「本当にやれというのか?」
輝夜は苦々しい表情でもって、レヴェリアを見つめていた。
対する彼女はとても真剣な表情で頷いた。
昨夜、酒場でアンナの行方に関する情報を得たレヴェリアは、即座にアストレア・ファミリアの面々に伝えた。
翌日から交易所にて彼女達は聞き込みを開始し、アンナが『エルドラド・リゾート』の関係者が買い取ったという情報を得た。
それを基にアストレア・ファミリアのホームにて、レヴェリアも交えての作戦会議。
グラッドがアンナに手を出す前に救出しよう、という話になり、客として潜入するということになった。
潜入役はレヴェリアだ。
以前、カジノエリアに入る為の通行証――それもゴールドカードを――相手側が頭を下げながら、どうぞご贔屓に、と渡してきたのである。
エルフとは思えない俗っぽさがあるからこそ、客になってくれるかもしれないという期待をカジノ側が抱いた為だ。
しかし、レヴェリアだけ行かせるわけにはいかないと輝夜が主張した。
アンナだけでなく他の女達にもコイツは絶対に手を出すから、私が四六時中見張っていないと駄目だ――
それが本当の理由であるが、当然そんな事は言わなかった。
レヴェリアに任せきりにして借りを作りたくない、という感じの理由付けである。
残念ながら輝夜の真意は長い付き合いのアリーゼ達にはお見通しであった。
ともあれ、輝夜が付き添うことになり、善は急げということで決行は今夜に決まった。
そして作戦会議後、輝夜の私室で2人きりになったタイミングでレヴェリアがとある要望を出してきたのだ。
「一応、理由を聞いてやろう」
「そういうお前が見たい。似合うと思う」
真っ直ぐに伝えたレヴェリアに対して、輝夜は渋い顔をする。
変なこと――それこそ、密会場所の平屋でやっているような過激なコスプレを望んでいるわけでもないが、恥ずかしさはある。
輝夜は深く溜息を吐き、レヴェリアの頬を抓った。
「似合うって何だ、似合うって。お前の中で私はどういう女なんだ? ん?」
「お前に対する私の思いを聞きたいのか? ちょっと長くなるぞ……」
「いややっぱりやめろ。言うな。それは『ちょっと』ではすまない」
聞いている側が嬉しさと羞恥で赤面するようなことを真顔で言ってのける――それがレヴェリアである。
しかもそれが嘘や上辺だけのものではなく、本当にそう思っているのだからタチが悪い。
まったくコイツは、と思いつつ、輝夜は仕方なくやってやることにした。
レヴェリアの頬から手を離し、軽く咳払い。
「……
それっぽく言ってみて恥ずかしく、輝夜は頬を赤く染めて視線を逸らした。
対するレヴェリアは満面の笑みを浮かべて、両手の親指を立ててみせる。
やっぱり輝夜は超サイコー!
そんな意味合いであることは、輝夜にも容易に理解できた。
レヴェリアが彼女に要望したこと――それはカジノに付き添う際、一人称を『
その結果、お出しされたものはレヴェリアの想定よりも、遥かに良いものであった。
「このたわけ色ボケ変態ダークエロフめ、後で覚えていろ……」
恨みがましい目でレヴェリアを見ながら言うが、そもそも実行したのは輝夜である。
つまるところ、彼女は何だかんだでレヴェリアには甘かった。
ともあれ、恥ずかしさを誤魔化す為に輝夜はレヴェリアの足をガシガシと蹴りながら告げる。
「で、たわけ」
「ん?」
何気なく輝夜がたわけ呼びしているが、彼女なりの親愛の証であることをレヴェリアは察していた。
だが、続けられた彼女の言葉は、レヴェリアを終わりのない悩みのトンネルへと招き入れることになった。
「私が着るのはドレスか? それとも着物か?」
「うーーーーーん……」
悩ましげな声を上げて、レヴェリアはかつてないほど真剣な表情となった。
アホらしい、と輝夜は思いつつ、同時にそこまで真剣に考えてくれることに嬉しさもあった。
前者はともかく後者は絶対に口には出さないが。
「着物……いや、ドレス……でも、着物が……極東貴族令嬢だとやっぱり……いや、だが、ドレス姿も……」
これは長くなるやつだ、と輝夜は察した。
なので彼女は助け舟を出すことにする。
「ドレ着物……」
遂に合体させて意味のわからないものを作り出したレヴェリアに対して、輝夜は軽く溜息を吐いた。
そして、彼女の両頬に手を当てて、その黄金の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「決められないなら仕方がない。後日もう一回行ってやる。だから好きな方を選べ。この欲張りめ……」
「……今回はドレスで」
輝夜の言葉にレヴェリアはそう告げた。
その答えに頷いてみせた輝夜はニタリと笑みを浮かべた。
それは悪戯を思いついた顔だった。
「今宵、妾のドレス姿をその
そんな言葉を掛けられて、レヴェリアはムラムラっとしたが、ここはぐっと我慢した。
堪えている様子を見て、おや、と輝夜は内心首を傾げる。
珍しいこともあるもんだ、と思っていると、レヴェリアが告げた。
「お前のドレスを仕立てたい」
「……レンタルで良くないか?」
「いや、それでは駄目だ。お前にピッタリなものを私の手で生み出したい」
レヴェリアの譲らない態度に、輝夜は肩を竦めてみせるが頬が緩むのを止められない。
喜びを隠せない彼女に対して、レヴェリアはにこやかに微笑み、優しく抱きしめるのだった。
カジノエリアに通じる巨大アーチ門前。
着飾った富豪達が行き交う中、輝夜を除くアストレア・ファミリアの面々は警備という名目でここにやってきていた。
無論、ギルド及びガネーシャ・ファミリアにも話を通してあった。
今回カジノエリアの警備ということで、アリーゼ達はいつもの
事情を察し、同じく警備という名目でやってきていたシャクティに挨拶を済ませ、レヴェリアと輝夜がやってくるのを待っていた。
何気なく人混みを観察していたライラが、ある人物に気がついた。
「おい、リオン。お前の彼氏が柄の悪そうな男達と歩いてこっちに向かってくるぜ」
「ライラ、何をバカなことを言っている。ベルに限ってそんな事がある筈がない」
リューは即座に否定した。
ベルの容姿は人畜無害の少年にしか見えず、また性格も善良かつお人好しだ。
もしも彼が零細派閥所属であったならば悪い連中が喜んでカモにしようとするだろうが、彼はゼウスの眷族だ。
そして、彼の母と伯母はヘラ・ファミリアである。
ベル自身のランクアップ速度も相まって、そういった家族関係も広く知られており、彼をカモにすることは自殺志願と同義みたいなものだった。
彼氏であることは否定しないんだ、とからかったライラだけでなく、アリーゼ達も思ったが口にはしなかった。
リューが気づいていないだけである可能性が高く、指摘した途端、羞恥に顔を真っ赤に染めて叫び散らかして余計な注目を集めるのは間違いなかった。
「まぁまぁ、見てみろよ」
ライラが指し示した方向に、言われた通りにリューは視線を向けて目を大きく見開いた。
そこには燕尾服を着た――否、服に着られているベルがいた。
彼の傍には3人の男達。
彼等も燕尾服を着ているが、絶望的に似合っていない。
その風体から冒険者かあるいはゴロツキのどっちかだ。
ベルは苦笑しているが、男達は機嫌良く笑っている。
リューの眦が吊り上がった。
こりゃ突撃するなぁ、と話を振ったライラだけでなく、アリーゼ達も確信した。
その瞬間、リューは足早に歩いていって、ベル達の目の前に立ちはだかった。
ベルは突然現れた愛しい人――それもドレス姿で――に目を白黒させた。
綺麗という感想が真っ先に頭に思い浮かんだが、リューの形相がその言葉を発するのを許さなかった。
怒りの形相――怒った顔も綺麗だな、と場違いな感想が今度は浮かんできたが、口に出すのをぐっと堪えた。
そして、彼は当たり障りのない質問を投げかけた。
「リューさん、どうしてここに?」
「ベル、それはこちらのセリフです。まあ、だいたい想像はつきますが……」
ゴロツキらしき者達――モルド達をジロリと睨みつける。
彼女の眼力と迫力に気圧され、沈黙を余儀なくされたがそこでベルが告げた。
「待って下さい、リューさん。モルドさん達は何も悪くないんです」
「一応、理由を聞きましょう」
モルド達が問答無用でリューに叩きのめされる展開をひとまず回避した、とベルは安堵した。
しかしながら、言葉選びを間違えればその瞬間にアウトである。
ベルは深呼吸をした後、リューの瞳を真っ直ぐに見つめて告げる。
「仲良くなった、というか知り合うきっかけとなったのは……言い方は悪いんですが、モルドさん達から絡んできたんです。僕のランクアップが速くて嫉妬したとかで……」
「それは本当か?」
リューの問いかけがモルドに向けられた。
すると彼は頷いてみせ、口を開く。
「本当だ。だが、その時、ベルがどうやってランクアップしたのかを知ったんだ。その場に居合わせた神々に聞いたら嘘をついてないって言ってな。連中も驚いてた」
その言葉にリューは予想がついた。
聞いた当初、そこまでやるのかと彼女ですら驚愕したものだ。
ベルは素直な性格である。
モルド達がどうすればランクアップできるんだ、とニヤニヤと笑いながら絡みにいったら、素直に答えたのだろう。
ゼウスやヘラの先達と死にかけるまで戦い続けたり、モンスターの群れに放り込まれたり、階層主と1人で戦わされたり――
予想外の答えにモルド達がドン引きしたのは容易に想像ができた。
「でまあ、どうにも放っておけなくなっちまってな。時々飯を奢ったり、俺達の鍛錬に付き合ってもらったりと……」
続けられたモルドの言葉に、リューは頷いてみせる。
「事情は分かりました。ですが、どうしてここに? ちなみに、私達はカジノエリアの警備です」
自分達がいる理由を伝えつつ、リューは尋ねた。
やましいことは絶対見逃さない、と空色の瞳でもってじぃっとベルを見つめながら。
「モルドさん達が労ってやるって誘ってくれたんです。それで、父さんに話したら、これも良い経験だからって……勿論、ゼウス様にも伝えてあります」
「ふむ……そういうことでしたか。威圧してしまい、申し訳ない」
合点がいったリューはベルとモルド達に軽く頭を下げてみせる。
「分かってくれたなら別にいいぜ」
「そ、そうです。リューさん、頭を上げてください」
「……ありがとうございます」
リューが頭を上げたところで、あることを思いついたモルドはニヤリと笑みを浮かべた。
他の2人も同じことを考えたのか、それぞれ同じような笑みを浮かべる。
彼等はベルとリューがどういう関係にあるか、知っていた。
2人がデートをしている場面を目撃したこともあるくらいだ。
「あー、ベル。悪いが、俺達は別行動にする。お前もゴールドカードは持っているんだよな?」
「あ、はい。ゼウス・ファミリアは全員に配布されているみたいで……」
カジノに誘われたことを父に話した後、ゼウスにも伝えるよう言われた。
そして、話したら「ベルの分じゃ」と渡してきた。
長年、ゼウス本神もその眷族達もカジノで遊んできたという経歴があり、新しい顧客――それも下手な富豪よりも収入がある――を得る為のカジノ側の施策であった。
なお、他の三派閥には――個々人はともかく、派閥全体に対して――カジノ側はやっていない為、あくまでゼウス・ファミリア限定の特典といえるだろう。
無論、大っぴらにはしていない為、入団しなければ分からないのだが。
「なら問題ないな。上手くやれよ、ベル。よし、お前ら行くぞー!」
モルドはそう言って親指を立ててみせ、他の2人と共に駆け足で『エルドラド・リゾート』に向かっていった。
残されたベルとリューは互いに顔を見合わせた。
「……私は警備なのですが」
「あははは……」
申し訳なさそうな表情で改めて告げたリューに、ベルが苦笑した時だった。
「話は聞かせてもらったわ! リオン、あなたにはベルと一緒に『エルドラド・リゾート』に入ってほしいの!」
颯爽と現れたのはアリーゼであった。
当然ながら、彼女も他の団員達も一連のやり取りは見ていた。
コレは末っ子にデートさせにゃならんな、という意見で一致したのだ。
「しかし、アリーゼ……」
「いいのいいの! 意外とチョロい輝夜がレヴェリア様が悪ノリした時、止められるか心配だし!」
渋い顔をして口ではアレコレ言っても、結局止めない輝夜の姿を、リューは容易に想像できてしまった。
「あとシャクティ達もいるから外の警備は問題ないわ。手薄な内側を見てほしいの。何かあったら真っ先に駆けつけられるようにね」
そう言ってアリーゼはウィンクしてみせた。
その言葉を聞いて、リューはおずおずとベルに尋ねる。
「ベル……どうでしょうか?」
「是非、お願いします!」
リューの問いかけに、ベルは食い気味に答えた。
あまりの勢いに彼女は目を白黒させるが、彼は止まらない。
先程から言いたくても我慢していたことを彼女に伝える。
「ドレス、すっごく似合っていて……リューさんはいつも綺麗ですが、今日はもっと綺麗です! どうか、僕と一緒にカジノに行ってください!」
利き手を差し出して、ベルは思いっきり頭を下げた。
彼の言葉を聞いて、リューは顔を真っ赤に染めた。
嬉しさと恥ずかしさで胸がいっぱいになりながらも、しっかりと答えを告げる。
ゆっくりと手を伸ばし、彼の手を握った。
「……喜んで」
その答えを聞いて、ベルは顔を上げた。
満面の笑みを浮かべている彼に、リューは照れ笑い。
しかし、これで終わるわけがなかった。
末っ子の成長ぶりにアリーゼ達が舞い上がらないわけがなく。
「リオン、あなたの手を握れる男の子なんてベルしかいないんだから絶対逃がしちゃ駄目よ!」
「アストレア様も連れてくれば良かったな。リオンの晴れ舞台だ」
アリーゼやライラをはじめ、好き勝手なことを言い始める団員達。
恥ずかしさを誤魔化すように、リューが口を開こうとしたその時だった。
1台の豪奢な装飾の施された箱馬車が一同の近くで止まった。
何気なくベル達が視線を向けると、扉が開いて降りてきた人物達に目を疑った。
黒いボンブルグ・ハット、黒いサングラス、黒いスーツと全身黒ずくめの装いをした2人の女性。
片方は猫人、片方はヒューマンであり、ベルとアリーゼ達も見知った相手だ。
「……え? クロエさんとルノアさん……?」
思わずベルが2人の名を呟いたが、彼女達は答えず馬車扉の左右に立った。
その振る舞いは護衛であるかのようだ。
そして、次に降りてきた人物にベルとアリーゼ達は息を呑んだ。
金色の長髪をポニーテールにした、等級の高い燕尾服を身に纏ったレヴェリアであった。
男装の麗人という言葉がピッタリな姿だ。
その美しさに通行人の誰もが足を止めて見惚れる中、レヴェリアは地面に降り立つと利き手を馬車の中へ差し出した。
その手を掴み、ゆっくりと馬車の中から姿を現したのは――
「……輝夜……なのか?」
呟くように問いかけたのはリューだった。
レヴェリアと輝夜が客として潜入する、と決まっていたから目の前にいるのは輝夜である。
しかし、服装や雰囲気が普段と違うことも相まって、どうにも自信が無かった。
「すっごく綺麗よ! 輝夜! まるでどこかの国のお姫様みたい!」
「いやマジでうちの副団長様とは思えねぇ……」
アリーゼ、ライラをきっかけに他の団員達も口々に感想を述べる。
羞恥のあまり輝夜は顔を背けた。
肩と背中は剥き出しで、胸元も大きく開いている真紅のイブニングドレス。
頭には貝殻の髪飾り、首元には小粒であるが高品質のルビーが中央についている黒いチョーカー、両手には黒いドレスグローブ。
そして、レヴェリアの手を掴んでいる手とは反対の手には、扇子を畳んで持っていた。
恥ずかしさを堪えて、輝夜は地面に降り立つと扇子を開いてみせた。
黒地にオラリオでは見たことがない赤い花――曼殊沙華――が描かれている。
そして、扇子で口元を隠しながら彼女は告げた。
「待たせたな。少々、問題が起きてな」
チラリと視線を向けるのはクロエとルノアの2人だ。
2人は箱馬車から大きなトランクを4つ、降ろしたところだった。
「レヴェリア様がどうしてもって言うから、仕方がなく荷物持ちとしてついてきたニャ」
「違うでしょ。カジノに行くって聞いて、アンタがレヴェリアに土下座してお願いしたからじゃない」
溜息混じりに告げたクロエに対して、即座にルノアが真実を話した。
レヴェリアが自身の工房でドレスを仕立てていた時、どこで話を聞いたのか、やってきたのがクロエであり、彼女を止めようとしてついてきたのがルノアだった。
「情報源は明かせねぇニャ」という前置きをした上でクロエは、見事な土下座を披露した。
ミャーをカジノに連れて行って――
クロエ・ロロ、一世一代のお願いである。
彼女の収入を考えれば、いつでも自分で行けるのだがそれでは駄目だった。
レヴェリアと一緒に行きたかった。
何故ならば、全て奢ってくれるからだ。
人のカネでギャンブルがしたい――そんな彼女の欲が透けて見えていたが、レヴェリアからすればそこもまたクロエの魅力であり、可愛いところだ。
ちなみに、輝夜もその場にはいた。
出来上がったらアストレア・ファミリアのホームに持っていく、とレヴェリアは伝えたのだが、一緒にいた方がすぐに試着できるから合理的だろう、と輝夜は答えて、作業を見守っていた為だ。
彼女は呆れた顔でクロエを見ていたが、同行を許可した。
客として赴く以上大量の金貨を持っていく必要があることから荷物持ちとして連れて行きたい、というレヴェリアの提案に応じた形だ。
ルノアは荷物持ち兼クロエが万が一暴走した際、ぶん殴って止める役目である。
「ところでベル、お前はどうしてここに?」
話が一段落したところで、レヴェリアは尋ねた。
すると彼は事情を説明し、それを聞いて彼女は納得する。
そして、にこりと笑って告げた。
「小遣いを渡そう」
「え、いいよ! 僕も持ってきたから!」
「いいからいいから」
そう言いながら、レヴェリアは懐から小袋を取り出してそれをそのままベルに渡した。
ぎっしりと金貨が詰まっているのが丸分かりだ。
恐る恐る中身を見てみれば100万は確実にありそうだった。
「こ、こんなに貰えないよ! それにレヴェリアさん達の軍資金が……」
「ん? 軍資金はあっちだ」
レヴェリアはそう言って、4つのトランクを指さした。
ベルもアリーゼ達も思わずそのトランク達を見つめる。
「……レヴェリア様、いくら持ってきたの?」
「とりあえず4億程」
問いかけたアリーゼに対して、さらりと答えたレヴェリア。
聞き間違いかと思い、アリーゼは輝夜へ視線を向けたが彼女は軽く溜息を吐いた後、頷いてみせる。
改めてレヴェリアのヤバさが分かったところで、輝夜がおもむろに告げた。
「それから、カジノに入ったらちょっとした演技をする。そこの色ボケがどうしてもと頼んできたから、仕方がなくやるのであって私の本意でないからな」
「スゴイ予防線を張ってくるけど、分かったわ! すっごくじっくり見ておくけど、見ていなかったってことにするわ!」
「よしきた。あとでイジってやるからな」
輝夜の言葉にそう答えてバチコーンとウィンクをしたアリーゼ、ニヤニヤと笑うライラ。
他の団員達も似たような反応であるが、輝夜からすれば騒がれるよりはマシであった。
話が一段落したところでレヴェリアと輝夜が先行して向かい、やや遅れてベルとリューがアーチ門へ向かった。
アリーゼ達も警備として臨時発行された通行証がある為、4人が入るのを見届けたところでアーチ門へ向かおうとした。
しかし、その時、彼女達の真横に箱馬車が止まった。
はて、誰だろうと思ってアリーゼ達が怪訝な顔をしていると、扉が開かれて出てきたのは予想外の人物達だった。
「ヘルンさんとシルさん!? どうしてここに!?」
長い髪をポニーテールにした燕尾服姿のヘルン、イブニングドレス姿のシルが箱馬車から降りてきた。
ヘルンの男装姿もシルのドレス姿もよく似合っており、通行人達――特に男性からの視線が集中する。
その中には男神も多く、彼等はいつものように好き勝手言い始めた。
「レヴェリア様もそうだけど、ヘルンちゃんもあの胸と尻のデカさで男装は無理があるでしょ」
「だが、それでも男装しているのが良い。そこらのイケメンよりも圧倒的イケメンだわ」
「顔面偏差値の高さで圧倒していくスタイル、大好き」
「俺は新しい扉を開いたぞーーー!」
「開くな閉じろ。その先はメスオチだぞ」
「メスオチするが良し!」
「どっちも極上の雌の身体つきの癖に、雄に擬態しやがって……」
「つか、輝夜ちゃんも超綺麗だったよな」
「分かる。いつも着物姿だけど、ドレスもイイよね」
「気が強い女の子は本当に尻が弱いのか? その謎を解き明かす為、俺達はダンジョンの奥地に向かうことはできないが、カジノに向かうことはできる」
「【大和竜胆】の腋、チラッと見えたが……あれは天の法典に反するような気がするエッチさだった」
「分かる。程よく汗ばんだ腋をペロペロしたい」
「綺麗に処理していて無毛なのがなぁ……ジャングルで汗ベタベタの方が興奮するだろ?」
「男なら『どっち』でも、だろ?」
「丸出しの肩、背中……良いよねぇ……」
「ここまで誰も輝夜ちゃんのおっぱいに言及なしとは……お前達の目は節穴か!?」
「くっそ、神の股間をイライラさせやがって……! 許さねぇ……!」
イライラするし許さないのはこっちだ、と言わんばかりにヘルンが殺意マシマシで睨みつければ、男神達だけでなく他の通行人達も恐れをなして足早に去っていった。
うるさい連中がいなくなったところで、アリーゼの疑問にシルがにこりと微笑んでみせる。
「前々からカジノに行ってみたかったんですけど、レヴェリアさんがまったく誘ってくれなかったので……ヘルンさんにお願いしちゃいました」
「シルさんに頼まれたので、私がエスコートを」
笑っているのに、何だか怒っている――否、拗ねているように見えるシル。
対するヘルンは無表情を貫こうとしているものの、頬が若干緩んでいる。
ベルといい、シルといい、偶然が重なるものだ、とアリーゼ達は思ったものの、前者はともかく後者はそうではない。
今日もいつも通りにデメテル・ファミリアでバイトをしていた
そんな彼女に会って、目の保養ついでに昼食を済ませようとやってきたヘルメスが雑談の中で言ったのだ。
そういえば、レヴェリア様が生地を抱えて輝夜ちゃんとフレイヤ・ファミリアのホームへ向かっているのを見た――
自分に内緒で何か面白そうなことをしようとしている――シルはそう考えて、その場でヘルメスに調査を依頼。
面白そうだったので彼は快諾。
それからシルはデメテルに頼んでバイトを早退させてもらい、自らも調査を開始した。
レヴェリアのところに乗り込めば話は早かったが、そうはしなかった。
探偵みたいに情報を集めて、レヴェリアを追い詰めた方が面白そうと思った為だ。
調査の結果、今夜『エルドラド・リゾート』に行くことが判明し、通行証なども含めてヘルメスが揃えた。
途中、クロエにバレたが口止め料として提案をした。
レヴェリアの荷物持ちとしてついていけば奢ってもらえるかも、と。
クロエはその提案に乗って、レヴェリアのところに突撃したがシルのことはバラさなかった。
ともあれ今回、フレイヤがエスコート役に任命したのはヘルンだ。
諸々のことを考慮して決定したのだが、一番大きな理由は男装が似合いそうで、見てみたかったというものであった。
ヘルンが狂喜乱舞したのは言うまでもない。
「それじゃあ、行ってきます。せっかくなのでヘルンさん、手を繋ぎましょう」
「シルさ……ま……さん、あ、柔らかい……」
シルはヘルンの手を握り、ぐいぐいと引っ張る形でアーチ門へ向かっていった。
「……今、ヘルンのヤツ、シル様って言ったよな?」
「うーーーん……前々から思っていたんだけど、ヘルンさんとシルさんって何か秘密がありそうなのよね。エッチなヤツじゃなくて、もっとこう……何かスゴイヤツ」
「何だそりゃ? ともかく、作戦開始だ。アタシらも行くぞ」
首を傾げるアリーゼであったが、ライラの言葉に頷いてみせる。
そして、彼女達もまたアーチ門へ向かうのだった。