「私は頑張ったよな……?」
レヴェリアが同意を求めれば、対面に座っているリヴェリアは呆れた顔をしながらも頷いてみせる。
2人は定期的にお茶会をしたり、あるいは食事やショッピングを共にする間柄だ。
今回はレヴェリアの誘いで、彼女おすすめの個人経営の食堂にて昼食を共にしていた。
「最低でも100発は必要だとお前は言っていた。だが、1ヶ月で300発も作るとは……」
「海中でリヴァイアサンを殺し切ってやると必殺の念を込めていたら、つい……」
「必要なのは分かるが、そこまで作る必要があったか? 1発あたりの重さも相当なのだろう?」
「計算上、大型船ならば1隻あたり30発程度は積めるから問題ない」
リヴェリアの問いに対して、レヴェリアは淀みなく答えた。
大小合わせて数十隻のポセイドン・ファミリアの船に討伐隊は分散して乗船する予定であり、大型船に爆弾を積むことになっている。
船舶ごとにどの程度の積載量があるかも事前にポセイドン・ファミリアから教えてもらっており、戦闘機動を考慮して余裕をもたせても大型船ならば30発は積める計算になっていた。
また、以前より建造が進められていた大掛かりな足場も完成間近であるとレヴェリアは最近、ヘルメスより聞いており、その際に完成予想図として渡されたものを見る限りでは足場ではなく海上要塞のようであった。
もっと早く、それこそ設計段階から自分に話を持ってきてもらえていたならば、と彼女には悔しさがある。
前世の色んな知識を活かして、万里の波濤を乗り越える浮かべる黒鉄の城を作り上げてみせよう、と。
完成予想図にあるような、あんな三段重ねパンケーキみたいなものにはしなかったのに、とそんなことを彼女は考えた。
それはさておき、レヴェリアとしては爆弾300発でも殺し切るには足りないかもしれないという考えがあった。
「実際、これでも殺し切るには不足する可能性がある。ベヒーモス程ではないといえ、防御力も生命力もそこらのモンスターとは比較にならないだろうからな」
「そう言われると否定できないな……」
レヴェリアの言葉を聞き、リヴェリアもまた理解を示す。
そんな彼女に対して、レヴェリアはおもむろに尋ねた。
「ところで、熟練度の伸び具合はどうだ?」
アルフィアもオッタルも三首領も、ゼウスやヘラのレベル7以上の団員達に果敢に挑み、あるいはダンジョン篭もりを長期間実施するなどしていた。
常に格上の敵を追い求め貪欲に戦ってきた面々だが、未だレベル7には至っていない。
だが、ベヒーモス討伐前にも行われた合宿――フレイヤ・ファミリアにおける『洗礼』を真似たもの――が10日後から始まる。
なお、今回はゼウス・ヘラ・ロキ・フレイヤの各派閥におけるレベル3以上の団員は原則全員参加――レベル2以下は希望者のみ――するのだが、この四派閥以外の派閥からも多くの参加者がいた。
リヴァイアサン討伐が終われば、いよいよ次は黒竜との戦いとなる。
黒竜討伐の為には膨大な数の竜達が――推定レベル5以上の個体も山ほど――いる竜の谷の最奥まで道を切り開き、討伐隊が帰還するまで維持し続ける必要がある。
四派閥の団員だけでは到底足りない為、ゼウスとヘラが信頼できる神々に声を掛けて協力を取り付けていた。
「上々だ。問題ない」
リヴェリアの答えを聞いて、レヴェリアは鷹揚に頷いてみせる。
そんな彼女に、今度はリヴェリアが尋ねる。
「お前の方は大丈夫なのか? あまり鍛錬ができていないのでは……?」
「爆弾製作やら何やらで、時間が取れなかったのは事実だ。だが、ここから取り戻す。問題はない」
その物言いに引っ掛かりを覚えたリヴェリアは、更に尋ねる。
「何をするんだ?」
「明々後日から合宿直前まで【英傑】、【女帝】と58階層で戦ってくる」
「またジャガーノートが犠牲になるのか……」
リヴェリアが何とも言えない表情でもって呟いた。
かつて、その3人によって発見され、27階層で出現した際には色々と検証された恐竜の化石に似たモンスターはギルドによってジャガーノートと名付けられていた。
ドロップアイテムがない癖にやたらと強い、まったく旨味のない稀少種という形で公表されている。
ダンジョンの階層を大規模に破壊することで出現するという事に関しては悪用されない為に伏せられているが、そもそも出現条件が分かっている稀少種がほとんどいない為に疑われることはなかった。
なお三首領にとって、ジャガーノートは強いが不運なモンスターという印象だ。
【英傑】、【女帝】、レヴェリアの三者が揃っている時に出現してしまい、いいようにされていた光景が脳裏に焼き付いていた為に。
「ちょっと壊したくらいで、過剰に反応するダンジョンが悪い」
しれっとそんなことを宣ったレヴェリアに、リヴェリアは思わず首を傾げてしまう。
どう考えても『ちょっと』ではない。
ジト目で見つめるリヴェリアに対して、レヴェリアは素知らぬ顔でグラスに注がれていたアルヴの清水を飲み干した。
リヴェリアとの昼食後、ショッピングを楽しんでホームに帰宅したレヴェリア。
彼女が自室に入ると、フレイヤがいたがそれはいつものことである。
だが、部屋にいたのは彼女だけではなかった。
「ようやく帰ってきたか」
「まったく、この私をこんなにも待たせるなんて……」
何故かイシュタルとアフロディーテがソファに座って寛いでいた。
思わずレヴェリアはフレイヤをまじまじと見つめるが、にこにこ笑顔で彼女は告げる。
「ここ最近、朝から夜中まで爆弾作りでご無沙汰だったでしょ? 合宿が始まったらしばらく会えなくなるから……彼女達も誘っちゃった」
てへぺろ、と舌を出してみせるフレイヤ。
なるほど、とばかりにレヴェリアは頷いてみせる。
このメンツが集まったら、やることは一つしかない。
レヴェリアとしてもそれは望むところだ。
「いきなりヤるのも味気ない。だから、一つ面白いことをしようと思う」
ニヤニヤとした笑みを浮かべたイシュタルはそう前置きし、僅かな間を置いて告げる。
「レヴェリア、この中で誰が一番美しい?」
誰を選んでも角が立つ質問であるが、ハーレムを作るならば問われる可能性がとても高いものだ。
意外にも、これまでこの質問を3柱がしたことはなかった。
今回あえてイシュタルが尋ねたのは、レヴェリアが困る姿を見て楽しみ、答えに窮するところをネチネチと責めたてた後に美味しく頂こうという魂胆だ。
半年以上、レヴェリアは爆弾の製作・量産によってホームにずっと篭っていた。
忙しいというのはイシュタルも分かっていたが、それでも会いに来ないのはケシカラン、オシオキしてやろうという思いである。
アフロディーテもフレイヤも、イシュタルの狙いに気がついたがフォローするようなことはしない。
面白そうな気配しかなかった為に。
だが、ここで女神達の予想を上回ることが起きる。
「一番美しいのはイシュタル様だ」
躊躇のない即答であった。
これには三女神とも呆気にとられてしまう。
「え、マジで?」
「ああ。私は一番美しいのはイシュタル様だと思っているぞ」
思わず尋ねたアフロディーテに、レヴェリアは大きく頷いて肯定してみせた。
その言葉に嘘はないことが三女神達には分かる。
イシュタルはみるみるうちに口角がつり上がっていき、これまで誰も見たことがないような満面の笑みを浮かべた。
「そうかそうか! 私が一番美しいか!」
踊り出しそうな程に超ご機嫌となったイシュタルは、手招きしてレヴェリアを傍に来させるとそのまま豊満な胸に顔を埋めさせて頭を撫で始めた。
美しさでフレイヤの
これが嬉しくないわけがない。
しかしながら、レヴェリアの答えにフレイヤとアフロディーテが黙っているわけがなかった。
「ちょっとレヴェリア、じゃあ私は何なのよ?」
「アフロディーテは一番きらきらと輝いているんだ。この世に2つとない、唯一無二の宝石のように」
ムスッとした顔で尋ねたアフロディーテに、これまた躊躇なく答えたレヴェリア。
当然、そこに嘘偽りはない。
表現を変えて美しいと言っているようなものだが、そのニュアンスに違いがあった。
「よく分かっているじゃないの!」
そう言って、嬉しそうに笑みを浮かべて満足気に頷くアフロディーテ。
そして、いよいよフレイヤの番となる。
これまでの流れ的に、レヴェリアがどうやって褒めてくれるのかなとワクワクしながら彼女は尋ねる。
「じゃあ、私は?」
「一番愛嬌があって可愛い」
その答えに、フレイヤは目を大きく見開いて――やがて、にんまりと笑みを浮かべ、ウンウンと何度も頷いた。
この後、レヴェリアが三女神達によって貪り食われたのは言うまでもなかった。