レフィーヤの案内により、ルーク達が辿り着いたのはオラリオの南方、繁華街の一角にある四方を高い壁に囲まれた場所であった。
「レフィーヤ先輩、ここって……?」
「入ってみれば分かりますから。着いてきてくださいね」
ナノの問いかけに、レフィーヤはにこにこ笑顔で答えて通用門へ向かう。
ルーク達も彼女に従い、通用門から中に入った。
そして、そこに広がっていた光景に絶句する。
ヒューマンが、獣人が、アマゾネスが、エルフが、小人族が――老若男女問わず、殺し合っていた。
手足が千切れたり、臓物が零れ落ちたりしているが、黄金の光によってたちまち癒し尽くされた。
元から傷など無かったと言わんばかりに、彼等彼女等は殺し合いを続行する。
終わりなき闘争の原野――
ここがどこであるか、ルーク達は確信した。
そんな彼等に対して、レフィーヤはにこやかな笑みを浮かべて告げる。
「ようこそ、フレイヤ・ファミリアへ」
「ようこそ、じゃないですよ。何をやっているんですか、レフィーヤ……」
レフィーヤに対して、横から声を掛けた人物がいた。
そちらへレフィーヤも含め全員が視線を向ければ、そこにいたのはジト目のアスフィだった。
ダンジョンから帰ってきた直後の彼女はルーク達を見て、さらに問いかける。
「
「いえ、違います。実は……」
レフィーヤが理由を説明しようとした時だった。
「おやおやおやー?」
そこへやってきたのはヘイズだった。
ちょうどいい、とばかりにレフィーヤは事情を説明する。
「アスフィさん、ヘイズさん、実は『学区』の後輩達に教導をすることになりまして……」
そう前置きしてレフィーヤが事情を説明を始めた。
それを聞いて、アスフィは尋ねる。
「いきなりうちの『洗礼』はハードルが高すぎませんか? あなたの時もいきなりはなかったと思いますが……」
「すぐに『洗礼』に参加させるつもりはありません。ルーク達の実力を確認し、その上で幾つか段階を踏んでいくつもりです。ここなら、『学区』の演習場よりも広いですし……」
そこでレフィーヤは一度言葉を切り、レヴェリアにも事情を説明した上で許可を貰っていることを伝える。
「なるほど……それならば問題ないでしょう」
アスフィは納得して頷いてみせた。
そこへヘイズがからかい混じりに告げる。
「レフィーヤも成長しましたねー。あわあわしていた頃が懐かしいですー」
「もうー! ヘイズさん!」
むーっと頬を膨らませてみせるレフィーヤに対して、ヘイズはけらけら笑う。
「レフィーヤがいるから大丈夫だと思いますけど、もし死にそうになったら教えてくださいねー。治してあげますからー」
そう言って手をひらひらさせて、ヘイズは戻っていった。
「では、私もこれで……
アスフィはルーク達にそう告げて、屋敷へ向かっていった。
一方、ルーク達は驚きの連続であった。
原野の光景、そこへ思いも寄らぬ人物達の登場、おまけにアスフィからは
そんなルーク達にレフィーヤは告げる。
「さて、まずは皆さんの力を見せてもらいます」
「見せるってどうやって?」
「私と戦ってもらいます。全力できてくださいね」
ルークの問いかけに対して、レフィーヤはにこりと笑顔で告げた。
その笑顔がやたらと恐ろしく見えたルーク達であったが、それは正しかった。
「も、もう無理ぃ……疲れたぁ……」
ナノはベタッと机に突っ伏した。
ミリーリアやコールも同じようにぐでっとしており、小隊長のルークは唯一、そのような有様になってはいなかったものの、そうしていないのは単なる痩せ我慢だった。
傷はおろか肉体的な疲労すらもないが、精神的には疲労困憊だ。
夜空に星々の輝きが見える中、第7小隊の面々はようやく『学区』に戻ってきていた。
「あれだけのことを毎日していれば、イヤでも強くなりますね……」
コールの言葉に、今日あったことが各々の脳裏を駆け巡っていく。
レフィーヤとの模擬戦はまだ常識の範疇にあった。
彼女が細心の注意を払い、第7小隊の面々がギリギリ対応できる程度の動きに抑えていたことや魔法を使用しなかったこともあり、充実していた。
だが、そこからがおかしかった。
「今日のことは得難い経験ではありますけれど……」
ミリーリアは言葉を濁す。
彼女が何を言いたいか、他の3人もよく分かった。
模擬戦の最中、レフィーヤの姉弟子達がちょこちょこやってきて、面白そうだからとか私もやってみたいとかそんな理由で参戦してきたのである。
色んな相手と戦うのも勉強です、とレフィーヤはにこにこ笑顔。
悪意は一切なく善意そのものであり、特にルークの強くなりたいという思いを汲んだ形だ。
しかしながら、そこはフレイヤ・ファミリア。
万年オラリオワーストワンの称号は伊達ではなく、僅か数時間で生と死の狭間を数え切れないくらいに反復横跳びした。
アイズを筆頭とした錚々たる面々により、ルーク達はボコボコにされた。
アイズ達もかなりの手加減をしていたのだが、あいにくとレフィーヤ程手加減が上手くはなかった。
死の側に留まらなかったのは、レフィーヤのブッ飛んだ召喚魔法【エルフ・リング】のおかげである。
彼女がレヴェリアの治癒魔法を召喚することで、ルーク達は瀕死であっても癒し尽くされたのだ。
ルークがぽつりと呟いた。
「どうして治療師が、あんなに強いんだ……」
おどおどとしていて、見た目も雰囲気も戦闘など全然できそうにないカサンドラ。
本業は治療師で戦闘は必要最低限のことしかできないと言っていたが、1対1ではルークですらボコボコにされてしまい、小隊で戦うことでようやく勝利を収めることができた。
そして、その勝利も完勝ではなく辛勝であった。
私も昔、
だが、悪いことばかりではなかった。
オラリオトップクラスの実力者達と戦い、その強さを肌身で感じられたことはミリーリアが言う通り、得難い経験であった。
またレフィーヤの勧めで夕食もフレイヤ・ファミリアで食べたのだが、これがまた絶品だった。
ルークやコールは勿論のこと、ミリーリアやナノもいつもより多めに食べてしまう程であり、さらに食事の席ではレフィーヤだけでなく、多くの団員達から様々な話を聞くことができた。
フレイヤ・ファミリアの団員達は多くが
「……明日は、どうするの?」
ナノが問いかけた。
何を、とは聞かずとも分かる。
望めば、レフィーヤは明日もフレイヤ・ファミリアに連れて行ってくれるだろう。
諦めなければ最速で強くなれる――その言葉が頭を過ぎる中、小隊長であるルークにナノ達の視線が集まった。
そもそも彼自身、誰かを助けたいという思いから強くなりたいのであって、レヴェリアを超えたいだとか、黒竜を討伐したいであったり、英雄になりたい、あるいは単純に戦うのが楽しいだとか、そういう理由ではない。
とはいえ、フレイヤ・ファミリアは思っていたよりもマトモであり、また雰囲気も良かったので
だが、第7小隊としてどうか、と問われると即断はできない。
「レフィーヤ先輩に相談しようと思う。我武者羅に強くなるならフレイヤ・ファミリア一択だが……道はそれだけじゃない筈だ」
ルークの言葉にナノはあからさまに安堵してみせる。
彼女の性格的にフレイヤ・ファミリアはしんどかった。
団員は一部怖そうな不良っぽい人もいたものの、全体的に気さくで優しかった。
しかし、強くなることに関して彼等彼女等は一切妥協しない。
そもそもナノが戦技学科に――もっと言えば『学区』に入ったのもルークのことを慕っているからである。
ルークと一緒なら火の中水の中、どこだってへっちゃら――その思いは変わらないものの、さすがに限界があった。
そして何よりも、ナノにとって容認できない出来事がフレイヤ・ファミリアで起こったのだ。
「ルーク、誘惑されてたよね?」
「アレは単なるからかいだ」
ジト目でナノが問いかければ、ルークは溜息混じりに答える。
この一件は『学区』に戻る最中、何度もナノから追求されたことだ。
コールもミリーリアもレフィーヤも素知らぬ顔をして、誰も助けてくれなかった。
食事後、ヘイズとアイシャとクロエが絡みにきた。
面白そうなのでからかってやろう、という魂胆である。
コールはどうにか受け流せたが、ルークはいちいち反応してしまったが為、餌食になった。
だが、ナノからすれば駄目であった。
頬をぷっくり膨らませて、だめーっと叫びながら3人に立ち向かっていき、その背中をポカポカ叩いてルークへの誘惑を阻止したのだ。
それを見て、3人だけでなくその場にいた全員が全てを察した。
そこからナノは3人に可愛がられて、そこにティオナやアイズなども加わり最終的に皆で丸くなって相談を始めた。
途中、ヘルンが連れてきたフレイヤと親交があるというシル・フローヴァなる町娘までも参加して、目をキラキラ輝かせながらアレコレアドバイスしていたが、些細なことである。
そんな彼女達から漏れ聞こえてくる内容が、『キスして押し倒せ』だの『適当な理由をつけて人気のないところに誘い出せ』だの、物騒なものばかりであった。
しかし、ナノは真剣な表情で聞いていた。
何の話をしているんだ、とルークは不思議に思ったが、コールとミリーリアはそんな彼を生暖かい目で見守っていた。
「とにかく、明日レフィーヤ先輩に相談だ」
ナノの追求をかわしながら、ルークは改めて告げた。
一方その頃、レフィーヤはレヴェリアに今日の出来事を報告していた。
とはいえ、何か問題が起こったわけでもない為、あっさりとしたものだ。
報告を終えてからはレヴェリアが淹れたコーヒーを飲みながら、のんびり雑談タイム。
しかし、それだけで終わるわけもない。
2人並んでソファに座っていたところ、レヴェリアがタイミングを見計らってそれとなく誘いを掛ければ――レフィーヤはすかさずのってきた。
「むぅ……不純異性交遊って言うんですよ、こういうの」
「どこで習った?」
「昨日、フレイヤ様が言ってました」
レヴェリアからの問いかけに、レフィーヤはそう答えながらも彼女をぎゅっと抱きしめる。
母校である『学区』の一室でレヴェリアに抱きついているという状況に、何だかドキドキしてしまう。
昨日、レフィーヤはフレイヤから助言を受けていた。
見られなければセーフ。
持ち味を活かしなさい。
レッツ不純異性交遊☆
レッツアオハルならぬレッツ不純異性交遊とかいう、パワーワード。
要するに『学区』でエロいことしてもいいじゃない、見られなければ――とのことらしかった。
しかしながら、さすがにここでおっ始めるつもりはない。
レヴェリアと同じくレフィーヤもホームから『学区』に通う形にしてある。
2人共、その身体能力を活かせば短時間で往復できる為だ。
楽しみはホームに帰ってからであった。
「まったくもう、本当に仕方がない人ですね……私だからいいですけど」
もはや口癖になりつつある言葉を呟いて、レフィーヤはレヴェリアの首筋に顔を埋めながら、その温もりを堪能するのだった。