転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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開戦の刻

 

 

 抜けるような青空がどこまでも広がり、暖かい陽光が大地を照らしている。

 オルザの都市遺跡、その東側に陣取っている派閥連合は、物資や装備のチェックなどで声が飛び交っていた。

 

 もう間もなく始まる大戦(おおいくさ)を前に、総指揮官であるフィン・ディムナは天幕内の大テーブルに広げた都市遺跡の地図を睨みつけていた。

 彼我の戦力差は話にならない程に広がっている。

 直前に参加を表明した派閥や個人も多く、連合軍に参加している派閥数は三百を軽く超えていた。

 この戦力を揃えた時点で勝利が確定したと言っても過言ではない。

 

 相手が【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】でなければ、という但し書きがつくが。

 

 ロキ・ファミリアはオラリオ進出時から、レヴェリアの強さを間近で見てきた。

 彼女には数え切れない程に叩きのめされては癒やされてきた。

 印象的であるのはベヒーモス討伐戦でのこと。

 あんなことは彼女以外の誰にもできないだろう。

 

 幸いなことに、開戦と同時にレヴェリアの全力全開の精霊魔法が飛んでくることはない。

 ルール上、接敵する前の盲撃ちは禁止されているからだ。

 また、派閥連合側はフレイヤを送還するようなことをした瞬間、即敗北となることもルールに明記されていた。

 しかし、フィンも含めてレヴェリアのことをよく知る面々からすれば、これだけの戦力を揃えたところで、優位になったとは欠片も思っていなかった。

 既に勝った気になっているのは、何も知らない連中ばかりだ。

 

 レヴェリアと戦う――それが何を意味するのか、世界は知ることになる。

 

「フィン」

 

 名を呼ばれ、そちらへ視線を向ければそこには壮年の男性が立っていた。

 オラリオに進出したばかりで、弱小だったロキ・ファミリアに早い段階で改宗した1人だ。

 

 彼の名はノアール・ザクセン。

 改宗時はレベル3であったが、今やレベル6となったロキ・ファミリアの頼れる幹部であった。

 年齢が高めであることから、ランクアップの見込みは薄い――当時から、そのように本人は考えていた。

 だが、ダンジョン篭もりや階層主の少人数討伐など三首領によって連れ回された結果、レベル6にまで至っていた。

 これはノアールと同時期に改宗したダインやバーラも同じだ。

 

「そろそろ時間だ。柄にもなく緊張しているか?」

「していないと言えば嘘になるよ」

 

 苦笑しながら答えたフィンに対して、ノアールは不敵な笑みを浮かべてみせる。

 

「お前ならやれるさ……そろそろ時間だ」

「ああ、行くよ」

 

 そう答えたフィンは槍を持ち、身につけた装備を再度確認して天幕を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉおおおお! 頑張れぇえええ! お前達がガネーシャだぁああああ!」

「ガネーシャうるさい!」

「解説を任せなくて正解だったな!」

 

 神会が開かれる会場では、観戦の為に神々が集まっていた。

 いつもなら実況・解説をガネーシャとその眷族がやるのだが、今回は個人参加でシャクティをはじめとした団員達が参加している。

 その為、ガネーシャが応援に掛り切りになることは容易に予想ができたので、初めから外されていた。

 

 ガネーシャに代わって実況はヘルメス、解説はゼウスである。

 安定した配役であり、神々も納得だ。

 なお、ゼウスが余計なことを言った瞬間、止める為に彼の横にはヘラが控えていた。

 

「いよいよ始まるなぁ……ゼウス、どう見る?」

 

 ヘルメスからの問いかけに、ゼウスは至極真面目な表情でもって口を開く。

 

「実は、【英傑】達に儂は伝えておいたんじゃ。レヴェリアちゃんの弱点かもしれないことを」

「え、マジで? あの子に弱点なんてあるのか?」

 

 さすがのヘルメスも吃驚仰天、ヘラも目を丸くし、居並ぶ神々は誰もがざわめいた。

 

「イシュタル、アンタ……知っている?」

「いや、知らん」

 

 レヴェリアの勇姿を見てやろう、とやってきていたアフロディーテとイシュタル。

 両者とも今回の戦争遊戯には派閥としては参加しておらず、希望者が個人として参加している。

 アフロディーテの眷族達は記念として数名参加しているに過ぎなかったが、イシュタルの眷族達はフリュネを筆頭としたアマゾネスが全員参加していた。

 

「色仕掛けとかじゃないの?」

「ファイたん、ゼウスの眷族は全員男やで。まあ男の娘やったらワンチャンあるけど、おらんしなぁ」

 

 ヘファイストスに、そう返すのはロキ。

 ロキ・ファミリアは派閥として参加しているが、ヘファイストス・ファミリアは個人参加だ。

 新進気鋭の鍛冶師、レベル3の椿・コルブランドをはじめとしてそこそこの人数が参加していた。

 自分の打った得物がレヴェリアに通じるか試したい、というのが彼女達の参加理由だ。

 

 神々が誰一人として正解を言い当てられない状況に、ゼウスはニンマリと笑って告げた。

 

「いいか? レヴェリアちゃんは確かにオープンスケベじゃ。それでいて、あんな美人で胸デカケツデカ太腿ムッチムチで……おっとヘラ、まだじゃ! まだ堪えるんじゃ!」

 

 怒りの表情でもって、拳を握ってぷるぷると震え始めたヘラであったが、彼女をゼウスは宥める。

 どういう事を言うかはだいたい予想がついていたが、一応最後まで聞いてやろう――そう考えた彼女はひとまず収めた。

 

「だが、そんなレヴェリアちゃんといえど女の子! じゃから儂は【英傑】達に言った!」

 

 大袈裟に両手を広げて、大神らしい威厳に溢れた表情でもってゼウスは告げた。

 

「彼女の戦闘衣(バトルクロス)を剥け! 剥くんじゃ! おっぱいやお尻がポロリとまでいかずとも、下着がポロリすればワンチャンあるぞっ!」

 

 言い切った瞬間、すごく痛そうな音が響き渡った。

 ヘラの拳が彼の顔面に叩き込まれていた。

 いつものオチがついたところで、時計を確認したヘルメスがウラノスに問いかける。

 

「ウラノス! 力の使用許可を!」

『許可する』

 

 ヘルメスに答え、ギルド本部の地下に座するウラノスが許可を下した。

 瞬間、神々が一斉に指を鳴らし、オラリオのあちこちに『鏡』が出現した。

 この鏡によって遠く離れた戦場をリアルタイムで見ることができる上、今回の鏡は特別製だ。

 ズームアップされた場所の会話も聞こえるように調整されており、また実況・解説もオラリオ全土にクリアに聞こえるよう、今回は神の力(アルカナム)を使っていた。

 その方が盛り上がる為だ。

 

 開戦まであと僅か。

 

 フィン・ディムナ率いる派閥連合の陣がズームアップされた。

 彼の演説が始まる間際であった。

 

 

 

 

 

 

 壇上に立ったフィンは視線を巡らせた。

 近くには各派閥の団長や副団長達、その背後には数え切れない程の団員達が屯している。

 

 誰もが彼の言葉を待っている。

 臆している者はいないが、既に勝った気でいる者は都市外派閥を中心として多い。

 

 いくらレヴェリアがレベル9といえど、これだけの戦力をぶつければ楽勝――

 

 そう考えていることが態度と表情にはっきりと出ていた。

 レヴェリアに声を掛けて宿に連れ込もうとしたという、某都市外派閥の面々もその中に含まれている。

 シャクティによって捕らえられ、未遂ということで多額の罰金と2週間の牢屋生活で解放された彼等はやる気満々だ。

 今度こそ合法的にレヴェリアとベッドの上でよろしくやろう、とでも考えているのかもしれない。

 

 勝利が難しいことを言葉で理解してもらうのは困難だ、とフィンは早々に諦めていた。

 実際に対峙しなければ、あの絶望は分からない。

 色ボケ何とかアールヴ様と呼ばれて、良くも悪くも親しまれてネタにされている人物と、戦場に立っている彼女が同一人物とは思えない程だった。

 

 故に、彼が語る言葉は多くはない。

 

「今日、僕達は『頂天』に挑む」

 

 ここまでの戦力を揃えて、彼女相手に挑む機会など最初で最後だろう。

 もしも次回があったとしても、彼女の実力を知っていた者達を除けば参加者は激減するに違いない。

 その隔絶した力の差に諦観あるいは絶望して。

 

 フィンの表情に誰もが息を呑む。

 神の鏡越しに見ている神々も市民も都市外からの観光客達――庶民から各国の王侯貴族、商人など――も、それは例外ではない。

 

 あのフィン・ディムナが、まるで強大な怪物に挑むかのような、壮絶な覚悟を決めた表情であったからだ。

 レベル9といえど、相手はたった1人であるのに。

 

 派閥連合側が圧倒的に戦力で上回っているから楽勝だ、と考えていた者達も、彼のただならぬ様子を見て少しだけ気を引き締めた。

 

「彼女をレベル9とは思うな。死力を尽くせ……以上だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、レベル9とは思うな……だって?」

「まさかギルドに報告していないだけで、レヴェリア様はレベル10に……!?」

「もうあの子が黒竜を倒してくれるでしょ」

「つっても、黒竜はリヴァイアサンよりも桁違いに強いって予想もあるし、レヴェリア様でもきつくね?」

「もしもレヴェリア様が黒竜との戦いで死んじゃったら……俺、真っ先に天界に戻って彼女を確保するんだぁ」

「フレイヤ様が即行で後追いするだろ。お前、フレイヤ様と魂の取り合いで勝てると思ってんの?」

「聞くところによるとフレイヤ様の降臨した場所に、レヴェリアちゃんがいたんだろ? もうあれだ、運命の赤い糸だよ。末永く永遠に爆発しろ」

「爆発し続けるレヴェリア様とな?」

「何それ……怖っ……」

 

 神々が好き勝手に話す中、レヴェリアの実力を正確に把握しているヘルメスとロキ、ゼウスにヘラはフィンの言葉に納得しかない。

 

「ねぇ、ロキ。アンタ、何か隠してない?」

「お前なら、眷族達を通じて知っているだろう?」

 

 アフロディーテとイシュタルから問い詰められるロキであったが、彼女はニヤリと笑みを浮かべて答えた。

 

「もうすぐ分かるやろ。黙って見とき」

 

 以前、フレイヤ・ファミリアとの合同で都市外へ漆黒のモンスター討伐に赴いた際、レヴェリアは戦わなかった。

 ロキも彼女の戦う姿を実際に見るのは初めてだが、フィン達からよく聞いていた。

 

 そして、それはヘルメスやゼウス、ヘラもそうであった。

 神々が目撃したレヴェリアの戦っている姿となると、それこそフレイヤ・ファミリアのオラリオ進出時にまで遡る程だ。

 それからゼウスやヘラの眷族達が街中で彼女に戦いを挑んだりしたものの、軽く撫でられただけで終わっており、戦闘とは到底呼べなかった。

 当時よりダンジョン内でのレヴェリアとの戦闘は、眷族達からよく聞いている。

 だからこそ、より楽しみが増していた。

 

 その時、鏡を見ていたヘルメスが告げた。

 

「派閥連合の都市遺跡への入場が始まったな。今回、相手は集団ではなく個人だ。乱戦に持ち込まれると、数の多さが不利になりかねないが……ゼウス、どう見る?」

「役割分担を徹底するじゃろう。近接戦闘はレベル8以上、後衛は魔法でワンチャンあると思うからレベル7以上じゃろ。他はサポートに回ると思うゾイ」

 

 ゼウスはそこで言葉を切って、私見を述べる。

 

「【英傑】達から話を聞く限りじゃと、足切りは後衛も含めてレベル8でもいいかもしれんがのぅ」

「ベヒーモスやリヴァイアサンよりも高いな。確か、あの時はレベル7以上だったはずだ」

  

 そう言いながらヘルメスは、派閥連合の動きを見て言葉を更に紡ぐ。

 

「陣形を整えているな。役割分担に関してはゼウスの予想通り……おっ、アルフィアちゃんがカースウェポンを持っているぜ。どうやら、派閥連合側はサブウェポンとしてレベル8以上にも持たせているみたいだな」

「今回は魔法封じやステイタスダウンのカースウェポンを用意したんじゃが……どっちも超高いんじゃよなぁ……」

「仕入れはオレが担当したけど……あんなにゼロの桁がある伝票、初めて見たぜ。しかし、派閥連合は奇襲を警戒しているようには見えないな。のんびりとしている」

「奇襲なんてせんじゃろ、あの子達の性格的に」

「オレもそう思う。堂々と待ち構えていそうだ」

 

 彼がそう告げた直後、開戦の刻を告げる正午の鐘が鳴り響いた。

 

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