レヴェリアは湯船の中で全身を伸ばして、大きく息を吐いた。
自室にある浴室を使うのは久しぶりであるが、ヘルンが定期的に清掃をしてくれている為、隅々まで埃一つなかったのは有り難い。
彼女も臨時合宿に参加していたのだが、ホームに帰ってくるなり諸々の業務をこなしてくれたのだろう。
「……疲れた」
治癒魔法で体調を万全にできる彼女だが、それでも疲れを感じることはある。
今回もそのパターンだったが、嫌なものではなく心地の良い、満足感のあるものだ。
ロイマンからダンジョンの中でやれ、と言われたので、そのままダンジョンへレヴェリアは舞い戻った。
勿論、ディース姉妹も一緒だ。
そして、50階層で始まった臨時合宿は3ヶ月にも及んだ。
いつもならばまずは乱戦でレヴェリアは治療に専念するのだが、今回は初手からレヴェリア対参加全派閥となった。
レベル11となった『頂天』の実力、如何ほどかとどいつもこいつも目を輝かせていた。
故にレヴェリアもその期待に応えた。
その結果、これまでの合宿も大概酷かったのだが、それよりももっと酷いことになった。
今まで以上の大破壊にダンジョンもびっくり仰天したのか、ジャガーノートや黒いバロールや黒い巨竜やらを色々沸かせてきたが全て瞬殺された。
ダンジョンが哭いてから出現まで若干のタイムラグがあり、また出現場所は天井から落ちてくるか、壁や床を突き破って出てくるかの3パターンしかない。
その為、姿が見えた瞬間、斬光が殺到して雑に処理された。
そんなこんなで臨時合宿が終わり各自解散となった際、ディース姉妹を連れて真っ先に地上に戻って延期されたベッドの上での交流会を実施。
絆をより一層深め、ホームに帰ってきたのが1時間程前であった。
姉妹の痴態を思い出しながら、レヴェリアは気分良く鼻歌を歌いつつ、のんびり湯に浸かった。
風呂から出てバスローブを羽織ったレヴェリアは、冷蔵庫から取り出した適当な飲料を飲みながらソファに座った。
そろそろフレイヤが突撃してきそうだなぁ、とこれまでの経験から予想していると扉が叩かれた。
「扉が叩かれたということは、フレイヤではないな」
ノックせずにいきなりバーンと扉を開けるのがフレイヤスタイルだ。
誰何してみれば、フィルヴィスだという。
はて、と首を傾げながらレヴェリアが入室を許可すれば、彼女は緊張した面持ちで部屋に入ってきた。
何かあったのだろうか、と考えながらレヴェリアが尋ねるよりも早く、フィルヴィスが意を決して告げた。
「その、レヴェリア様……実は、お願いがあります」
「お願い?」
「はい……お世話をさせてください」
「お世話?」
どういうことだ、とレヴェリアが柳眉をハの字にしてみせれば、すぐにフィルヴィスは説明を始めた。
それによると、どうやらロキ・ファミリアのアリシア・フォレストライトが入れ知恵をしたらしかった。
以前よりロキ・ファミリアのエルフ達――アリシアを筆頭とする面々とアウラ達は親交がある。
不定期にお茶会をしたり、買い物や食事に出かけたりしていた。
つい先日も食事会をしたようで、その際にアリシアから何気なく尋ねられたという。
普段からレヴェリア様の身の回りのお世話をしているのか、と。
アリシアはリヴェリアに仕える為、故郷を出てオラリオにやってきた。
しかしながら、当の本人は王女として崇拝されたり特別扱いされることに辟易しており、アリシアが胸に抱いていた目的は果たせていなかった。
アウラ達がレヴェリアと深い関係にあることはアリシアも承知している。
それならば身の回りのお世話もしているのだろうと考え、聞いてみたのだ。
結果として、アウラ達による惚気の絨毯爆撃を食らい、ロキ・ファミリアのエルフ達は黄色い悲鳴を上げる羽目になったのだが。
「むしろ、お世話になってばかりであることに気がついてしまい……」
「……そうでもないと思うのだが」
肩を落として、しょんぼりしながら言葉を紡ぐフィルヴィスに対して、レヴェリアは若干視線を逸らしながら答える。
身の回りのお世話はされていない。
だが、ベッドの上で色んなお世話をたくさんしてもらって、我儘もたくさん聞いてもらっているのでレヴェリアは大変感謝していた。
それはともかく、身の回りの世話といっても清掃や洗濯はヘルンがやってくれており、食事に関しては他の団員達と同じくミアの世話になっている。
フィルヴィスが従者のように傍についてくれたとしても、基本的にはやることがなかった。
とはいえ、彼女の思いを無駄にすることもレヴェリアにはできない。
リラクゼーションをやってもらおうかなと考えつつ、アウラ達がいないことについてレヴェリアは尋ねる。
「ところでアウラ達は? この手の話ならば、一緒に来てもおかしくはないのだが……?」
「3人共、出かけています。レヴェリア様がいつお帰りになられるか分からなかったので」
チクリと刺してくるフィルヴィスに対して、レヴェリアは苦笑しつつお願いをする。
「毎日ではお前に負担がかかってしまうから、ひとまず今日限定でお世話をお願いしたい」
するとフィルヴィスは喜色満面となって、大きく頷いてみせる。
彼女の反応を確認したレヴェリアは告げる。
「おいで、フィルヴィス」
呼びかけに対して、フィルヴィスは音もなくレヴェリアに近寄った。
間近にまで来た彼女を優しく抱きしめ、その長い髪を撫でる。
しばらくそうした後、レヴェリアは彼女から離れてソファに座り、自身の膝の上をぽんぽんと叩く。
その意味が分からないフィルヴィスではない。
2人きりの時にはよくやってもらうことだからだ。
しかし、今回はあくまでレヴェリアのお世話が目的である。
そのまま口付けを交わしてベッドへ向かう――なんてことになってはいけない。
無論、そうなってもフィルヴィスとしては嬉しいのだが、ともあれ彼女は初志貫徹すべく言葉を紡ぐ。
「え、えっちなことはダメです。今日は、お世話なので……」
「大丈夫だ。お前の温もりを感じながら、癒されたくてな」
そう答えて微笑むレヴェリアに対して、若干怪しみつつもフィルヴィスはその膝の上に座った。
レヴェリアに背中を向けて座るのがいつものやり方だ。
座った瞬間、もう逃さないとばかりにレヴェリアは背後から両手を回し、フィルヴィスを強めに抱きしめた。
そして、レヴェリアは告げる。
「フィルヴィス、吸うぞ」
吸うとは何か、その意味をフィルヴィスは正確に理解している。
この行為は精神衛生に良く、まだ病気には効かないがいずれ効くようになる――とレヴェリアが語っているものだ。
フィルヴィスもレヴェリアに同じ事をさせてもらうのだが、精神的な癒しの効果は実感できた。
また他の面々からも、『レヴェリア様吸い』は癒されると聞いたことがあるので、効果に間違いはなかった。
フィルヴィスはレヴェリアの癒しとなれるのならば嬉しい。
だが、それはそれとして恥ずかしいのもまた事実であった。
「ど、どうぞ……その、汗臭いかもしれませんが……」
今更レヴェリアが汗の臭いで嫌悪するわけがない。
むしろ、彼女にとってはご褒美だ。
許可も取れたので、レヴェリアはフィルヴィスの頭に顔を埋めて、思いっきり鼻で息を吸う。
鼻腔に広がるのはシャンプーの香りとほのかな汗の臭い。
更にそこにフィルヴィスを抱きしめていることにより、伝わってくる彼女の体温と身体の柔らかさ。
それらの相乗効果により、完璧な癒し効果がレヴェリアに齎されていた。
無言で何度も何度も吸われて、フィルヴィスは切なげな息を吐く。
「レヴェリアさま……」
やがてフィルヴィスは懇願するように名前を呼べば、レヴェリアは吸うのをやめた。
そして、彼女はフィルヴィスの首筋に顔を埋め、数回舌で舐め――やがて口をつけて吸う。
「あぁっ……!」
フィルヴィスの口から零れ出る小さな喘ぎ声。
それに構わずレヴェリアは行為を続行し、やがてフィルヴィスの首には赤い痕ができた。
レヴェリアからは見えないが、フィルヴィスの表情は恍惚としたものだ。
だが、レヴェリアの攻勢はこれで終わらない。
次に彼女が狙いを定めたのはフィルヴィスの長耳だ。
片手でフィルヴィスを抱きしめつつ、もう一方の手でフィルヴィスの長耳を弄り回す。
軽く摘んだり、ぐにぐにと押してみたり、耳先から根元までを指でツーっと撫でてみたり。
与えられる刺激にフィルヴィスは喘ぎ声を零しつつ、自身を抱きしめているレヴェリアの片手を両手でぎゅっと握りしめる。
彼女の両手をレヴェリアもまた握り、指を絡ませていく。
程なくして、レヴェリアは弄っていない方の耳に口を寄せて囁く。
「えっちなことはダメ……その言葉はまだ有効か?」
「……いじわるしないでください」
赤緋色の瞳を潤ませながら、フィルヴィスは告げた。
その答えを聞いてレヴェリアは笑みを深めつつ、寝室へ誘えば――フィルヴィスは小さく頷くのだった。
なお、後日。
フィルヴィスがレヴェリアにお世話をしたことをアウラ達が知り、自分達もお世話をしたい、と押しかけてきた。
その為、レヴェリアはフィルヴィスと同じ事を同じ条件――1人ずつ1日限定で――してもらい、たっぷりと癒されたのだった。