転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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ベヒーモスの毒

 

「……山みたいだな」

 

 遠目に見えるベヒーモスに対して、レヴェリアはそう呟く。

 陸の王者は全身から猛毒を零れ落としながら歩いていた。

 ベヒーモスが通った跡は大地のあらゆるものが溶けて、地獄のような光景となっている。 

 

 事の発端はヘルメスの依頼によるものだ。

 

 ベヒーモスの毒を採取・分析して解毒薬や装備を用意してほしい――

 

 零れ落ちたものではなく体表にあるものを直接採取したい、とレヴェリアが伝えたところ、今回の採取が実現した。

 もっとも採取だけでなく偵察も同時に行うことになった為、ここにいるのは彼女だけではない。

 

 ゼウスとヘラからはそれぞれ団長と幹部数名、フレイヤ・ファミリアからはミアとディース姉妹とここまでは順当であるのだが、ロキ・ファミリアからはフィン、リヴェリア、ガレスの三名――最近は三首領と呼ばれ始めている――がレヴェリアの助手という体で参加していた。

 

 ロキ・ファミリアはもっともレベルが高い三首領であっても、レベル4だ。

 オラリオに来てから3年程でレベル2からそこまで至ったのは称賛に値するが、ベヒーモスとの戦闘に参加できる実力ではない。

 

 しかし、今回の話を小耳に挟んだロキがフレイヤに頼み込んだ。

 この経験が3人の今後に活きてくる筈だと確信した為に。

 彼女のお願いに応えて、フレイヤはフィン達3名をレヴェリアの助手としてねじ込んだ。

 ロキには貸し一つである。

 

 フィン達はベヒーモスの威容に圧倒され、言葉を失っていた。

 【英傑】や【女帝】達はどうやって攻めるかを話し合いながら、これまでに判明しているベヒーモスの情報について、案内役の強神(トール)の眷族に尋ねている。

 

 なお、レヴェリアが採取せずとも【英傑】や【女帝】に任せればいいのでは、という意見もあったのだが、レヴェリア本人がそれを拒んだ。

 予想外の事態が起こったとしても、治癒魔法がある自分ならば対処できる自信があったからだ。

 

「レヴェリア、その……どう思う?」

 

 やがて、リヴェリアが問いかけてきた。

 不安げな表情を浮かべている彼女の言いたいことが簡単に分かる。

 

 本当にあんな化け物に勝てるのか、と。

 

 ベヒーモスの毒も厄介だが、その大きさ自体が強力な武器になる。

 あの巨体がその場でジャンプして着地するだけで、人間は一溜まりもない。

 極論、ベヒーモスはただ動くだけでこちらを即死させられる攻撃力があると言っても過言ではない。

 それに加えて、強力な自己再生能力まで備えているという。

 

 レヴェリアとしても、勝てるかどうか分からないというのが正直なところだ。

 しかし、そのような不安を抱かせる言葉を彼女は選ばなかった。

 

「勝つさ。私がいるからな」

 

 一切の迷いなく、そう言い切ったレヴェリアにリヴェリアの表情が明るくなる。

 更にレヴェリアはおどけたように言う。

 

「そもそも、今から私はヤツのところまで行って毒を採取してくるんだぞ? 正直、戦うよりも大変だ」

「ああ、そうだな……無事に帰ってきてくれ」

「無論だ。その為に準備もしてきた」

 

 既存の採取キットと保存容器では溶ける可能性があった為、レヴェリアは特別に拵えたものを用意していた。

 それも一つや二つではなく、かなりの数だ。

 サンプルを大量に確保しておいた方が研究が捗ると彼女は考えた為だ。

 他にも、彼女が纏っているフード付きのローブも今回の為に作製したものであり、耐毒に特化していた。

 

「レヴェリアお姉様、大丈夫?」

「絶対に帰ってきて……」

 

 心配そうな顔をしているディース姉妹。

 レヴェリアが姉妹を抱きしめ、落ち着けさせたところでミアが口を開く。

 

「勝手に死ぬんじゃないよ。アタシはアホ女神の世話なんて真っ平御免だからね」

「大丈夫だ。ちょっと行って帰ってくるだけだからな」

 

 

 それから数十分後、準備万端整えたレヴェリアは採取キットと保存容器を持ってベヒーモスへ向かった。

 近づくに連れて強烈な刺激臭、さらには身体のあちこちが灼けるように熱く感じたが、それらを無視してレヴェリアは間近まで迫ったところで一度立ち止まった。

 そして、ベヒーモスの足が地面に踏み降ろされた直後に急接近し、足の皮膚から溢れ出ている毒を採取し、保存容器に入れて即座に離れる。

 

 そして、彼女は治癒魔法を唱えて自らを癒す。

 幸いにも、ベヒーモスが治癒魔法に反応することはなかった。

 

 戻ってきたレヴェリアの姿に誰もが息を呑んだ。

 彼女が纏っているローブのあちこちに穴が空いており、そこから素肌が見えていた。

 その素肌も、治癒魔法を唱えるまでは毒によって酷い有り様になっていたことは想像に難くない。

 

「どうだ?」

「毒は私の治癒魔法で解毒できる」

 

 【英傑】の問いかけに、レヴェリアは真っ先に意図を把握して答えた。

 最大の懸念は彼女の治癒魔法でも毒がどうにもならないことだったが、その線は無くなった。

 レヴェリアは更に言葉を続ける。

 

「だが、それは平常時の場合だ。戦闘時に毒の濃度が高まる可能性は否定できない」

 

 そう指摘しつつ、彼女は新しい保存容器と採取キットを手に持った。

 

「もう少し採取してくる。サンプルはあればあるほど良いからな」

 

 そう告げる彼女に対し、【英傑】と【女帝】は互いに目配せして頷き合う。

 

「俺達も同行しよう」

「実際に体験してみるのが一番手っ取り早いわ」

「お前達、耐毒装備は持ってきたのか?」

 

 ジト目で尋ねるレヴェリアに対して、2人はそれぞれ答える。

 

「一当てするかもしれんと思って、用意してきた」

「同じく。神々の言うところの、こんなこともあろうかとってやつよ」

「それならついでに採取も手伝え。いいな?」

 

 レヴェリアの問いかけに、2人は大きく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大量のサンプルを入手したレヴェリアはオラリオに戻ると早速、自らの工房にて成分分析を開始した。

 そして、最初に判明したのはベヒーモスの毒は多種多様な毒が混ざり合っていることだ。

 色んなものが混ざった結果として、万物を溶かす毒と化している――とレヴェリアは仮説を立てた。

 とはいえ、1人でやっていたら何年掛かるか分かったものではない為、彼女は早々に助けを求めた。

 フレイヤ経由でゼウスとヘラに相談して許可を得た上で、ミアハ・ファミリアやディアンケヒト・ファミリアにもサンプルを回して分析を依頼したのだ。

 

 毒の成分分析をレヴェリアが進めている一方で、ゼウスとヘラにおいても動きがあった。

 全団員に対して金策が命じられたのである。

 ベヒーモスの毒は不壊属性が付与された武器であろうとも、急激に劣化させることは以前より分かっていたが、実際に間近で見てきた【英傑】と【女帝】をはじめとする面々は強い危機感を覚えた。

 

 あの巨体に加えて自己再生能力まで備えているというのだから、長期戦は必至。

 不壊属性を付与した予備の武器が10本20本あっても心許ない。

 これらに加えて回復薬や解毒薬、食料等様々なモノが大量に必要となるのだから、カネはいくらあっても足りなかった。

 

 ゼウスとヘラもこれまでの蓄えは膨大にあるが、ベヒーモス討伐で終わりではない。

 今回で全てを吐き出すわけにはいかなかった。

 

 

 毒の成分分析開始からおよそ半年後、レヴェリアはミアハとディアンケヒト両派閥の協力もあって分析を完了し、その結果を元にした専用装備の製作に取り掛かった。

 多忙を極めている彼女の元へ、ヘルメスがやってきた。

 

「神ヘルメス、殴っていいか?」

「レヴェリア様、目がマジだぜ……」

 

 ヘルメスの依頼に対して、レヴェリアは真顔でそう尋ねた。

 彼としても、こういう反応が返ってくるのは百も承知だ。

 

「私は耐毒装備の製作で忙しい。レベル7以上のゼウスとヘラの団員が何人いると思っているんだ?」

「それは分かっているとも。オレも無茶振りだと思う……だが、レヴェリア様にしかできないことだ」

「ヘファイストス様に泣きつけ。何とかしてくれるだろう」

「もう泣きついてきたよ。そのヘファイストスがレヴェリア様を頼れって言ったんだ」

 

 真剣な顔でヘルメスは告げ、レヴェリアは渋い顔となる。

 彼の依頼は魔剣の製作だ。

 レヴェリアはネーミングに問題があると常々思っているが、魔剣そのものに忌避感はない。

 通常の武具と同じように、不定期にヘファイストスのところへ持ち込んで買い取ってもらっていた。

 

「……報酬は?」

 

 レヴェリアの問いかけに、ヘルメスはニヤリと笑ってみせる。

 無茶振りする以上、相応のものを彼は用意していた。

 

「貸し二つ、それでどうだい?」

「……貸し三つ」

 

 レヴェリアの釣り上げに対して、彼は肩を竦めつつ頷いた。

 それを確認した彼女は問いかける。

 

「耐毒装備の製作が優先でいいか?」

「ああ、それで構わない」

「討伐の日程は決まっていないよな?」

「勿論、決まっていない。全ての用意を整えた後、改めて日程について協議するから安心してくれ」

 

 ヘルメスの答えを聞き、レヴェリアは胸を撫で下ろすのだった。

 

 

 

 

 

 

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