転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

52 / 137
絶望的な戦い

 

 レベル9となった段階で、自身よりも格上がいなくなったレヴェリアは冒険者相手の戦闘では程々に手加減してきた。

 だが、今回はフレイヤの我儘を叶える為、いつものように即死だけは避けつつも、普段は使用を自重している魔法などは遠慮なく使っていこうと決めた。

 

 観戦者達がいい感じに盛り上がるような死闘を演じて勝利しました、ではフレイヤが不満を持つ。

 かといって、遠距離から魔法で攻撃し続けたり、斬撃を飛ばし続けたりするなども、彼女はつまらないと思うだろう。

 そういったことも、レヴェリアは考慮していた。

 

 リヴァイアサンの時は横殴りの雨の如き鱗による弾幕でもって封じられたが、今この場にはそのような尋常ならざる阻止攻撃は存在しない。

 だからこそ、余裕を持って彼女は『特殊嗜好(アブノーマル)』でもって、精神力を『力』と『敏捷』の向上に注ぎ込む。

 同時に『淫欲願望(ルクスリア)』によるチャージを始め、自身の周囲を黄金色の粒子が舞い散らせながら――戦乙女が動いた。

 

 刹那――

 

 【英傑】、【女帝】を含む複数の冒険者達が血しぶきを上げながら、次々と崩れ落ちた。

 石畳に倒れ伏した者達から流れ出た血が小川を作っていく。

 

「……え?」

 

 その声は誰のものであったか分からないが、しかし誰もが抱いた疑問であった。

 ついさっきまで、それこそ数瞬前までレヴェリアに向かって今まさに得物でもって攻撃せんとしていた。

 だが、彼女の動きは視認すらできなかった。

 

 とはいえ、これすらも想定内の出来事だ。

 直前にフィンが全参加者に伝達してあった。

 

 今回、女神の神意によりレヴェリアは()()()()()

 誰が倒れようとも、何が起ころうとも決して攻撃の手を緩めるな、と。

 

 彼の予想は正しかった。

 だが、レヴェリアとの交戦経験が無い者達は衝撃的な事態に誰もが呆然自失となっていた。

 

 それも無理はなかった。

 

 オラリオの上澄み、それはすなわち世界においてトップクラスの実力を誇る者達だ。

 そんな強者達がたった1人を相手に手も足も出ず、一方的にやられたのだから。

 

 そうこうしている間にも、櫛の歯が欠けるかのように主力部隊の前衛――レベル9とレベル8の戦士達が斬断され、血を流し倒れていく。

 最初に倒れた【英傑】達も、今この瞬間に倒れていく者達も全員が魔法やスキルでもって能力値を底上げしており、その強化率がランクアップと見紛う程の者達もいた。

 

 しかし、レヴェリアは物ともしなかった。

 数々のスキルによる自己強化、そして馬鹿げた熟練度でもって圧倒したのだ。

 

 中衛や後衛、そして両翼に展開した支援部隊が仕事を怠っているわけではない。

 味方に当たるのも構わずに攻撃魔法を撃ち、魔剣、カースウェポン、魔道具を使っているが――当たらない。

 支援部隊には自前の遠距離攻撃手段を持っていない者が多く、またその大半がレベル5にも満たない者達だ。

 彼等彼女等はサポーターとして、支援部隊にいる高レベル冒険者達へアイテム類や魔剣等を補充・運搬する役目を担っているのだが、その仕事をこなす合間に理解できない光景が見えてしまった。

 

 魔法や魔剣などの攻撃が届く前に、レヴェリアはもうそこにはいない。

 魔法にはレベル5以上の熟練した魔導士などによるものもあるが、それすらも当たらない。

 彼女が速すぎること、そしてその回避が恐ろしい程に巧みであった。

 

 この間にもレヴェリアがチャージを継続していることから、その身に纏う黄金の粒子は増え続けており、疾走によって靡いて黄金の軌跡を創り出している。

 その姿はまさしく二つ名に違わぬ黄金の戦乙女であり、美しくも恐ろしい印象を与えていた。

 

 一方、フレイヤ・ファミリアの満たす煤者達(アンドフリームニル)を筆頭に、各派閥の治療師及び薬師達は懸命に治療にあたっていた。

 しかし、焼け石に水である。

 回復して戦闘に復帰する者よりも、斬られて倒れる者の数が多い上に、そもそも治療が完了した者が数秒後には斬られて倒れていた。

 

 レヴェリアとの戦いで戦闘不能率は150%。

 戦闘不能になった後、治療されて復帰しても1秒後にはまた戦闘不能になっているから――

 

 そんな言葉が治療師や薬師達の頭に浮かぶくらいに状況は最悪だ。

 やってられねぇよふざけんなよコンチクショウと誰もがブチ切れていたが、レヴェリアの攻撃が主力部隊の前衛だけに留まっていること、そして()()()()()()()()()()()()()ことで、かろうじて手が回っている状態だった。

 そして、このことは主力部隊のみならず、支援部隊の面々も気がついていた。

 

 

 

 

 治療師により6回目の戦闘不能から復帰したフィンは、近くにいたオッタルに気安く問いかける。

 

「何回、倒れた?」

「6回」

「奇遇だね、僕も6回だ」

 

 彼の言葉を聞きながら、オッタルは告げる。

 

「【勇者(ブレイバー)】、分かっていると思うが……」

「ああ、分かっているとも。()()()()()()()

 

 レヴェリアに斬られたとはいえ、手足が飛んだり内臓まで届くような致命的な攻撃ではない。

 もしもその段階まで至っていれば、治療は完全に追いつかず、とっくに前衛は全滅していた。

 また、彼女は一切魔法を使っておらず、チャージも継続中だ。

 

 観戦者達は既に度肝を抜かれていると思うが、この後の展開でもっと驚くことになる。

 それこそ、天地がひっくり返るかのような衝撃となるかもしれない。

 

 その時、ガレスが2人の足元に吹き飛ばされてきた。

 あちこちから血を流しているが、深手を負っているわけではない。

 駆け寄ってくる治療師に対して、ガレスは手で大丈夫だと合図してみせた。

 

「おい、フィン。レヴェリアのヤツ、俺を斬る時にわざとらしく言いやがった」

 

 ガレスはそう言って言葉を切り、少しの間を置いて更に続けた。

 

「『そろそろ治療してやろう』だと。わざわざそんなことを言うってことは……」

「ああ、始まるね」

 

 フィンが答えた直後、黄金色のドームが展開されていく。

 それは主力部隊前衛をすっぱりと包み込む程であったが、ルール違反にならぬようレヴェリア自身は効果範囲から外れていた。

 倒れていた者達や治療中だった者達、また戦闘に復帰していた者達は傷やら体力やら疲労やらが急激に回復していく。

 

 その最中、フィンはあらん限りの声で叫んだ。

 

「魔法がくるぞ! 支援部隊の第一級以上は下位の者を守れ!」

 

 そして、治癒魔法が終わったと同時に歌が聞こえた。

 これまでレヴェリアが秘し、ベヒーモスやリヴァイアサン討伐時に知った者達も公では決して言及してこなかった、3番目の魔法。

 それが戦場に、オラリオに高らかに響き渡る。

 

「【魔導の足跡、叡智の鼓動。昔日の彼方に忘却された煌めき。起動せよ――グリモワール】」

 

 

 

 

 

 

 

 バベル30階は熱狂の渦に飲み込まれていた。

 多数の同格に取り囲まれては勝利など不可能と大半の神々は予想したが、それをあっさりと覆してみせたレヴェリアの強さ。

 同格以下に絶対の強さを誇る――その評判はレベル9となった今でも偽りが一切なかったことが証明された。

 

 圧倒的な蹂躙劇に神々も認めるしかない。

 『頂天』が、誰であるかを。

 

 そして、レヴェリアが歌い始めた3番目の魔法。

 神々は誰も彼もが思い思いに叫んでいた。

 

「3番目の魔法!?」

「絶対あるって前から言われてた魔法が遂にお披露目だと!?」

「色々予想されていたけど、俺はエロ魔法だって信じているぜ!」

「たぶん長文詠唱の攻撃魔法だよな? エロ魔法とかさすがにないだろ」

「グリモワールとか言ったよな? 不穏な空気を感じる……」

神々(俺ら)ですら手に余るような化け物召喚は勘弁してー」

「なぁに、レヴェリア様のことだ、化け物といっても触手系エロモンスターだろ。勿論、服だけ溶かす催淫効果のある粘液付きだ」

「レヴェリア様が自分で召喚した触手系エロモンスターに嬲られるのは見たいかも」

 

 ワイワイ騒ぐ神々であったが、彼等彼女等のテンションは激昇する。

 レヴェリアによって、さらなる詠唱が始まったのだ。

 

 

 

 

「【地よ、唸れ―来たれ来たれ大地の殻よ】」

「詠唱を止めろぉおおおおおおお!」

 

 その歌を聞いた瞬間、フィンは絶叫しながら真っ先に駆け出した。

 主力部隊の前衛・中衛も彼に遅れることなく動き、後衛は味方ごと叩き潰す勢いでもって魔法を放つ。

 ベヒーモス討伐時、多くの者がこの魔法を目の当たりにしていたからこそ、発動させてはならないことをよく知っていた。

 

 苛烈な攻撃を加えるが、止められない。

 

 先程とは打って変わって、レヴェリアは攻撃せずにひたすら防御と回避に徹している。

 攻撃できないのではなく、あえてしていないのは明らかだ。

 さらに、黄金の粒子はまだ彼女の周囲にある。

 チャージをしたまま、未だその力を解放していないことが何よりも恐ろしかった。

 

 支援部隊も魔剣等で攻撃していたが、第一級以上の冒険者達は下位の者の守りに入った為、先程よりも攻撃密度は低下していた。

 しかし、先程と同じように攻撃していたとしても、止められるかは怪しかった。

 

「【黒鉄(くろがね)宝閃(ひかり)よ。星の鉄槌よ。開闢の契約をもって反転せよ。空を焼け、地を砕け、橋を架け、天地(ひとつ)と為れ】」

 

 超長文詠唱にも関わらず、恐るべき速さでもって歌われていく。

 猛攻を防御・回避しつつ並行詠唱――その驚嘆すべき技術は、彼女が世界最高峰の魔導士である証であった。

 

 詠唱を止められない、と誰もが確信したその瞬間、1人の少女が叫んだ。

 

「私に任せろ!」

 

 ここまで魔法を撃つことなく、剣でもって戦っていたアルフィアだった。

 彼女はレヴェリアが治癒魔法を使った瞬間から攻撃魔法が飛んでくることを予期して、詠唱を始め、ある魔法を最後の一小節手前で待機状態にしていた。 

 魔法の性質上、乱戦状態ならば味方の犠牲を度外視すればレヴェリアにも届きうるが、アルフィアはそうしなかった。

 レヴェリアが規格外であることをよく理解していたからこそ、その程度では対応されると確信していたからだ。

 故に、アルフィアの狙いはレヴェリアではなく、彼女が発動する魔法そのものだ。

 レベル8となったからこそ、ようやく届きうるとアルフィアは確信していた。

 

「【降り注ぐ天空の斧、破壊の厄災。代行者の名において命じる】」

 

 空からくるぞ――フィンがそう叫び、誰もが空を見上げて防御態勢となる中でアルフィアは大地を蹴って大きく空へ跳び上がった。

 そして彼女が片手を掲げれば、その先に顕現するは灰銀の巨大な鐘。

 

「【与えられし我が名は地精霊(ノーム)、大地の化身、大地の女王(おう)】」

「【哭け、聖鐘楼】!」

 

 2人の詠唱が重なり、互いに膨大な魔力が注ぎ込まれた魔法が発動する。

 

「【メテオ・スウォーム】」

「【ジェノス・アンジェラス】!」

 

 瞬間、空一面に現れた魔法円より巨大な隕石が次々と落下しようとした時、灰銀の鐘が破裂し、滅界の咆哮が放たれた。

 そして、その結果に誰もが驚愕し、目を見開いた。

 今まさに降り注ごうとしていた大質量の隕石群が、一瞬で木っ端微塵に砕け散ったのだ。

 レヴェリアの魔法を完全に相殺してのけたアルフィアは、してやったりと笑みを浮かべながら大地に降り立つ。

 

 今この瞬間、戦場は静寂に包まれていた。

 派閥連合側の誰もが動きを止め、アルフィアがやったことを理解するに努めていた。

 十数秒程かけて派閥連合の面々と観戦者達が事態を認識し、喜びに歓声を上げようとしたその時――レヴェリアは不敵な笑みを浮かべた。

 

 そして、彼女は【ボルカニックノヴァ】を行使する。

 戦乙女の周囲に次々と顕現していく千を超える炎弾。

 その数を目の当たりにして、派閥連合も観戦者達も先の魔法を凌いだ喜びは一瞬にして消え去った。

 先の斥候部隊壊滅により、その炎弾が炸裂した時の威力は既知のものであった。

 

「さぁ、凌いでみせろ」

 

 レヴェリアの宣言とともに、炎弾が放たれた。

 その弾速は先の斥候部隊を壊滅に追い込んだ時の比ではなく、そして()()()()()

 幸いであるのは炸裂していないことだが、彼女の意思一つでいつでも起爆できるのは明らかだ。

 

 無数の炎弾が放たれ、顕現し、また放たれる。

 弾幕を形成することで派閥連合からの攻勢を阻止しつつ、さらに()()()()()()()()

 

 再現の準備を整え、紡ぐは先程と同じ【メテオ・スウォーム】だが――ここでレヴェリアはあることを実行した。

 弾幕は途切れることなく続いており、レヴェリアの姿を完全に覆い隠している中で、【メテオ・スウォーム】の詠唱完了後、それを待機状態とした。

 先行魔法の魔法円保持及びその任意発動は『天授魔導(アルス・マグナ)』の効果の一つだ。

 魔法円が腕輪となって自身の右腕に装着されたところで、彼女は何食わぬ顔で再び【グリモワール・オブ・メモリーズ】の詠唱を開始した。

 アルフィアが再度相殺を狙ってくる、とレヴェリアは予想したからだが、それは的中していた。

 再度【ジェノス・アンジェラス】を放つべく、アルフィアもまた既に詠唱を開始していた。

 

 だが、レヴェリアが魔法を待機させたことをフィンは見抜いていた。

 詠唱速度を考慮すれば二撃目が既に放たれていないとおかしいのに、放たれていなかったからだ。

 二撃目、三撃目を連続して放つことでこちらの対処能力の飽和を狙っていると彼は即断した。

 

「連続でくるぞ! 主力、迎撃準備! 総員、頭上に注意しろ!」

 

 アルフィアが阻止してみせたことで、一定以上の威力を持った攻撃ならば隕石を破壊できることは明白であるが故の指示だった。

 彼の号令を聞きながらレヴェリアは【ボルカニックノヴァ】の行使を止めて、【メテオ・スウォーム】の詠唱を完了し、放った。

 

 空一面を覆い尽くす魔法円より、隕石が次々と顔を出して落下を始めた時、響き渡るは滅界の咆哮。

 先程と同じ光景が繰り返され、アルフィアによって隕石群は木っ端微塵に砕け散ったのを誰もが見届けた、その瞬間。

 

 レヴェリアは意地悪く笑って、呟いた。

 全ての神の鏡は彼女の姿をズームし、その表情をアップで映しつつ、声をオラリオ全土に届けた。

 

「さすがはアルフィアだ。では、()()()()()()()()?」

 

 その問いかけに、自分達が戦っているわけではないのに観戦者達の大半が戦慄し、束の間、呼吸すら忘れた。

 そして、レヴェリアは無慈悲に告げる。

 

「【詠唱解放(レガート)】――【メテオ・スウォーム】」

 

 瞬間、空一面に魔法円が展開された。

 【ジェノス・アンジェラス】を撃った直後のアルフィアに対応する術はない。

 次々と顔を覗かせる隕石達は遮られることなく、大地に降り注ぐかに思えたが――そうはならなかった。

 フィンが叫ぶ。

 

「主力、各個に迎撃! 当たるものだけを処理しろ!」

 

 詠唱を終え、魔法を待機させていた魔導士達が次々と魔法を撃ち放つ。

 様々な属性の攻撃魔法によって、さながら花火大会の如く色鮮やかに空一面が染まった。

 その弾幕を潜り抜けてきた隕石に対して、前衛・中衛が即応する。

 それぞれが手に持つ得物によって、隕石を次々と砕いていく。

 

 その光景をレヴェリアは妨害することもせずに眺めていた。

 魔法を阻止されたというのに満足気な表情だ。

 

 【メテオ・スウォーム】を凌ぎ切ったことで、派閥連合――特に支援部隊の士気は大きく向上する。

 ()()()()()()()()()()()()3()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と誰もが確信したからだ。

 

 だが、四派閥の主神達と眷族達は知っている。

 これは始まりでしかないことを。

 

 次にレヴェリアがどのように動くか、一挙一動を派閥連合の面々が観察する中、おもむろに彼女は大声で叫んだ。

 

「『先程、最後に挑んできた砂色髪のアマゾネス達はどこにいる!?』」

 

 レヴェリアが発した言葉はテルスキュラ独自のものであり、この場で理解できたのはテルスキュラのアマゾネス達のみだ。

 

 派閥連合側や観戦者達からすれば予想外過ぎる行動であったが、レヴェリアからすればちょっとした余興に過ぎない。

 たとえ事前にフィンが再現魔法であることを伝えていても、実際に見なければ信じないだろうと彼女は予想していた。

 

 3回連続で使ってみせたことで3番目の魔法は【メテオ・スウォーム】だ、と大半の者達が思い込んでいるだろうが、せっかくの派閥大戦、それしか使わないのでは面白くない。

 どうせバレるならば盛り上がった方が良い、とレヴェリアは考えた。

 

 2人が出てこないかもしれない、と彼女は思ったが、それは杞憂だった。

 主力部隊の間を通り抜けて、彼女の前にやってきた2人のアマゾネス。

 アルガナは嬉しそうに笑みを浮かべ、バーチェも姉程ではないが柔らかい表情であった。 

 

 これ幸い、とフィンは部隊の立て直しを図るべく矢継ぎ早に指示を下していた。

 レヴェリアが何を言ったか分からないが、わざわざ呼んだのはあのアマゾネス達の魔法を再現しようとしているのかもしれない、と考えながら。

 それを止めることはしない。

 レヴェリアが再現できる魔法が一つ二つ増えようとも、例えそれがどんなに凶悪なものであっても、こちらの魔法の大半を既に再現できる為、今更であった。

 そもそも、言葉が通じないから止めようがないという根本的な理由もある。

 片言でも話せるアマゾネスに通訳を頼んでいるうちに、レヴェリアは必要な情報を把握し終わるだろう。

 

 再現魔法のことは、事前のブリーフィングにて全員に伝えてあったが――フィンの見た限りでは、誰も信じていなかった。

 それも無理はない、と彼自身思う。

 実際に何度も見ていなければ、信じられない魔法であった為に。

 

 その間にも、レヴェリアと姉妹の会話は進む。

 

「『名は?』」

「『アルガナ・カリフだ』」

「『バーチェ・カリフ』」

「『姉妹か?』」

 

 レヴェリアの問いかけに、アルガナはすぐに、バーチェは若干の間をおいて頷いた。

 

「『アルガナ、お前の吸血は魔法か? 呪詛か?』」

「『呪詛だ。名はカーリマー。カーリーが言うには血潮吸収(ブラッドドレイン)だ。血を啜った相手の能力値が上昇する。『耐久』が激減するがな』」

 

 なるほど、とレヴェリアは頷いて、バーチェに視線を向けた。

 

「『バーチェ、お前の右手に纏っていたモノは魔法によるものか? それとも呪詛か?』」

「『魔法だ』」

 

 その単語を聞いた時、レヴェリアは笑みを深めて問いかける。

 

「『毒の付与魔法(エンチャント)で合っているか? 術者であるお前に代償はないか?』」

「『合っている。私に代償はない』」

 

 そこまで見抜かれているならば隠しても意味がない、とバーチェはレヴェリアからの質問に答えてしまう。

 さらにレヴェリアから質問されるが、バーチェは嘘偽りなく素直に答えていく。

 たとえ魔法の効果を完全に把握されたところで、ここまで圧倒的な差が開いているのならば大して変わりはない。

 バーチェは勿論、隣で聞いていたアルガナもそう考えた。

 なお、妹ばかりに質問されて、嫉妬心がむくむくと湧き上がっていたのは些細なことである。

 

「『感謝する。お礼に面白いものを見せてやろう。よく見ていろ』」

 

 レヴェリアは会話を締めくくり、一呼吸を置いて告げた。

 

「さて、準備運動は済んだ。では、()()()()()()()()()()()()()

 

 そう宣言をしたレヴェリアは、【グリモワール・オブ・メモリーズ】を詠唱し、再現の準備を整えた。

 そして、彼女が再現したのは、たった今、バーチェから教えてもらった魔法。

 

「【食い殺せ(ディ・アスラ)】――【ヴェルグス】」

 

 瞬間、彼女の右手を覆う黒紫の光膜にバーチェは目を大きく見開いた。

 驚愕のあまり、アルガナが叫ぶ。

 

「『それはバーチェの魔法! どうしてお前が使える!?』」

 

 彼女の言葉を理解できるのはテルスキュラの者達のみ。

 だが、言葉が分からずともレヴェリアの3番目の魔法がどういう効果を持つか、予想がついてしまった。

 

 3番目の魔法を唱えた後に、先程は超長文詠唱を行っていた。

 しかし今、同じ魔法を唱えた後に超短文詠唱でもって全く違う魔法を発動した。

 その事実から導き出される答えは、信じられないあるいは信じたくないものであったが、それが正しいことをレヴェリアは告げる。

 

「『私の3番目の魔法を教えてやろう。それは他人の魔法を再現することだ』」

 

 カリフ姉妹のみならず、聞き耳を立てていたテルスキュラのアマゾネス達は信じられない事実に絶句した。

 誰もが驚きに目を見開く、予想通りの反応にレヴェリアは大変満足しながら――共通語でもって改めて伝える。

 

「さて、もう気づいた者もいると思うが……私の3番目の魔法、それは他人の魔法を再現するものだ」

 

 既知であった四派閥の面々に驚きはないが、それ以外の者達にとっては驚倒の事実だ。

 ただでさえ、手のつけられないレヴェリアが魔法において無限に等しい手札を持っているのだから。

 事前のブリーフィングにて、フィンからこのことは伝えられていたのだが、大半の冒険者達が一笑に付していた。

 

 それはさておき、ある事に気がついてしまった者がいる。

 最初に口に出したのは支援部隊に配置されているシャクティだった。

 彼女はレヴェリアの規格外っぷりを知ってはいたものの、再現魔法に関してはさすがに半信半疑だった。

 だが、それが事実であると本人から明かされて、顔色を青くした彼女は、恐る恐る尋ねた

 

「レヴェリア様、もしかして四派閥の団員達の魔法も……!」

 

 その質問の意味を理解したレヴェリアは、獰猛な笑みを浮かべて答えた。

 

「ああ、そうだとも。私が知っているものならば、問題なく再現できる。誰のものであろうともな」

 

 絶望的な事実が明かされたが、さらにレヴェリアは追撃する。

 彼女は、よく見えるように黒紫の光膜に覆われた右手を掲げた。

 

「この魔法は、そこにいるアマゾネス、バーチェ・カリフが使用するものだ。毒の付与魔法(エンチャント)で、彼女は右手に纏わせていた」

 

 そして、彼女は一拍の間を置いて更に言葉を続ける。

 

「私の3番目の魔法、【グリモワール・オブ・メモリーズ】は魔法を再現するが、その威力・効果・範囲なども再現するわけではない」

 

 つまり、とレヴェリアが言った瞬間、黒紫の光膜は右手だけではなく彼女の全身を包み込んだ上で、更にその周囲へ広がった。

 彼女を中心として半径5M程の猛毒による結界が形成された。

 

 レヴェリアはバーチェをしっかりと見つめ、テルスキュラの言葉でもって語りかける。

 

「『これはお前がいつか至る姿だ。よく見ておけ』」

 

 黄金の瞳に見つめられたバーチェは、胸の高鳴りを感じながら、しっかりと頷いた。

 それを確認したレヴェリアは共通語に切り替える。

 

「再現した魔法の威力・効果・範囲などは術者である私に依存している。今、この毒は……陸の王者(ベヒーモス)に近いかもしれんぞ?」

 

 そう伝え、レヴェリアは渾身のドヤ顔を披露した。

 彼女の戦いを応援団扇をぶんぶか振り回しながら見守っていた、フレイヤも一緒にドヤ顔をした。

 主従揃って、戦場のみならずオラリオ全土にドヤ顔を披露していた。

 

 対する派閥連合は四派閥と一部の冒険者を除いて、あまりにも絶望的な事実を突きつけられて言葉を失った。

 戦意は完全に消し去られた。

 勝てるわけがないと武器を手放したり、あるいは膝から崩れるように座り込むといった冒険者達は種族を問わず、あちらこちらで見受けられた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。