転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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ディオニュソスの葡萄酒

 

 ゼウスとヘラ、そしてレヴェリアを出し抜いて下界の要素だけを使って、狂乱の宴(オルギア)を起こすにはどうすればいいか。

 不可能に等しいかもしれないが、だからこそ達成した時に極上の葡萄酒にも勝るものを得られるとディオニュソスは確信していた。

 

 今はまだ動く時期ではない為――というよりも、下手に動けば潰される予感しかない――酒に酔って己を偽りながら情報収集に努め、頭の中で計画を考えている段階だ。

 

 そのように過ごす日々の中、フレイヤとレヴェリアと出会ったのは偶然だ。

 遠目で見たことはあっても実際に話したことはなかったなと彼は思い、声を掛けた。

 

 ディオニュソスは彼女のことが大嫌いだ。

 多くの子供達を癒やして命を救ってきた為に。

 だが、実際に言葉を交わせば見えてくるものもあると我慢した。

 

 レヴェリアが厄介であるのは、エルフらしい真面目さとエルフとは思えない柔軟性、発想を兼ね備えているところだ、とディオニュソスは考えている。

 彼女の情報を集めていくと、神々に近い視点や考え方を持っているようにすら思えてしまう。

 

 そして、言葉を交わした成果はあった。

 ホームを訪ねてきて葡萄酒を譲ってほしいと言われた時、ディオニュソスは内心で喝采を叫んだ。

 己の葡萄酒は神すらも酔わせることができる。

 それはかつてヘファイストスに呑ませた時に確認していた。

 

 フレイヤもレヴェリアも、酒の虜にして酔わせて己の手駒に変えることができれば計画は一気に具体性を帯びる。

 それこそ、策など何もいらずにゼウスとヘラの眷族達を真正面から打ち倒し、バベルを破壊することだって可能かもしれない。

 だからこそ、ディオニュソスはようやくレヴェリアのことを好きになれそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

「クロだ」

 

 葡萄酒の匂いを嗅いだ瞬間、ヘラが告げた。

 ゼウスとヘルメスも、彼女の横で匂いを嗅いだが――あまりの強さに顔を顰める。

 

「以前、ディオニュソスがヘファイストスを酔っ払わせて連れてきた時があったが……アレは彼と打ち合わせをした彼女の演技じゃなかったんだな」

「その話はやめろ」

 

 ヘルメスの呟きに対してヘラはそう言いながら、離れたところで様子を見守っていたレヴェリアとフレイヤへ顔を向ける。

 

「今から実験をしたいと思う。もしも失敗したとしても、私にとっては……いや、全ての女性にとっては良いことだ」

 

 ヘラの言葉を聞いた瞬間、悪寒を感じたのはゼウスである。

 無駄に洗練された動きで音もなく静かに逃げようとした彼であったが、ヘラが逃すことはない。

 

 彼女の手は愛する夫の肩を掴んだ。

 それはもう指が食い込む程、力強く。

 

「ゼウスにこの酒を呑ませて一途な愛妻家になるように命じる。しばらくしたら、レヴェリアが治癒魔法を掛けて酔いを覚ませ。失敗しても構わん……というか、失敗してくれたほうが嬉しいから手を抜いてもいいぞ」

「へ、ヘラ!? さすがにそれは酷いじゃろ!?」

「私はあなたを一途に愛しているからこそ、あなたにも私を一途に愛してほしい……何か問題でも?」

 

 ヘラの問いかけにゼウスは冷や汗をかきながら、視線をレヴェリアへ動かした。

 彼女ならばヘラも何とかしてくれるかもしれない、と淡い期待を込めて彼は叫ぶ。

 

「レヴェリアちゃん! うまく説得してくれ!」

 

 必死な表情の彼に対して、レヴェリアは申し訳無さそうな顔で答える。

 

「他所の家庭に部外者が口を挟むのは良くないと思う」

 

 その答えを聞いて絶望したゼウスであったが、ヘラは容赦しない。

 彼女は葡萄酒が入ったボトルを彼の口に思いっきり突っ込んだ。

 匂いを嗅いでコルクを空けたままであった為、勢い良く葡萄酒が彼の口内を満たしていく。

 

「……アルハラとパワハラが悪魔合体しているわね」

 

 呑気に呟くフレイヤに対して、ヘルメスは沈痛な顔をしているがヘラを止めることはない。

 誰だって自分の身が大事であった。

 

 やがてゼウスは葡萄酒をボトル1本、飲みきった。

 いい感じに酔っ払って赤ら顔の彼に対して、ヘラは耳元で何事かを囁いている。

 

「儂はぁ! ハーレムをやめるっ! ヘラ一筋にぃ! なるぅ!」

「ふふ、ようやく分かってくれたのか……」

 

 どう見ても酔っ払いにしか見えないゼウスの言葉を聞いて、ヘラは嬉しそうだ。

 レヴェリアはヘルメスに問いかけてしまう。

 

「……アレでいいのか?」

「アレでいいと思うよ。ヘラってほら……ね?」

 

 本神がいる為、ヘルメスも言葉を濁すがレヴェリアだけでなくフレイヤにもしっかりと伝わった。

 

「酔い覚まし、必要なのかしら?」

「うーん……オレの口からは何とも」

「効果時間を確かめる為にも、1日程様子を見よう」

 

 レヴェリアの提案にフレイヤもヘルメスも異論はない。

 ゼウスのことはヘラに任せ、その場は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、フレイヤと共にレヴェリアがゼウスの様子を見に行ったところ、酔いは覚めているように思えた。

 しかし、彼の横にいるヘラの様子を見て、フレイヤもレヴェリアも全てを察した。

 

 これまで見たことがない程にヘラは上機嫌だ。

 満面の笑みを浮かべている彼女はゼウスと腕を組んで、彼の胸板に頬ずりしている。

 

「ゼウス、具合はどうだい……?」

 

 レヴェリア達から遅れてやってきたヘルメスも、2柱の様子を見て思わず固まってしまった。

 

「何じゃ、ヘルメス。儂が妻と仲睦まじくしているのがそんなにおかしいか?」

 

 顔色も普通であり、呂律もしっかりとしている。

 酔っ払っているようには全く見えない。

 ヘルメスは恐る恐る問いかける。

 

「……ゼウス、ハーレムは?」

「何をバカなことを言う。儂はヘラ一筋じゃぞ!」

 

 くわっと目を見開いてゼウスはそう宣言すると、そのまま早口でヘラを褒め称え始めた。

 ヘラがどれだけ折檻してもへこたれなかった、()()ゼウスがすっかりと変わってしまった。

 

 さしものヘルメスも驚愕のあまりに絶句してしまうが、ヘラは幸せそうだ。

 

「……コレ、酔っ払っているのかしら? それとも素で惚気けているのかしら?」

「酔っ払っているんじゃないか? 神ゼウスがあんなことを言うなんて……」

 

 小声で内緒話を始めるフレイヤとレヴェリア。

 そこにヘルメスも加わる。

 

「レヴェリア様、ゼウスをいい感じに誘惑してみてくれ。それで全てが分かる。勿論、嘘と分からないようにうまく工夫してくれ」

「ヘラ様が怒ったら、神ヘルメスにやれって言われましたって言うからな」

 

 レヴェリアの回答に、ヘルメスは苦しげな顔をしながらも頷いた。

 彼としても苦渋の決断だ。

 ともあれ、彼の言質を取ったレヴェリアは動く。

 彼女はゼウスへ歩み寄り、声を掛けた。

 

「神ゼウス」

「ん? 何じゃ?」

「今晩、ベッドを共にしないか?」

 

 私と、とは言っていないのがミソである。

 これによって、4柱の神々もレヴェリアの言葉に嘘がないことが分かった。

 いつものゼウスならば大喜びでこの誘いに乗ってくるだろう。

 

 レヴェリアちゃんとじゃな、とか何とか言いながら。

 

 ヘラの前だからといって、遠慮するような神物ではない。

 

「レヴェリアちゃん、すまない。本当にすまない……その気持ちは嬉しいんじゃが……儂、ヘラ一筋なんじゃ」

 

 ゼウスの答えを聞いた時、誰もが天地がひっくり返ったかのように感じた。

 ヘラも例外ではない。

 あのゼウスが、レヴェリアからの誘いを断ったのはそれだけ衝撃が強かった。

 誰もが黙ってしまい、ゼウスが不思議そうな顔をしている中――誰よりも早く口を開いたのはヘラだった。

 

「……駄目だ、何だか張り合いがない。レヴェリア、やってくれ」

「本当にいいのか? これは世界平和だぞ、ある意味で」

「……それでも、だ」

 

 真剣な表情の彼女に対してレヴェリアは頷いてみせつつ、昨日はヘラの勢いに押されて聞けなかったことを尋ねる。

 

「今更だが……そもそも、私の治癒魔法でどうにもならなかった場合はどうするつもりだ?」

「神すら酔うとはいえ所詮は酒だ。時間経過で薄れていくから問題はない」

「呪いとかじゃないしな。そこはオレも大丈夫だと思うぜ」

 

 ヘラとヘルメスの言葉を聞いて、レヴェリアは納得しながら治癒魔法を唱えた。

 黄金色のドームがゼウスを包み込み、やがてそれは消え去った。

 そして、レヴェリアは先程と同じ問いかけをした。

 

「神ゼウス、今晩……ベッドを共にしないか?」

「うっひょおおおおお! 遂にレヴェリアちゃんとベッドインじゃあああ!」

 

 そんなことを叫びながらゼウスはレヴェリアに飛びつこうとしたが、瞬時にはたき落とされた。

 勿論、その下手人はヘラである。

 

「あなた?」

「おおう!? ヘラよ! レヴェリアちゃんから誘ってきたんじゃぞ!? 双方合意ならセーフっていうことにしてくれんか!?」

「許すわけがないだろう!」

「ひぃいいい!」

 

 ヘラに詰め寄られて怯えるゼウス。

 いつものゼウスに戻ったことが一目で分かる光景だ。

 それを見ていたフレイヤが何気なく呟いた。

 

「……本当に良かったのかしら」

「良かったんじゃないか。一途なゼウスを欲望がない私だと考えれば、お前だって何となく分かるだろう」

「欲望がないレヴェリア……? それは確かに、つまんないわね……」

 

 レヴェリアの言葉を聞いて、フレイヤも納得してしまう。

 欲望一直線の癖に、これでもかと輝いている――そんなレヴェリアをフレイヤは好きになったのだから。

 

「ディオニュソスにもレヴェリア様の治癒魔法を掛けて、酔いを覚まして本性を出させればいい。それでハッキリする筈だ」

 

 ヘラにコテンパンにされているゼウスを横目に見ながら、ヘルメスはレヴェリアとフレイヤにそう伝えた。

 それを聞いてフレイヤが告げる。

 

「彼の眷族達や関わりがあった子達へのフォローも必要よ」

「ああ、そこらも抜かりはない。うまくやるさ……話を纏めるのは、そこの夫婦喧嘩が終わってからだけど」

 

 ヘルメスが言った直後、ゼウスの汚い叫び声が響き渡った。

 レヴェリア達が視線を向けると、ヘラがジャーマン・スープレックスをゼウスに決めていた。

 

「……神ヘルメス、私はヘラ様に詳しくはないのだが……彼女は戦士なのか?」

「戦士じゃないんだけどなぁ……女というか、妻は強いってことじゃないかな」

 

 ヘルメスの言葉を聞いて、フレイヤは意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「ねぇねぇ、レヴェリア。私だってやる時はやるのよ。ヘラみたいに技を決めてやるんだから」

 

 そう言って胸を張るフレイヤであったが、レヴェリアは無言でそのオデコにデコピンを食らわせた。

 可愛らしい悲鳴を上げて、両手でオデコを抑えるフレイヤ。

 その姿は、ヘラみたいに技を決められるようには到底見えなかった。

 

 

 

 




酩酊ゼウス(見た目は普通)「ヘラ一筋! ヘラ愛している! レヴェリアちゃんの誘いは嬉しいけどのらんぞ!」
平常時ゼウス「うっひょおおおおお! レヴェリアちゃんからのお誘い……待てやめるんじゃ、ヘラ! ぬわーーっっ!!」
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