転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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最後の間引き

 紅蓮の太陽が東の地平から昇っていく。

 朝日を背に受けその暖かさを感じながら、レヴェリアは遥か前方を見据える。

 まだ20K以上離れているとはいえ、油断はならない。

 精霊の『風印』周辺に屯する竜達は最低でもレベル8相当――ダンジョンの出現階層では70階層以降に出現する個体しかいないと考えられている。

 それだけでなく、より深い階層に出現する新種の個体がいることも予想されていた。

 

 四派閥合同遠征による現時点での到達階層は82階層。

 7年前は76階層であった為、僅か6階層しか進めていない。

 この原因は1つの階層があまりにも広大かつ地形が複雑であり、また出現するモンスターは強力かつ量も頻度も多いという、歩みが遅くなるには十分過ぎる要素が詰まっていたからだった。

 その反面、素材やドロップアイテムも稀少なものが多いので痛し痒しといったところだ。

 

「八岐の大蛇や三つ首の黄金竜が出てくるかもしれん」

 

 レヴェリアは独り言ちた後、深呼吸をして意識を切り替える。

 やることは単純明快だ。

 一当てして程よい感じの速度で逃げながら本隊の前に誘引した後、反転攻勢を掛けるというもの。

 前回まではレヴェリアだけでなく、四派閥の面々も幾人か誘引に参加していたが、今回は何が出てくるか分からない為、彼女が断った。

 1人の方が不測の事態に対応しやすい上、スキルの効果がより強化されるからだ。

 そして、今回より導入した新装備をレヴェリアは順次起動させる。

 それは頭につけたヘッドセットとそこに取り付けられた小型カメラだ。

 黒竜偵察の為に彼女が開発した魔道具であり、また受像器となるディスプレイは手のひらに載るコンパクトサイズから固定設置型の大きなサイズまで幾つか種類があった。

 レヴェリアがマイク部分に向けて尋ねる。

 

「聞こえているか? 音声と映像は届いているか?」

『問題ないよ』

 

 ヘッドセットは彼とレヴェリアのみだが、コンパクトサイズのディスプレイは戦闘に参加する冒険者全員に行き渡っている。

 レヴェリアが見ている光景と音声は、ここから更に離れたところにいる本隊にもカメラ越しに共有されていた。

 

「そろそろ始める」

『いつでもいいよ。大漁を期待している』

 

 フィンからの返しに、レヴェリアはくすりと笑い、透明化の魔道具を起動した。

 

「財布を握りしめて待っていろ」

 

 そう答え、彼女は駆け出した。

 一瞬でトップスピードとなり、風を切って猛速で進んでいく。

 レベル8相当の個体でも、ブレスの射程距離は10K以上であることはダンジョン内の同種で確認済み。

 透明化の魔道具を使っているものの、レヴェリアは欠片も油断していない。

 想定外の事態は常に起こり得るという心構えでもって、彼女は封印へ続く最後の関門となる竜の群れへ近づいていく。

 

「……これは凄いな。竜種の展示会だ」

 

 ダンジョンでよく見たレベル8やレベル9相当の竜から見たことがない、より大きな――120Mから130Mはありそうな――個体、さらには見た目はアンフィス・バエナに似ているが色違いの双頭竜などなど様々な竜達が幾つもの集団に分かれて屯していた。

 1つの集団は数十匹程度であり、それがある程度の距離を保って点在して封印を取り囲んでいる形であった。

 これならば暫くの間は1つずつ集団を釣っていくことができそうだ、とレヴェリアはあたりをつける。

 

 そして、遠目に見える竜巻は極めて巨大であり、天をも貫くかのようであった。

 そちらを眺めていると何となく嫌なものを彼女は感じつつ、内心で溜息を吐く。

 

 封印の半径は目算ながら確実に1K以上あるとはいえ、最悪の場合、封印内は黒竜と竜達でぎゅうぎゅう詰めであるかもしれなかった。

 黒竜が竜達を呼び寄せたのは、その魔石を食らって自身の傷を癒やす為とゼウスが予想をしており、もしかしたら封印内で繁殖させて生まれた子供は食べて親となる原種達は食べないようにしているかもしれん、とも言っていた。

 更には、封印内に黒竜が1匹だけということはありえない、と嫌な太鼓判を押してくれていた。

 

 とにもかくにも、まずは目の前の仕事に集中しよう、とレヴェリアは思い直す。

 集団の数と種類、また新種の個体などを全て確認したところで、本隊からもっとも近い位置にある小集団の傍へ。

 そして、彼女はアンフィス・バエナ似の双頭竜を真正面に据えて――すなわち、カメラに映るようにして――告げる。

 

「目の前にいる個体を仮称としてアルファ」

 

 すぐに視線を別の新種へ向けて、仮称を告げる――その作業を新種全てに繰り返していく。

 

「ブラボー、チャーリー、デルタ、エコー、フォックストロット……」

 

 レヴェリアのカメラ越しに映る個体を、冒険者達は仮称と共にその特徴を頭に叩き込んでいく。

 これは新種のモンスターと遭遇した際、モンスターの特徴から個々人がその場で好き勝手に名付けて意思疎通に混乱が生じるのを防ぐ為、以前レヴェリアが提案して導入したものだ。

 アルファだのブラボーだの聞き慣れない単語ばかりであったものの、その有効性がすぐに証明されたこともあり、すっかり根付いていた。

 

 

 新種全てに仮称をつけ終えたところで、いよいよレヴェリアは攻撃を開始する。

 とはいえ、小集団を1ずつ釣っていくことが目的である為、攻撃の規模は抑えめだ。

 全力全開の攻撃をすれば小集団の1つや2つは消し飛ばせるだろうが、その瞬間に全ての竜達が気づいて殺到してくる。

 そんな飽和攻撃を受けたくはない。

 かといって、いつまでも作戦通りに事が進むわけもなかった。

 音や振動で気づかれ、その時点で残っていた竜達が全て向かってくる可能性が高いと予想されていた為に。

 

 やがて彼女は剣を抜き放ち、【淫欲願望(ルクスリア)】でもって数秒のチャージ。

 そして斬撃を放つや否や、すぐさま透明化を解除して振り返ることもなく遁走する。

 

 耳を聾する怒りの咆哮が数多に轟き、レヴェリアへ向けて数十のブレスが放たれた。

 レーザーの如く集束したものやスタンダードな扇状に拡散していくものなど、ブレスの種類は様々だが射程距離が長く、また威力が高いことは共通している。

 これまでの経験と勘に従い、レヴェリアは軽業師のようにひょいひょいと後方からのブレスを避け、時折斬撃を飛ばしたり【ボルカニックノヴァ】を撃って牽制する。

 この間、【淫欲願望(ルクスリア)】でのチャージを再び始めた。

 ゴール地点でぶっ放す為だ。

 

 レベル10の身体能力を駆使して、あっという間に射程距離外へ逃れようとする彼女に対して、竜達は遂にその場を動く。

 次々と羽ばたいて、あるいは腰を上げてその巨体からは想像もできない速度でもって追撃に移っていく。

 怒り心頭の竜達は目の前の獲物を叩き潰さんと真っ直ぐに空を、あるいは大地を進む。

 そんな竜達をもっと怒らせるよう、レヴェリアは程よい感じに攻撃を加えて挑発を繰り返す。

 空を飛ぶ竜は勿論のこと、飛べぬ竜であってもその巨体から見下ろせる範囲は人類よりもよっぽど広い。

 

 自分に目を向けさせ続けることで本隊の存在を隠蔽及び竜達が本隊の存在に気がついたとしても、目の前でうろちょろする鬱陶しい存在の排除を優先するよう、思考を誘導するのが狙いだ。

 

 数多の竜達との追いかけっこは、フィンからの連絡により終わることとなった。

 

『そろそろゴールだ。大漁旗はあるかい?』

「大漁旗は無いが、良いものを見せてやろう。スリーカウントで頼む」

 

 レヴェリアの要望にフィンが承諾してから数秒後、彼は要望通りにカウントを開始する。

 

『3、2、1……今!』

 

 瞬間、レヴェリアはくるりと後ろを向いて横薙ぎに斬撃を放つ。

 初撃として放った時とは比べ物にならない空間を歪めるかのような大斬撃であるが、横から見れば地上から天に向かって伸びる黄金の彗星のようであった。

 そして、ほぼ同時に左右からも放たれた数多の斬撃と魔法が竜達を襲っていく。

 本隊側は部隊を2つに分け片翼に主力としてゼウスとロキ、もう一方にヘラとフレイヤを配置して竜達は二隊の真ん中を通るよう誘導されていた。

 そしてレヴェリアが竜達を連れてくるまでの間、各々が全力の一撃を放てるよう万全の準備を整えていたのだ。

 

 アルファの仮称をつけられたアンフィス・バエナ似の双頭竜は、その特徴的な双頭が左右からの斬撃で断ち切られた後、巨体が極太のレーザーのような砲撃魔法によって貫かれて絶命。

 先頭にいたブラボーの仮称をつけられた個体は、レヴェリアによる斬撃でもって真っ二つとなった。

 新種の個体も既存の個体も左右及び正面からの苛烈な攻撃により、次々と魔石を砕かれていく。

 

 1匹でも数カ国を滅ぼしてお釣りがくる竜達は大半が灰と化し、生き残った竜達も然程間を置かずに殲滅された。

 だが、間引きは始まったばかりであった。

 

 

 

 

 

「あーもう無理……! むーりぃー!」

 

 ムリムリと言いながらも器用に魔法を唱えて、空を飛ぶ竜にぶち当てていくのはハトホル・ファミリアの黒妖精ネルナッティだ。

 無理には竜が強すぎ硬すぎという意味も含まれているが、それ以外にもっと大きな意味があった。

 

「戦うレヴェリア様、尊すぎて無理ー!」

 

 100歳を超えているネルナッティは『アイドル(仮)』を自称しており、また冒険者としての経歴でいえばレヴェリアよりも数年程先輩だ。

 神々からは永遠の16歳だの偽物JKピラミッド褐色女子だの、色々な意味でネタにされている。

 そんな彼女はフレイヤ・ファミリアのオラリオ進出時の出来事も目の当たりにしていた。

 中々やる、と当時のネルナッティは評価していたが、次第にそのヤバさにドン引きした。

 

 ゼウスやヘラの幹部連中とよく戦ったり、同格以下の冒険者は相手にもならぬと鎧袖一触にしたり、ウダイオスを単独撃破したり、ベヒーモス戦で真正面に1人で立って引き付け続けたり、歓楽街の常連で色ボケだったり――

 

 才能は凄いがヤバいヤツなので近寄らないでおこう、と心に決めていたネルナッティだが、とんでもない事が起こった。

 レヴェリアが黒の王女――すなわち、ネルナッティにとって尊崇すべき黒の王族であることが判明したことだ。

 

 一族の王女が救界(マキア)の先頭に立っている――これで心が震えぬ黒妖精はおらず、ネルナッティもまたその例に漏れなかった。

 彼女自身が避けていたこともあって直接の交流は無かったものの、オラリオでその活躍を見聞きしてきただけに、受けた衝撃はとてつもなく大きかった。

 さらに全世界を巻き込んだ派閥大戦やランクアップ耐久戦がダメ押しとなり、ネルナッティはすっかり心酔していた。

 無論、彼女は間引きや合宿にも積極的に参加しており、今やレベル7に至っていた。

 

 隣で魔法を放っている同派閥の魔導士が呆れ顔で声を掛ける。

 

「ネルティ、いい加減に会いに行けば? 普通に会ってくれるでしょ?」

「無理無理無理! 会ったら尊すぎて死ぬ! 白目剥いてぶっ倒れる自信がある!」

「【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】って、あなたにとっては深層の階層主か何かなの……?」

「はぁ!? 下等なモンスターと一緒にしないで! 偉大なる空に輝くアルヴの霊峰の星にして我らが王女様よ!」

「キャラが崩れているわよ」

「はっ!? 今のなし! 聞かなかったことにして!」

「はいはい」

 

 そんなやり取りをしている間にも、戦況は激しさを増す一方だ。

 当初、レヴェリアが小集団を1つずつ釣り上げ、1つの集団が終わったら小休止を取ることを予定していた。

 だが、今やそれは完全に崩れ去っている。

 予想されていた通り、音と振動で竜達が敵対者に気がついた為であった。

 

 

 

 

「無理を通した甲斐があった……!」

 

 レオンは大長剣でもって竜の首を落としながら、そう呟く。

 休んでいる暇はなく、次から次へ竜はやってくる。

 彼が倒した竜は既に20を超えているが、まだまだ敵は尽きることがない。

 

 本来ならば彼は今回の間引きに参加する予定ではなかった。

 だが、今回が最後の間引きとなること、またレヴェリアによる黒竜偵察が実施されることを聞いて、どうにかして参加したいとバルドルに伝えた。

 これを受け、四派閥の主神達と連絡を取り合い、その上で戦技学科の野外調査としてバルドルは許可を出していた。

 レオンを筆頭に数名の教師達と戦技学科の生徒達がこの地に来ていたが、レオン以外の面々は本隊から更に離れたところにある高台にて、レヴェリア謹製の大型ディスプレイを用いた戦況観察に徹していた。

 

 その為、レオンは土の民(ドワーフ)としての衝動に身を任せ、その力を存分に振るっていた。

 

 

 一方、戦技学科の生徒達は瞬きもせず大型ディスプレイに釘付けであった。

 レヴェリアの視点であることが事前に伝えられていたが、それでも驚きは大きい。

 何よりも生徒達にとって学びとなっているのは、彼女がどこを見ているか、どういう判断を下しているのかが実戦にて分かることだ。

 しかし、学友達と話し合うことは誰もしなかった。

 それは戦闘が完全に終わってからすれば良い、と誰もが考えた為であり、目の前の一瞬を逃すまいと全神経を注いでいた。

 

 

 

 

 

 

 そして、太陽が中天を過ぎた頃。

 『風印』に至る道を阻む竜達は完全に駆逐され、黒竜まであと一歩となった。

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