「レギ、色々な意味で大丈夫かな?」
「……お、おい。ニイナ、レギに魔法を掛けてやれよ」
クリスが小声で呟けば、イグリンが同じく小声でニイナに告げるが、彼女は残念そうに首を左右に振った。
3人から少し離れたところには、小隊のメンバーであるレギがベンチに座っていた。
しかし、彼女は突然ニヤニヤ笑いだしたり、身をくねくねさせたり――誰が見ても挙動不審であった。
こうなった原因はレヴェリアとの面談だ。
レギはオラリオ寄港時にフレイヤ・ファミリアでの
そこから互いのことを色々と話し――面談終了後、ニイナ達の元に帰ってきた時からあんな感じであった。
無論、授業の際はこういった挙動不審にはならず、むしろこれまでよりももっと熱心に取り組むので教師達からは問題なし、とされていた。
レギがレヴェリアに向ける思いがどういうものであるか、ニイナ達は当然知っている。
嬉しさのあまり奇行に走るのも理解できるが――面談があったのは10日前のこと。
レヴェリアとフレイヤは数日前、下船して帰途についている。
カメラなどの持ち込んだ機材類は元々が予備品であった為、『学区』にて保管されることとなった。
なお、噂によると、せっかくだしちょっと遊んで行こうなどとフレイヤが言っていたらしく、2人が真っ直ぐオラリオに帰ったかどうかは不明であった。
「オラリオ寄港まであの感じか? 勘弁してくれ」
友人との別れは寂しいがそれはそれとして、不気味であることは間違いなかった。
「……」
神室にて、フレイヤは無言でレヴェリアの背中に刻まれたステイタスを見つめていた。
予想していた通り、ランクアップができる。
各基本アビリティの数値は文句のつけようがない。
もっともフレイヤ以外の神が見れば、目を何度も擦って凝視するような非常識な限界突破した数値であるが。
努めて冷静にフレイヤは尋ねた。
「……ランクアップできるけど、保留にしとく?」
「いや、さすがにランクアップでいいだろ……」
直近のステイタス更新は間引きへ出発する前日。
その時のステイタスを思い出しながら、レヴェリアは答えた。
「じゃ、じゃあ……しちゃうのね? ランクアップ。本当にいいの?」
「……ランクアップしたら、よろしくない不可逆的な変化でも起きるのか?」
「そういうわけじゃないけど……やっぱりほら、神時代初だし……」
これまでレベル9やレベル10の眷族が出た時も神時代初であったが、どちらもゼウス、ヘラの眷族だった。
だが、今回は違う。
ランクアップすることで、レベル11になることでレヴェリアが頭一つ抜きん出ることになる。
これまで彼女と他の眷族達は同一レベルであったが、今回のランクアップにより唯一無二の『頂天』となるのだ。
「伴侶で最強で最優の私の眷族が、ランクアップして隔絶した強さになりました……ってな感じになるのよ? これがどういうことか分かる?」
ラノベ小説のタイトルみたいな言い方をしてくるフレイヤに、レヴェリアは肩を竦めつつ尋ねる。
「要するにどういう事なんだ?」
呆れるレヴェリアに対して、フレイヤは深呼吸をして真摯な表情でもって告げる。
「つまり、何が言いたいかというと……喜びのあまり私の理性がプッツンする」
「……特に問題はないな」
予定を思い返しつつ、レヴェリアはそう答えた。
現在、フレイヤ・ファミリアは休暇中だ。
これまでも間引き後は休暇となっていたのだが、今回は普段よりも期間が長めに設定されていた。
その理由は悔しさのあまり、オラリオに帰ってくるなりほぼ全ての団員がダンジョンに篭もって合宿をしており、誰も休んでいなかった為だ。
無論、ダンジョン探索が禁止されているわけではない為、篭もっている者もいるが。
ちなみに、レヴェリアとフレイヤは『学区』からオラリオへ直行しなかった。
大きな問題が起きたとか、トラブルに巻き込まれたとかそういうものではない。
オラリオの外へ解き放たれたフレイヤ、しかもレヴェリアと2人きり――
これでフレイヤが何もしないはずがなく。
彼女はその自由奔放さを存分に発揮して、あっちこっち寄り道をしてきた。
なお、この途上、レヴェリアの提案によりシャルザードにも赴いた。
復興状況の視察と間引き終了及び黒竜の現状をアリィに伝えつつ、レヴェリアは色々な意味で友好を深めていた。
そういったことをしていた為、オラリオに戻るまでそれなりに日数が掛かっていた。
「じゃ、じゃあ……しちゃうわ」
ごくり、と生唾を呑み込んでフレイヤは作業を進めていく。
そして、発展アビリティを発現させる段階に至り幾つか候補が出てきた。
「何だか竜全般に特攻がありそうな発展アビリティが発現できるわ」
「どういうものだ?」
「【破竜】っていうの」
今後のことを見据えれば特に問題はない。
それでいい、とレヴェリアが答えようとした時だった。
「他に真新しいものは……【性技】とかあるわね。あとは前から出ていたやつばかり」
「……ちょっと考えさせてくれないか?」
「だーめ。私とイシュタルとアフロディーテが仕込んできたから、現状でもあなたのテクニックはスゴイわ。誇って頂戴」
バチコーンとウィンクをしてみせるフレイヤ。
彼女としても、正直なところ【性技】の効果はどんなものなのか気にはなる。
だが、黒竜討伐には万全を期してもらいたいが故、フレイヤとしても苦渋の決断であった。
ともあれ発展アビリティの発現も終わり、無事にランクアップが完了した。
最後に恩恵にロックを掛けたところで、フレイヤはレヴェリアの背中にしなだれかかり、そのまま両手を前に回す。
手の行き先はレヴェリアの胸だ。
彼女が何かを言うよりも早く、フレイヤは柔らかさと張りが両立した極上のデカい胸を、服の上から遠慮なく揉みしだく。
その手つきは熟練のもので、どこをどうすればレヴェリアがどのように感じるかを知り尽くしていた。
更に彼女はレヴェリアの首筋に口付けし、そのまま長耳の方へ舌を這わせていく。
快楽を感じ始め、小さな喘ぎ声を漏らし始めたレヴェリアに対してフレイヤは妖艶な笑みを浮かべてみせる。
「ランクアップのお祝い……たっぷりしてあげる」
レヴェリアの耳元で囁いて、フレイヤは長耳を舌で丹念に舐め回し始めるのだった。
「最高に良かったんだが、それはそれとして疲れた……」
自室の机に突っ伏しながら、レヴェリアは呟いた。
終わったのは数時間前であり、七日七晩フレイヤと交わった計算になる。
最高に気持ち良く、精神的にも大満足であったのだが、それはそれとして徹夜明けにフライドチキンを山程食ったかのような気分だ。
自分以外にフレイヤと最初から最後まで付き合える輩はいない、と彼女は自画自賛する。
侍従頭でもあるヘルンには清掃で大変な迷惑を掛けているが、何だか幸せそうな顔をしていたので問題なさそうだった。
「ランクアップの報告に行ってくるかな」
終わったらそのままダンジョンに行って調整を済ませてこよう、と考えながら、レヴェリアは腰を上げた。
混雑する時間帯を過ぎていた為、のんびりとした空気がギルド内には漂っていた。
レヴェリアが向かうのはエイナの窓口だ。
彼女もすぐにレヴェリアに気がついて、にこやかな笑みを浮かべてみせる。
「レヴェリア様、本日はどのようなご用件ですか?」
「うむ……この間、ニイナと会ってな」
その言葉はエイナにとって予想外というわけではなかった。
彼女とニイナは年が離れているが、姉妹仲は良好であり、度々手紙でやり取りをしている。
直近の手紙は数日前にエイナの元に届いており、レヴェリアのことが色々と書かれていた。
「戦技学科にいるとアイナから手紙で聞いてはいたが、ニイナはお前とは違った方向で才能がある」
その言葉にエイナは身構える。
レヴェリアが才能がある、と言う時は次に続く言葉は決まっている。
「できればうちに来てほしいんだが……彼女の小隊メンバーも1人、うちに入ってくれそうだし……」
人材の勧誘に余念がないレヴェリアに、エイナは心の中で溜息を吐く。
彼女としては妹の意思を尊重したいものの、フレイヤ・ファミリアは――というか、四派閥は勘弁してほしい。
一番穏健なロキ・ファミリアであっても団員同士で殺し合い寸前の合宿を数ヶ月間に渡って行ったり、ダンジョンに篭ってモンスターと平然と戦い続けたりしているが、妹にはそんなふうになってほしくない。
良い例がレフィーヤだ。
『学区』の後輩ということで、レヴェリアの紹介によりエイナは面識を持った。
互いの性格もあって、あっという間に打ち解けて仲良くなったのだが、レフィーヤはフレイヤ・ファミリアに染まってしまった。
性格が変わったというのではなく、価値観や基準が世間一般とズレてしまっている。
ギルド職員という立場で考えれば、ダンジョン攻略や黒竜討伐の為に頼もしくなったのだが、『学区』の先輩としては大変複雑な気持ちである。
無論、関係が切れたというわけではなく、都合が合えば買い物に行くくらいには良好な関係だ。
それはともかくとしてニイナがそんな環境に行って、染まってしまうかと思うとエイナとしては大変心配である。
「姉としては心配ですね……」
余計な事は言わず、エイナはその一言に留める。
それだけでレヴェリア先生ならば察してくれるハズだ、と確信があった。
そして、それは正しかった。
「無論、無理にとは言わん。彼女の意思が最優先だ」
「そうしてください。ところで、用件って妹の近況ですか?」
その問いかけに、レヴェリアはかぶりを振った。
そして、彼女は本題に入る。
「ランクアップの報告だ」
その言葉を聞いたエイナは驚くことなく、手慣れた様子で書類を取り出す。
そして、彼女は尋ねる。
「どちらの方でしょうか?」
「私だ」
レヴェリアの答えを聞き、エイナは目をパチクリとさせた。
彼女の周囲にいた他の職員達も聞こえていたのだが、似たような反応だ。
その様子を見て、レヴェリアは再び告げる。
「私がランクアップしたから、その報告だ」
エイナはそれが何を意味するのか、ようやく理解した。
周囲の職員達も同じく理解し、ざわめきが巻き起こる。
「ほ、本当ですか……?」
「ああ、本当だ」
「えっと……活動記録に記入したいので、ランクアップの要因と思われる出来事はありますか?」
絶対誰にも真似できないモノだろうな、とエイナは問いかけながらも予想していた。
黒竜偵察で何かあったらしく、間引きに参加していた冒険者達がそのままダンジョンへ向かったことは彼女も聞き及んでいた。
「黒竜の咆哮を間近で浴びたが、怯まずに挑発したこと……だと思う」
はい正解、私の予想大正解――
エイナは心の中で叫んだが、顔には出さなかった。
同時にどうして冒険者達が挙ってダンジョンへ向かったかも分かってしまった。
何もできずに悔しかったんだろうな、と彼女は考えながら、手続きを進めていくのだった。