転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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前哨戦

 

 【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】がどこで待ち構えているか、フィンは予想がついていた。

 

 都市遺跡の中央に位置する大広場。

 そこでフレイヤと共にいる、と。

 

 大広場は大軍同士がぶつかりあっても問題がない、十分な広さがある。

 遮蔽物が一切なく、彼我の戦力差がもろに出る大広場を彼女は戦場に選ぶ――レヴェリアの性格・実力を考慮したフィンはそう判断していた。

 

 この予想はブリーフィングで共有しており、もしも広場にいなかったならば西端まで進むよう斥候部隊には指示を出していた。

 斥候部隊は中小派閥を数個で1つの部隊として編成しており、総勢100名程で構成されている。

 レヴェリアとの戦闘経験こそないが、ベテランの第二級冒険者が多く揃っていた。

 

 なお、カーリー・ファミリアのアマゾネス達には各自の判断で動くように伝えてあった。

 共通語を片言ながら話せる者もいたが、彼女達はフィンの指示を聞く気がなかった。

 レベルや強さに関してカーリーから聞いていても、彼女達は実際に戦わないと納得しない性分だ。

 フィンが力を示せば何も問題はなかったのだが、それによってテルスキュラの極まった弱肉強食思考のアマゾネス達がどう反応するか、火を見るより明らかだった。

 同族の女性を伴侶とすることを決めている彼からすれば、おっかないアマゾネス達に追いかけられるのはご遠慮したい。

 

 なので、レヴェリアに任せる(押し付ける)ことにした。

 

 彼女がテルスキュラのアマゾネス達に言う事を聞かせられるようになれば、戦力の大きな拡充となり、黒竜討伐に繋がる。

 テルスキュラにハーレムを作りに行きたい、という話をロキ経由で聞いていたこともあり、良いことをした、とフィンとしては晴れやかな気持ちだ。

 

 それはさておき、彼が立案した今回の作戦は絶え間なく攻撃を加え続け、治癒魔法を自身に使えないレヴェリアに消耗を強いていくというものだ。

 この為、主力は前衛・中衛共にレベル8以上、後衛はレベル7以上という制限を設け、支援部隊はこの水準に満たない者達全員で編成している。

 また、支援部隊に属する者で自前の遠距離攻撃手段――魔法や魔剣等――を持たない者達はサポーターとして、アイテムや魔剣等の補充・運搬係とした。

 

 この役割分担に一部を除いて不満はあまり出てこない、とフィンは考えていたが、それは正しかった。

 大多数の派閥は、今回の戦争遊戯はローリスクどころかノーリスク・ローリターンという認識である。

 前提として戦力の違いから派閥連合の勝利は確定している為、参加さえしておけば僅かな利益を得られる――そういう考えだった。

 無論、サボっていたなどと言われないよう、指示されたことくらいはやるつもりであった。

 

 様々な思惑はあるが、まずは接敵しなければ始まらない。

 もしも2人が予想外のところにいた場合――フレイヤの気紛れによって、ないとは言い切れない――は厄介だったが、幸いにもフィンの予想通りに中央広場にいた。

 だが、彼どころか誰もが予想しなかったことを2人はやっていた。

 

 

 

 

 

 

「ふむ……ようやく来たか」

 

 東側から大広場に進入し、こちらへ近づきつつある斥候部隊を見ながら、レヴェリアは言った。

 焦ることなく、彼女は手に持っているティーカップに口をつけて紅茶を味わう。

 

「もう来ちゃったのね。せっかく楽しくお茶会をしていたのに……」

 

 不満そうなフレイヤに、カップから口を離してレヴェリアは軽く溜息を吐く。

 そして、ジト目でフレイヤを見つめた。

 

「前日になって待ち時間が暇だからお茶会したい、と言い出したのはどこのたわけだ?」

「だってー」

「だっても何もない。見ろ、連中の顔を」

 

 レヴェリアが示した先には、信じられないといった表情をしている斥候部隊がいた。

 派閥連合側のイメージとしては玉座に座るフレイヤ、その傍に騎士の如く侍るレヴェリア――というものだ。

 

 ところが実際はガーデンテーブルとチェアを持ち込んで、お茶会をしていたのである。

 おまけにフレイヤの座るチェアの横には木箱が置かれており、『私以外開けちゃ駄目』と可愛らしい文字で大きく書かれていた。

 色々と予想外ではあったものの、2人を発見したのは間違いなかった。

 発見後は本隊到着を待てという指示をフィンからは受けていたが、斥候部隊は欲が出てしまった。

 

 レベル差があるといえど、一斉に多方向から突破を図ればフレイヤの花を奪えるのではないか?

 さしものレヴェリアといえど、一度に対応できる人数には限りがあるはず。

 できる限り彼女との距離を開けて、全力疾走すれば――!

 

 そう考えてしまったのだ。

 斥候部隊を構成する各派閥にはベテランの第二級冒険者達が揃っていたものの、レヴェリアとの交戦経験者はいなかったことが災いした。

 フレイヤの花を奪い、勝利に貢献したとなれば大金星。

 報酬は思いのままであるだけでなく、歴史に名を刻むのは間違いない。

 

 チャンスがあるならば掴みに行く――その貪欲な姿勢は冒険者らしいものだ。

 

 やがて動き始める斥候部隊。

 2方向からレヴェリアを大きく迂回しようという狙いであることが見て取れた。

 全力で走る冒険者達は必死の形相だ。

 狙われれば一瞬で追いつかれる、と誰もが確信していた。

 また、レヴェリアは優れた魔導士であると噂によく聞く為、一網打尽にされるのを防ぐべく、まとまらないよう注意を払っていた。

 

 追いつかれて一撃もらえば戦闘不能だが、突破できれば得られるものは莫大だ。

 100人もいることから誰かしらが犠牲になっている間、残る面子は距離を稼げる。

 たとえそれが1秒程度であっても、その僅かな時間が大きな違いとなってくることを、彼等彼女等は経験から知っていた。

 超ハイリスク・超ハイリターン。

 ダンジョンの深層でモンスターの大群から逃げるよりも、スリリングな追いかけっこが始まった――かに見えた。

 

 

 交戦を避けつつ、どうにか突破しよう全力で走ってくる斥候部隊を見たレヴェリア。

 その意気や良し、と彼女は口元に笑みを浮かべた。

 ガーデンチェアから立ち上がり、攻撃に移ろうとしたところで――

 

「ちょっと待って」

 

 フレイヤがストップを掛けた。

 怪訝な顔をするレヴェリアに対して、彼女は理由を告げることなく、自身もガーデンチェアから立ち上がった。

 そして、レヴェリアへ近づいて抱きしめた。

 

 何をやっているんだ、とレヴェリアが声を出そうとしたが、それは叶わなかった。

 彼女の口をフレイヤが口づけでもって塞いだからだ。

 しかし、それはいつものように長いものではなく触れるだけの、軽いものであった。

 

 レヴェリアから顔を離したフレイヤは、華の咲いたような笑みを浮かべて尋ねる。

 

「ね、レヴェリア。私の我儘、聞いてくれる?」

「……一応、言ってみろ」

「『頂天』が誰であるか、世界に示して」

 

 彼女の言葉に、レヴェリアは軽く息を吐いた。

 勝負にならないとか言っていただろう、とか結果の見えた試合はつまらないんじゃないか、とかそのような言葉を返すのはやめた。

 

「相変わらず我儘だな」

「知っているでしょ?」

「ああ、知っているとも」

 

 フレイヤの問いかけに、そう答えたレヴェリアは不敵な笑みを浮かべた。

 

「お前の我儘なら聞いてやるさ」

 

 そしてレヴェリアは、迫りくる数多の冒険者達に向き直った。

 冒険者達は、左右に大きく分かれて通り抜けようとしているように彼女からは見える。

 この迂回行動に対してレヴェリアは【ボルカニックノヴァ】を2発ずつ、死なないよう威力を程よく抑えて放った。

 弾幕を張るならまだしも、いくらなんでもこちらを舐め過ぎている――と迫りくる炎弾を見た冒険者達の誰もが思い、回避行動をしようとした瞬間。

 

「【破墜(ディレンダ)】」

 

 レヴェリアが呟くように、炸裂鍵を唱え――全ての炎弾が同時に炸裂した。

 爆発によって強烈な閃光と轟音が生じ、次いで爆風と衝撃波が斥候部隊を一瞬にして飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 鏡越しに戦場が映し出されているオラリオは静まり返っていた。

 つい先程フレイヤとレヴェリアの口づけと会話により、黄色い悲鳴や歓声があちこちで沸き起こったのが嘘のようであった。

 斥候部隊が走って突破を図ろうとしたところで、レヴェリアが何らかの方法で阻止することは予想できた。

 しかし、たった4発の炎弾――それも連射は効くが、1発あたりの威力は低いとされる速攻魔法――で、散らばった斥候部隊を壊滅に追い込んだのは予想外だ。

 レヴェリアの実力を詳しく知らない者達にとっては特に衝撃的であった。

 

 やがて濛々と立ち込める土煙が風によって払われ、その惨状が露わになった。

 穿たれた合計4つの大きなクレーターと、あちこちに倒れ伏している数多の冒険者達。

 その大半は戦闘不能であったが、炸裂した位置から離れた距離にいた者は比較的軽傷であった。

 

 しかし、軽傷であったとしても幸運ではない。

 これからより深い絶望を目の当たりにすることになるからだが、そんな空気をぶち壊す輩がいた。

 

「きゃー! レヴェリアー! カッコいいー! 素敵ー! 抱いてー!」

 

 その輩は黒地の団扇を両手に持っており、その団扇にはピンク色の文字で『レヴェリアLOVE』と『レヴェリア最推し』とそれぞれ書かれている。

 またそれだけでなく、ハチマキ――こちらも『レヴェリア好き好き大好き愛している』と書かれている――を巻いて、似たような文言がいっぱい書かれた法被を着ていた。

 

 そう、フレイヤだ。

 

 彼女のチェアの横に置かれていた木箱には、応援グッズ一式が入っていたのである。

 ちなみに、ガーデンテーブルなどのお茶会に必要なもの一式と木箱をここまで運んだのはレヴェリアだ。

 まさか木箱の中身が自分の応援グッズであったとは予想もしなかった為、彼女はジト目でフレイヤを見つめた。

 

「おい、たわけ。そのたわけた格好は何だ?」

「自作の応援グッズよ!」

 

 問いかけに対して、満面の笑みで答えたフレイヤ。

 レヴェリアは溜息を吐き、さらに告げる。

 

「まだマトモに戦っていないだろ……」

「大丈夫、すっごくカッコいいわ! ラスボス感が出てるわよー!」

「お前のおかげで、出落ち感のある中ボスくらいになっているぞ」

 

 空気読め、と言いたいところであるが相手はフレイヤである。

 天下無敵の暴走たわけ女神が、レヴェリアの勇姿を間近で見て興奮しないわけがなかった。

 なお、このやり取りは神の鏡によってオラリオ全土に垂れ流し状態であり、爆笑する者から呆れる者、困惑する者など反応は様々であった。

 

 気の抜けた空気が流れたが、その間隙を突くかのように状況は動く。

 疾風の如く、四方八方からレヴェリア目掛けて駆け出すはテルスキュラのアマゾネス達。

 

 斥候部隊を苦も無く壊滅させたレヴェリアを見て、彼女達は怖れるどころか滾っていた。

 闘争本能全開で襲いかかるアマゾネス達に対して、レヴェリアが選んだ戦闘手段は剣でも魔法でもなく、彼女達と同じ徒手空拳であった。

 殺到するアマゾネス達を、レヴェリアは最小限の動きでもって的確に攻撃を加えていく。

 彼女の攻撃はアマゾネスを一撃で叩き伏せていくが、アマゾネス達はレヴェリアに攻撃を当てることすらできていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 バベル30階ではカーリーが一方的に眷族達が蹴散らされている光景を鏡越しに見て、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 倒されたアマゾネス達は、どいつもこいつも恍惚とした表情をしている為だ。

 レヴェリアが子を孕ませられること、どうしてそれができるのかを詳しく伝えてあったのがよく効いている。

 まさしくカーリーの狙い通りであった。

 他の神々もアマゾネス達の表情は把握しており、これがどういうことを意味するかも当然分かっていた。

 

「レヴェリア様がまた女の子達を手籠めにしている件。フレイヤ様はともかく、またアルフィアちゃんが激怒しそう」

「この前、うちの眷族達がブチ切れたアルフィアちゃんとレヴェリア様が50階層で戦っているのを見たってさ。怪獣大決戦だったって」

「怪獣大決戦と聞いて思ったんだが、レヴェリア様なら怪獣とか巨大ロボとか作れそうじゃね? それを黒竜にぶつければ良くね?」

「ワンチャンあるな。今度、頼んでみるか……」

「実現したら、黒竜対レヴェリア様謹製怪獣・ロボ軍団とかいう英雄どこいった展開あるぞ」

「ラストは何か知らんけど暴走した怪獣・ロボ軍団を、冒険者達が愛と勇気と努力と友情と知恵で倒す展開になりそうだからセーフ」

「もしかして今回の戦争遊戯、真の目的がテルスキュラのアマゾネスを手に入れることじゃね?」

「ありそうだから困る。神々すらも欺くとは、さすレヴェ(さすがレヴェリア様)だわ」

「お労しや、アルフィア上……」

「その言い方は無理があるだろ」

 

 好き勝手に言い放題の神々であったが、それでも鏡はしっかりと見ていた。

 そして、幼いカリフ姉妹がレヴェリアと対峙したところで色々な意味で盛り上がる。

 

「レヴェリア様はどうするんだ!? 幼女達に暴力を振るうのか!?」

「カーリーが言ってたカリフ姉妹か……素質はあるらしいが、何もできないだろ」

「今後に期待。胸も含めて」

「大人になってもつるぺたの方がいいだろう。胸以外完璧なスタイルであって、つるぺたなことにコンプレックスを感じている姿が……心にグッとくるんだ」

「変態神がいまーす! ガネーシャ、出番だぞ!」

「俺がっ! ガネーシャだぁああああ! うおおおお! ガンバレぇえええ!」

 

 混沌とした会話であったが、神々にとってはいつものことであり、誰も気にしなかった。

 

 

 

 

 

 

 圧倒的な敵を前にして、アルガナはかつてないほどの喜びと興奮に満ちていた。

 彼女は10歳とは思えない、妖艶な表情でレヴェリアを見つめる。

 2人が残っていたのは、アルガナがバーチェに様子を見る、と最初に伝えていたからだ。

 バーチェも承諾し、レヴェリアの実力を姉妹揃って観察したが――圧倒的過ぎた。

 姉妹よりも年上で強いアマゾネス達が、全員例外なく一瞬で倒されるという信じられない光景を見せつけられた。

 

 たった1人で戦う怪物――レヴェリアの渾名の一つに、そういったものがあることをカーリーから教えられていたが、まさしくその名の通りだとアルガナは確信していた。

 

「『……あれでも、相当に手加減している』」

 

 バーチェの言葉に、アルガナは頷いた。

 彼女もまた感じていたことだ。

 レヴェリアは腰に吊るした長剣を抜くこともせず、まるでこちらに合わせるかのように素手で戦っていた。

 

「『ヤツを喰らう。その為に、お前を喰らわせろ』」

 

 アルガナの言葉の意味を、バーチェは正確に察する。

 幼いながらに彼女は、アルガナのことを姉とは一度たりとも思ったことがなく、化け物であり捕食者だと恐怖していた。

 アルガナに喰われたくない、その一心であったのに――レヴェリアという存在を前にして、それは消え去っていた。

 

 目の前の敵を倒せと本能が叫び、幼い肉体は強敵との戦闘を間近に控えて昂っていた。

 だが、バーチェには疑問があった。

 

「『どうして私を喰らう? 他のヤツでもいいだろう』」

 

 事実、バーチェよりも強いアマゾネス達はそこら中に倒れていた。

 彼女達の血を啜った方がより能力値を高めることができる筈だが、アルガナは否定する。

 

「『一番近いお前から啜った方が速く攻撃に移れる』」

 

 アルガナはそう告げて、更に言葉を紡ぐ。

 

「『先に行く。背後から来い。私が倒されても隙をついて、お前の毒を教えてやれ』」

「『……分かった』」

 

 バーチェが承諾した瞬間、アルガナは彼女の首筋に噛みついた。

 

 

 

 

 カリフ姉妹が何をしようともレヴェリアに一泡吹かせるなどということは不可能だ、と神々の誰もが思っていた。

 あまりにも地力が違いすぎる為だが、そういった予想を覆す展開が下界では起こることも知っていた。

 だからこそ、神々はワクワクしていると――姉のアルガナが妹のバーチェの首筋に噛みついて血を啜り始めた。

 バーチェは抵抗することなく、それを受け入れている。

 その瞬間、会場は大歓声に包まれた。

 

「うっひょおおおおおおお! 吸血百合姉妹じゃあああああ!」

 

 ここまでは静かだったゼウスが誰よりも大きな声で叫び、拳を天へ突き上げた。

 ヘルメスは尊いものを見たと言わんばかりに、鏡に向けて両手を合わせて拝んだ。

 2柱以外の神々も同じように盛り上がったり拝んだりで騒がしい。

 百合などではないことは鏡越しの会話から分かっていたが、それでも神々は勝手に盛り上がっていた。

 深い溜息を吐いたヘラは、ゼウスの頬を叩いて正気に戻した。

 

「おお、ヘラ! すまんすまん! つい興奮してしまった! あれは吸血をした者の能力値を自身に加算したりとか、そういう系の強化じゃろう」

 

 マトモな解説を始めたゼウスに、ヘルメスも咳払いしてカーリーに尋ねる。

 

「カーリー、あの吸血行為はゼウスが言った通りか?」

「そうじゃ。とはいえ、焼け石に水に過ぎん」

 

 ヘルメスからの問いかけに、彼女はそう答えて更に言葉を続ける。

 

「しかし、互いに協力しようとしているのぅ」

 

 テルスキュラは食うか食われるかであり、他人との協力なんぞ考えられない環境だ。

 カリフ姉妹もまたそうであったが、ここにきて協力をしたことはちょっとした成長といえるかもしれない。

 だが、結果は目に見えていた。

 そもそも観戦者達が見たい戦いはコレではない。

 

「四派閥、早く出てこねーかな?」

 

 とある神の呟き、それは全ての観戦者達の偽らざる本音であった。

 

 

 

 

 

 突然の吸血行為には、さすがのレヴェリアも目を丸くした。

 そして、それがカリフ姉妹による唯一にして最大の戦果であった。

 アルガナの急襲に対してレヴェリアは最小限の動きで回避しながら、その腹部に拳を叩き込む。

 間髪入れず突っ込んできた、右手に毒々しい色合いの付与魔法(エンチャント)を纏わせたバーチェがレヴェリアに触れようとしたが、膝蹴りを腹部に叩き込んだ。 

 即死しないようにした一撃であったが、その威力は2人を吹っ飛ばして戦闘不能に追い込むには十分過ぎた。

 

「一通り片付いたかな」

 

 倒れ伏しているアマゾネス達や斥候部隊の面々を見回して、レヴェリアはそう呟いた。

 彼等彼女等にとっては戦闘であったかもしれないが、レヴェリアからすれば準備運動にもなっていなかった。

 

 だが、収穫はあった。

 

 最後に倒したアマゾネスの子供、その魔法だ。

 見るからに体に悪そうな黒紫の光膜を右手に纏っていたが、使用者である彼女は傷ついていなかった。

 

 ノーリスクで使えると思われる状態異常(デバフ)付与魔法(エンチャント)、しかも超短文詠唱。

 ワンチャン、アルフィアみたいに全身を覆えるかもしれない――

 

 レヴェリアはそう考えていた。

 詠唱文や魔法名もしっかりと彼女は聞き取っていたが、効果の完全把握とは言い難い。

 ちょっとした余興の為にも後で聞いておこう、と彼女が思った時だった。

 

 無数の足音が東より聞こえてきた。

 その音にレヴェリアが視線を向ければ、大勢の冒険者達が隊列を組んで、横隊でやってきていた。

 中央に位置する部隊は、人数こそ少ないがその顔ぶれから選抜部隊だと彼女は確信する。

 対して、左右の部隊は中央よりも圧倒的に人数が多い。

 だが、先頭にいる面々を見る限りでは最高でもレベル7であると分かった。

 

 中央の主力部隊で攻め立て、左右の支援部隊が支える――シンプルな戦術。

 

 そのようにレヴェリアが予想したところで、派閥連合本隊は動きを止めた。

 中央部隊の最前列にいたフィンが進み出て、斥候部隊とアマゾネス達の惨状に肩を竦めてみせる。

 この惨状に対して、四派閥だけでなく派閥連合全体に驚きや動揺はなかった。

 レベル9という雲の上の階位に至っている者に格下が挑めばどうなるか、誰だって理解できたからだ。

 

 彼我の距離はおよそ20M程。

 互いのレベルを考慮すれば無いに等しい距離だ。

 

「どうするんだい?」

 

 フィンからの主語のない問いかけに対して、分かっているとばかりにレヴェリアは頷いてみせる。

 そして、彼女が唱え始めたのは代名詞たる治癒魔法だ。

 

「【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】が治癒魔法を使ったぞ!」

「ルール違反だ! 失格だろ!」

 

 ワイワイと騒ぐ連中がいたが、すぐにその声は消え去った。

 レヴェリアは治癒魔法の効果範囲内に自身を含まないよう調整した上で、斥候部隊及びアマゾネス達を癒やしたのだ。

 何が起きたのか理解できないといった表情をしている者ばかりであり、そこには癒やされた者や騒いだ連中も含まれていた。

 そして、大半の観戦者達もまた同じ反応であった。

 

「治癒魔法を彼女自身に掛けるのはルール違反だ。けれど、彼女以外に掛けるのは問題ないよ」

 

 理解が追いつかない――それが普通である――面々に対して、フィンが補足説明するかのように告げた。

 そして、彼は斥候部隊に指示を出し、後ろへ下げる。

 アマゾネス達もレヴェリアの実力をよく分かったことから、斥候部隊につられるように後ろへ下がった。

 全員が下がったところで、フィンは挑発的に尋ねた。

 

「【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】、良いのかい? 僕達を治療したから負けた、なんて言い訳は聞きたくないんだけど」

 

 あえて二つ名で呼んだことや、その言葉から彼の意図をレヴェリアは察した。

 大勢の観戦者達がいることから、大袈裟な振る舞いと口上で盛り上げてやろうという魂胆だと。

 いつもならば口上などなく始まっていることが大半で、たとえ言葉を交わすことがあったとしても雑なものだ。

 それこそ「やるか」「やるぞ」といった感じである。

 

「案ずるな。そんなつまらんことは言わん。だが、そんな戦力で大丈夫か?」

 

 挑発的に問いかけてきたレヴェリアに対し、フィンは更に煽る。

 こういうのは過激であればあるほどに、観戦者達が盛り上がることを2人とも知っていた。

 

「勿論さ。女神の前で、君に敗北を与えよう」

 

 彼が言った直後、突如として黄金色の風が巻き起こり、全てを吹き飛ばさんと荒れ狂う。

 その出処はレヴェリアだ。

 彼女を中心として吹き荒れるそれは風などではなく、可視化できる程に濃密で膨大な魔力の奔流。 

 それを見せつけながら、レヴェリアは言葉を紡ぐ。 

 

「今より、ここは戦い野(フォールクヴァング)。逃げることはおろか、死ぬことすら許さん」

 

 そう言いながら、腰に吊るした長剣を鞘から引き抜いた。

 まずは小手調べとばかりに剣を振るい、距離すらも意味をなさない斬撃が放たれた。

 真正面から受けるなど愚の骨頂、避けるしかないと思わせる空間を断絶させるかの如き一撃。

 

 だが、その前に1人の男が躍り出た。

 

 大剣を構えた彼は雄叫びと共に破壊の一撃を受け、勢いと威力を巧みに利用して空へ逸らす。

 互いの絶技と刹那の攻防に観戦者達は勿論、戦場に集っている四派閥以外の冒険者達は絶句し――次いで熱狂が爆発した。

 

 しかし、レヴェリアの一撃を逸らした男――【英傑】の表情は厳しい。

 手応えでどれくらい加減されているか、嫌でも分かってしまった。

 四派閥の面々もレヴェリアとの豊富な戦闘経験があることから、今の一撃がどれくらい手を抜かれていたか、何となく分かってしまった。

 もっとも、観戦側でその様子に気づいたのは極少数であり、大多数は熱狂に包まれていた。

 

 

 

 バベル30階の会場では、神々は超ハイテンションであった。

 ようやく見たいものが見れた、と言わんばかりに誰もが口々に叫ぶ。

 

「レヴェリア様も【英傑】もすげぇ!」

「レベル9ヤバすぎだろ!」

「何で通常攻撃で斬撃を飛ばしているんですか!? 何でそれを逸らせるんですか!?」

「ていうか、レヴェリア様は勝てるのか? 超大穴だからつい小遣いを全部賭けちまった……」

「俺、ワンチャンあるかと思ってファミリアの資金を全部レヴェリア様につっこんじゃった。どうしよう……」

「馬鹿め、俺は手堅く派閥連合の勝利にファミリアの全財産を賭けた。勝ったな、畑を見に行った後に風呂入ってくる!」

「私も派閥連合の勝利に賭けているんだから、敗北フラグを立てるな!」

「っていうか、やっぱりレヴェリア様、この戦争遊戯を鍛錬の場と勘違いしてらっしゃる?」

「治癒魔法で斥候部隊とカーリーんとこのアマゾネスを癒やしたのは、不憫過ぎるからだろ。開幕早々退場は見せ場もなくて可哀想だし……」

「さすがに四派閥との戦いでは、そんなことしないだろう……しないよね?」

「治癒魔法を自分に掛けることは禁止とかいうルールを提案してきたあたり、公開鍛錬にちょうどいいとか思ってそう」

「自分に掛けるのは駄目だが、敵に掛けるのは問題なし……それはまあ、そうだけどさぁ……」

神々(俺等)はともかく子供達は理解できないだろうなぁ……」

「正直、頭アレスじゃね?」

「おいバカやめろ。レヴェリア様があんな脳筋馬鹿だってのか!?」

「でもお馬鹿なレヴェリア様もそれはそれで可愛いくね?」

「それはそう」

「あんな美貌とスタイルで、実はおバカってギャップやべぇだろ。萌え死ぬわ」

 

 色々な意味で熱狂的な神々に対して、事情を知っている4柱――ヘルメス・ゼウス・ヘラ・ロキ――は冷静であったし、鏡越しにちらちらと映っているフレイヤは自信満々の超ドヤ顔である。

 ムッフーだのフンスフンスだの、そんな感じの擬音が聞こえてきそうな程であった。

 彼等彼女等の反応を見て、あることに気がついた神も少数ながらいた。

 

「なるほどね」

 

 全てを察したと言わんばかりに頷くのはアフロディーテだ。

 そんな彼女にカーリーが問いかける。

 

「何がなるほど、なんじゃ?」

「レヴェリアはまだ抑えているわ。四派閥の子達は皆、厳しい顔をしているし……そもそも一番はしゃぎそうなゼウスが真剣な顔だもの」

 

 ゼウスの性格的に、一番騒ぎそうなものであるがそうはなっていない。

 彼の横に座っている実況のヘルメスやヘラもまた同じような表情であり、もしやと思ったカーリーがロキを見れば――こちらもまた厳しい顔つきだった。

 なお、イシュタルやヘファイストスなどもこの事には気づいていたが、他の神に絡まれるのも面倒なので知らん顔をしていた。

 

 そして、アフロディーテの予想が正しいことを証明するかのように、レヴェリアが動いた。

 目に見えて分かる変化は彼女の周囲を黄金色の粒子が舞い始めたことくらいだ。

 だがその瞬間、フィンはあらん限りの声でもって叫び、それは鏡越しにオラリオ全土に響き渡る。

 

「総員攻撃開始!」

 

 先陣を切ったのは【英傑】、次いで【女帝】が続き、レベル9とレベル8の強者達が次々とレヴェリアへ殺到していく。

 その中にはフィンの姿もあった。

 

 観戦者達が待ち望んでいた戦いが幕を開けた。

 心躍り、時には息を呑むかのような死闘を誰もが予想したが――そうはならなかった。 

 

 

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