐに見つめる。

 まるでどこぞの隻眼の老神に、当たるまでしつこく追いかけてくるストーカー気質な槍で貫かれたかのような、超弩級の衝撃が迸った。

 

 もう怪物祭巡りとかやめて、さっさと宿に入っても良くない?

 責められたいし、責めたいんだけど?

 

 先日、レヴェリアがどういう言葉をシルに扮したヘルンに投げかけたのか、彼女からの報告によりフレイヤも勿論知っている

 ヘルンからのレヴェリアに関する報告は常に惚気混じりだが、今回は超特大だった。

 いくらヘルンが美少女とはいえ、世間一般の人々が目撃したならばドン引きすること間違いない表情をしていた上、また当時のことを思い出しながら色々な意味で興奮しているという、どこからどう見ても危ない人状態であった。

 

「その表情が見れただけでも、この服装を選んだ甲斐があったな」

 

 ニヤリと笑ってレヴェリアが告げれば、シルは我に返って冷静に指摘する。

 

「レヴェリアさん、私だけじゃないですから」

 

 彼女の言った通り、神々も冒険者も市民もレヴェリアに釘付けだ。

 常とは違う彼女の装いはそれだけ注目を集めていた。

 勿論、一番五月蝿いのは神々だ。

 

「ギャルか?」

「いや、あれはヤンママだな」

「それだけじゃないぞ。ヤンママベースのOL風味だ」

「だが、待ってほしい。活発お姉様系でもあるだろう?」

「子供3人くらい産んでそう。で、4人目がもうお腹にいる感じ」

「4は死を連想して縁起が悪いから5人目を作ろうって旦那に言ってそう」

「俺、実はレヴェリア様の旦那だったかもしれねぇ」

「いーや、俺だな」

「ばっかお前、俺に決まっているだろ!」

「活発お姉様系ヤンママOL風味か……さすレヴェ」

 

 いつものように好き勝手な感想を述べている神々だが、シルとしても大いに同意できる内容だ。

 そして、そこで彼女は閃いた。

 

 怪物祭はメインとなるモンスターの調教以外にも、商業系派閥や商会などが様々なイベントを開催する。

 この日の為、シルは事前にイベント内容を確認してあったのだが、その中には大食いもあった。

 かつて神会が主導した大食い大会ではなく、時間内に完食したら景品を貰えるという類のものだ。

 デートの最中に大食いを相手にさせる――普通に考えて非常識だ。

 

 しかし、シル・フローヴァには狙いがあった。

 

 鈍色の瞳が見つめる先はレヴェリアのお腹だ。

 いくら彼女であっても物理法則は無視できない。

 量を食えば腹は膨らむのである。

 

 

 レヴェリアのボテ腹が見たい。すっごく見たい!

 この思いは、決して間違いなんかじゃない――!

 

 

 妊娠何ヶ月目ですかって周りから思われる程度には食べてもらおう、とシルは決めた。

 無論、レヴェリアのことだからすぐ狙いに気がつくだろうが、多分付き合ってくれる筈だ。

 たぶんきっとおそらく。

 

 そんな事を考えているなどおくびにも出さず、シルはレヴェリアの手を握った。

 

「レヴェリアさん、私……楽しみだったので、色々とチェックしてきました。今日は振り回しますからね!」

 

 にっこにこの笑顔でシルが宣言すれば、レヴェリアは苦笑しつつも頷いた。

 

 

 

 

 

「……リューさーん?」

 

 リューの顔の前でベルは片手をひらひらさせてみせるが、反応がない。

 あまりの衝撃に完全に固まってしまったようだ。

 しかしながら、彼女を責めることはできない。

 ベルも見間違えかなと思って、目を何度か擦ってしまった程だ。

 

 待ち合わせ場所にて合流した2人はベルが張り切って先導しようとして若干空回り、それを見てリューがくすりと笑ってフォローする、という具合だった。

 これは2人にとってよくあることであり、周囲からすれば微笑ましいものであった。

 そんな具合であちこち回っていた2人が目撃してしまったのは――刺激が強い格好をしているレヴェリアと彼女とは対照的な、清楚な白いワンピースと同色の帽子を被ったシルの姿だった。

 

「は、破廉恥だ……いやでも、レヴェリア様がそうされているのならば……し、しかし、素肌を、それもお腹を晒すというのは……冷えてしまったら……」

 

 再起動を果たしたリューだが、どうやら混乱しているようでブツブツと何やら呟いている。

 レヴェリア絡みだとよくあることなので、ベルも慣れたものだ。

 そして、その時彼は気がついた。

 シルがレヴェリアの手を引っ張って、大食いチャレンジ――ラーメン5kg、30分以内完食で記念品贈呈――をさせようとしているのを。

 怪物祭でデートをするのは分かるが、そこでどうして大食いになるのかベルは困惑した。

 

「何だありゃぁ……」

「デートでラーメンの大食い……?」

 

 その時、聞き慣れた声が聞こえてベルが視線を向ければ、少し離れたところにヴェルフとヘファイストスがいた。

 ヴェルフはいつもの格好ではなく、小洒落た服装をしている。

 ネーミング以外のセンスは良いんだけどなぁ、とベルはついつい思ってしまう。

 2人もレヴェリアとシルを見ているようで、ベルとリューには気がついていない。

 邪魔したら悪いな、とベルは思いつつ、リューに声を掛ける。

 

「リューさん、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です。醜態を見せてしまい、申し訳ありません」

 

 生真面目に謝罪するリューに対して、ベルは大丈夫だと伝える。

 彼の言葉に安堵しながら、リューは率直に尋ねる。

 

「ところで私はデートというものに疎いのですが、大食いチャレンジはデート中にやるものなのでしょうか? シルが妙にノリノリというか……」

「多分ですけど、シルさんが特殊なんだと思いますよ」

 

 両者共にシルとは顔馴染みであり、その小悪魔的な性格やレヴェリアと親しい間柄であるということも把握していた。

 なお、レヴェリアについて尋ねるとシルはとても長く語ってくれることも2人は知っている。

 まるで長年、彼女を傍で見てきたかのような口ぶりであるのがとても印象的であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……チャレンジが成功して良かった」

「レヴェリアさん、ありがとうございます! すっごくいい食べっぷりでした!」

 

 レヴェリアを労いつつ、シルの視線はさりげなく彼女のお腹へ。

 つい30分程前は程よく引き締まっていながらも柔らかさを忘れていない、理想的なお腹だった。

 だが、今は見る陰もない。

 麺と具材、合計5kg分が入ったことでぽっこり膨らんでいた。

 妊娠している、と主張しても通用する程度の膨らみ具合だが、シルとしてはもっと大きくしたい。

 だが、もう一回大食いチャレンジをやってもらうのも憚られたので、小技で攻めていこうと思ったその時だった。

 

「レヴェリアっ!?」

 

 悲鳴のような声で名を呼びながらやってきたのは、リヴェリア・リヨス・アールヴその人だ。

 怪物祭は都市外の商会も露店を出していることから、掘り出し物がないか見て回っていたところであった。

 彼女はレヴェリアを上から下まで凝視して、最終的にお腹で視線を止めた。

 また大食いでもやったのだろう、といつもの彼女ならば容易に予想できるだろう。

 だが、今のリヴェリアは冷静ではなかった。

 

 親しい間柄にあるレヴェリアが、以前のマイクロビキニの如き大胆過ぎる格好をしていたのだ。

 これまでに見たことがない方向性の服装であり、よく似合っているからこそリヴェリアに与えた衝撃は大きい。

 それに加えて、レヴェリアの大食いを見物していた神々が、わざとらしく声を上げ始めたことが拍車をかけた。

 

「いやー、レヴェリア様。もうあれは妊娠しているよなー」

「誰が相手なんだろうなー」

「5kgくらいありそうだよなぁ」

「ボテ腹レヴェリア様エッッッロ!」

「活発お姉様系ヤンママOL風味ボテ腹レヴェリア様は好きですか? 僕は大好物です!」

「俺も俺も!」

「俺もだいしゅき!」

 

 とはいえ、神々もリヴェリアが真に受けるとは思っていない。

 ワンチャン、本気にしてくれたら面白いことになるなーくらいの感覚である。

 だが、この神々の発言がリヴェリアにとってダメ押しとなった。

 女性だけに飽き足らず遂に男性にも手を出したのか、と彼女は考えてしまったのだ。

 

「お、お前……誰の子だ……?」

「ついさっき、大食いチャレンジをしてな。5kgのラーメンを完食してきた。30分以内という時間制限があったんだが、記録は26分31秒だった」

 

 恐る恐る問いかけたリヴェリアに対して、レヴェリアは誤解がないように答えた。

 いつものリヴェリアならばボケればツッコミを入れてくれるだろうが、今の彼女はお目々ぐるぐるの混乱状態。

 ボケれば真に受けて面倒なことになるかもしれない、とレヴェリアが予想した為だ。

 

「何を馬鹿なことをやっているんだ……」

「あ、私が頼んでやってもらいました」

 

 レヴェリアの説明で混乱が解けて呆れるリヴェリアに、横から告げるシル。

 それを聞いて、リヴェリアは深く溜息を吐いた。

 

「ただでさえ、いつもとは違いすぎる服装をしているんだ。それ自体は似合っている……すごく。だが、その、お腹が……」

 

 何とも言えない顔で言い淀むリヴェリアに対して、レヴェリアは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「触ってみるか? 遠慮しなくていいぞ?」

「何をふざけたことを言っているんだ。まったくお前というやつは……」

「もう一つふざけたことを言うと、神々の言葉でお腹が冷えて大変というのはポンポンコールドペインペインというらしいぞ」

 

 そんなことを教えたのか、という視線が神々からシルへ向けられる。

 シルの正体を知っているからこその反応だが、対するシルはにこりと笑うだけである。

 レヴェリアの感性が神々寄りであることは周知の事実であるが、変に勘ぐられるのを防ぐ為に否定したりはしなかった。

 まずないだろうが、こういった事がきっかけとなって彼女が転生者であることがバレたら面倒なことになる為、用心しておくに越したことはない。

 それはそれとして、語感が良いので今後積極的に活用していこう、とシルは思った。

 そしてその時、新たな乱入者が現れる。

 

「うぉおおおお! レヴェリアちゃんのボテ腹、うちに触らせてくれぇええええ!」

 

 物凄い勢いでロキが突撃してきた。

 怪物祭ということでめでたい、酒を飲もう、いっぱい飲もうなどと理由をつけて呑み歩いていたのだが、騒ぎを聞きつけてやってきたのだ。

 彼女は赤ら顔で既に出来上がっている状態なのが丸分かりだ。

 

 その時、シルや神々は見た。

 両手を合わせながらジャンプして飛び込んできた――いわゆるルパンダイブ――ロキに対して、白黒王女が阿吽の呼吸で左右からラリアットをかましたところを。

 それは見事なコンビネーションを発揮した芸術的な一撃であった。

 カエルが潰れたような変な声を出して、ロキは路面に沈んだ。

 ぴくぴくと痙攣しているが、送還には至っていないので勿論セーフである。

 そこでシルが我に返った。

 

「カウントっ!」

 

 彼女が叫べば、見物していたヘルメスと彼と一緒にいた男神――エレボスが飛び出てきた。

 

「ワン! ツー! スリー! 白黒王女の勝利っ!」

 

 ヘルメスがロキの傍で路面を3回叩いて宣言し、エレボスはレヴェリアとリヴェリアの片手を持って上にあげた。

 その瞬間、神々は大きく歓声を上げて2人の勝利を称える。

 レヴェリアは平然としているが、何なのか分からないリヴェリアは呟くように問いかけた。

 

「……いや、何だこれは?」

「考えるのではなく、感じるんだ。こういうノリだ」

 

 リヴェリアの問いかけに、レヴェリアはそう答えるのだった。

 

 

 

 初っ端から騒動があったものの、それからもシルは宣言通りにレヴェリアを振り回した。

 途中ベルとリューであったり、ヴェルフとヘファイストスを遠目で見かけたが、邪魔になってはいけないと声を掛けたりはしなかった。

 やがて夕暮れ時となって怪物祭が終わったが、レヴェリアがシルを帰すわけもなく――2人は褥を共にしたのだった。

 

 なお後日、ボテ腹の件を知ったレヴェリアと親しい間柄にある面々が、デート中にやたらと大食いをさせてきたのは余談である。

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