転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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勇者

 

 リヴァイアサン討伐、その知らせはオラリオだけでなく世界中を瞬く間に駆け巡った。

 【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】、【英傑】、【女帝】といった錚々たる面々が討伐隊に名を連ねていたが、討伐の立役者はその誰でもなかった。

 

 誰もが驚愕した。

 討伐のきっかけとなったのが、小人族のフィン・ディムナであることに。

 これによって彼の名は世界中に響き渡り、また小人族に希望の火を灯すことになった。

 

 オラリオの誰もが討伐隊の帰りを今か今かと待ち構え――遂に帰ってきた。

 勇者(フィン・ディムナ)を先頭に、誰一人欠けることなく帰ってきたのだ。

 

 

 

 

 

  

 

 黄昏の館、その神室ではフィンがステイタス更新に臨んでいた。

 オラリオに帰ってきて、大歓声で迎えられたのはつい数時間前のこと。

 既にオラリオ各地では飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎとなっている。

 

 夜にはギルド主催の祝勝会を控えており、明日以降も様々な行事が目白押しだ。

 ロキもしばらく酒を浴びるように飲むことが確定している為、片付けや報告が一段落ついた今のうちに、希望者全員のステイタス更新をすることとなった。

 既にリヴェリアとガレスは更新を終えており、2人共ランクアップはしていないものの熟練度が大きく伸びていた。

 

 ロキは手慣れた様子で経験値を反映させていき、ランクアップができることを確認した瞬間、あらん限りの大声でもって叫んだ。

 

「レベル8きたぁああああああ!」

 

 そのまま奇っ怪な踊りを始めたロキに対して、フィンは苦笑してしまう。

 

「ロキ、熟練度の伸びはどうだい? それによってはランクアップの保留も考えないといけない」

「何でそんなに冷静なんや!? あと、熟練度はバカみたいに伸びとるで! これならランクアップしても問題ないやろ!」

「発展アビリティは?」

「【疾走】っちゅうのが発現可能やで! たぶん速度上昇系やろ! あとスキルもあるで! ぶっ壊れや!」

 

 ロキはそう言いながら、そのスキルを羊皮紙に書き写す。

 

 真勇邁進(ブレイバー)

 逆境時、全能力超高補正。

 『勇気』伝播。

 発現者の一定範囲内に存在する同族の全眷族への全能力加算及び所持スキル・魔法効果増幅。

 発現者の一定範囲内に存在する全眷族への精神汚染に対する中抵抗付与。

 常時発動(パッシブ・オン)

 加算値・増幅値・付与率・効果範囲は階位反映。

 

 スキルの詳細を見て、フィンは軽く息を吐いた。

 いつもの澄ました感じを崩していない彼だが、長年の付き合いであるロキには分かる。

 

 無茶苦茶喜んどるやんけ、と。

 

 嬉しさが隠しきれず、微かに体が震えているし、またその澄まし顔が崩れつつあった。

 

「フィン、素直に喜んでええんやで?」

「だ、大丈夫さ。問題ない……こ、この程度、これから先の果てなき道を進む為に必要なものを、ようやく得たに過ぎないから……」

 

 ようやくスタートラインに立てた、と言いたいらしいフィンに対して、ロキはニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「そうやな。んで、本音は? 長い付き合いやし、うちくらいにはええやろ?」

「……すっごく嬉しい。スキルの効果もそうだけど……その、スキル名が……何より嬉しい」

 

 その言葉とともに澄まし顔が完全に崩れて、フィンは満面の笑みを浮かべた。

 ロキであっても、これまで見たことがないほどのものだ。

 

 にしし、とロキは笑った後、尋ねる。

 

「んで、ランクアップでええか?」

「ああ、頼む」

 

 その言葉を聞いてロキは頷いた後、いやらしい笑みを浮かべる。

 碌でもないことを考えているな、とその顔を見たフィンは思った時、すぐにその予想は当たることになった。

 

「ところで、レヴェリアちゃんに愛の告白をしたってマジなん? 惚れた女にカッコいいところを見せようとしたんか!? ランクアップの原動力はそれなんか!?」

 

 何だか盛り上がっているロキに対して、冷静にフィンは尋ねた。

 

「その話、誰から聞いたの?」

「ガレスやで! ステイタス更新の時に言ってたんや!」

 

 犯人を知り、フィンは肩を竦めてみせる。

 あの日、レヴェリアとの会話が終わり戻ったところで、赤ら顔のガレスがそんなことを言ってからかってきた記憶があった。

 彼が面白がってロキに伝え、彼女もまた分かっていてからかっているのだろう――フィンはそう考えた。

 

「そういうものではないよ。彼女に勇者とは何か、尋ねただけさ」

「何やつまらん。フィンがレヴェリアルートに突入したんかと思ったんに」

「彼女が男を作るなんて、天地がひっくり返るんじゃないかな?」

 

 フィンの問いかけに対して、ロキは溜息を吐く。

 そして、彼女はビシッと彼を指さして告げる。

 

「この性癖ピュアボーイめ! 男の子でも女の子として扱えば、女の子になるんやで! 覚えときや!」

 

 彼女が何を言っているか分からないが、変なことを言われたのは分かったフィンは、にっこりと笑って尋ねる。

 

「殴っていいかい?」

「おっと、それは勘弁や。まあ、レヴェリアちゃんの性癖は天界基準やからなぁ……さすがにフィンでも分からんか」

 

 何やら訳知り顔のロキを、フィンはジト目で見つめる。

 その視線に対して、ロキはいやらしい笑みを浮かべた。

 

「うちはレヴェリアちゃんにとって、近所に住んでいる酒癖が悪くてだらしないけど、気さくで親しみやすくて、決める時は決める策略系黒幕お姉さん的存在やで」

「その長ったらしい肩書は自称かい?」

「いんや、レヴェリアちゃんのうちに対する評価。本人が言ったんやで」

 

 彼女の答えに、フィンは天井を仰いだ。

 知りたくなかった、そんな情報――というのが彼の本音である。

 ロキは更に言葉を続ける。

 

「前々から、あの子とうちは色んな意味で交流を深めて情報交換をしてきたんや。だから色々と知っとるで」

  

 レヴェリアから提供される情報は都市外のものが主だ。

 リヴァイアサン討伐やその準備があったことで間が空いているが、直近では西カイオスのワルサという国が勢力伸長を目指して軍拡を最近始めた、といったものが提供されていた。

 対するロキは、降臨している神々が天界ではどう振る舞っていたかなど、主に神に関する情報を提供していた。

 

「実は、レヴェリアちゃんは舌がちょっと長いんやで。あの体、あの性格、あの顔でさらに舌が長いとかもう存在がドスケベ過ぎる。下界に生まれたドスケベの女神や」

 

 『色んな意味で交流を深めてきた』の『色んな』には、そういった意味も含まれているので、これに関してはロキの妄想などではなかった。

 アホなことを言いながら好色な笑みを浮かべている彼女に対して、フィンは溜息を吐く。

 

「馬鹿なことを言ってないで、早くやってくれないか?」

「ええで。任せとき」

 

 さすがのロキもそう答えて、真面目に作業に取り掛かる。

 そして、彼女は何気なく彼に尋ねた。

 

「なぁ、フィン。これからどうするんや?」

「これまで通り……いや、これまで以上に『前』へ進むだけさ」

「間違えたりしたらどうするん?」

「頭を下げて、やり直すだけさ」

 

 フィンはそう答えて、微笑んだ。

 そんな彼に対して、ロキもにっこりと笑って――あることを尋ねる。

 

「なぁ、フィン……やっぱりバルドルにお礼せなあかんよな?」

「勿論だ。レオンには助けてもらったからね」

 

 フィンの答えに、ロキは笑顔から一転した渋い顔となってさらに尋ねる。

 

「そもそも、レオンは出待ちしとったんやろ? いっちゃんええタイミングで飛び出して、手柄を掻っ攫っていこうって」

 

 リヴァイアサン討伐時、レオンは隠れて様子を窺っていた。

 討伐隊に見つからぬよう戦闘が始まったのを確認してから、陸地からボートで向かうという徹底ぶりだ。

 結果として、彼はフィンの窮地を救った。

 まさしく狙い通り、最高のタイミングで一番いいところをもっていったといえるだろう。

 

「元々それを狙っていたみたいだからね。けれど、どんな思惑があろうと助けられたのは事実だ」

「せやな……ま、これはうちの個神的感情や。主神として、きっちり礼はする」

 

 そう答えつつも、ロキの気分はとても重かった。

 

 うちがバルドルにお礼を言うなんて、100万年に一度あるかないかやぞ――

 

 彼女的には、そのくらいの大事であった。

 

 

 





全然関係ないけど、もしもレヴェリアの里脱出が遅れに遅れて、原作時間軸のオラリオにやってきてヘスティア・ファミリアに入っちゃった場合、色々な意味で愉快なことになりそう。

例えば、アポロン・ファミリアが因縁をふっかけてくるあのシーンだと、レヴェリアがいることから彼女も貶されることになるわけで……

ヘスティアの胃が大変なことになるけど、レヴェリアが治癒魔法を使えるし胃薬だって作れるから問題ないな、ヨシ!
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