深夜、レヴェリアはキングサイズのベッドに仰向けになっていた。
左右にはディース姉妹が陣取り、彼女に身体を寄せながら穏やかな寝息を立てている。
つい先程まで彼女達と肌を重ねていた。
2人が起きぬようにこっそりとレヴェリアはベッドから抜け出し、全裸の彼女達が冷えぬようブランケットを掛ける。
彼女自身は全裸のまま、葡萄酒とグラスを持ってバルコニーへ出た。
気持ちの良い夜風を感じながら、デッキチュアに体を預けて満天の星を眺める。
ここは
1週間前からこの宿に滞在し、休暇を満喫しているのだが――フレイヤと他の団員達はここにはいなかった。
こうなったのはフレイヤの提案が発端だ。
今回の旅行はレヴェリアと私が分かれて行動してみない?
それを聞いた瞬間、ほぼ全ての団員達が大歓声を上げた。
彼等彼女等からすれば、常日頃フレイヤを独占し続けている上に、不敬過ぎる扱いをしている絶対悪の権化――それがレヴェリアである。
ベヒーモス討伐戦を経て、レヴェリアがどれほどの高みにあるかが判明したが、心が折れて諦める者は誰もいなかった。
ファミリア全体としては喜ばしいのだが、レヴェリア個人としては複雑である。
そんなこんなで今回の旅行は二つのグループに分かれることになったのだが、そこでミアが待ったを掛けた。
アタシは自由にさせてもらいたい、と。
どっちも色ボケである為にどっちにもついていきたくない、というのが彼女の理由である。
それ故に完全自由行動のグループが作られ、団員達は各自が希望するグループに分かれた。
結果として完全自由行動はミアだけであり、またレヴェリアのところにはディース姉妹のみとなった。
残る全員はフレイヤのグループだ。
レヴェリアが彼女に対して騒動を起こさないよう言い含めたが、何だかんだで本当にヤバいことはやらかさないだろうという信頼があったので、そこまで心配しているわけでもなかった。
2週間前に各グループごとに分かれて以来、レヴェリアは姉妹と3人だけで過ごしている。
たっぷり可愛がって愛でてやろう、という魂胆が彼女にはあり、ディース姉妹をとにかく甘やかしていた。
なお、
レヴェリアは夫妻が少年少女であった時から知っている間柄だ。
2人と出会ったのは20年以上前の先代国王の時代であり、彼女は出張依頼を受けて2人にもリラクゼーション目的で治癒魔法を掛けていた。
当時王子であった現国王がレヴェリアに見惚れて、当時婚約者であった現王妃に睨まれていたのも懐かしい思い出だ。
せっかくの機会だから、と国王夫妻に誘われており、明後日には昼食を共にする予定となっている。
夫妻は一男三女の子宝に恵まれていたが、レヴェリアが子供達と直接会うのは今回が初めてだ。
オラリオに本拠を設けて以来、レヴェリアが都市外へ出ることは彼女でなければ治せない病や怪我の治療依頼を除けば大きく制限されてきた。
しかし、各国とのやり取りはその国の商人を通じて続いていた。
それは悪巧みの為ではなく、相手方に子供が産まれた時にお祝いを贈ったり、あるいはレヴェリアがランクアップした時にお祝いを貰ったりと祝事や弔事に関わるものだ。
3年程前、夫妻の間に末っ子のアスフィが産まれた時も、レヴェリアは商人を通じて書状と共にお祝いの品を贈っていた。
月光浴をしながら、レヴェリアはグラスに葡萄酒を注いで香りを楽しみ、一口飲む。
「自分で言うのも何だが……今の私は絵になるな、うん」
自画自賛をしつつ、彼女はグラスをサイドテーブルに置いて思いっきり伸びをする。
全身の筋肉が解れる感じがたまらなく心地良い。
長耳も元気にピンと伸び、それを自分の指で良い具合に揉み解す。
「人耳や獣耳もいいが、私はやはり長耳が最高だと思う」
急にそんなことを語り出した彼女であるが、幸いにも聞いている者は誰もいない。
「真面目清楚一途後輩系エルフと長耳を弄り合いたい……そういう子を副団長や幹部に据えたい」
忠誠と奉仕精神と愛をもって接してくれる、綺麗あるいは可愛い美女美少女を副団長や幹部に据えたい――かつてレヴェリアが言っていたことだが、その野望はまだ消えていなかった。
「フレイヤは今頃、何をしているかな……」
本当にヤバいことはやっていないだろうが、それでもアホなことはやっていそうだ――
彼女はそう予想したが、これは見事に的中していた。
つい数日前、フレイヤはヒャズニングと呼ばれる孤島にて、2人の王を縛り付ける国の在り方が醜いとして程よく煽って滅ぼしていたのだ。
そのことをレヴェリアが知ることになるのは、旅行を終えてホームに帰ってフレイヤから新しい眷族達を紹介された時だった。
フレイヤから新たな眷族となった2人の白黒妖精――ヘディンとヘグニの経緯を聞いて、レヴェリアはにっこりと笑った。
フレイヤもまたにっこりと笑い、すかさず背を向けて脱兎の如く駆け出した。
その素早さたるや周囲の団員達が目を見張る程であり、今まさに彼女は己がスプリンターとしての才能が開花したかのような気がした。
しかし、レヴェリアの方が一枚上手だった。
フレイヤの行動などお見通しとばかりに、逃げようとする彼女の首根っこを引っ掴んだ。
「ぐぇっ」
美の女神が出しちゃいけない蛙が潰れたような変な声を出したが、構うことなくレヴェリアはフレイヤにコブラツイストを掛ける。
勿論、細心の注意を払って相当に手加減した上で。
「いたたたっ! ギブギブ!」
「国の在り方が醜いから滅ぼしたって、やりすぎだろお前!」
「こ、子供達は無事でアフターケアもしといたから!」
ヘディン達は展開についていけず、ディース姉妹はけらけらと笑い、ミアは我関せず顔を背けた。
彼等彼女等以外の団員達は己の武器を手に持った。
「おのれレヴェリア!」
「殺してやるぞレヴェリア!」
「絶対に許さんぞレヴェリア!」
そんなことを口々に言いながら殺気立つ団員達に対して、レヴェリアは渋い顔で真実を告げる。
「お前達、もう散々言っているが……このたわけ女神の本性は単なる我儘な小娘だからな」
「戯言を!」
「妄言を吐くな!」
「そんなわけがないだろう!」
殺気がより増した団員達に対して、レヴェリアは溜息を吐きながらフレイヤの拘束を緩めた。
彼女はするりと抜け出して、頬を膨らませて涙目で宣言した。
「やっちゃえ!」
あ、こいつこの状況を楽しんでいるな――
レヴェリアは瞬時に察したが、フレイヤのことを女神として見ている団員達には分かる筈もない。
フレイヤの宣言に天を突かんばかりに士気を高めて、多数の団員達がレヴェリアへ襲いかかった。
そして、一瞬で全員が地に倒れ伏した。
誰も彼もがうめき声を上げており、レヴェリアが攻撃を加えたことは結果から分かるが、何をやったのかはまるで見えなかった。
あまりにもデタラメな状況にヘディンは目を疑った。
彼の隣にいるヘグニも目を丸くしており、状況についていけていないガリバー兄弟は呆気に取られ、フローメル兄妹は呆然としていた。
この8人が新しい眷族として、フレイヤがレヴェリアに紹介した者達だ。
ヘディンとヘグニの経緯を説明した段階でこうなったので、ガリバー兄弟とフローメル兄妹がどういう経緯で眷族となったのかはまだ説明していなかった。
「ふふ、さすがはレヴェリアね」
ついさっきまで涙目でふくれっ面だったフレイヤが、今度はドヤ顔でそんなことを宣った。
それを見たレヴェリアは軽く溜息を吐きながら尋ねる。
「おい、フレイヤ。ヘディンとヘグニのことはもう仕方がないとして……他に何かあるか? ガリバー兄弟とかフローメル兄妹はどっかから拐ってきたとかは無しだぞ?」
「アレンとアーニャは廃棄世界を彷徨っていたから拾ってきたの。で、ガリバー兄弟だけど……」
フレイヤの説明を聞いて、レヴェリアは微妙な表情となった。
ガリバー兄弟を解放する条件として、フレイヤは親方から四晩を共にするよう求められた。
しかし、レヴェリアの知らぬところで知らぬ男と寝るのはフレイヤにとってはNGである。
かといって【魅了】を使ったり眷族を動かすのも品がない。
故にフレイヤは考えた。
相手が何かをする前に暴発させてしまえばいい、と。
レヴェリアから教えてもらった異世界の知識、その中にはASMRなるものがあった。
その効果は既にレヴェリア自身で実証済みであり、三女神で一緒に彼女にやった時はとても凄いことになった。
これに加えて表情、仕草などといったものを駆使すれば問題なくできるとフレイヤは確信した。
果たして、その読みは正しかった。
親方は四晩全てフレイヤに触れることなく、野太いオホ声を出しながらアヘ顔を晒して無様に連続暴発することになった。
挙句の果てに、ガリバー兄弟に解放を告げに行ったら余計なことを言ったらしく、兄弟に惨殺されるという結末を迎えたという。
色々な意味で酷すぎて、レヴェリアは反応に困ってしまった。
「……あ、あのぅ」
その時、恐る恐る口を開いたのはヘグニだ。
彼の性格的に、こういった場で発言するようなタイプではない。
自身に視線が集まって、それに怯えながら彼は尋ねる。
「も、もしかして……その髪と眼の色、黒の王族の……」
「私がそうならば、もっと話題になっているだろう。だが、そうはなっていない」
「そ、そうですよね……」
レヴェリアの答えにヘグニは縮こまって口を閉じた。
よく問われてきた為、こうやってはぐらかすのは慣れたものだ。
レヴェリアは自らの素性が里によって公表されるのは、早くても50年は先だろうと予想していた。
王と氏族の長達による会議は里内のことを一つ決めるだけでも数年は掛かる。
一族の将来を左右しかねないものとなれば、それこそ50年60年どころか、100年かかっても驚きはなかった。
もっとも、今回ばかりはその予想が外れることになった。
ひとえにそれは、レヴェリアがベヒーモス討伐において多大な貢献をしたことが理由であった。
「では、書状を出すということでよいか?」
王の問いかけに氏族の長達は誰もが頷いた。
かつて、レヴェリアがフレイヤを連れてやってきたあの日以来、連日公表するかしないかということで議論が交わされてきた。
慎重派が優勢であったのだが、その風向きが変わったのはベヒーモス討伐である。
かつてアルヴ山脈を死守する為に戦った祖先達の如く、王女の大活躍。
さらにはレベル9という高みへ至ったことから、今公表せずにいつするのかと慎重派からも公表派へ転向する者が続出した結果だ。
「今回、白妖精に対する文言は組み込まない」
王の言葉に、長達は再び頷いてみせる。
三大冒険者依頼達成の為、足並みを揃えているところでそれを乱すようなことをすれば、世界中から不評を買う。
それは避けなければならなかった。
アスフィの設定に関しては捏造です。
フレイヤ・イシュタル・アフロディーテの三女神合同ASMRとか、絶対ヤバそう。