楽し過ぎる――
レヴェリアは満面の笑みを浮かべて、波乗りに全力を費やしていた。
圧倒的な身体能力と体幹に物を言わせ、どんな波だろうが物ともせずに乗りこなしていく。
数年程前から彼女はサーフィンをやってみたいと密かに思っていたのだが、中々機会に恵まれず、今回満を持して実行した形だ。
海にもモンスターが存在することから、この世界においてマリンスポーツはあまり発展していない。
恩恵持ちならば対処は容易いが、世界全体で見れば恩恵を持っていない者の方が多い為だ。
そこにビジネスチャンスがある、とレヴェリアは確信しており、色々と片付いたら
「パイプライン、やってみたいな」
サーフボードの上に立ちながら、ふと欲望が零れ出る。
波が大きく巻き上がり、トンネル状になったところを通るものだ。
だが、海底の地形的に起きそうになかった。
「……適当な魔法を撃てば……」
いや駄目だ、環境破壊だとレヴェリアは自制する。
もっと高い波――それこそ数十M級のモノ――にも乗ってみたいなぁ、と思いつつ、ビーチから聞こえてくる声援に耳を傾ける。
一番聞こえてくるのはヘイズとヒリュテ姉妹の声――というか、彼女達の声が大きいかつ、大半の面々はデカい声で応援するような性格ではなかった。
レヴェリアがビーチに視線を向ければ、当たり前だが弟子達全員の視線を独り占めだ。
大変気分が良く、レヴェリアは承認欲求をいい感じに満たしつつ波乗りに勤しんだ。
レヴェリアの波乗りを見ながら、アスフィはレヴェリアが語った『正義』について考えていた。
それができれば苦労はしない、と思う一方で、レヴェリア様ならば本当にできそうだ、という思いもまた強い。
「アスフィさん、あなたはどう思いますか?」
横にいたアミッドが問いかけてきた。
何を、とは聞かずとも分かる。
レヴェリアの『正義』についてだ。
「それができれば苦労はしない、けれどレヴェリア様ならば本当にできそう……そう思いました」
「私もです。そもそもあの人自身が理不尽の塊ですし」
アミッドの言葉にアスフィは深く頷いて同意を示す。
神々もまた同じ見解であることは広く知られている。
神々曰く「下界のバグ」「下界の未知ってすげー!」「下界に生まれたドスケベ女神」とそういう扱いである。
「きっと、あの人がいなければ……世界は大きく異なっていたと思います。少なくとも、現状より良くなることは無かったでしょう」
アミッドの言葉に、アスフィは再び頷いた。
その事は弟子達の間で話題に出ており、その都度どうなるかを予想したことがある。
どれだけ考えても、頭を抱えるものしか出てこなかった。
そこでしばし会話が途切れ、レヴェリアが満面の笑みで波乗りをしている光景を揃って眺める。
ヘイズとヒリュテ姉妹の声が――それこそ声が一番デカいヤツが勝ちとかいう勝負でもしているのか、大変うるさい。
彼女達に負けるものか、とアイズも必死に応援しているのだが、3人の声がデカすぎてかき消されていた。
あまりのやかましさにヘルンが3人を素早く後ろからはっ倒す。
数秒だけ静かになったが、すぐさま起き上がった3人が手を組んでヘルンに抗議するが、意に介さない。
アスフィは勿論のこと、外部弟子であるアミッドにもこういうやり取りは見慣れたものだ。
「ところでアスフィさん、レヴェリア様が用意したモノってアレだけだと思いますか?」
「いや、絶対に他にも何か用意してあります。賭けてもいいです」
アミッドからの問いかけに、アスフィは即答した。
何事にも全力で取り組むレヴェリアであるからこそ、色々と用意してあるに違いない。
「実はちょっと楽しみです。レヴェリア様がやっている波乗りもやってみたいと思っていまして」
「意外ですね。あまりそういう事をやるイメージはないのですが」
「レヴェリア様の影響です。人生を楽しまないと良い仕事はできない、と教えられました」
そう答えて、アミッドは柔らかく微笑んだ。
1時間程、波乗りを楽しんだレヴェリアはビーチに戻った。
そこへ真っ先に飛びついてきたのはアイズだった。
「レヴェリア! 私もそれやりたい!」
「無論だ。そうくると思って、別荘にはこのサーフボードも含めて色々と用意してあるぞ」
目を輝かせて告げられた言葉に、レヴェリアは告げた。
この日の為、密かに作っては運び込んでいたものがあった。
自分がやりたいからというだけでなく、弟子達にもレジャーを楽しんでほしいという思いによるものだ。
ちょっと待っていてくれ、とレヴェリアは伝えるや否や、目にも留まらぬ速さで別荘まで戻って数々のレジャーグッズを持ってきた。
サーフボードやボディーボード、ビーチバレーの為のボールと器材、シュノーケルなどなど地球ではお馴染みのものであるが、この世界においては未知のものだ。
アイズだけでなく、他の面々もまた興味深そうにそれらを眺める中、レヴェリアは1つずつ説明していく。
そして、いざ実践となったのだが、一番人気なのはサーフィンだ。
レヴェリアがやっていたのを見て、気持ち良さそうあるいは楽しそうだから、というのがその理由である。
各自、遊びを楽しんでいる様子を見てレヴェリアは満足しつつ、昼の準備に取り掛かる。
やるのは勿論、バーベキューだ。
前日、別荘の大型冷蔵庫には大量の飲食料品が運び込まれており、必要な器材や飲食料品を輸送すべく彼女は別荘と砂浜をせっせこせっせこ往復する。
その動きに即座に気がついた面々が手伝おうとするが、レヴェリアは大丈夫である旨を告げて、そそくさと準備を整えた。
そして、全ての用意が整ったところで昼食となったのだが――
「……分かっていたけど、多すぎじゃない?」
思わずルノアがツッコミを入れた。
どどん、と並べられた飲食料品の数々。
この場にいるのは結構な大人数であるものの、明らかにそれ以上の人数を想定した量だ。
「レヴェリア様、食べ過ぎは見過ごせませんが?」
そう告げて、ジト目でレヴェリアを見つめるのはアミッドだ。
彼女もレヴェリアがたくさん食べることは知っているが、明らかに過大な量である。
慰安旅行のバーベキューは大食い大会ではないので、アミッドの指摘ももっともであった。
だが、そんな彼女に対してレヴェリアは答えた。
「肉や魚介類の取り合い……そんな不毛な争いはしたくないんだ」
それは切実な願いであった。
そして、さらに彼女は言葉を続ける。
「何よりも、こういう場での食事は普段よりたくさん食べたくなるものだ」
「そうですよー。それにたくさん食べても、あとで
レヴェリアの言葉を肯定して、さり気なくぶっこんでくるヘイズ。
先程までやっていたマリンスポーツのことにも、別のことであるようにも受け取れる。
だが、そこで食いつくような者はこの場にはいなかった。
ヘイズの性格的に、食いつけばからかってくることが分かりきっていた為だ。
けれども、それでも諦めないのが彼女である。
「……リリ、ここで何か言ったりしませんかー? いつもの如く、ほらツッコミを……さん、にぃ、いち、はいどうぞ」
「なーんでそんな見え透いた罠に引っかかりに行く必要があるんですか? ヘイズ様、絶対ナニを想像したのかってからかうつもりでしょう?」
「そうですけどー? お決まりのやり取りをしておかないとー」
「イヤです」
ヘイズのお願いに対して、リリルカは満面の笑みを浮かべて断った。
そんなやり取りを見ながら、アイシャが尋ねた。
「で、誰が焼くんだい?」
その言葉に待ってました、と言わんばかりに得意げな顔でレヴェリアが口を開こうとした瞬間――勢いよく手を上げたのはヘルンだ。
私がやります、と大きな胸を張っている。
そんな彼女に対して、レヴェリアが声を掛ける。
「あー、ヘルン……ここは私が」
「レヴェリア様、私にお任せください。レヴェリア様の好みの焼き加減、味付けその他全てを完璧に把握しておりますので、絶対に後悔はさせません。食材の声が聞こえるよう、副団長の下で鍛錬してきましたので」
一気に言い終えたヘルンに対して、レヴェリアは眼光鋭く尋ねる。
「ほう……食材の声が聞こえる、と?」
「はい。その他大勢はともかく、レヴェリア様の分は私に焼かせて頂きたく」
「ヘルン、その他大勢ってどーゆーことですかー? 私も
「その他大勢はその他大勢よ。というか、本音が漏れているわ。自分で焼きなさい」
ぴしゃりと告げたヘルンに対して、ぶーぶー、とヘイズは不満げな顔だ。
いつものやり取りだが、これでは前に進まないと判断したアスフィが提案する。
「レヴェリア様の分はヘルンが、私達の分はレヴェリア様が焼けばいいのでは?」
「そうしよう。ヘルン、それならばどうだろうか?」
「……私の焼いたものはレヴェリア様に食して頂ける。そして、私の分はレヴェリア様に焼いて頂ける……ということですか?」
「そういう事だ」
レヴェリアの肯定に対して、ヘルンは感激のあまり身体を震わせる。
心の中ではレヴェリアに対する思いが超長文となって唱えられていることだろう。
いつものことであるが、アスフィが呆れ顔で告げる。
「いい加減、始めましょう」
その一言で、バーベキューは始まった。
レヴェリアが予期して大量の食材を用意したことにより、肉や魚介類を巡って仁義無き争いは勃発することはなかった。
むしろ、食え食えもっと食えと焼いた肉や魚介類、野菜がレヴェリアによってアスフィ達はどんどこ皿に載せられて、美味いがもう食えねぇとギブアップする者が続出した。
ヘイズやアイズ、ティオネといったレヴェリアが焼いたんだから全部食べると覚悟を決めていた面々も最終的にはギブアップした。
レヴェリアの皿にもヘルンの手によって次々と載せられていくが、伊達にステーキの大食い大会で優勝を飾っておらず、載せられる傍から食していった。
そんなこんなでバーベキューの為に用意した食材は全て無くなり、レヴェリアも満腹となったところで各自のんびり過ごすことになった。
だが、そうはならなかった。
何故ならば、レヴェリアが日焼けをし始めたからだ。
「うっわ……」
ダフネは目の前の光景に思わず声を漏らした。
レヴェリアは現在、シートを敷いてうつ伏せで寝そべっている。
トップスが外されている為その大きな胸が押し潰されていた。
「……これ、誘ってんの?」
そう問いかけたティオネの視線はレヴェリアの背中から臀部を行ったり来たりしている。
無論、ベッドを共にしている彼女にとってはよく見ているし、感触も知っている。
それは他の面々も例外ではない。
だが、見飽きることがない美しさと艶めかしさがそこにはあった。
「ふふ、どうかな……ところで、誰かそこにあるオイルを塗ってくれると嬉しいな」
レヴェリアの言葉を聞いた瞬間、仁義無き争いが勃発した。
彼女から少し離れたところに置いてある小瓶。
ティオネが真っ先に手を伸ばしたが、それよりも早くヘイズが掴み、横からヘルンがぶん取ったところでアイズが掻っ攫った。
彼女は周囲を威嚇しつつ、奪われないよう注意深く小瓶を開けた。
手に垂らしながら、アイズは告げる。
「レヴェリア、塗っていくよ」
「ん、任せる」
レヴェリアの承諾を貰ったところで、アイズは意気揚々と背中からオイルを塗っていく。
そんなアイズを真横から見つめる赤い瞳。そう、ヘイズだ。
「じー。じー。じー」
あなたを見つめています、とこれでもかと主張するヘイズに対して、アイズは知らん顔をしてレヴェリアの背中からお尻、足と全体的にオイルを塗りたくる。
オイルを塗った手を動かす度にレヴェリアが小さく喘ぐ為、それが楽しくなってきていた。
「アイズ、そろそろ代わってくれませんかー?」
「ヤダ」
アイズが拒絶した瞬間、ヘイズは動いた。
素早く彼女の背後に周り、両脇に手を突っ込んでえいやーと抱えあげた。
レヴェリアから強制的に引き離されたが、それだけではアイズは捕まえておくことなど不可能だ。
だが、この場にいるのはヘイズだけではない。
「うりゃー! アイズー! 食らえー!」
「ちょっ、ティオナっやめてっ」
私も塗りたいなぁ、と眺めていたティオナが呼応して動き、アイズの足裏をくすぐりはじめた。
笑い声を盛大に上げるアイズを尻目にティオネがオイルの入った小瓶を拾い上げようとしたが、これをヘルンが阻止。
ドラゴンも逃げ出しそうな眼光でもって睨みつけるティオネであるが、ヘルンが引くわけもない。
再び仁義無き争いが勃発しかけたところで、アスフィが無慈悲に告げる。
「もうそれ以上、塗る必要はありませんね。塗りすぎです」
他人の背中にオイルを塗ったことは今回が初めてのアイズ。
故に加減が分かるわけもなく、たっぷり塗っていた。
ならば、とティオネが尋ねる。
「ねぇ、レヴェリア。あとで私にもオイルを塗ってくれない?」
「いいぞ」
即答したレヴェリアに、ティオネはほくそ笑む。
それを見て、すかさずティオナが続いた。
アイズは既に解放されていたものの、笑い過ぎて砂浜に倒れていた。
足裏をくすぐられすぎて変な性癖に目覚めたかもしれないが、レヴェリアが何とかするので問題ない。
「レヴェリア、私にもー!」
「勿論いいぞ」
その手があったか、とヒリュテ姉妹に続いて、他の面々も次々とレヴェリアに頼んでいく。
それを見ながら、アミッドが呟く。
「……この流れに逆らうのは良くありませんね」
「いや、別に逆らってもいいと思いますが」
アスフィのツッコミに対して、アミッドは首を傾げて尋ねる。
「では、あなたは頼まないのですか?」
「……そうは言っていません」
そんなやり取りをしながら、2人もレヴェリアに頼んだ。
彼女が断るわけもなく、ずらりとうつ伏せになった弟子達全員にオイルを順番に塗っていく。
第三者が見たならば、エロいというよりもシュールな光景が展開されることとなった。
ともあれ、そんなこんなで時間は穏やかに過ぎていった。