「さて、どうなるかな……?」
思わずレヴェリアの口から、そんな言葉が零れ出てきた。
つい先程まで彼女は船に括りつけられた簡易なソナーを使い、リヴァイアサンの大まかな位置を割り出していた。
リヴァイアサンは巨体であり、海中を進む音も相応の大きさとなる。
それゆえ、ラッパに長いパイプと聴診器をつけた急造品でもどうにかリヴァイアサンを探知することに成功したのだ。
もっとも深度がどのくらいかまではさっぱり分からない為、レヴェリアは己の幸運を信じて全ての爆弾の深度を事前に調定してあった。
無論、各船の投擲要員には深度調定の方法を教えてある為、変更も随時可能だ。
今しがた、爆弾を積んでいる船に対して手旗信号によって方位と距離及び攻撃開始が伝えられた。
この船ではレヴェリアが爆弾を投げ込む為、彼女は専用の箱に収められた3M近い流線形の爆弾を取り出す。
爆弾の側面には『オラリオより愛を込めて。ぶっ飛べクソ魚』とペンキで書かれている。
これは今朝方、レヴェリアが提案したものだ。
爆弾1発1発にリヴァイアサンへのメッセージを書こう、と。
面白い、と誰もが賛同して各々が好きなコメントを書いていた。
レヴェリアは爆弾を軽々と持ち上げて、リヴァイアサンがいると思われる方向目掛けて投げる。
まず1発ずつ投擲し、爆発を確認してから2発目を投げ込むという手筈だ。
爆弾は10隻の船に30発ずつ積み込んであり、投擲要員は全員レベル9という豪華な布陣であった。
レヴェリアは今更ながらに思う。
何でファンタジー世界で爆雷を使った対潜戦をやっているんだろうと。
彼女自らが提案しておいて何だが、もうちょっとこうファンタジーな要素で解決できたような気がしなくもないと思う今日この頃であった。
そんなことを考えているうちに、各船から投擲された爆弾が次々と海面に着水して没していく。
討伐隊を乗せた各船は、陸地方向を除いたリヴァイアサンの生息海域を取り囲むように配置されている。
例の足場は沖合側に設置されており、そこには討伐隊の本隊が手ぐすね引いて待機していた。
今回の作戦は沖合から追い立てて、陸地側へ追い込んでいくというものだ。
早い話、リヴァイアサンの追い込み漁である。
やがて、腹に響くような重い音と若干の揺れと共に船から離れた海面が大きく盛り上がり、十数Mにも達する巨大な水柱が立ち昇る。
そこから僅かなタイムラグで他船から投擲された爆弾が爆発して、水柱が立ち昇っていく。
深度の調定が間違っていなければいいんだが、とレヴェリアは内心ヒヤヒヤであったが――それは杞憂となる。
全弾爆発から1分程が経過し、そろそろ2発目の爆弾を投下しようかとレヴェリアが考え始めたその時だった。
巨体が勢い良く海中から飛び出し、海の覇王は陽光の下に露わとなる。
全長数百Mを誇るリヴァイアサンはベヒーモスより多少小さいものの、その威容は勝るとも劣らない。
即座に、各船及び足場の本隊からは魔剣が海面目掛けて撃ち込まれていく。
この日の為に用意された膨大な数の魔剣、それを全て使い切るかのような盛大さだ。
しかし、この海面凍結作業にレヴェリア含む投擲要員達は参加していなかった。
リヴァイアサンが妨害行動に出ると予想していた為に。
300発を使い切る前に、さすがに海中から出てくるだろうから余った爆弾でリヴァイアサンを牽制してやろう、と事前に決めてあった。
瞬く間に海が凍りついていく中、リヴァイアサンの口腔内に青白い光が見え始めた。
ブレスがくる、と誰もが直感したその時、レヴェリアをはじめとした各船の投擲要員達は爆弾を1発ずつリヴァイアサン目掛けてぶん投げる。
恐ろしい速度で迫る爆弾であったが、それが着弾する寸前にそのブレスは放たれた。
直撃どころか掠っただけでも即死する威力が篭った破壊の一撃。
その射線上には1隻の船があったが、リヴァイアサンの顔や胴体に爆弾が次々とぶち当たり、衝撃によって次々と爆発を起こす。
それによってブレスそのものが消え去ったが、リヴァイアサンは怒りの咆哮を上げる。
この間にも、船や足場からは討伐隊とそのサポーター達が得物や物資を持って、凍りついた海面へ続々と降り立っていく。
そして、彼等彼女等は魔剣を使って海面凍結を進め、前進路を作りながらリヴァイアサンへ向かって各方面から進んでいく。
船員であるポセイドン・ファミリアの団員達は物資を降ろした後、戦闘の影響が及ばない場所へ退避する手筈だ。
攻撃予兆動作をする度、リヴァイアサンに爆弾をぶち当てて怯ませながらレヴェリアは思う。
前世にあったゲーム、あれもモンスターを狩るものだったなぁ、と。
そんなことを考えながら、彼女は味方の展開及び準備が完了するまで待つ。
レベル9としての身体能力を活かせば、船からリヴァイアサンの目の前まではあっという間だ。
準備完了の合図は至極単純。
フィン・ディムナの声だ。
乱戦状態だろうが 彼の声はよく届く。
そういうスキルを持っているんだろう、とレヴェリアは予想しながら時機を待つ。
討伐隊の面々による牽制攻撃は、そうとは思えないほどに壮絶だ。
【英傑】と【女帝】を筆頭にレベル9やレベル8がゴロゴロいる為、そうなるのも必然であった。
準備完了前に討伐できるんじゃないか、とサポーター達やポセイドン・ファミリアの面々に思わせる程に熾烈にして苛烈。
誰も彼もが闘志をこれ以上ないほどに漲らせていた。
そうさせる理由は、リヴァイアサン討伐という使命に対するものや討伐によって得られる名誉や富というものもあるが、一番大きなものはレヴェリアへの対抗心だ。
彼女が来る前に終わらせてやろう。
ベヒーモスの時みたいに良いところを独占されてなるものか。
そういう気概でもって討伐隊の面々はリヴァイアサンを果敢に攻め立てるが、敵は海の覇王と称される怪物だ。
ベヒーモスよりは劣るとはいえ強い再生力とベヒーモスよりも硬い鱗の防御力。
それを活かして無理矢理リヴァイアサンが動き出そうとした瞬間――フィンの声が戦場に響き渡った。
「準備完了っ!」
瞬間、レヴェリアは弾かれたように動いた。
「ご武運を!」
「ぶちのめしてやれ!」
「ありがとう! そちらも気をつけてくれ!」
後方より聞こえる船員達からの声に、振り返ることなくレヴェリアは叫んで答えながら氷上に降り立ち、疾駆する。
他船からも投擲要員となっていたレベル9の冒険者達が同じようにリヴァイアサンに向かって駆け出していたが、彼女が圧倒的に速い。
【魔導の足跡、叡智の鼓動。昔日の彼方に忘却された煌めき。起動せよ――グリモワール】
再現の準備を整えた上、レヴェリアは詠唱を開始する。
凍結した海面を溶かさないよう、彼女が選んだのは雷の砲撃魔法。
膨大な魔力の高まりを感じ、討伐隊の面々がレヴェリアに気づいて次々と射線を開ける。
【突き進め雷鳴の槍。代行者たる我が名は
リヴァイアサン目掛けて豪雷の砲撃が放たれて猛速で向かっていくが、彼女は結果を見ることなく二撃目に取り掛かった。
再び
【閃光よ駆け抜けよ。闇を切り裂け。代行者たる我が名は
短文詠唱とはいえど、精霊の魔法。
そして、それを行使するのはレヴェリアである。
数々のスキル、バカみたいな熟練度によって極大にまで高められた砲撃魔法は、バロールすらも消し飛ばす程の威力を誇る。
だが、敵は海の覇王だ。
サンダー・レイ、ライト・バーストを立て続けに食らい、さすがにダメージを受けているが致命傷には遠い。
「やはり予想が当たったか……」
戦況を見てレヴェリアは【ボルカニックノヴァ】を連射しながら、足を止めることなく小刻みに動き回る。
ベヒーモスより体躯は小さく、再生力も弱いが――それ以外のスペックはリヴァイアサンの方が上だ。
ベヒーモス討伐時よりも戦力が充実しているにも関わらず、現状では拮抗している。
三大冒険者依頼と一括りにされているが、その中でも強さに差があるのではないか、と以前から予想されていた。
それが正しかったことが今まさに証明されている。
レヴェリアは何気なく呟く。
「もしもレベル9やレベル8がもっと少なく、それこそレベル7やレベル6が主力であったならば、薄氷の勝利になっただろうな」
その場合はリヴァイアサンどころかベヒーモスの時点で、大きな被害を出しただろう。
もしかしたら、
そんなことを考えながらも、レヴェリアは攻撃を加えて己の役目を全うせんとする。
リヴァイアサンの注意を自らに引きつけて、その向きを固定するのが彼女の役割。
氷上ということもあって、足場が良いとは言えないが――毒がないというだけで精神的には気楽である。
しかしながら、嵐の前の静けさという言葉がある通りに、レヴェリアも含めて討伐隊の面々はこれで終わるわけがないとある種の確信を抱いていた。
そして、その予想は見事に的中することになった。
リヴァイアサンの全身より、無数の鱗が四方八方に飛び散った。
小さいものでも数十C、大きなものとなれば1M程にもなる鱗が、弾丸と化して討伐隊に襲い来る。
回避だの防御だの、あちこちから絶叫が響き渡る中でレヴェリアは待機させていた治癒魔法を発動した。
瞬時に展開される黄金色のドーム。
レヴェリアの代名詞たる魔法が討伐隊の大半をその範囲内に収めたところで、それは起こった。
リヴァイアサンの全身から白い霧のようなものが凄まじい勢いで吹き出していく。
ただの霧とは思えなかったが、その効果は驚くべきものだった。
レヴェリアを中心として超広範囲に展開されたドームが霧によってかき消されていく。
アンフィス・バエナの紅霧みたいなものか、と討伐隊の誰もが予想したが――そんな生易しいものではないことがすぐに判明した。
魔法が使えない、という悲痛な叫びがあちこちから上がる。
範囲内における魔法無効化、視界の大幅制限、そして海上を吹く強い風によって流されることもない――少し観察しただけで、そういった厄介な特徴が分かってしまった。
どんな攻撃をしてくるか、討伐隊はあれこれ予想していたが――これはさすがに予想外だった。
マズイと誰もが思ったその瞬間、霧によって覆い隠されて朧に見えるリヴァイアサンより再び鱗が全方位に向けて発射された。
視界不良かつ魔法無効化領域内で、高速で迫りくる弾丸と化した無数の鱗。
討伐隊にとっては致命的な、リヴァイアサンにとっては必殺の一撃。
レヴェリアが口にした、レベル9やレベル8がもっと少なかったならば。
レベル7やレベル6が主力であったならば。
その程度であればリヴァイアサンにとって、どれほど集まったところで取るに足らない存在であり、己の生命を脅かす脅威と認めるのはかなりの時間が経過してからだろう。
それこそ、小さなダメージの積み重ねによって気付いた時には全力を出そうにも出せない程に消耗していた可能性すらある。
しかし、リヴァイアサンは度重なる痛烈な攻撃により、早々に脅威と認めた。
矮小な人類共に鉄槌を下すべく、己が持ちうる全能力を駆使することに決めたのだ。
己の動きを制限する凍結した海面を巨体と膂力でもって無理矢理砕きながら、天地全てに木霊するかの如き大咆哮を上げる。
その威容たるや、まさしく海の覇王と称されて恐れられるに相応しきものであった。
分かりやすい本作リヴァイアサン戦
ゼウス・ヘラ・フレイヤ・ロキ「えいっえいっ(ドカっバキっベキっボカっちゅどーん!!)……怒った?」
リヴァイアサン「死ね(殺意MAX)(初手から全力全開)(体力に余裕あり)」