転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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勇往邁進

 

 

「……予想していたのと違う」 

 

 執務室にて、椅子の背もたれに身体を預けながらレヴェリアは呟いた。

 

 黒妖精は稀少な種族と言われていたが、今のオラリオではそこそこ見掛ける存在となっていた。

 レヴェリアに一目会いたい、と思う黒妖精は多く、世界各地に散らばっていた同胞達がやってきているのがその理由である。

 なお、彼女が発した声明をヘルメスとその眷族達が全力で世界各地へ広めたことから、黒妖精達は白妖精に対して過激なことをやってはいなかった。

 

 そのような状況であったのだが、フレイヤ・ファミリアにおける黒妖精はレヴェリアを除けばヴェナとヘグニだけで変わっていない。

 レヴェリアの予想では、フレイヤ・ファミリアに黒妖精達が入団希望で殺到すると思っていたのだが、まったくそんなことはなかったのである。

 

 悩めるレヴェリアに、声を掛ける者がいた。

 ソファに寝そべりながら、流行のデートスポットを纏めた雑誌を読んでいたフレイヤである。

 

「あなたの功績が大きすぎて、畏れ多すぎて無理ってなっているんじゃないかしら?」

「……実は入団希望者が殺到しているが、お前が密かに面接で弾いているとかは?」

「残念だけど、本当に希望者はいないのよ」

「そうか……」

 

 がっくりと項垂れたレヴェリアを見て、フレイヤはソファから立ち上がって彼女へ歩み寄る。

 そしてレヴェリアを横から抱きしめつつ、己の決意を告げる。

 

「いざとなったら、私が清楚真面目後輩系エルフのコスプレをするから……!」

「……気持ちだけもらっておく」

 

 その答えにフレイヤはむすっと頬を膨らませて、レヴェリアの長耳を弄り始める。

 そこであることに気がついた。

 

「そういえば最近、耳掃除をしていなかったわ」

「ん、頼む」

「任せて」

 

 意気揚々とフレイヤは早速準備に取り掛かる。

 レヴェリアの執務室には様々なものが常備されており、耳掃除に必要な道具も勿論あった。

 一方のレヴェリアは執務室のドアに休憩中という札を掛けた上で、さらに内側から鍵を掛ける。

 

 耳掃除の際は毎回こうしており、その理由は自身の安全の為だ。

 戦闘で負傷するのはいいが、耳掃除の最中に誰かしらがやってきて驚いたフレイヤの手元が狂って耳掻きが鼓膜をぶすっといく可能性は否定できない。

 そんなギャグ漫画みたいな事態を引き起こさない為の予防措置であった。

 

 準備万端となったフレイヤはソファに座って、自身の膝をぽんぽんと叩く。

 彼女の膝に遠慮なく頭を乗せて横を向いた。

 そしてフレイヤは手慣れた様子で、レヴェリアの耳掃除を始めた。

 

 

 

 

 

 耳掃除が終わった後、すぐに執務再開というわけではなかった。

 レヴェリアはフレイヤの膝枕を堪能し、フレイヤもまたレヴェリアの甘えている姿を堪能していた。

 水面下で準備が始まっているもののリヴァイアサン討伐はまだまだ当分先の話。

 ゼウスとヘラの合同遠征もしばらくはない為、レヴェリアは日課となっている鍛錬などをこなしつつ団長としての業務を処理する毎日だ。

 

「そういえば、あなたから貰っていた魔導書なんだけど……オッタルにご褒美としてあげたわ」

 

 元々オッタルはレベル6へランクアップ可能であり、また旅行から帰ってきてからダンジョンに篭って熟練度を伸ばしきった。

 しかし、そこでランクアップはせずにレベル5のままウダイオスを単独討伐した上で、レベル6へランクアップをしている。

 その理由はレベル5の時にレヴェリアがやったから、自分もやるというシンプルなものだ。

 他の冒険者に邪魔をされぬよう、ミアに出入り口の封鎖を頼むという徹底ぶりであった。

 なお、ドロップアイテムの黒剣は大剣として加工されて、フレイヤにより『覇黒(はこう)の剣』と命名されてオッタルの新たな武器となっている。

 

「あいつはよくやっているからな……魔法は発現したのか?」

「ええ、発現したわ」

 

 問いかけに対して、フレイヤはそう答えた。

 元々オッタルには魔法スロットが一つしかなく、またそのスロットも既に埋まっていた。

 だが、ここ最近レヴェリアが製作する魔導書は、魔法スロットの拡張が可能な最高品質のものであり、フレイヤがオッタルに渡したものもまたそうであった。

 その為、彼は魔法スロットを一つ拡張した上で2つ目の魔法を発現していた。

 

「次に戦う時が楽しみだ」

 

 レヴェリアがそう呟いた時、執務室のドアが叩かれた。

 休憩中の札が掛かっている時に、こうやってやってくるのは碌な事がないと彼女は知っていた。

 渋い顔となる彼女に対して、フレイヤが優しく頭を撫でながら声を掛ける。

 

「頑張って、レヴェリア」

 

 彼女の声援を受けて、レヴェリアはもそもそと動き出した。

 そして、彼女がドアを開けるとそこにはヘルメスがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……神ヘルメス、何か悪いものでも食べたのか?」

「酷いなぁ、レヴェリア様。オレのことを何だと思っているんだい?」

 

 レヴェリアの問いかけに、ヘルメスはそう返した。

 その言葉を聞いて彼女はフレイヤへ視線を向ければ、彼女は頷いて口を開く。

 

「だって、あなたがマトモなことを言ってくるなんて……先の『御触れ』のことといい、今回持ってきた話といい……まさか、どこかに残っていたディオニュソスの葡萄酒でも飲んだの?」

「さすがのオレも泣いちゃうぜ」

 

 ヘルメスはそう言って肩を竦めてみせる。

 

 世界各地に封印あるいは人類の生存圏から離れていることから放置されている、太古より生き残っている漆黒のモンスター達。

 そのモンスター達を、フレイヤ及びロキの両派閥合同で討伐して回る――というのがヘルメスが持ってきた話だ。

 

「リヴァイアサン討伐まで間が空くからね。今のうちに、片付けられるものは片付けておいたほうがいい」

「どうして私とロキに?」

「幾つか理由はあるんだけど……一番大きいのは、フレイヤ・ファミリアとロキ・ファミリアを世界各国にアピールすることさ。ゼウスとヘラに次ぐ派閥があるんだぞってね」

 

 ヘルメスはそこで言葉を切り、レヴェリアへ視線を向けて更に言葉を紡ぐ。

 

「フレイヤ・ファミリアにはレヴェリア様がいるから次ぐどころか、追い越しているような気もするけど……ともかく、派閥として名を売ってきてほしいんだ。どうかな?」

「私は別に構わないぞ。フレイヤ次第だ」

 

 ヘルメスからの問いかけに、レヴェリアはそう答えてフレイヤへと話を振った。

 

「いいわよ。ただし、期間は長めに貰うわ」

「構わないとも」

 

 単純に移動距離が長いから時間が掛かるというのもあるが、それだけではなかった。

 フレイヤは討伐ついでに旅行をするつもりであり、ヘルメスはその意図を正確に読み取っていた。

 会話が途切れたところを見計らい、レヴェリアが問いかける。

 

「神ヘルメス、私は戦わずに治療に徹すればいいか?」

「ああ、基本的にはミアちゃん達に任せればいい。手を出すのは緊急時だけに留めてくれ」

「分かった。ところで、ロキ・ファミリアにはもう話を持っていったのか?」

「持っていったよ。そしたら快諾してくれた。三首領がすっごくやる気だった」

 

 ヘルメスの答えを聞いて、レヴェリアは鷹揚に頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雄叫びを上げながら、オッタルはレヴェリアへ斬り掛かる。

 己の全てを駆使して、漆黒の大剣――『覇黒(はこう)の剣』を連続で振るうが、その全てを紙一重で避けられてしまう。

 彼女の腰に吊るされた長剣は未だに鞘から引き抜かれていなかった。

 戦闘開始から既に1時間が経過していたが、この光景は最初から変わっていない。

 

 だが、オッタルの心には諦めも迷いもない。

 追いつき、追い抜いてみせる――その信念はまったく揺らいでいない。

 

 やがて彼は頃合い良しと判断し、魔法を行使する。

 彼は1つ目の魔法――ヒルディス・ヴィーニが発現した時、レヴェリアから助言されていた。

 

 相手がこちらの動きや速さに慣れた頃、斬り合っている最中に魔法を使ってやれば不意を突くことができる――

 

 だからこそ、オッタルは並行詠唱を習得した。

 そういった方面の才能があまりない彼にとって何よりも苦しいものだったが、その苦労に見合った成果はあった。

 

 彼が今から唱えるのはヒルディス・ヴィーニではない。

 新たに発現した2つ目の魔法だ。

 

 勢いよく踏み込み、連撃を見舞うオッタルに対して涼しい顔で的確に避けていくレヴェリア。

 その最中、彼は攻撃の手を一切緩めることなく詠唱を開始した。

 

「【光輝燦然たる黄金、遥かなる頂き】」

「【仰ぐこの身は脆弱なれど、我が心に迷いなし】」

「【駆け登れ、果てなき道を――】」

「【スリーズル・グタンニ】」

 

 詠唱が終わった瞬間、オッタルの全身が淡い黄金色の光に包まれ――彼の動きが変わった。

 ヒルディス・ヴィーニが武器を強化する魔法であるのに対して、スリーズル・グタンニは身体能力を強化するシンプルな魔法だ。

 

 だが、これで終わりではなかった。

 彼は『獣化』を使用し、その能力をさらに大きく引き上げた上で――詠唱する。

 

「【銀月(ぎん)の慈悲、黄金の原野】」

「【この身は戦の猛猪(おう)を拝命せし】」

「【駆け抜けよ、女神の神意を乗せて――】」

「【ヒルディス・ヴィーニ】」

 

 覇黒(はこう)の剣が黄金色に染まり、オッタルは雄叫びを上げながら今の己が繰り出せる最強の一撃をレヴェリアに向けて放った。

 迫りくる斬撃を見て、彼女は満足気に微笑んだ。

 

 それは一瞬だった。

 レヴェリアは腰に吊るしていた長剣を引き抜いて、オッタルの大剣を真正面から受けて――力任せに上方へその刀身を弾く。

 大きく姿勢を崩されたオッタルは、彼女が無造作に振るった長剣が己の腹部を真横に斬ったのを目撃した。

 

 

 

 

「最後の一撃は良かったぞ。繰り出すまでに時間が掛かるのが欠点だが、アレはレベル6では対処できまい」

「そうか……」

 

 戦闘後、レヴェリアによって治癒されたオッタルは地べたに座りながら講評を聞いていた。

 彼はしかめっ面であるが、その理由は己が非力で惰弱脆弱であることに殺意を覚えている為だ。

 毎回そうである為、レヴェリアは特に気にすることなく、良かった点と悪かった点を述べていく。

 

 そして、最後に彼女は尋ねた。

 

「スリーズル・グタンニ、その効果は身体強化か?」

「そうだ」

「良い魔法だ。お前の戦闘スタイルに合致している……私も使わせてもらうぞ?」

「構わない」

 

 レヴェリアの問いかけに、オッタルはそう答えた。

 彼女が他人の魔法を使えることを知る者は多い。

 

 ベヒーモス討伐に参加していた眷族達は全員が知っていると言っても過言ではなく、また神々ではゼウスとヘラ、ヘルメスそしてロキが知っている。

 だが、その情報を外には漏らしていなかった。

 

「レヴェリア、昨日伝達されたロキ・ファミリアとの漆黒のモンスター合同討伐だが……まず俺1人で戦いたい」

「分かった。根回ししてやる……だが、1回だけだぞ?」

「それでいい」

 

 答えてオッタルは立ち上がり、漆黒の大剣を手に持った。

 

「もう一戦、頼む」

「勿論だとも」

 

 彼の言葉を受け、レヴェリアは快諾するのだった。

 

 

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