転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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ディオニュソスの終わり 近づく三大冒険者依頼

 

「どうしてだっ! どうして見透かされたっ!?」

 

 ディオニュソスは叫んだが、彼にはもう叫ぶことしかできなかった。

 ガネーシャに取り押さえられ、その両手にレヴェリア謹製の手錠をはめられている為に。

 

 やったことは単純だ。

 事前にガネーシャにも理由を説明して協力を要請した上で、適当な理由をつけてディオニュソスを呼び出した。

 そして、レヴェリアの治癒魔法で酔いを覚ましただけである。

 酔いが覚めた状態でヘラが問い詰めたところ、彼は答えることなく逃げようとしたので、ガネーシャが動いて制圧という結果になった。

 

 ディオニュソスの問いかけに対し、この場にいる神々は全員がレヴェリアへ視線を向けた。

 その事に気づいたディオニュソスは激怒した。

 

「このアバズレの淫売がぁ!」

 

 吼える彼に対して、レヴェリアは本当に申し訳無さそうに眉をハの字にさせる。

 

「すまない、神ディオニュソス……私がダークエロフであることは、オラリオではもう当たり前過ぎて……」

「そういうことじゃない! あの一瞬だけだった! お前どころかフレイヤとも会話どころか会ったことすらなかった!」

「ああ、そうだな。だが、たった一つだけお前はミスを犯した」

 

 思わずディオニュソスは目を見開いた。

 彼以外の神々もレヴェリアの予想外の言葉に驚く。

 

 ディオニュソスの擬態は完璧であり、酔いを覚まされるまでは紛れもなく善神であった。

 だが、レヴェリアの言葉には嘘がない。

 もっとも、それは当然だった。

 彼女の認識では、自分と会ったこと自体が彼のミスなのだから。

 とはいえ、そんなことを明かしたらディオニュソスに関する知識の出処について、ゼウス達が言及してくるのは間違いない。

 だからこそ、彼女は適当にはぐらかす。

 

「それを明かす必要はないだろう。チェックメイトだ、神ディオニュソス」

 

 レヴェリアの宣言に、ディオニュソスは彼女をこれでもかと睨みつけるが、すぐにガネーシャによって引っ立てられていった。

 

「ねぇねぇねぇ! レヴェリア! たった一つのミスって何!?」

 

 目を輝かせたフレイヤが興奮気味に聞いていた。

 問いかけに対してレヴェリアはにっこりと笑う。

 

「自分の頭で考えるといい。ちょうどいい頭の体操だろう」

 

 ゼウス達がいる手前、そう答えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 結果として、ディオニュソスはオラリオから追放後に送還された。

 しかし、表向きには追放処分だけである。

 

 彼自身が具体的に何かをやったわけではない為だ。

 将来的には確実にやらかしただろうが、どこを調べても何かをやったという証拠が現時点では一切出てこなかった。

 証拠不十分で釈放するには危険過ぎるが、頭の中で考えているだけならまだセーフだ。

 

 神会でもそのことが考慮された為、送還ではなく追放処分に決定されたのだが、闇派閥と結託して舞い戻ってこられても困る。

 ディオニュソスはオラリオから十分に離れたところまで連れて行かれた後、送還されたというのが事の顛末であった。

 

 なお、追放処分の決定が公表された時、眷族達や彼を慕っていた者達からの抗議は無かった。

 本性をさらけ出した状態で彼等彼女等と引き合わせていた為に。

 善神としての彼しか知らぬままでは、眷族達や慕っていた者達が不満を持っていずれは闇派閥へ流れかねないという懸念があった為に取られた処置だ。

 

 ディオニュソスは眷族達や慕っていた者達に対して、聞くに耐えない言葉を撒き散らした。

 彼には自身が送還される予感があったからこそ、せめてこれくらいは味合わねば、と思った為であった。

 

 

 

 

 

 ディオニュソスの一件が片付いて、しばらくしたある日のこと。

 

 レヴェリアは安楽椅子に座って、天井をぼんやりと見つめていた。

 つい先程、彼女は革新的な手法でもって行っていた最硬金属(オリハルコン)の精製に失敗した。

 

 ここはフレイヤ・ファミリアのホームに幾つかある彼女専用の工房、その一つだ。

 この工房では主に金属の精製を行っており、以前よりレヴェリアは最硬金属(オリハルコン)の効率的精製に取り組んでいた。 

 

 発展アビリティの【錬金】は地球でいうところの化学に関する効果を引き上げるものだ。

 分かりやすい事例としては稀少金属(レアメタル)の精製であったり、素材の純度をより高めることができるようになる。

 

 現時点でも最硬金属(オリハルコン)の精製はできるが、得られる量に対してあまりにもコストと手間と時間が掛かりすぎる。

 レヴェリアは【錬金】に【神秘】と【魔導】、3つの発展アビリティを併用することで効率的に精製できるのではないか、と挑み続けてきた。

 

 なお、この過程で得られた成果を応用することで様々な稀少金属(レアメタル)の効率的な手法を確立できているが、フレイヤと相談の上で公表はしていない。

 利益独占という側面もあるが、世間に与える影響が大きすぎてどこぞの国(帝国)がやらかしそうな予感がしたからだ。

 

 安楽椅子に座って、ぼんやりとしていたレヴェリアは溜息を吐く。

 失敗するのには慣れているが、今回は手応えがあっただけに落胆は大きい。

 彼女はおもむろに立ち上がり、ふらふらとした足取りで工房を後にする。

 向かった先はフレイヤの神室だった。

 

 

 

 

 

「失敗しちゃったのね」

「あぁ……」

 

 フレイヤの胸に顔を埋めて、頭を撫でられながらレヴェリアは肯定した。

 落ち込んだ時や疲れた時はフレイヤに胸枕をしてもらうのが彼女にとっては癒やしだ。

 フレイヤとしても、こういう時のレヴェリアも可愛くてしょうがない。

 彼女の長耳を弄り回しながら、たっぷりと甘やかしていると――やがて寝息が聞こえてきた。

 フレイヤは慈愛の眼差しを向けながら、眠りについたレヴェリアへ小声で囁く。

 

「本当に頑張っているわ、あなたは」

 

 そして、フレイヤはレヴェリアの長い髪を優しく撫でる。

 彼女の寝顔を堪能しつつ、あることを思い出してぽつりと呟く。

 

「レヴェリアは反則級だけど……うちにはこの子しかいないのよ、そういう子は」

 

 以前より、レヴェリアから二大派閥の団長と幹部達の強さに関してとある予想が出されていた。

 

 レヴェリアは熟練度を馬鹿みたいに積み上げてランクアップを繰り返してきたからこそ、同格以下に対しては絶対の強さを誇る。

 また彼女は格上――レベル差が1つどころか2つ上の相手とも戦ってきた。

 ハンデを貰っていたとはいえ、そもそもレベルが2つ上の相手と戦闘行為が成立すること自体が普通ならばありえないことだ。

 最近はレベル差が縮まって1つ上で済んでいるが、それはともかく疑問があった。

 

 潜在値に大きな――それこそ桁が違う差があるからこそ、レベル差を考慮しても単純なスペックとスキルで押し切ることができる筈だが、そうはなっていないことだ。

 

 うまくぼかしながらフレイヤが調べてみたところ、複数の神がレヴェリアと同じ予想を出してきた。

 

 二大派閥の団長と幹部達は、自己強化系スキル――それも強化倍率がぶっ飛んでいて、疑似昇華の域にあるような格上殺しといえるもの――を複数発現しているというのがその予想だ。

 基準となるレベルに達した上で、格上殺しのスキルが発現していることが二大派閥における幹部入りの条件ではないか、と予想した神も多い。

 あくまで予想に過ぎないが、そう考えると辻褄が合う。

 二大派閥以外で、レヴェリアが自身よりも格上の冒険者と戦えば確証が持てるのだが――あいにくゼウスとヘラ以外の派閥からちょっかいを掛けられたことは、オラリオ入りの初日を除けば一切なかった。

 

 それはさておき、レヴェリア以外でフレイヤ・ファミリアにおいて頭一つ抜けているのが、ミアとディース姉妹だ。

 しかし、彼女達ですら格上殺しと呼べるスキルは発現していなかった。

 

「ベヒーモス討伐の準備をそろそろ始めるって、最近ヘルメスが言っていたけど……」

 

 戦闘に直接参加するのはレベル7以上だ、とフレイヤは彼から聞いていた。

 また、他にも気になることを言っていた。

 ゼウスとヘラがフレイヤ・ファミリアの洗礼を真似しようと考えている、とのことだ。

 

 その事を聞いた時、フレイヤにはある光景が想像できてしまった。

 【英傑】と【女帝】をはじめとするゼウスとヘラの眷族達が好き勝手に戦って死にかける中、死んだ目で治癒魔法を唱え続けるレヴェリア。

 最終的には、やってられるかとキレた彼女がゼウスとヘラの眷族達全員を相手に大立ち回りして、それがランクアップのきっかけとなる――という感じである。

 

「やさぐれたレヴェリアを慰めるのもいい……」

 

 改めて想像したフレイヤはそんなことを呟きつつも、フレイヤ・ファミリアとしてはミアとディース姉妹も可能ならば参加させたいと考えている。

 3人はレベル6であるが間に合うだろう、と彼女が思っていた時、レヴェリアが僅かに身じろぎした。

 目覚めの兆候だろうか、とフレイヤが視線を向けると――ゆっくりとレヴェリアは目を開けた。

 寝ぼけ眼の彼女を見て、フレイヤはにこりと微笑んでその額に口づけするのだった。

 

 

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