「そういえばレヴェリア、ロキ・ファミリアの話を知っているか?」
アルフィアは何気なく問いかけた。
その問いに、レヴェリアは頷いてみせる。
リヴァイアサン討伐のお祭りムードも、2週間が経過してようやく収まりつつあった。
この間、フィン・ディムナの名を聞かぬことはなく、また彼はベヒーモス討伐時のレヴェリアの時のように、あちこちの宴会や行事で引っ張りだこだった。
ギルド主催の祝勝会が開かれた翌日、彼がレベル8にランクアップしたことがギルドによって公表されたことも大きい。
「小人族の入団希望者が増えているらしいな」
レヴェリアの言葉に、アルフィアは頷いた。
フィン・ディムナが『勇気』を示したことにより、大きく変わったのは小人族だ。
彼が特別だから、彼みたいな勇気がないから――という理由で、小人族がロキ・ファミリアの門を叩くことはこれまでなかった。
しかしながら、今回の一件はその意識を変えるきっかけとなった。
フィンみたいになりたい、と彼に憧憬を抱いた小人族達がロキ・ファミリアに続々と集まっていた。
オラリオに元々住んでいた者もいれば、辺境からやってきた者まで様々だ。
希望者全員を入団させるわけにもいかない為、頭を悩ませているとレヴェリアはリヴェリアより聞いていた。
その時、注文していた品々をウェイターが持ってきた。
2人は朝からデートの真っ最中だった。
朝日の昇らないうちから高台で待ち合わせをし、一緒に朝日を見て早朝から始まるカフェに入っていた。
今回、アルフィアはかなりの本気だ。
胸元の開いた黒いドレスを纏い、髪には鐘をモチーフにした小洒落た髪飾り。
どれも以前、メーテリアと一緒に選んで買ったものだ。
なお、今回アルフィアが身につけている少し煽情的な黒い下着だけは自分で選び、こっそりと購入していた。
夜明け前にも関わらずに起きて見送ってくれたメーテリア曰く「これで駄目だったら、そういう対象として見られていない」とのこと。
そんな筈はない、クソガキ姉妹に手を出している色ボケだからな――アルフィアはそう答えていたが不安がないといえば嘘になる。
これまでずっとアピールしても、手を出されなかった為だ。
どうにも扱われ方が近所の子供みたいな感じであった。
だが、今回のアルフィアは違う。
恥を忍んでゼウスとヘルメスに事前に相談していたのだ。
レヴェリアの気質は、この2柱に似ている為に。
2柱は物凄く良い笑みを浮かべて、親指を立てた。
年の差異種族百合カップルだの、レヴェリア攻めアルフィア受け、いやいやアルフィア攻めレヴェリア受け、その間に挟まりたいだの、2柱で好き放題に言い合って大いに盛り上がった。
目の前でそんな会話をされたアルフィアは大変ムカついたが、貴重な相談相手である。
魔法で吹っ飛ばさないよう、自制心を総動員して率直に尋ねた。
これまで近所の子供みたいな扱いで、そういう対象として見られていない可能性があるが、どうすればいいか?
アルフィアの問いかけに、ゼウスとヘルメスは声を揃えて答えた。
告ってキスして押し倒せ。そうすれば向こうから襲ってくる――
それができれば苦労はしてない、とアルフィアは思ったものの、そこまで大胆な攻勢に出たことはなかったのも確かだ。
フィン・ディムナが勇気を示したことだし、自分も勇気を出してやってみようと覚悟を決めていた。
とはいえ、まだ朝である。
いきなり勝負を仕掛けるわけにはいかない。
コイツがさっさと手を出してくれれば、ヤキモキせずに済んだのに――
アルフィアは恨めしく思いつつ、とりあえずレヴェリアの皿からソーセージを一つ頂いた。
レベル9である彼女ならば防ぐことは容易だが、そうはしなかった。
「今日のお前はヤンチャだな」
微笑みを浮かべて、そんなことをレヴェリアから言われてしまう。
アルフィアは何だか恥ずかしくなったので、照れ隠しにムスッとした顔でソーセージに噛みついた。
デートは続く。
最近できたばかりの水族館を見学し、服飾街を見て回り――レヴェリアの素振りに、いつもと違うところは特にない。
一方のアルフィアは、いつもの雰囲気・態度を崩していないが内心は緊張していた。
今日は夕食まで付き合うようレヴェリアには伝え、承諾を貰っている。
今から攻めていったほうがいいのか、あるいは夕食後に一気にいった方がいいのか。
伝えたい言葉は決めていたが、そこに至るまでの過程が中々描けなかった。
そんな彼女の悩みに、レヴェリアは気づいていた。
アルフィアが好意を抱いているのは前々から分かっていた。
何なら、フレイヤやイシュタル、アフロディーテから手を出さないのかと不思議に思われたこともある。
レヴェリアが今の今までアルフィアに手を出していない理由、それは単純に年齢の問題だった。
レヴェリアの感覚では、ついこの間まで9歳とか10歳の子供だった印象が強い。
さすがに年齢一桁や、二桁になったばかりの子に手を出すのは如何なものか、と思っていた。
だが、アルフィアはもう14歳であり、5年以上の付き合いとなる。
今に至るまで彼女からレヴェリアへのアピールは、まったく変わっていないことからアルフィアの気の迷いとか勘違いとか、そういうものではないと判断していた。
そろそろいいかな、と最近密かに思い始めていたところに、いつも以上に気合の入ったアルフィアからのデートのお誘い。
しかも夕食まで付き合えというのだから、そういう意味だと受け取っていた。
悩めるアルフィアを助けるべく、レヴェリアはさり気なく攻めに転じた。
それはあまりにも自然な動きであり、アルフィアも認識するまでに僅かな時間を要し――驚きのあまりにレヴェリアへ顔を向けた。
「嫌だったか?」
「嫌じゃない……」
微笑みながら尋ねるレヴェリアに、照れ隠しに睨みながらアルフィアはそっぽを向いて答えた。
レヴェリアがやったこと、それはアルフィアと手を繋いだだけだ。
これまでアルフィアからレヴェリアに抱きついたりしたことは多々あったが、レヴェリアからこういうアプローチはなかった。
だからこそ、驚きが大きい。
しかし、レヴェリアはそれだけで終わらなかった。
「アルフィア、私はお前のことを憎からず思っているぞ」
何気ないレヴェリアの言葉は、アルフィアの耳にしっかりと届いた。
歩いている最中、さり気なくそんなことを言うのは反則だろう――
アルフィアは現実逃避気味に、心の中でそう思った。
しかし、彼女の直感はここが攻め時だと告げていた。
「エルフらしい迂遠な言い回しだ。はっきりと言え」
そう言ったアルフィアであったが、その心臓は早鐘を打っている。
心音がレヴェリアに聞こえやしないか、と心配になるほどに。
アルフィアの言葉に、レヴェリアは立ち止まった。
そして、これまでアルフィアへ向けたことがなかった妖艶な笑みを浮かべ、その頬へ片手を伸ばし、優しく撫でる。
ぞくり、と背筋が震えた。
恐怖でも焦りでも悪寒でもない、それらとはもっと違った甘い痺れ。
その感覚に慣れる前に、頬から手を離したレヴェリアは、アルフィアの耳に口を寄せて囁いた。
「単刀直入に言えば、お前を私のモノにしたいんだ」
「……どうしてさっさと言わなかった。色ボケの癖して、今更遠慮をするな」
精一杯の強がりを言いながらも、アルフィアの顔は羞恥と嬉しさが入り混じって真っ赤に染まっていた。
「年齢的に若すぎるのはさすがにちょっとな……それで、答えは?」
「……分かっているくせに」
「お前が自ら言うからこそ、意味があるんだぞ?」
アルフィアの答えに、レヴェリアは意地悪な言葉を投げかけた。
「……なってやる」
蚊の鳴くような声でもって、アルフィアは答えた。
すると、レヴェリアは満足そうに頷いて尋ねる。
「朝が早かったから、休憩できる場所に行かないか? 静かなところだ」
その言葉に含まれた意味を、アルフィアは正確に理解する。
元より予想していた。
そもそもレヴェリアを相手にして、そういうことがないと判断するほうが間違っている。
何より、アルフィアとしてもそういうことに興味がある年頃だ。
問いかけに対して、彼女は小さく頷いたのだった。
「少しは加減しろ、このバカ」
レヴェリアの胸を枕にしながら、アルフィアはムスッとした顔でそう言った。
レヴェリアに連れられるまま、向かった先は一目で高級だと分かる宿屋だった。
そういうことを目当てに行く場所ではないような気がしたが、アルフィアの疑問を察したレヴェリア曰く「ルームサービスのメニューが良い」とのこと。
コイツさては夕食もここで済ませるつもりだな、とアルフィアはジト目になったが、まあいいかと納得した。
しかし、その考えは甘かった。
ルームサービスで夕食をとったり、休憩を挟んだものの――翌朝まで続いたのだ。
加減しろ、というアルフィアの言い分ももっともであった。
「といってもな……」
「何だその顔は。何か言いたいことがあるなら聞いてやるぞ?」
アルフィアの指摘に対して、レヴェリアは答えずに微笑んでみせた。
一から丁寧に、リードしながら痛みなどないよう注意を払って教えていったレヴェリアだが、アルフィアは聡明である。
すぐにコツを掴み、元来の性格から一方的にやられるのを良しとしなかった。
しかし、それすらもレヴェリアは利用した。
他人から教えられるよりも、自分で興味をもって試行錯誤したほうが上達するのは早く、何より楽しいものだ。
彼女の思惑通り、アルフィアは新たな扉をたくさん開いてしまったし、その性癖は大いに狂わされた。
「この色情狂め……ド変態め……」
答えないレヴェリアに対して、そう恨み節を呟きながらアルフィアは、その胸に顔を埋めた。
そして、昨日から続いた行為を思い返す。
最初は普通であったのだが、レヴェリアを攻め始めたあたりから徐々に雲行きが怪しくなった。
しまいには卑猥なことや恥ずかしいことを快楽の中でたくさん教えられ、さらには全身隈なく求められた。
だが、それを悪くないとアルフィアは密かに思っていた。
恥ずかしいから絶対に口にはしないが、彼女にとってレヴェリアは無条件に甘えられる唯一の相手だ。
彼女に好意を抱いたのは、それがもっとも大きな理由であった。
改めて、彼女は本来ならば昨夜の夕食後に伝えようと考えていた言葉を紡ぐ。
「……レヴェリア、私をずっとお前の傍にいさせろ」
「勿論だ。うちの両親や同胞達には、私から話をつけておく。心配するな」
レヴェリアの答えに、アルフィアは安堵の息を漏らす。
そんな彼女の頭を、レヴェリアは優しく撫でる。
その心地良さに目を細めたアルフィアであったが、ふと疑問に思う。
「ところで、ディース姉妹はお前の中ではどういう位置づけなんだ? 普通の関係ではないだろう?」
「奴隷市場で買ったから主人と奴隷という関係が正しいのだろうが、実質的には姉妹関係だ。ちょっとぶっ飛んだところもあるが、私のことを姉と慕ってくれる2人はとても可愛くてな」
「ちょっと……?」
それで済ませていいのだろうかとアルフィアは思う。
とはいえ、ディース姉妹は市井の人々に手を出しているわけでもなく、ダンジョン内で積極的に冒険者狩りに勤しんでいるわけでもない。
姉妹が何かをやらかす相手はレヴェリアだけなので、本人がそう言うのならば問題ないのだろうと考えることにした。