転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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決戦に向けて

 

 自室でレヴェリアはやさぐれていた。

 かつてない程にやさぐれていた。

 

 2ヶ月掛けて全員分の耐毒装備と解毒薬を用意し、1ヶ月で要求された本数の魔剣を納品した彼女を待ち受けていたのは――3ヶ月に及ぶ50階層における『洗礼』での負傷者の治療であった。

 

 この『洗礼』はフレイヤ・ファミリアで行われているものを真似たものであり、レヴェリアに求められた役割は治癒魔法を絶えず唱え続けることだった。

 ゼウスとヘラから直接頼み込まれた上に報酬が貸し二つずつというものであったことから、レヴェリアはその依頼を引き受けた。

 

 なお、『洗礼』にはゼウスとヘラの眷族がほぼ全員参加していただけでなく、ロキ・ファミリアの三首領やミアとディース姉妹、オッタルも参加していたが、誰も何も言わなかったのでレヴェリアも口出しはしなかった。

 

 そして、レヴェリアは来る日も来る日も治癒魔法を唱え続け、精神が摩耗して死んだ目となって――しまいにはブチキレて全員を敵に回して大立ち回りを演じることが度々あった。

 

 その甲斐あってか、彼女も含めた参加者全員がランクアップを果たしている。

 【英傑】と【女帝】を筆頭に、レベル9が多数誕生したことは瞬く間に世界中に知れ渡った。

 神時代史上初の大快挙に、誰もが三大冒険者依頼の達成とダンジョンの攻略を確信した。

 だが、その偉大なる成果と引き換えに、精神的な疲労が極みに達したレヴェリアはやさぐれちゃったのである。

 

 しかし、そうなることをフレイヤは事前に予想していた。

 彼女はレヴェリアの回復に万全を期す為、あらかじめイシュタルとアフロディーテに応援を要請してあった。

 そして準備万端整えた三女神達は、やさぐれているレヴェリアの元を訪れた。

 

 

 

 扉を叩く音が聞こえたレヴェリアは、面倒くさそうに入室の許可を出す。

 声色からしてフレイヤだ、と予想できたが今のレヴェリアはやさぐれモードだ。

 投げやり感がそこはかとなく漂っており、いかにフレイヤといえども今のレヴェリアをどうにかするには余程のことをしなければならないだろう。

 

 扉が開いたところで、レヴェリアは己の目を疑った。

 そこにはフレイヤ、イシュタル、アフロディーテが立っていたがいつもの装いではなかった。

 全員、ブレザータイプの制服を着ており、黒タイツに茶色のローファーを履いていた。

 

 普段は大人の色気たっぷりのイシュタルも、制服姿がキツいなどということはまったくない。

 髪型をポニーテールにしていることもあり、色気のあるヤンチャな先輩感が漂っていた。

 

「レヴェリア、私達とイイことをしましょ?」

 

 フレイヤの誘いに、レヴェリアはシャキッと立ち上がった。

 数秒前までやさぐれていたとは思えない。

 

「……知っていたけど、レヴェリア。アンタって本当に欲望に素直なのね」

 

 呆れと感心が混じったアフロディーテは3柱の中で制服をもっとも着崩している。

 それがギャルの雰囲気を醸し出しており、レヴェリアは大満足だ。

 

「レヴェリア、よく見ておけ」

 

 イシュタルはそう前置きして、スカートの裾を上げて下着が見えるかどうかギリギリのラインを攻める。

 流石はイシュタル様、恐ろしい女神だとレヴェリアは戦慄しながら、その絶対領域をガン見した。

 

「イシュタル、分かっていないわね。レヴェリアの今の気分は足よ」

 

 そう言いながら、フレイヤは片方のローファーを脱いで黒タイツに包まれた足先を見せる。

 相変わらずけしからん足をしている、これはもうじっくりねっとり調べるしかないとレヴェリアは確信した。

 

「アンタ達、フェチに走るのもいいけど……王道を忘れては駄目よ」

 

 自らの長い金髪を手でかき上げながら、アフロディーテは言った。

 そして、彼女は口を大きく開いて舌を出してみせる。

 

「ん」

 

 そして、たった一言。

 その意図を完璧完全に把握したレヴェリアは、女神の中の女神にして究極至高の美神であるアフロディーテの真髄に息を呑む。

 

 三女神達によって思考が良い感じに色ボケになったレヴェリアがやることは唯一つ。

 彼女達とベッドの上で戦うことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 レヴェリアが三女神達によって癒やされ、元気になってからしばらく経ったある日のこと。

 ベヒーモス討伐の日程を決める会議が開催され、1ヶ月後にオラリオを出発することが決定した。

 残る1ヶ月、レヴェリアは最後の一踏ん張りだと『洗礼』に参加した面々を誘って、50階層で戦い合った。

 そして出発の三日前までには地上へ戻り、英気を養う。

 レヴェリアはフレイヤと2人きりで過ごし、彼女にたっぷりと甘え――いよいよ、オラリオ出発の日を迎えた。

 

 フレイヤ、イシュタル、アフロディーテやフリュネなどの娼婦達との別れを済ませ、馬車に乗り込んだレヴェリアは呆れていた。

 見送る者達は神も人も、まるでもう勝ったつもりであるかのようだ。

 

 戦闘態勢に入ったベヒーモスが事前の予想よりも遥かに強い可能性は否定できない。

 だからこそ、彼女はベヒーモスの正面は自分1人で受け持つことを決意していた。

 スキル的にも単独戦闘であった方が全力を発揮できる上、味方を巻き込むことなく好きにやれる為だ。

 またいざという時は、自分が囮となってベヒーモスを誘導すれば他の連中は逃げられるとも考えていた。

 

「好きに騒がせておけばいい」

「……お前はどうして当たり前のように私の隣にいるんだ?」

 

 レヴェリアは真横に座っているアルフィアに問いかけた。

 この馬車にはフレイヤ・ファミリアで戦闘に参加する面々――レヴェリア、ミア、ディース姉妹が乗り込んでいるのだが、そこに何故かアルフィアも乗り込んでいた。

 なお、レヴェリア達以外にもフレイヤ・ファミリアからはサポーターとしてオッタルを含む大勢が参加しており、彼等彼女等も含めればフレイヤ・ファミリアだけで馬車は十数台にも上る。

 

「ムカつくわ」

「ええ、ムカつく」

 

 ディース姉妹もアルフィアがいることにお冠だ。

 ミアは面倒事に巻き込むな、と言わんばかりにそっぽを向いて目を閉じていた。

 

 先の『洗礼』には彼女も参加しており、そこでランクアップを果たしてレベル5となっている。

 これはロキ・ファミリアの三首領、オッタルと同じレベルだ。

 しかし、驚くべきはアルフィアがまだ11歳であるところだ。

 4年前に病が治癒してからというもの、およそ1年でレベルを1つ上げてきた。

 1年前から最近までレヴェリアが多忙を極めていた為、以前のように突撃してくることがかなり少なくなっていた。

 その空白を埋め合わせるかのように、アルフィアはレヴェリアの隣からまったく動こうとしない。

 

「メーテリアとは挨拶を済ませたのか?」

「勿論だ。ついていくと最後まで言っていたが、どうにか諦めさせた」

 

 メーテリアはアルフィアのように才能に溢れているわけではない。

 また性格的にも戦いには向いていなかったが、薬師としての素質があった。

 本人も性に合っているということで、彼女は薬師の道を歩んでいる。

 レヴェリアも不定期ではあるものの、メーテリアに勉強を教えていた。

 彼女はレベル2であり、サポーターとしての基準を満たしていないことから今回は不参加であった。

 アルフィアは更に言葉を続ける。

 

「今回は間に合わなかった。だが、次までには間に合わせる」

 

 彼女は戦力ではなく、サポーターとしての参加だ。

 紡がれた言葉には悔しさが滲んでいた。

 レヴェリアは軽く溜息を吐いて、アルフィアのオデコを軽く小突いた。

 

「無理も無茶も大いにやっていい。だが、くれぐれも焦るな。心は熱く、頭は常に氷のように冷やしておけ。お前は熱くなりやすいからな」

「……分かった」

 

 そっぽを向きながらアルフィアはそう答えた。

 それを聞いたレヴェリアは根本的なことを問いかけた。

 

「ところで、デダインに到着するまでここにいるつもりか?」

「別に問題はないだろう」

 

 レヴェリアの問いかけに、当然とばかりにアルフィアはそう答えるのだった。

 

 

 

 

 ベヒーモス討伐隊は馬車に揺られて、決戦の地と定めたオラリオの南方に位置するデダインの砂漠へ向かう。

 近くには集落があるが、既に住民は全員が避難しており前入りしていた後方支援担当のファミリアによって拠点が設けられていた。

 ベヒーモスは強神(トール)の眷族達によって誘導され、1両日中に砂漠へ到達すると予想されていた為、到着してすぐに最後の作戦会議が主だった面々を集めて開かれたのだが――

 

「……正気か?」

 

 レヴェリアの提案に【女帝】は問いかけてしまった。

 その問いに対してレヴェリアはいつもの澄まし顔のままに頷いてみせる。

 

 ベヒーモスを四方向から攻めるというのは事前に決まっていたが、問題となるのは割り振りだ。

 誰をベヒーモスの正面に配置するか、それがとても悩ましいものだったが――作戦会議が始まると同時にレヴェリアが告げた。

 

 自分1人でベヒーモスの正面を担当する、と。

 

 彼女の実力は疑うべくもないし、何かしらの切り札を隠し持っていることはここにいる誰もが予想している。

 だが、いくら何でも無茶だ。

 けれども、レヴェリアも譲るつもりはない為、更に言葉を続ける。

 

「治癒魔法を全力で展開すれば、よほど変なところにいない限りは範囲内に収まる。治療に支障はない」

「そういうことではない。早々にお前がやられると困る」

 

 討伐隊の総指揮を取る【英傑】は指摘するが、レヴェリアはきっぱりと告げる。

 

「逆だ。私が全力を出す為には単独戦闘でなければならん」

 

 そういうスキルを持っているのだろう、と出席者達はあたりをつける中、【英傑】とレヴェリアの視線が交差する。

 

「……できるのか?」

「できる」

 

 躊躇なく即答した彼女に対して、【英傑】は溜息を吐いた。

 彼女の決意の固さから、翻意させることは難しいと分かってしまった為に。

 もっとも、レヴェリアが1人で正面を受け持ってくれるならばその分、三方向に火力を集中できるのも確かだ。

 故に、【英傑】は決断した。

 

「分かった、任せよう。くれぐれも死んでくれるなよ」

「無論だ。お前達は安心して、ベヒーモスを攻撃していればいい。そちらに注意は向けさせん」

 

 【英傑】の決定に異論を唱える者は誰もおらず、ここにレヴェリアが正面を受け持つことが決まった。

 この後は残る三方向の割り振りや、サポーターの配置について話し合われ、決定された。

 

 そして作戦会議後、決戦まで各自英気を養うよう【英傑】より指示が下される。

 討伐隊の面々は飲めや食えや歌えやのどんちゃん騒ぎであったが、その最中レヴェリアは何回も呼び出された。

 呼び出した相手は様々だが言われたことはほぼ同じだ。

 誰もがベヒーモスの正面を1人で受け持つことに対する苦言とその身を案じた。

 

 その度に、レヴェリアは感謝しながらもこう答えた。

 

 たった1人で戦う怪物の真価を示そう――

 

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