「リヴァイアサンは何処にありや? 全世界が知らんと欲す」
「急にお前は何を言っているんだ?」
レヴェリアの呟きに、隣にいたリヴェリアが思わず尋ねた。
現在、ゼウス・ヘラ・ロキそしてフレイヤ・ファミリアの主要な面々によるリヴァイアサン偵察の真っ最中だ。
ポセイドン・ファミリアの船に乗り、意気揚々とリヴァイアサンが生息している海域へ赴いた。
沿岸からさほど離れていないとのことで、1時間程で到着したのだが――そこにはポセイドン・ファミリアの監視船が数隻いるだけで、リヴァイアサンの姿は影も形もなかった。
レヴェリアの発した言葉は心からのものであり、リヴェリアも意味を問いかけはしたものの同じ気持ちである。
「リヴァイアサンを追い立てるのは、ポセイドン・ファミリアに任せるのが良いだろう」
発展アビリティ『潜水』は水中での長時間活動において必須だが、オラリオでは発現している冒険者が皆無に等しい。
そもそもそういった経験を積む機会がほとんどないから当然であるが、一方でポセイドン・ファミリアのレベル2以上の団員達は全員発現していると言っても過言ではなかった。
【英傑】の言葉に、【女帝】は同意しつつもレヴェリアへと視線を向ける。
「【
「私は何でもできるわけじゃないんだが……」
そう言いつつも、レヴェリアに案がないわけではない。
「海上におびき出すなら、爆弾を大量に作って海中へ投下して爆発させるのが一番安上がりで手っ取り早いと思うぞ」
「欠点は?」
「私の仕事が増える以外に特にない」
「じゃあ問題ないわね」
「海に叩き込んでもいいか?」
睨みつけるレヴェリアに、面白いとばかりに笑みを浮かべる【女帝】。
レヴェリアが同じレベルに至ったことで、彼女も【英傑】も他の幹部達も誰もレヴェリアの敵たり得なくなってしまった。
しかし、その闘争心は衰えていないどころか、追い抜かれたことでかつてないほどに高まっている。
「うーん……まだかな?」
フィンは呟きながら、船べりから身を乗り出して海面を眺める。
リヴァイアサンとて永遠に海中に潜っているというわけではなく、1日に数回は浮上してくるとポセイドン・ファミリアの案内役からは教えられていた。
昨夕に浮上して以降、一回も浮上していないとのことである為、そろそろ浮上するのではないかと聞いていた。
「レヴェリアお姉様、そんな怖い人よりも私達と遊びましょ?」
「レヴェリアお姉様ったら、お仕事が忙しくて私達に全然構ってくれないんだもの。寂しいわ」
ディナとヴェナの言葉に、【女帝】と睨み合っていたレヴェリアは微笑を浮かべて手招きする。
姉妹が駆け寄るとすかさず抱っこして、あやし始めた。
すると2人はすぐに機嫌を直して、きゃっきゃと喜んでいる。
そんな彼女達を見て、ミアは呆れて溜息を吐く。
そんなことをしているフレイヤ・ファミリアの面々を横目に見ながら、ガレスが尋ねる。
「なぁ、フィン……いっそのこと、釣りでもするか? リヴァイアサンが釣れるかもしれんぞ?」
「それは良い案だね。問題は、本当に釣れちゃったらヤバいってことだけど」
ガレスの軽口に、フィンが返した直後――船の右舷側、数百M程離れた海上が大きく盛り上がった。
「リヴァイアサンだ!」
「出てきたぞ!」
ポセイドン・ファミリアの団員達の叫びを聞きながら、偵察隊の面々は誰もが右舷側へ走り、船べりから身を乗り出す。
膨大な水飛沫を上げながら、海の覇王が威容を露わにする。
「……ベヒーモスと同じくらいにデカくないか?」
レヴェリアの問いかけに、誰もが頷いてみせる。
「的が大きいから攻撃を外すことはない……ポジティブに考えるしかないだろう」
「問題はどのくらいの速さで動くか、防御力はどの程度かだが……」
【英傑】と【女帝】が話しているうちに、リヴァイアサンは海上を滑るように動いていき、やがて海中へと姿を消していった。
レヴェリアは思う。
超巨大な原子力潜水艦みたいだな、と。
なお、黒竜は超遠距離まで届く上にバカみたいな威力を誇るブレスを放てることが既に分かっている。
フローメル兄妹の故郷が犠牲となったことで判明した事実だ。
兄妹の故郷はレヴェリアも何度か訪れたことがある大国であり、風光明媚なところだった。
黒竜が封じられているのは世界の果てと称される竜の谷、その最奥。
そこから兄妹の故郷まで、直線距離にして数十Kどころか100Kを超えている。
距離の減衰があっても広大な国を一瞬で消し飛ばすブレス、それは重大な脅威だ。
極論すれば、その場から黒竜が全方向にブレスを放つだけで竜の谷を中心として半径100Kは灰燼に帰すと言っても過言ではない。
また、最悪の予想もある。
そんな可能性がありうる黒竜は、生まれ落ちる世界を間違えているような気がしてならないレヴェリアであった。
ともあれ、先の黒竜よりも目の前のリヴァイアサンである。
「ポセイドン・ファミリアが大掛かりな足場を組むと聞いているが、海上というのがやはり厄介だ」
レヴェリアの言葉に、一同は同意する。
「陸地の方へ追い込むだけでも相当な被害が予想されるだろう」
「魔剣で海を凍らせるとしても、何かの拍子で割れたら困るわ。できるだけ陸地に近づけてからやりたいわね」
【英傑】、【女帝】をはじめ各人があれこれと感じたことや考えを述べていく。
それを聞きながら、レヴェリアは告げる。
「ベヒーモスの時と同じように、私がリヴァイアサンの前に立とう」
黒の王女、さらりと爆弾発言。
ただのダークエルフであったベヒーモスの時ならばともかく、今回は王女であることを誰もが知っている。
「馬鹿者! 何を考えているんだ!」
真っ先に反応したのはリヴェリアであった。
彼女からすれば、レヴェリアは同じ立場にある唯一無二の存在であり、また親しい間柄だ。
純粋な心配だけでなく、もしも万が一のことがあってしまったらという恐怖があった。
そんな彼女の瞳をまっすぐに見つめ、レヴェリアは毅然とした態度で告げる。
「私以外に適任はいないだろう。自分で言うのも何だが、私1人でファミリア1つ分の働きができるぞ」
「それでも1人でやることはないだろう!」
「ブレスの回避や予想外の攻撃行動への対応は、1人の方が気楽なんだ。周りを気遣わなくていいからな」
「それはそうだが……」
リヴェリアは言葉に詰まる。
ベヒーモス討伐の時、間近で見ていたからこそ事実だと嫌でも理解できてしまう。
何も言えず、柳眉をハの字にして困り顔となるリヴェリアに対して、レヴェリアは畳み掛ける。
「私にこれだけの力があるのは、こういう時に先頭に立つ為だ。だから、その義務を果たさせてくれ」
「……そう言われたら、反論できないではないか」
顔を俯かせたリヴェリアに、ゆっくりと歩み寄ったレヴェリアは優しく抱きしめる。
その行動にリヴェリアはびくりと身体を震わせて驚くが、拒むことはない。
「大馬鹿者め……」
「すまない。だが、この役目を誰にも譲るつもりはない」
リヴェリアの言葉に、そう返すレヴェリア。
何やらいい雰囲気になっているが、ここにいるのは彼女達だけではない。
故に、レヴェリアは最後にリヴェリアの背中を数回ポンポンと軽く叩いて、彼女から離れた。
レヴェリアの一連の行動に、見ていた側は呆れたり肩を竦めたり、あるいはディース姉妹は私達もやってもらいたい、と羨望したりと様々な反応であった。
そんな彼等彼女等に対して、レヴェリアは尋ねる。
「私がリヴァイアサンの正面に1人で立つ。それで、構わないか?」
その問いかけに対して、異論を唱える者は誰もいなかった。