転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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悔しさを糧に

 

 

「【福音(ゴスペル)】――【サタナス・ヴェーリオン】」

 

 アルフィアの音による砲撃は、間髪入れずに放たれたアイズの斬撃によって相殺された。

 刹那の攻防に拘泥することなく、両者は次の攻撃へ移っていく。

 

 黒竜の咆哮を浴びて、身が竦んで動けなかった。

 その事実が2人には重くのしかかっている。

 

 互いの剣がぶつかり合い、火花を散らして甲高い金属音を響かせる。

 音の砲撃が降り注ぎ、黄金色の斬撃が乱れ飛ぶ。

 アイズの代名詞ともいえる風属性の付与魔法(エンチャント)が施された飛ぶ黄金色の斬撃は、さながら竜巻を纏った雷のようであり、山を2つ3つ両断してもなおあまりある威力だ。

 だが、アルフィアも負けてはいない。

 斬撃に付与できるような便利な魔法は持っていないが、彼女には技量があった。

 灰色の斬撃が放たれ、黄金色の斬撃はその軌道を僅かに斜め上に逸らす。

 すかさずその隙間にぬるりと身を滑り込ませて、アイズへ肉薄しつつ音の砲撃を叩き込まんとする。

 しかしながら、アイズはそれを読んでいた。

 そして、読まれることはアルフィアも分かっていたからこそ、その裏をかく。

 神速の攻防は熾烈さを増していく一方だった。

 

 

 

 

「おぉおおおお!」

 

 ベルは雄叫びを上げながら剣を振るう。

 赤と黄色の入り混じった雷炎の如き斬撃が飛ぶ。

 対するザルドは大剣でもって正確に相殺しつつ、斬撃が相殺されることを見越して一撃を見舞うべく、這うように駆けてくるだろうベルを待ち構え――悪寒を覚えた。

 即座に真上へ大剣を向ければ鈍い金属音。

 ベルの長剣を受けたことを確認するまもなく、彼は横へ大きく跳ぶ。

 

「【ケラウノス】」

 

 告げられた名と共に放たれるのは炎を纏った雷の矢。

 彼がレベル1になってしばらくした頃、アルフィアがレヴェリアから貰ってきた魔導書によって発現した魔法だ。

 レヴェリアの【ボルカニックノヴァ】と同じく速攻魔法であり、その属性は雷と炎の複合だ。

 単発の威力は低いが精神力の消費は少なく、またその連射性能や飛翔速度は恐るべきものがある。

 1発目はザルドが数瞬前までいた地面を大穴を穿つに留まったが、続けて放たれた2発目は彼目掛けて正確に向かってくる。

 ベルは着地するや否や、すぐさま動く。

 

 戦闘中は絶対に足を止めるな――

 

 先達から教わった基礎は彼の中にしっかり根付いていた。

 ましてやベルからすればザルドは格上だ。

 油断も慢心もなく、己の持てる全てを駆使して立ち向かっていく。

 対するザルドは獰猛な笑みを浮かべ、ベルを迎え撃つ。

 彼からすればベルは格下であるが、このレベルに至ると格上をどうこうできるスキルなり魔法なりが発現しているのは当たり前だ。

 当然、ベルも発現していた。

 だが、そのスキルはレヴェリアのスキルによく似ているものであった。

 

 魔法といい、スキルといい、そこまでレヴェリアに似なくてもよくないか、とザルドは彼と戦う度に思ってしまう。

 

 ベルに【英雄憧憬(ステイゴールド)】なる成長促進と自己強化の複合スキルがあることは、ザルドも当然知っている。

 それほどまで英雄に憧れている彼に発現したスキル、それは【英雄願望(アルゴノゥト)】だ。

 ベルが合宿に初めて参加した際、レヴェリアからお祝いと称して手加減に手加減を重ねたチャージした飛ぶ斬撃を真正面から受けたことが発現のきっかけであった。

 満身創痍になりながらも目を輝かせていたベルの姿を、ザルドは鮮明に覚えていた。

 

 2人も含めてあの場にいた冒険者達は黒竜の咆哮を受けた時、身が竦んで何もできなかった。

 だが、間近で咆哮を受けたレヴェリアは物ともせずに挑発すらしてみせた。

 その時に感じた悔しさと無力感は筆舌に尽くしがたい。

 レヴェリアが対策を考えていることは知らされていたが、このままでは黒竜討伐時に戦力になれない可能性すらあった。

 

 間引きと黒竜偵察完遂を祝う宴会を開いている場合などではない――

 

 あの光景を見た冒険者達はレベルの高低に関わらず誰もがそう考え、オラリオに帰還するなり、ホームでステイタス更新を済ませ、休息もそこそこにダンジョンへ向かった。

 50階層はいつもの合宿の様相を呈しつつあったが、肝心要の人物――レヴェリアはいなかった。

 そして、彼女不在の割を食った人物がいた。

 

 

 

「治療するのは良いんですけど、私も加わりたかったです……」

 

 長耳を垂れさせて、情けない顔でレフィーヤは呟いた。

 しかし、その直後には【エルフ・リング】を詠唱し、レヴェリアの治癒魔法を召喚・発動する。

 

 あの時、何もできなかった。

 その無力感と悔しさに彼女もまた突き動かされ、ダンジョンにやってきていた。

 自派閥だけでなく他派閥の面々もいた事から考えることは皆同じなんだ、と思いつつ、さあやるぞ、と剣を引き抜こうとした時に――フィンから声を掛けられた。

 【エルフ・リング】を使えばレヴェリアの治癒魔法を召喚できるから、という至極もっともな理由により治療側に回るよう彼から頼まれた。

 終了後に鍛錬に付き合うことを彼だけでなく、この場にいる各派閥の団長達に約束してもらった為、レフィーヤは渋々引き受けていた。

 

 その時、レフィーヤの視界にヘイズとアミッドの姿が入ってきた。

 

「あ、ヘイズさん……あっちにはアミッドさんだ。治しながら戦ってる……」

 

 己の好きなタイミングで治癒魔法を自身とついで周囲に掛けながら、格上や同格相手に斬ったり斬られたりしていた。

 レフィーヤがいるから大丈夫という事で2人共、参加側に回っていた。

 ヘイズはともかく、アミッドまでも治療ではなく己の鍛錬を優先するということは珍しかった。

 

 その理由は無論、先の一件だ。

 アミッドもまたあの時あの場で棒立ちとなった。

 戦う治療師として【戦場の聖女(デア・セイント)】という二つ名を神会にてつけられ、治療師としても剣士としても順調にその実力を伸ばしてきた彼女にとって、あれほどまでに己の無力を感じたことはかつてなかった。

 あの時、もしも黒竜が寝ぼけたまま何らかの攻撃を加えていたら、大量の死傷者が出たことは確実だ。

 そして、その際に自身は治療師としての職務を全うできなかったか、あるいは死亡者リストに名を連ねることになったことは想像に難くなかった。

 

 だからこそ、アミッドもまた参加していた。

 主神のディアンケヒトは止めようとしたが、いつになく強い眼差しでもってただ見つめてきたアミッドの決意の固さを察して、渋々送り出していた。

 

 レフィーヤが視線を移せば、そこにはアストレア・ファミリアの面々がゼウスやヘラの幹部達と戦っていた。

 7年前、全員がレベル4に至っていたアストレア・ファミリアは人造迷宮(クノッソス)攻略後より合宿や間引きに積極的に参加し、その実力を着実に高めてきた。

 レベル9とレベル8しかいない派閥は世界広しといえど、アストレア・ファミリアだけだ。

 

「……アリーゼさん、あんな顔もできるんだ」

 

 どんな時でも愛嬌があり、快活――そんな印象が強いアリーゼ。

 しかし、それらは鳴りを潜め、いつになく真剣な顔つきであった。

 目の当たりにした黒竜、その力の一端ともいえないような単なる咆哮で茫然自失となり、動けなかった。

 故に、その脅威を正しく理解し、このままではいけないとより一層奮起したのだ。

 それは彼女だけではなく、アストレア・ファミリアの誰もがそうであった。

 

 

 熾烈な戦いが50階層のあちらこちらで繰り広げられ、超威力の魔法や斬撃が飛び交う。

 いつもの合宿よりも流れ弾が多い、これは出てくるかな、とレフィーヤが思い始めた時だった。

 

 

 唐突にダンジョンが哭いた。

 

 

 しかし、ここにいる冒険者達にとって驚きはなく、戦闘の手を止める者は誰もいなかった。

 これまでの合宿でもやりすぎた時、ジャガーノートが出てくることはあった。

 産まれ落ちた瞬間、誰かしらの斬撃によってぶった斬られていたが。

 

 どこから出てくるかな、とレフィーヤが魔法の詠唱を止めることなく観察していると――予想外のことが起きた。

 どうせジャガーノートだろう、と誰もが高を括っていた。

 だが、今回は違った。

 

 ジャガーノートでは歯が立たぬ、とダンジョンが悟ったのか、あるいは別の要因か、もしくは単純にブチ切れただけなのか。

 

 天井より顕現するは漆黒の巨竜。

 その体長は100Mを軽く超えており、こんな浅い階層に出てきていい竜ではない。

 竜は紅い眼でもって周囲を睥睨しつつ、着地すると同時に咆哮。

 広大な50階層に響き渡るその咆哮は、恐るべき破壊者の降臨を告げるものだった。

 並の冒険者達ならば今の咆哮だけで身が竦んで、あるいは逃げ出してしまうか、最悪気絶するだろう。 

 

 だが、相手が悪すぎた。

 

 漆黒の巨竜が天井に現れた瞬間、誰もが動いた。

 もっとも近かったのはレフィーヤであり、彼女は即座に全力で走りながら詠唱を開始した。

 レヴェリアより黒竜討伐を見据えた策を幾つか教わっており、それを試すチャンスだと即断即決したのだ。

 

 そして、レフィーヤは間近で巨竜の咆哮を受けたが――黒竜とは比べ物にならない程に弱かった。

 仰々しく現れた割にはあんまり強くなさそう、と若干拍子抜けしつつも彼女は策を実行に移す。

 【エルフ・リング】でレヴェリアの再現魔法を召喚し、再現するのは春姫の友、ヤマト・命の魔法だ。

 

「【神武闘征】――【フツノミタマ】」

 

 発動の際に調整し、効果範囲は竜の上半身のみに抑える。

 可能であれば頭部のみに留めたかったが、起きて動いている竜にそれをやるのはさすがに困難であった。

 巨大な光剣が地に現れた同心円の中心に突き刺さり、重力結界が完成する。

 竜の上半身が地面に縫い付けられたが、すぐさま竜は瞳に怒りの色を浮かべながら、起き上がろうと身を動かす。

 

 その時、暴虐的な魔力が顕現する。

 レフィーヤはあくまでアシストであり、本命は別。

 しかし、その本命すらも対黒竜においては怯ませることを目的としていた。

 

 音は重力に影響されない――

 

 故に、放たれるのは全てを破壊し尽くす鐘の音だ。

 事前に打ち合わせなどしていなくても、彼女ならば絶対に動いてくれるとレフィーヤは確信していた。

 

「【代償はここに。罪の証をもって万物(すべて)を滅す】――【哭け、聖鐘楼】」

 

 巨竜が慄き、自由になっている下半身や両翼、尻尾を激しく動かし始めたが――その左翼は雷霆の如き音と共に放たれた極大の光によって切断された。

 その技の名は『斬光』――魔法ではなく、斬撃である。

 

 

 しかし、左翼を斬り飛ばす一撃を放った【英傑】は顔を顰めていた。

 巨竜は、あまりにも()()()()

 

 これでは予行演習にもならぬ、と彼は溜息を吐いてしまう。

 

 彼と同じく、右翼を斬光によって斬り飛ばした【女帝】は憤怒の形相となっていた。

 もっと強い竜を寄越せ、とダンジョンに対して理不尽にキレた。

 

「【ジェノス・アンジェラス】」

 

 両翼が呆気なく斬り飛ばされたのを見たアルフィアは、気勢をそがれつつも臨界に達した魔力を解き放った。

 滅界の咆哮を間近で受け、ダンジョンが産み出した漆黒の巨竜は一瞬にして塵と化した。

 竜の消滅を確認し、冒険者達は何事もなかったかのように鍛錬を再開するのだった。

 

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