「あはっ……!」
ディナは歓喜の表情を浮かべた。
四肢は無く、腸は溢れ、顔も身体も己の血に染まり、全身を激痛が迸っている――文字通り、瀕死の状態にも関わらず、その心は喜びに満ちていた。
近くには妹のヴェナも同じような状態で地面に転がりながら、ディナを羨ましそうな顔で見つめている。
姉妹を見るも無惨な姿とした人物――レヴェリアはディナの目の前に立ち、見下ろしていた。
何かヤバいことでも起きたのか、と何も知らぬ第三者がここにいれば戦々恐々とするところだろうが、あいにくとここはいつも合宿で使う50階層ではない。
ここはダンジョン27階層、その奥まったところにある広大なルームであり、通りかかる冒険者はまずいない場所であった。
どうして3人がこんなところで戦っているかというと、神々でなければまず理解できない理由によるものだ。
やがて、レヴェリアはディナの脇腹を両手で持ち上げる。
高レベル冒険者はかなりしぶとく、瀕死の重傷でも結構長く保つ。
ディース姉妹もその例に漏れない。
ディナの身体を持ち上げたレヴェリアは、彼女が自分の目線と同じ位置になるように高さを調整した後――そのまま自分の顔を近づけ、ディナと口付けを交わす。
するとディナは痛みなどないかのようにレヴェリアを激しく求め、レヴェリアもまたディナを激しく求める。
陰惨でありながら淫靡な光景を間近で見せられたヴェナは、興奮しながらも姉に対する羨望の念をますます強くする。
姉妹のどちらを最初に選ぶかは、その時のレヴェリアの気分次第。
今回はディナが最初であっただけというに過ぎないが、ヴェナからすればお預けを食らっている状態だ。
あぁ、ディナお姉様……あんな姿でもレヴェリアお姉様に愛してもらえて、いいなぁ!
私も愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して――!
一心に願い続け、ようやくその時がきた。
ディナとの口付けが終わったレヴェリアが、ヴェナの方へ歩いてきた。
そして、ヴェナとも同じように口付けを交わし、互いに求め合った後――レヴェリアは治癒魔法を唱え、2人を癒し尽くしていく。
かなり昔、姉妹の絆を深めたい、とディース姉妹にせがまれたのが、この姉妹交流会が始まるきっかけだ。
交流会の開催はディース姉妹からおねだりしてくることが多いのだが、レヴェリアから姉妹に求めることもそれなりにあった。
事実、今回もそうである。
ランクアップ報告を終えてギルドからそのままダンジョンに調整へ向かったレヴェリアであるが、その途中でディース姉妹と出会った。
ちょうどいいとばかりに誘えば姉妹は快諾し、めでたく開催となった次第だ。
地上ではレヴェリアがレベル11にランクアップしたことが広く喧伝され、大騒ぎとなっているのだが、そんなことは気にも留めていなかった。
レヴェリアの元に姉妹は素早く駆け寄って、左右から抱きついて頬ずりをし始める。
「レヴェリアお姉様、とっても素敵だったわ。早く次をやりましょう?」
「レヴェリアお姉様、次は私を最初にしてほしいわ!」
せがむ2人にレヴェリアは軽く溜息を吐く。
呆れているように見えるが、内心は違う。
私の妹達は可愛いなぁ、としか思っていない。
そして、彼女がそう思っていることはディース姉妹も当然察しており、きゃいきゃいと無邪気に喜ぶ。
ディース姉妹はレヴェリアが自分達のお姉様であると認識しており、そのことに対して欠片も疑いを抱いたことはない。
何故ならば、美しく可愛い時だけでなく汚く醜く穢らわしい、誰もが忌避するような時もレヴェリアはディナとヴェナを深く愛し、心から求めてくれるからだ。
レヴェリアが変態であることがある意味で功を奏しているのだが、それはともかく、どういう時であっても姉妹に対する気持ちに嘘偽りはない。
だからこそ、ディナもヴェナもレヴェリアを深く愛して求め、さらに彼女の言いつけをしっかり守り、彼女が悲しむことや怒るようなことはしない。
レヴェリアに失望され、見放されることはディナとヴェナにとっては何よりも耐え難く、それこそ世界の終わりに等しい為だ。
おもむろにレヴェリアは両手を伸ばし、姉妹それぞれの頭を撫で始め、やがて長耳や頬を弄っていく。
気持ちよさそうに目を細めてされるがままのディナとヴェナ。
姉妹交流会でやることは戦闘だけではない。
目的は姉妹の絆を深めることであり、その為に何をするかはその時のそれぞれの気分次第だ。
先程、戦闘をしていたのはレヴェリアがランクアップ後の調整も兼ねていた為であり、それは既に完了していた。
撫でるのが終わるとディナもヴェナも期待に満ちた眼差しでレヴェリアを見つめ、対するレヴェリアもまた姉妹を交互にじっくりと見つめる。
姉妹交流会はまだ始まったばかりであり、さらにダンジョンでの交流が終わったら次はベッドの上での交流が待ち構えていた。
「「待っていたぞレヴェリアぁああああ!」」
一言一句違わぬ叫びを上げて、躍りかかってきたアルガナとバーチェをレヴェリアは軽く撫でて吹き飛ばした。
圧倒的な膂力に為すすべもなく、姉妹揃って近くの建物に突っ込んだ。
商店であったらしく、店主らしき人物が飛び出してきて状況を確認して、下手人たるレヴェリアを見て目を輝かせた。
被害の補償ということで、思いっきりふんだくってやろうという考えが透けて見えていた。
逞しいオラリオ商人にレヴェリアは肩を竦めつつ、とりあえず片手でディナの頭を撫で、もう一方の手はヴェナの長耳を弄る。
どうしてここにカリフ姉妹がいるんだろうか、と彼女が考えた時、見知った顔のアマゾネス達がわんさか押し寄せてきた。
誰も手に武器を持っておらず、飢えた獣の如き眼光はレヴェリアにまっすぐ向けられている。
そのアマゾネスはテルスキュラのアマゾネス達だった。
ヒリュテ姉妹の一件以後、不定期にテルスキュラには行っていたが、アマゾネス達を足腰立たなくするまで帰れないので頻度は多くない。
遂にカーリー・ファミリアがオラリオに進出かな、とレヴェリアは思いつつ、今はアマゾネスよりもディナとヴェナとベッド上で交流するのが優先だ。
「ディナ、ヴェナ。少し待て」
そう告げた瞬間、レヴェリアは動いた。
アルカナとバーチェですら鎧袖一触にした彼女を、他のアマゾネス達が止められるわけもない。
彼女達を一瞬で叩きのめし、その表情が恍惚に染まったのを横目に見ていると、さらなる敵がやってきた。
ゼウス、ヘラ、ロキ、フレイヤは言うに及ばず、イシュタル、アストレア、ガネーシャなどなど――間引き及び合宿常連派閥であった。
レヴェリアのランクアップ――その一報を聞き、彼等彼女等は嬉々として挑みに向かった。
だが、彼女がいなかった。
目撃情報からレヴェリアがディース姉妹とダンジョンに向かったことが判明したものの、いつもの50階層はもぬけの殻。
ならば帰ってくるのを待てばいい、というシンプルな判断によるものだ。
レヴェリアは深く溜息を吐いた。
とりあえず、全員を叩きのめさないと姉妹交流もできなさそうだ。
そして、こんな流れでディナとヴェナが我慢できるわけもない。
2人はくるりと身を翻し、一切の殺意もなく極自然にレヴェリアの首を狙ってディナはスティレット、ヴェナは杖でもって喉を潰さんとする。
だが、目前にまで迫ったディース姉妹の攻撃は届かなかった。
レヴェリアが刹那の間に抜き放った己の剣でもって、姉妹の胴体を薙ぎ払った為に。
上半身と下半身が分かたれ、石畳に転がった。
ディナもヴェナも激痛が迸るが、そんな瑣末事に気を取られることなどなかった。
彼女達は間近からレヴェリアを見上げ、見惚れていた。
「あぁ……レヴェリアお姉様、綺麗だわ」
「さすがは私達のお姉様……とっても美しいわ」
ディース姉妹がトチ狂った感性をしていることは、ここにいる面々には周知の事実。
彼女達は無視して、戦端が開かれようとしたその時だった。
「まっ待てぇえええええ! 待て待て待てぇええええ! そこまでだぁあああああ!」
そんな叫びを上げて、ロイマンが腹を揺らしながら必死に走ってきた。
レヴェリアはあからさまに顔を顰める。
ぽっちゃり系中年エルフ男性の腹が揺れる様なぞ見たくなかった。
ともあれロイマンの介入により闘争の気も削がれた為、レヴェリアは素早く治癒魔法を唱えてディース姉妹を癒す。
あっという間に治った姉妹は、先程の攻撃など無かったかのようにレヴェリアに左右からしがみついて甘え始めた。
「こ、こんなところで戦うな! オラリオが壊れるだろうっ! 戦うならダンジョンの中で戦え!」
ロイマン渾身の叫び。
それはとても真っ当な指摘であった為、挑戦者達は矛を収めるしかなかった。