「照りつける太陽、青い海、白い砂浜……最高ですねー!」
きゃっほーい、とテンションの高いままに、赤いビキニ姿のヘイズは飛び跳ねた。
ヘルンはそんな彼女をジト目で一瞬見つめるも、すぐさま視線は別荘の方へ向いてしまう。
私は後で行くから、先に行っていてくれ――
レヴェリアからそのように言われてアスフィ達は一足先にビーチまでやってきていた。
ここら一帯はレヴェリア個人が所有しているプライベートビーチであり、傍には庭付きプール付きの広々とした別荘があった。
別荘に視線を向けているのは彼女だけではない。
レヴェリアは一体どんな水着を着てくるのだろうか、と誰もが気になっていたからだ。
清楚でくるか、それとも際どいものでくるのか、あるいは斜め上の格好をしてくるのか。
予想もつかないがヘルン的にはどんな装いであっても至福の一時であるのは変わらない。
ヘルンは視線を戻し、アスフィ達をさっと見ていく。
全員がビキニを着ているが、その色とデザインにはそれぞれの個性が出ている。
ヘルン自身は黒のタイサイド・ビキニを着ており、また首には黒いチョーカーをしている。
どちらもレヴェリアが選んだものだ。
「……ヘルン、さっきからずっと思っていたんですけど、ソレ絶対レヴェリア様の趣味ですよねー。一緒に選んだんですかー?」
ついさっきまではしゃいでいたヘイズがジト目で見つめて、そんなことを言ってきた。
ぷいっとそっぽを向いて、ヘルンはノーコメントを貫く。
「前より胸、大きくなってない?」
「私にも分けてよー」
「知らないわ。あと、分けられるわけがないでしょう」
続けられたヒリュテ姉妹の問いに、ヘルンはそう返す。
そこでやり取りを見ていたリリルカがあることに気がついた。
「というか、同じ色のマニキュアをされている方が多くないですか?」
ヘルンとヘイズは勿論、アイズやエルフ4人組――合計7人と中々に多い。
リリルカの問いかけにアイズは真剣な顔でもって告げた。
「リリ、違うよ。同じじゃない」
「え、いやだって黒色ですよね?」
「黒にもたくさんの種類があるんだよ。この黒は私の為にレヴェリアが調色してくれたものなんだ」
「えぇ……」
リリルカは困惑した。
以前、彼女にもレヴェリアからマニキュアとペディキュアの一式が贈られており、その中には黒色もあった。
レヴェリア手製のものであり、リリルカの為に調色したものだ。
贈られた際、レヴェリアから色の説明を受けており、よく見れば確かに違うのだが、ぱっと見た感じではよく分からない。
ちなみにリリルカは淡い蜂蜜色のマニキュアとペディキュアを塗ってきた。
普段は塗らないのだが、せっかくだから塗っていこうと思った次第である。
蜂蜜色がよく似合うと思う、と渡された時、レヴェリアがオススメしてくれたこともあった。
ところで、こういった手製のプレゼントを節目には必ず、そうでない場合でも不定期にレヴェリアは弟子達に贈っている。
こういったプレゼントは団員達にも贈るのだが、そちらはフレイヤが行っている。
レヴェリアから贈られるよりもフレイヤから贈られた方が喜ぶ為だ。
他にも様々な福利厚生があり、普段やっていることがあまりにも物騒であることからオラリオワーストワンという称号が定着しているが、実のところ待遇面ではオラリオでもトップクラスに良い。
ともあれ、リリルカは察した。
たぶんレヴェリア様が黒いマニキュアとペディキュアが好きなんだろうな、と。
それならそうと言ってくれれば、それを塗ってあげなくもないのに、彼女は心の中で愚痴をこぼす。
リリルカがレヴェリアとそういう関係になったのは1年程前のことだ。
フレイヤからレヴェリアの手口に関しては聞いていた為、リリルカは警戒していた。
だが相手は女の尻を追いかけて約半世紀、百戦錬磨のレヴェリアである。
それとなく心を解きほぐし、難攻不落の城を攻めるかの如く着実に距離を詰めて、気づいた時にはもう遅かった。
しかし、レヴェリアとの関係をリリルカは秘匿している。
表に出ると確実にからかわれるからだ。特にヘイズあたりに。
フレイヤやアイシャあたりは察していそうだが、何も言ってこないので良しとしていた。
「リリは蜂蜜色なんだ。ふーん……」
「何ですか、ルノア様」
ジト目で見つめるリリルカに対して、けらけらとルノアは笑う。
以前まで彼女はそんな素振りはまったくなかったが、いつの間にかレヴェリアと懇ろな関係になっていた。
リリルカが理由をルノアに聞いたら、私のことをよく見てくれていて、色々と気遣ってくれているし云々と理由なのか惚気なのかよく分からないものが出てきた。
先日、水着を買いに行く際はリリルカやダフネと共にヘイズを筆頭とした盛り上がりまくる連中に呆れていたのだが、それはそれこれはこれである。
ともかく、ルノアが挙げた理由はリリルカにもよく分かるが、他にもあった。
甘えやすい環境や雰囲気をさり気なく整えてくれるので、ついつい甘えてしまうことだ。
「……ルノア様も黒いマニキュアではないんですね」
ルノアは淡いピンクのマニキュアをしていた。
すると微笑みながら彼女が答える。
「レヴェリアが私にはコレが一番似合うって言ってくれたからさ」
「とか何とか言ってますけど、ダフネ様はどう思います?」
「いや、ウチに話を振られても困るんだけど……」
眉毛をハの字にしながら、ダフネはそう答えた。
彼女の隣ではカサンドラがにへらと笑みを浮かべているかと思いきや、ダフネの目の前で人差し指をぐるぐる回し始めた。
「ダフネちゃんも、レヴェリア様のことが好きになーる好きになーる……」
「うっざ」
ダフネは一言で切り捨てつつ、カサンドラの頭を小突く。
小突かれたところを両手で抑えて撫でるカサンドラに対して、ダフネは溜息を吐く。
言えるわけがない。
とっくにレヴェリアとは懇ろな関係にあるなど。
この人なら何があっても護ってくれそう――
ダフネがその確信を抱いたのは随分前だ。
それから、レヴェリアのさりげないアプローチもあって、そういう関係に落ち着いた。
誰にも――それこそカサンドラにも伝えておらず、レヴェリアに対しても誰にも言わないように伝えている。
だが、フレイヤとアイシャなど一部にはバレていそうな気がしていた。
けれども、誰も何も言ってこないことから配慮してくれているのは間違いない。
それはさておき、ダフネはアスフィ達を見回す。
ダンジョン帰り、大抵皆一緒に入浴をするのだが、どいつもこいつもスタイルの良い連中ばかりである。
弟子達の中で――アミッドも含めて――もっとも小柄でかつ胸が小さいのはメルーナだ。
一時期、気にしていたものの今ではそれを唯一無二の武器としている。
ある時、ダンジョン篭もり終わりの打ち上げの最中、酔っ払った彼女が発した言葉があった。
『ここには爆乳も巨乳もありふれているからこそ、貧乳には希少価値がある』
その場に偶然居合わせた神々により、『貧乳宣言』として神々の間では密かに広められていた。
「……そういえば、リリも意外と胸が大きいよね」
「ふふん、ダフネ様には負けませんよ」
リリルカは胸を張ってみせる。
小人族だから小さいかと思いきや、メルーナが項垂れる程度にリリルカの胸は大きく、ダフネと同じ程度にはあった。
なお、メルーナは「くっ、この傷心をレヴェリア様に慰めてもらうしかない」と口実に使っていたので、タダでは転ばなかった。
一方、そのメルーナはというと――
「くっ……ここは敵ばかりだ……!」
悔しげな顔で彼女が右を見れば爆乳、左を見れば巨乳。
自分の胸を見れば、そこに山はなく足元がよく見えた。
「ふっ、だからこそ……私は唯一無二の存在だ」
一転してクールな表情となって呟いて、メルーナは中々に忙しい。
そんな彼女を生暖かい目で見つめるのは残るエルフ3人組――アウラ、フィルヴィス、レフィーヤだ。
今のメルーナに対して、下手に口を出すと大変なことになる。
「その胸、置いてけ!」と『妖怪胸置いてけ』が爆誕する為に。
ちなみに彼女のメインウェポンは長剣であるが、サブウェポンは手斧だ。
「この手斧はモンスターの首を狩る為ではなく、大きな胸を切り落とす為のものだ」などと宣いながら迫ってくるので、かなり怖い。
そんなおっかないメルーナから視線を外して、レフィーヤはアウラとフィルヴィスに話題を振る。
「レヴェリア様、凄い格好をしてきそうですよね」
「布面積が著しく少ない水着をお持ちらしい」
「フレイヤ様から聞いたことがあります。リヴェリア様が取り乱す程であったとか……」
レフィーヤもその話はフレイヤから聞いたことがあった。
十数年以上前のことらしいが、彼女はレヴェリアと一緒にその水着――マイクロビキニを着たらしかった。
レヴェリアと関係を深めていく中で、色々な意味で染まっているレフィーヤだが、さすがにそこまで冒険する勇気はなく、オーソドックスなビキニを着ていた。
アウラとフィルヴィスも同じく、デザインの違いこそあれど普通のビキニだ。
けれども、3人共レヴェリアが見たいと望むならば、そういう過激な水着を着てあげなくもないという感じである。
これまでもレヴェリアがコスプレを望んで、「レヴェリア様は本当に仕方がない御方なんですから……」と言いながら応じるパターンであった。
「にしても……フィルヴィスさん、また胸が少し大きくなっていませんか?」
「レフィーヤだって……」
ジト目でフィルヴィスの胸を見つめてレフィーヤが言えば、フィルヴィスからはそんな答えが返ってくる。
自然と2人はアウラへ視線をやると、彼女は軽く肩を竦めてみせる。
「私は判定役ではないんですが……どっちも若干大きくなっているような気がしなくもないですね」
「おい、私も大きくなったぞ。以前と比べて」
3人のやり取りを聞いていたメルーナが、するりと話題に入ってきた。
彼女もまたビキニであるのだが、3人と比べると胸部のあたりが大変慎ましやかであった。
「そうかもしれませんね……」
「ああ、そうだと思うぞ」
「ええ、きっとそうだと思います」
3人から生暖かい視線とともに返ってきた答えに、メルーナはにこりと笑った。
「その胸、置いてけぇえええ!」
叫びながら彼女は飛びかかったが、3人も慣れたものでひょいひょいっと避けていく。
「……早くも大騒ぎですね」
エルフ4人組のじゃれ合いを見ながら、アスフィは肩を竦めた。
紺色のビキニ姿で、麦わら帽子を被った彼女は視線をエルフ組からアミッドへ移す。
外部の弟子ということもあり、ディアンケヒト・ファミリアの団長となった今でも彼女はちょくちょくフレイヤ・ファミリアに出入りしている。
レヴェリアへの用事というのもあるが、
以前からレヴェリアが知識習得と技量向上を目的として不定期に研修を開催していたものだが、ここ最近は
しかし、
そこでレヴェリアはアミッドに講師役の依頼を出した。
他人への教授を通じて彼女自身の知識をより深めてもらおう、という狙いである。
それだけならばともかく、どうやら2人だけの勉強会を不定期にしているらしかった。
そこからレヴェリアが距離を縮めていったことは想像に難くない。
何よりもある時、アイシャがアミッドを見て、やたらとニヤニヤしていたのでそういうことなのだろう。
処女かどうかを判別できる、ステイタスにも表れていない謎特技をアイシャは持っている為に。
「アスフィさん、どうかしましたか?」
アスフィの視線に気がついたアミッドが声を掛けてきた。
彼女は白いビキニ姿で、その爪には薄銀色のマニキュアとペディキュアを塗っている。
「いえ、特にどうかしたというわけではないんですけど……」
そう答えるアスフィだが、アミッドは察する。
自分とレヴェリアの関係性について考えていたのだろう、と。
故に、アミッドはその疑問を解消すべく答えを告げる。
「……まあ、そういう関係です」
本人から言われて、アスフィは苦笑してしまう。
そんな彼女に対して、アミッドはおずおずと尋ねる。
「ところでアスフィさん……どうしてレヴェリア様にあれほどに強力な治癒魔法が発現しているか、予想はできていますか?」
「ええ、できています」
アスフィは即答した。
するとアミッドは「ですよね」と相槌を打った後、呆れた表情となって溜息を吐いて、その予想を口にする。
「変態行為を存分にやる為……絶対そうに違いありません」
何かを思い出したのか、彼女は頬を少し赤く染めていた。
そこには触れず、アスフィは先程気になっていたことを尋ねる。
「ところでアミッド、レヴェリア様と勉強会をしていると聞き及んでいますが……?」
「ああ、そちらは本当に勉強会ですよ」
「どういったことを?」
「事例研究が主ですね。テーマは既存の病や症例だけでなく、レヴェリア様が予想した未発見の病や症例に関するものもあります」
未発見の病や症例とは随分と物騒な単語であったが、それはアスフィの知的好奇心をくすぐった。
故に彼女は尋ねる。
「例えばどういったものですか?」
「そうですね……脳に存在する通常は無害な物資が何らかの要因で変異・沈着し、脳神経細胞の機能が障害されることで全身に様々な障害が出てきて、短期間で死に至る病とか……ディアンケヒト様に尋ねたところ、『そういう病によって、そういった事は十分起こり得る』と回答をいただいてます」
医療に関してはアスフィは専門外だが、アミッドの表情から察するにそういった病はまったくの予想外のものであったことが窺えた。
故に彼女はこれまで幾度となく言葉にしてきたことを、アミッドにも伝える。
「どういう思考をしたら、そんな事を思いつくのか……そういうことがレヴェリア様には多いですからね。私もよくあります」
「ええ、本当に。おかげで、新しい知見を多く得られています……ディアンケヒト様は
ディアンケヒトはレヴェリアとアミッドが
ビジネスチャンス到来とばかりに、彼は色んな儲け話を持ちかけようとしていたが、アミッドが全て阻止していた。
真っ当なモノならばともかく、アコギなモノばかりであったからだ。
レヴェリア様がそんなリスクを負うとでも?
絶対零度の視線でもってアミッドに見つめられながら、そのように拒絶されてはディアンケヒトも引っ込むしかなかった。
もっとも、だからといって諦める彼ではないのだが。
「まったく、旅行に来てまで小難しい話をしているんじゃないよ」
そこへアイシャが割り込んできた。
布面積が少ないマイクロビキニを着ている彼女だが、堂々としたものだ。
岩陰どころか浜辺でレヴェリアを誘惑して、おっぱじめようとする雰囲気が漂っていた。
「それはそうとアミッド、春姫を診てやってくれないか? あのスケベ狐、妄想で熱暴走を起こしちまったんだ」
「海水でも掛けてあげてください」
治療師にあるまじき言葉を掛けるアミッドだが、外部弟子とはいえこの面々とはそれなりに長い付き合いだ。
故に、こういった冗談もよく言ったりしている。
「アイシャさん……酷いです。あんな事を耳元で囁かれたら、誰だって……」
そこへ抗議の声を上げたのは春姫。
ビキニ姿の彼女は涙目になっているが、それによってアミッドとアスフィの視線がアイシャへ注がれる。
何を言ったんだお前――という追求の視線に対して、アイシャは素直に告げる。
「ここで押し倒されて後ろからガンガン突かれてみたくないかって言っただけさ」
「アウトでは?」
「アウトですね」
アミッドの問いかけに、アスフィは即答した。
やれやれ、とアイシャは肩を竦めてみせる。
「生娘でもあるまいし、いいじゃないか」
「そういう問題じゃありません!」
春姫は頬を膨らませて怒ってます、とアピールするがアイシャはけらけら笑う。
そこへアイズがティオネ、ティオナと共にやってきた。
「クロエ、知らない? いつの間にかいないんだけど……」
「そういえば見ていませんね」
「確かに。最初はいましたが……」
ティオネの問いかけに2人は揃って答えて、アイシャと春姫も互いに顔を見合わせた後、首を横に振った。
「クロエがレヴェリアを独り占めしている可能性があるから、調べに行かないと……」
「もしもそうだったら、クロエにはちょっとお話をする必要があるよねー」
ヤル気に満ちているアイズとティオナ。
それはないんじゃないか、とアスフィ達が思ったその時だった。
「「のわぁああああああああ」」
そんな叫び声と共に、空から2柱の男神が降ってきて砂浜に頭から突き刺さった。
送還されてもおかしくはなさそうだが、どうやら大丈夫そうだ。
ちらっと見えた男神達の顔は泥が塗られていたものの、見知った輩であることが分かった。
アスフィ達は呆れたり、溜息を吐いたりしていると――
「ニャフフフ……ミャーの目から逃れようなんて、100万年早いニャ」
そんな事を宣いながら、ビキニ姿のクロエが現れた。
彼女の手には紐付きの双眼鏡が2つ。
彼女の言動と手にある双眼鏡、男神2柱――それにより、一同はだいたいの事情を察した。
ここで時間は少し巻き戻る。
レヴェリアのプライベートビーチからそれなりに離れたところ――エリアとしてはパブリックビーチにあたる場所の岩場には2柱の男神がいた。
しかし、その格好はいつものものではない。
上下に着込んだ衣類と頭に被ったブーニーハットは青と黒の迷彩色。
顔には泥が塗られており、それぞれの手には双眼鏡があった。
緊張を解す為か、2柱揃ってガムを噛んでいた。
「エレボス、ガセじゃなかった……だろ?」
男神の片方――ヘルメスは神友であるエレボスにしたり顔で尋ねた。
すると彼もまた男臭い笑みを浮かべてみせる。
「ああ、本当だった。お前を疑った俺を許してくれ」
「勿論、許すさ」
目立たないよう偽装し、ゴツゴツとした岩場の上に伏せている2柱には重要な任務があった。
ヘルメスが掴んだ、レヴェリアが弟子達と共にメレンへ旅行に行くという情報。
即座に彼は動いた。
メレンのどこに向かうかを飲食料品の流れを調査することで特定し、その上でゼウスに報告、ついでエレボスに協力を要請したのだ。
エレボスには信憑性を疑われたが、
全てはレヴェリア達の水着姿――あわよくばエッチな光景を――その眼に、否、魂に焼き付ける為に。
なお、今この瞬間にもリアルタイムでゼウスの神室に置かれたディスプレイに映像と音声が中継されている。
ゼウスも現地で見たかったが、彼が動けばヘラに察知される。
それは何よりも避けたい為、涙を呑んでリモート参加と相成った。
中継の為に使用されている機材はレヴェリアが開発し、黒竜偵察で活躍したカメラとヘッドセットだ。
2柱はカメラをヘッドセットに取り付け、ブーニーハットの下に身に着けていた。
なお、通信機はゼウス側からの音声が入らないよう設定している。
彼が興奮して叫び散らかすと、それが原因で位置がバレる可能性があったからだ。
「光の反射に気をつけろ」
「分かっているとも」
エレボスの注意にそう返しながら、ヘルメスは双眼鏡を構えて覗き込む。
そこには砂浜にいるアスフィ達の姿がくっきり映っていた。
「まだレヴェリア様はいない。他の子達はいるぞ」
その言葉を聞いて、エレボスもまた光の反射に気をつけながら双眼鏡を構えて覗き込む。
「確かにいないな……だが、それでも素晴らしい光景だ」
「ああ、楽園はここにあった」
傍目からは特殊部隊隊員のような格好をした男神達が双眼鏡を覗いて、意味深なことを呟いているように見える。
だが、やっていることはただの覗きである。
「乳、尻、太腿……これこそまさしく三位一体だ」
「うなじ、腋、足先……くうぅ……ゼウス、見ているか? ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていなかったんだ……」
そんなことを呟きながら存分に堪能していた2柱だったが、そこでふと気がついた。
「……なぁ、ヘルメス。クロエちゃん、いなくない?」
「……いないな。さっきまでは確かにいたぞ。トイレかな?」
まあいいや、と2柱は砂浜の楽園を再度観察しようとしたその時だった。
「何をしているのかしら?」
その声が背後から聞こえた瞬間、ヘルメスとエレボスは双眼鏡をゆっくり下ろして互いに顔を見合わせた。
そして、恐る恐る後ろを振り返ると――そこにはクロエがいた。
「や、やっほー」
「今、俺達は……えっと、そうだ! 海岸から攻め寄せる敵軍を偵察する斥候ごっこをしていたんだよ!」
ヘルメスが引き攣った笑顔でもって、挨拶をしている間にエレボスは男神のやってみたいことランキング13位くらいにあったものを理由として述べる。
2柱ともそれを「やりたいか、やりたくないか」で問われれば「やりたい」と即答できるので、本当にやりたいことでもある。
木を隠すには森の中という下界のことわざに従い、エレボスは真の目的を隠した。
勿論、それが通用するかはまた別の話であるが。
「ふーん……そうなんだぁ」
嗜虐的な笑みを浮かべながら、クロエは2柱が持つ双眼鏡を素早く奪い取った。
元暗殺者としての手癖の悪さが発揮された瞬間である。
だが、ヘルメスもエレボスも慌てない。
にこやかな笑みを浮かべて、余裕のある態度を示す。
「クロエちゃん、オレ達は別に何かしていたわけじゃない。いやまあ、ごっこ遊びはしていたけどさ」
「ああ、そうだ。だからその、返してくれないか? わりと高いんだ、ソレ」
そう言ってきた2柱に対して、クロエは妖艶な笑みを浮かべて告げる。
「だーめ。代わりに良いものをあげるわ」
「良いもの?」
「それって……?」
2柱の問いかけに対して、クロエは一転して獰猛な笑みを浮かべて告げた。
「私に蹴られたって称号よ!」
神速でもって繰り出された、絶妙な手加減がされた蹴り2発。
2柱の身体を物凄い衝撃と痛みが襲い、気がついたら空を飛んでいた。
そして、為すすべもなく砂浜に頭から着弾したのである。
「何か怪しい視線を感じるなぁって行ってみたら、案の定だったニャ」
クロエは経緯を説明して、そう締めくくった。
「いや、結構な距離があったと思うんだけど……」
そう告げるヘルメスだが、彼もエレボスも顔以外全て地面に埋まっていた。
これはヘイズが提案したものだ。
とりあえず、埋めましょうかー。
顔だけ出しとけばおーけーおーけー。
そんな軽いノリであるが、誰も反対しなかった。
カメラ付きヘッドセットの存在にも気がついたが、ヘルメスとエレボスが涙を流して本気の全力懇願した為、没収は免れた。
無論、代償は大きい。
ヘルメス・ファミリアに迷惑料を請求しますから、とアスフィが告げた。
現在エレボスには眷族がおらず、ヘルメス・ファミリアに居候してヘルメスの仕事をバイトとして手伝っている。
故に請求先はヘルメス・ファミリアで問題ない。
これによってリディスと団員達がブチギレることは想像に難くない。
たとえ、この場から無傷で帰ったとしても、2柱はフルボッコにされる運命から逃れられそうになかった。
「昔取った杵柄ってやつニャ」
元暗殺者であるからこそ、普通の冒険者では気づかないような些細な違和感や視線、気配に敏感なのだろう――
クロエの答えに対して、ヘルメスとエレボスはそう理解した。
その時であった。
ヘルンが目をこれでもかと見開いて、ある方向を凝視した。
それに気がついて、アスフィ達も――次いでにヘルメスとエレボスもその方向へ顔を向けた。
そして、誰もが息を呑んだ。
そこにはレヴェリアが小脇に長い板状のものを持って立っていた。
だが、その水着はあまりにも過激であった。
アイシャよりももっと布面積が少ない、黒色の極小マイクロビキニをレヴェリアは着ていた。
※挿絵の水着よりも、実際はもっと際どい感じ
己の身体をこれでもかと見せつけている彼女に、真っ先に反応したのは男神2柱だ。
「ドスケベ女神だ……!」
「くっ……ドスケベ女神なんかに、俺は負けないっ……!」
そんなことを呟きながら目をくわっと見開いて、レヴェリアに視線を集中させていた2柱であったが、すぐに彼等の視界は真っ暗になった。
ヘルンが無言で大量の砂をダバーっと掛けた為に。
顔まで埋まったが、しかし彼等は諦めなかった。
顔をぶんぶん左右に振り回して、どうにかこうにか砂を退けた。
そんな彼等を横目に見ながら、レヴェリアはアスフィに尋ねる。
「それで、どうしてヘルメスとエレボスがいるんだ? いやまあ、理由は予想できるが一応聞いておきたい」
「覗いていましたので、クロエが捕まえてきました。それよりもレヴェリア様、その格好は……」
問いに答えつつ、アスフィはジト目でレヴェリアを見つめる。
「せっかく海に来たんだから、羽目を外したくてな。過激にしてみた」
「過激にしてみたって……その、目のやり場に困るんですが……」
視線を泳がせながら、そう告げるアスフィに対してレヴェリアはくすりと笑う。
「ヘイズ、お前はどう思う?」
「超最高です!」
親指を立てて、満面の笑みでヘイズは答えた。
そこへジト目のリリルカが口を開く。
「いや、ヘイズ様ならそうとしか言わないでしょうに」
「むむむ、リリ。私だってレヴェリア様を諌める時くらいあったりしますよー。例えば……うーん……あったかなぁ……」
「ほら、やっぱりないですよね」
そんな2人のやり取りを見ながら、ヘルンが提案する。
「レヴェリア様、とりあえずこの2柱をこの場から退去させたいのですが……?」
「ああ、そうしてくれ」
ヘルンの言葉にレヴェリアが肯定したその瞬間、エレボスは叫ぶ。
「待ってくれ! 実はレヴェリア様に聞きたいことがある! 真面目なことだ!」
「……一応聞いてやる。何だ?」
ジト目で尋ねたレヴェリアに対して、エレボスは真摯な表情でもって問いかける。
「『正義』とは?」
「それはあれか、『性義』とか『性技』とかの意味合いか?」
真面目な顔でレヴェリアは問い返した。
文字にしないと分からない類であるが、ニュアンスでその場の誰もが理解した。
レヴェリアの表情と雰囲気から、しょうもない小ボケではなく本気で聞いている可能性もある。
お前どうするんだ、と全員の視線が一瞬にしてエレボスに集中したが、彼も内心本気で悩む。
やべぇどうしよう、めちゃくちゃ聞きたい――
美の女神3柱とエロいことを同時にしているなど、そっち方面でのレヴェリアの逸話はいっぱいある。
そんな彼女が語る『性義』や『性技』は何だか物凄いものがありそうだ。
エレボスとしても好奇心が大いに刺激されたが、前々から聞きたかったモノを優先した。
「そっちもすっごく聞きたい……だが、まずはそっちじゃなくて『正義』の方だ。君にとっての『正義』とは何か?」
そう尋ねるエレボスに対して、ヘルメスはその横顔を見つめながら思う。
エロ話も絶対聞きたいだろうに、そちらを優先するのではなく以前から聞きたかったことを尋ねたエレボスに、ヘルメスは敬意を称した。
同時にレヴェリアがどう答えるか、好奇心がむくむくと湧き上がる。
ゼウス、見ているか――?
そう心の中で問いかけた。
一方、その頃ゼウスはというと――ヘラにズタボロにされていた。
憤怒の形相で折檻をしている彼女といいようにやられているゼウス。
そんな2柱を尻目に、神室に設置されている2台の大型ディスプレイの前には4柱の女神が座っていた。
その女神とはフレイヤ、イシュタル、アフロディーテ、ロキだ。
「ちょうどいいタイミングだったわね」
フレイヤの言葉に、3柱は揃って頷いてみせる。
今まさにエレボスが『正義』とは何か、とレヴェリアに問いかけたところだった。
事の発端は数時間前に遡る。
レヴェリアとアスフィ達が慰安旅行に行ってしまった為、暇なフレイヤはいつものようにデメテル・ファミリアのレストランへシルとして向かっていた。
その途中、半年程前に降臨していたヘスティアがバイトをしているジャガ丸くんの屋台を見つけた。
出勤時間まで余裕があったので、シルとしてフレイヤは挨拶をしにいった。
一目見て正体を見抜いたヘスティアは仰天したものの、フレイヤが下界で大きく変わったことはヘファイストスをはじめ、交友のある神々から聞いていた為、その場でフレイヤが軽く事情を説明して『下界の未知』ってスゴイということで終わった。
またフレイヤがヘスティアの近況を聞いたところ、降臨しても天界と変わらずヘファイストスのところに居候してぐうたらしていたら追い出され、どうせならばと彼女から孤児院を紹介されたという。
ヘスティアの性格的に放っておけないこともあり、孤児院の経営を手助けする為にバイトをしつつ子供達の世話をしているとのことだった。
そんな風に世間話をしていたら、ヘスティアからヘルメスとエレボスが変な格好をして開店直後にジャガ丸くんを買った話を聞く。
「これは勝利のジャガ丸くん――まさにヴィクトリージャガマールだ」、「浜辺に天使が集う楽園はあるのか、このジャガ丸くんはその答えを知っているかもしれない」などと2柱は変なことを言っていたという。
そこでフレイヤはピンときた。
面白いことの気配を察知した彼女はヘスティアと別れてデメテルに今日は休む旨を伝え、イシュタル、アフロディーテを誘い、ついでにその辺をぶらついていたロキも巻き込んでヘラ・ファミリアへ赴き、ヘラに事情を話してゼウス・ファミリアのホームへ突入。
神室の扉を開けたら、ゼウスが片方のディスプレイに目一杯近づいて、レヴェリアの水着を凝視していた――という顛末であった。
「にしても、エレボスめ。そんな状態で質問することじゃないだろう」
「せやなぁ。さすがにちょっと……いや、普通に引くわ」
「あとでお仕置きが必要ね」
イシュタルとロキの言葉に、アフロディーテが告げればフレイヤはウンウンと頷く。
ヘルメスもエレボスも顔だけ出して砂に埋まっている状態だ。
レヴェリアが彼等に視線を合わせるべく、座っているわけでもない為、必然的に彼等はレヴェリアを見上げる形となる。
男神達の視線がどこにあるか、それはレヴェリアの胸であり股間である。
しかし、そこに固定されているわけもなく、さり気なく太腿や足先などあちらこちらへ移っている。
それはともかく、4柱はレヴェリアがどう答えるか興味津々だ。
「ヘラ、頼む。レヴェリアちゃんの答えだけは聞かせてくれっ……!」
「……仕方がないな」
ゼウスのお願いに従い、ヘラも一時的に矛を収めるが扉を自身の背後に位置するように動いた。
その行動からは絶対に逃さないという強い意思が窺える。
彼女の動きにゼウスは震え上がりつつも、静かにレヴェリアの答えを待った。
『正義』とは何か。
その問いかけをされたが、レヴェリアは特に迷うことはなかった。
哲学的な話ではなく、エレボスはレヴェリア自身にとっての正義を尋ねていた為だ。
こんな状態でするような質問じゃないよな、とは思ったが。
かつて彼女はフィンに勇者とはどういう人物であるか、と問われた。
あの時の答えはレヴェリアが思っていたことであり、心がけていることでもある。
彼女は自身が勇者だとは欠片も思っていない。
けれども、己が大きな力と多彩な才能を持ち、それによって多大な利益を享受しているのは事実である。
だからこそ、誰よりも困難なことに挑むと決めていた。
「私にとっての『正義』とは掴み取るものだ」
「ほう……?」
端的に告げられた答えを聞き、エレボスは口角を上げた。
「例えばの話だが……1人を犠牲に世界を救うか、1人を救って世界を犠牲にするか、という状況があったとする」
レヴェリアの言葉に、エレボスは頷いて続きを促す。
「おそらくだが、大多数の者は前者を、極少数の者は後者を選ぶと思う」
「ああ、そうだろうな。大を救って小を切り捨てるか、あるいはその逆。
そう告げたエレボスは少しの間を置いて、問いかける。
「それで、君は
レヴェリアは不敵な笑みを浮かべてみせる。
「どうして私が、二択のどちらかを選んでやらないといけないんだ?」
そこで言葉を切り、レヴェリアは更に言葉を続ける。
「その二択を選ばされる状況そのものをぶち壊してやろう。私はとても我儘で欲張りでな。押し付けられた選択肢から選ぶのは好きじゃないんだ」
そして、レヴェリアはまっすぐにエレボスの瞳を見つめてきっぱりと告げる。
「たとえそのような状況になったとしても、夢物語のような幸せな結末を私は掴みに行くぞ」
その直後、エレボスは拍手しようと思ったができなかった。
当然だが、彼もヘルメスも顔以外砂に埋まっている為、物理的に無理である。
「くっ、俺はどうしてこんな状態で質問してしまったのか……!」
「いや、今更それを言うか……?」
嘆くエレボスに対して、レヴェリアがツッコミを入れた。
ともあれ、話が一段落したところでお帰り願おうかと彼女が思った時、ふとある出来事が脳裏を過った。
まさか、と思いつつ、尋ねてみることにした。
「ところでエレボス。以前、輝夜……いや、アストレア・ファミリアの面々に同じ質問をしたことはあるか?」
「ああ、あるよ。数年前だったかな。打ち上げの最中で、アストレアも含めて眷族全員が酒場にいるときだった」
エレボスの答えを聞いて、レヴェリアは納得する。
以前、輝夜が珍しく荒れていた時があり、
具体的にどういう質問か、またどう答えたかは教えてくれなかった。
「【大和竜胆】に聞いたのか?」
「ああ、そうだ。かなり嫌われたんじゃないか?」
神じゃなかったら、全力で斬りにいっていた――と据わった目で、輝夜は顔を真っ赤にして宣っていたことをレヴェリアは思い出しながら、そう尋ねた。
「鬼ってああいう状態なんだって、よく分かったぜ……」
当時を思い出して、エレボスは引き攣った笑みを浮かべてみせる。
当初、輝夜の答えた『正義』は壮絶な人生経験から導き出した『未練』と呼べるものであったが、それは偽りのもの。
闇派閥の脅威がほぼなく、穏やかなオラリオで面白おかしく過ごし、レヴェリアをはじめさまざまな人物と交流をするうちに変化していた。
輝夜の性格的に口に出すなど絶対にできない、小っ恥ずかしいものだ。
真の答えは『繋がるもの』。
リューの答えである『巡るもの』――ベルやアーディをはじめ、様々な人物と交流していくことで導き出した――とその意味は似通っている。
エレボスは彼女が心に秘めていたそれを見抜いて、告げたのだ。
アストレア・ファミリアの面々の前で。
そこからはもう大騒ぎだ。
アリーゼ達から良い意味でイジられまくる輝夜に対して、唯一リューだけは素晴らしいものだと素直に称賛した。
それがまた輝夜の羞恥心を煽りに煽ったのは言うまでもない。
エレボスとレヴェリアがそんなやり取りをしている時、ヘルメスはさり気なくアスフィ達の様子を見ていた。
レヴェリアの『正義』を図らずとも聞いたことは、大きな刺激を与えたようだ。
全員、覚悟ガン決まりって感じの顔しているなぁ。
これは紛うことなき
ヘルメスは心の中でそう呟いた時、レヴェリアが告げる。
「さて、話は終わった。ヘルン、ヘイズ。お二方がお帰りだ」
レヴェリアが言った瞬間、流れるように2人は動いた。
それぞれ2柱の背後に近寄って、砂浜に手を突っ込んで埋まっている両肩を引っ掴み、えいやーと大根の如くズボッと引っこ抜く。
ヘイズはにこにこ笑顔で、ヘルンは何の感情も浮かべていない顔であったが、両者共そこはかとなく不穏な気配を漂わせていた。
送迎の途中、ボコボコにされそうな雰囲気があった。
それも怖いが何よりも、レヴェリア達が水着姿でキャッキャウフフしている光景を拝みたかった。
「ま、待ってくれ! レヴェリア様! 給仕が必要じゃないかな!?」
「そ、そうだ! 俺、バーベキューとか得意だし!」
必死に懇願している2柱を横目で見ながら、ヘイズが尋ねる。
「レヴェリア様、どこまで送りますかー?」
「メレンの入口でいいだろう。くれぐれも丁重に扱うように」
レヴェリアが指示した直後、ヘイズとヘルンはそれぞれヘルメスとエレボスの首根っこを引っ掴んで、全力で走っていき――戻ってきた。
然程距離もない為、2人の身体能力を考慮すれば一瞬であった。
「行ってきましたー!」
「行ってきました」
「ありがとう。では、海を満喫するとしよう」
にこやかな笑みを浮かべ、2人を労いつつレヴェリアはそう告げたが――妖艶な笑みを浮かべたアイシャが告げる。
「レヴェリア、とりあえず一発ヤッとこう。さっきの話を聞いて、疼いちまった」
「アイシャ様! 何で脱ごうとしているんですか! いやまぁ水着的に全裸みたいなものですけど! とにかくエッチなのは駄目です! 禁止!」
すかさずリリルカがツッコミを入れたことで、アイシャはとりあえず脱ぐのはやめた。
不満げな顔を見せる彼女に対して、レヴェリアは微笑みながら告げる。
「そういうのも含めて、諸々のことは後回しだ。私は遊びたくてな」
「え、その格好で遊ぶんですか……? ポロリしちゃいますよ……?」
レヴェリアの言葉に、レフィーヤがおずおずと告げる。
上も下も大事なところはギリギリ見えていないが、ちょっとズレたら丸見えだ。
そう言いながらも、ポロリしてもそれはそれでいいかも、という思いが心の片隅にはあったが。
「大丈夫だ。ポロリしないように作ってあるからな」
「手製なんですか?」
続けられたレフィーヤの問いに、レヴェリアは頷いてみせる。
「どんなに激しく動いても絶対にズレない。実験済みだ」
えへん、と胸を張ってみせるレヴェリア。
長耳もピーンと立って誇らしげだ。
「うーん……個人的には、ポロリとするハプニングはあってもいいと思うんですけどー」
「ヘイズ、不敬よ」
「とか何とか言ってヘルンも見たいくせにー」
ヘイズの言葉に、ヘルンは無言で睨みつけた。
だが、睨まれた方はどこ吹く風だ。
そこへアイズがずっと気になっていたものについて尋ねる。
「ところでレヴェリア……その板、何?」
レヴェリアが小脇に抱えている板状のものをアイズが指さした。
すると彼女はニヤリと笑ってみせる。
「コレで遊んでいるところを見せよう」
そう告げてレヴェリアはそれを持ったまま海へ駆け出していった。
板状のもの――それはサーフボードであった。
その頃、ゼウス・ファミリアの神室は――意外にも静寂に包まれていた。
ヘルメスとエレボスがメレンの入口に投げ捨てられ、哀愁漂う光景が映っていたが、誰も気にしていない。
レヴェリアの語った正義、それを成し遂げてしまう者を神々は英雄と讃えるだろう。
そして、彼女ならば本当にやってしまいかねないとこの場にいる神々は確信していた。
「私ね、英雄になってほしいって昔、レヴェリアにお願いしたの。たしか、ご両親に挨拶した帰り道だったわ」
静寂を破ったのはフレイヤだった。
呟くように告げられた言葉に、誰もが耳を傾ける。
ご両親に挨拶というところには、ツッコミを入れたかったが我慢した。
「まだ黒竜は倒されていないし、ダンジョンも攻略されてはいないけど……私のお願いはもう叶っていたわ」
そう言って、にへらと笑みを浮かべてみせた。
正義を答えた時、レヴェリアの魂は黒竜に挑発してみせた時よりも強く、それこそ目が眩んでしまうほどの輝きを放っていた。
「レヴェリアちゃんは生やせる。実質的に男性じゃから今からでも儂のファミリアに入ってくれんかのぅ」
「あなた?」
「おっ、待てぃ。ヘラよ、エロ抜きのマジ話じゃぞ!?」
「ドアホウ。それならうちやろ」
「いいや、私だな。近所のお姉さんよりも愛人である私の方が強い」
「はぁ? 何を言っているのよ? 私に決まっているじゃない! 私はあの子の彼女よ!」
「ふふん、無理よ。諦めなさい」
わーわーと騒ぎ出す神々に対して、フレイヤはドヤ顔で告げるのだった。