転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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ヘルンのお仕事

「よし……」

 

 清掃中の立札を置いたヘルンは気合を入れて、扉の前に立つ。

 今より彼女はレヴェリアの私室の清掃、シーツ交換、衣類の洗濯を行う。

 ダンジョン篭もりや合宿といった大きな用事が無い場合、週に数回の頻度でレヴェリアの部屋と神室の清掃や洗濯はヘルンが行っている。

 ランクアップを重ねたことによる利益を、日常的にもっとも享受しているのは彼女かもしれない。

 

 大きな家具を片手でひょいっと持ち上げられる筋力、細かな箇所の清掃や衣類の補修等を迅速かつ丁寧に行える器用さ、必要になったものを短時間で取りに行って帰ってこれる素早さ、広範囲を長時間掃除しても尽きることがない体力――それらが身についた為に。

 

 しかしながら、レヴェリアの部屋は清掃前に室内の確認が必要だ。

 無論、清掃と洗濯の際はあらかじめ日時を伝えている為、見られてマズイモノを見てしまったことはない。

 もっとも、ヘルンの反応を見たいが為、そういうモノがあえて置かれていることもあるが、そこらは臨機応変に対応している。

 そういったモノに持ち帰ってもいい、と記載がある場合は有り難く頂戴していた。

 

 だが、今から行う室内の確認はそういった部屋の主が置いたものを把握するものではない。

 清掃日はレヴェリアが完全に不在となっており、清掃が終わるまで基本戻ってくることはない。

 その為、レヴェリアの部屋に忍び込んで色んなことをしている不届き者がよくいる。

 レヴェリアに見つかるとちょっと気まずいが、ヘルンならまあいいか、という具合である。

 ヘルンとて清掃と洗濯にかこつけて色々なことをしている為、あまり強く言えないという事情もあった。

 無論、フレイヤの神室ではそういうことが起こり得ない為、レヴェリアの部屋特有の事前作業である。

 

 もっとも、レヴェリアはそれら全てを把握しており、黙認していた。

 何なら喜んでいるので、バレたところでまったく問題なかったりもする。

 変態ここに極まれり。

 

 それはさておきヘルンが部屋に入ると、特に変わった様子は見られなかった。

 レヴェリアの部屋は整理整頓がされており、散らかっていることはほとんどない。

 きょろきょろと視線を巡らせて確認した後、扉を閉めて内側から鍵を掛ける。

 

 そして、部屋の中央に立ったヘルンは――

 

「すぅーーーはぁーーー」

 

 そこで大きく深呼吸。

 胸いっぱいに広がる少し篭もった匂い。

 それをじっくりと味わう。

 

 これは掃除前にヘルンが必ず行うものである。

 掃除の際は換気を行う為、レヴェリアの匂いが薄れてしまう。

 それはもったいない為、これは欠かせない。

 何度も繰り返して、自分の肺がその匂いで満たされたことに喜びを感じながら、室内の確認に入る。

 

 ヘルンの現在地である扉を入ってすぐの部屋――リビングに不届き者がいることはまずない。

 単純に隠れるところがなく、これはトイレと浴室も同様だ。

 

 故に、本命は寝室。

 

 ヘルンが思うに、寝室のベッドに不届き者がいる確率は150%である。

 くるまっている不届き者を見つけて部屋から追い出して寝室に戻ってきたら、別の不届き者がくるまっていたなどという冗談みたいなことがあった。

 

 かといってヘルンがベッドでくるまったり、枕に顔を埋めたりしないというわけではない。

 どうせ洗濯しちゃうから多少汚しても問題ないなど、たくさんの言い訳を心に並べて、毎回自己正当化している。

 

 まず不届き者が潜んでいる可能性がほぼ無いトイレ、浴室を順番に見回り、汚れの把握も同時に行う。

 レヴェリアはいつも綺麗に使ってくれる為、汚れはあまりない。

 今回もその例に漏れず、彼女に対して心の中でヘルンは感謝の言葉をたくさん述べた。

 

「さて……」

 

 ヘルンは寝室の扉の前に立つ。

 これまでの経験からすると、不届き者が1人はいると確信している。

 

 ちなみに不届き者の面子は固定であり、ヘイズを筆頭とした一部の弟子達だ。

 フレイヤがいることもそれなりにあるが、彼女は不届き者という定義にはまったくあてはまらないのでヘルン的には何も問題がない。

 

 ともあれ、一番回数が多いのはヘイズ・ベルベット。

 ヘルンがブチ切れたナンバーワンエピソードは、だらしねぇ顔をして涎を垂らしながら、すぴすぴ寝息を立てて気持ち良さそうにヘイズがレヴェリアのベッドで全裸で大の字になって寝ていた時だ。

 一番の激怒ポイントはシーツがびっちょり濡れていたこと。

 

 「ナニしてんだこの淫乱」、「待って下さいー。その言葉はレヴェリア様にも刺さりますからー」などという掛け合いからドッタンバッタン大騒ぎ。

 最終的にヘルンがモップでヘイズをしばき倒して勝利を飾った。

 

 

 ヘルンは寝室の扉を開けて中に入り、鼻をひくつかせる。

 不届き者の匂いが微かにでも感じられるかもしれない、ついでに部屋の匂いを堪能しようという一石二鳥の策だ。

 深呼吸は確認が終わってからである。

 

 一見、寝室にも誰もいなさそうだ。

 ベッドも人間がくるまっているように、不自然な膨らみはない。

 念の為、掛け布団を捲ったり、ベッドの下を覗き込むなどくまなく確認するが――誰もいなかった。

 

 しかし、ヘルンの目は誤魔化せない。

 フレイヤの神室もレヴェリアの私室も隅から隅まで全て把握している彼女は、ベッドではなくウォークインクローゼットに視線を向けた。

 不届き者達にとって1番人気はベッドだが、2番人気はウォークインクローゼットだ。

 このクローゼットには衣類から下着まで全て収納されている。

 洗濯されているとはいえ、レヴェリアが普段身につけているものだ。

 ヘルンは洗濯をする都合上、どういったものがあるか下着まで含めて全て把握している。

 デリケートな素材ならば洗い方も変わってくるから、という理由だ。

 手にとって、しげしげと眺めたり匂いがうつっていないか、嗅ぐこともあるが業務上仕方がない、とヘルンは毎回自己正当化をしていた。

 

 やがてヘルンはウォークインクローゼットをゆっくり開く――前に天井を見た。

 天井の隅に蜘蛛のように手足を伸ばして潜んでいたなんてことも過去にあった為だ。

 

「……さすがにいないわね」

 

 そう呟きながら、いよいよヘルンはウォークインクローゼットを開けた。

 

「……珍しいわ。本当に誰もいない」

 

 誰かがいた場合、レヴェリア以外の匂いが微かに香る。

 ヘルンは獣人ではないが、こういう時の嗅覚は恐ろしく鋭い。

 だが、不届き者の匂いはまったくなかった。

 不思議に思いながらも、ヘルンは寝室を後にして洗濯物の確認を行う。

 

 

 浴室前に置いてある洗濯籠に、綺麗に畳まれた状態で洗濯物が入っていた。

 レヴェリアの几帳面さが現れていることに、ヘルンは微笑みを浮かべつつ手に取るのは――黒いブラジャーだ。

 褥を共にした時に実際に身に付けさせてもらったことがあるが、胸とブラの間に少しばかり隙間ができたことからレヴェリアの胸がどれだけ大きいか、よく理解できた。

 片手でブラを持ちながら洗濯籠に再び手を入れて、取り出したのは下着。

 ブラと同色の下着はレース付きであり、可愛らしい印象を与えつつもどこか扇情的なデザインをしている。

 

 ごくり、とヘルンは生唾を飲み込む。

 

 レヴェリアの下着姿は見てきたし、何なら脱ぎたてを本人から渡されて、本人にお願いされてその下着を使って目の前で色々とすることもよくある。

 それと比べれば今、手の中にあるのはただの洗濯物に過ぎないのだが、それでも妙な興奮を覚えずにはいられなかった。

 故に、やることは決まっていた。

 業務に集中する為にも、これはやらないといけないことだし、レヴェリア様ならばお許しくださる筈だといつものように自己正当化を完了する。

 念の為、ヘルンはきょろきょろと周囲を見回した上でそれらを持って寝室へ。

 ベッドの中でヤッたほうが色々と捗るし、どれだけ汚しても洗濯してしまうので問題なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 業務に集中する為の事前作業をベッドにて終えた後、ヘルンは黙々と清掃作業とシーツ交換、洗濯に励んだ。

 特に何事もなく終えたところで、ヘルンはレヴェリアに呼び出された。

 もしや清掃前にヤッている事がバレたのか、と内心ドキドキであったが、そうではなかった。

 

「明後日からメレンに1泊2日の慰安旅行……ですか?」

「ああ、そうだ。私とお前達……弟子だけでな。勿論、アミッドも含めてだ」

 

 アミッドにも伝えて、ディアンケヒトの許可も取ってあるとレヴェリアは補足した。

 それを聞いたヘルンは尋ねる。

 

「アスフィ達には伝えましたか?」

「ああ、伝えた。新しい水着を買いに行くと揃って出ていったぞ」

 

 ヘルンが清掃作業に入る30分くらい前だ、とレヴェリアは付け足した。

 

 ヘイズが音頭を取って、アイズがつられてアイシャやティオネ、ティオナが悪乗りしてエルフ4人組が一応諌めつつも内心ノリノリで、気合を入れるカサンドラ、悪巧みをするクロエ、ダフネとルノアとリリルカが呆れて、顔を真っ赤にしながら興奮する春姫、そしてアスフィが溜息を吐く――そういった光景がヘルンの脳裏に描かれた。

 

 道理で誰もいなかったわけだ、とヘルンは納得しつつ、おずおずと尋ねる。

 

「フレイヤ様にこの事は……?」

「伝えてあるから問題ないぞ」

 

 レヴェリアの言葉に、ヘルンは意外に思う。

 フレイヤはそういう素振りを見せず、今日も朝からデメテル・ファミリアのレストランへシルとしてバイトに行っていた。

 かといって、レヴェリアが嘘をついてるとはヘルンには思えない。

 不思議に思っていると、レヴェリアが言葉を重ねた。

 

「後日、フレイヤとは2人でメレン旅行に行くことで手を打ってもらった」

 

 なるほど、とヘルンが頷いたところで、レヴェリアは尋ねる。

 

「ヘルン、今からヘイズ達と合流するよりも……私と2人で水着を買いに行かないか?」

「是非、お願いします!」

 

 食い気味に答えたヘルンに、レヴェリアはにこやかな笑みを浮かべるのだった。

 

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