転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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折れない者達

 

「魔法を3つも同時発動だと……?」

 

 ありえない光景に、シャクティはもはや驚くよりも困惑が勝っていた。

 彼女が困惑したのは、これ以外にもある。

 レヴェリアとの隔絶した差をその身に分からされているのに、そんなことは気にせずに突っ込んでいく四派閥の眷族達だ。

 統制だった作戦行動は既に崩壊している。 

 支援部隊に属している冒険者達、その大半が戦意を喪失したからだが、一部の者達はそうではなかった。

 その最たるものは四派閥の者達だ。

 レベル1であろうとも当たり前のように、得物と物資を持って駆け出していった。

 また、カーリー・ファミリアのアマゾネス達も開幕に惨敗していたが、臆するどころか喜び勇んで突撃していく。

 

 そして、個人参加しているイシュタル・ファミリアのフリュネをはじめとするアマゾネス達も、嬉々として得物片手に突っ込んでいった。

 都市外派閥(バルドル・ファミリア)に属しながらも、レベル6に至っているレオンが不敵な笑みを浮かべて、斬り込んでいった。

 

「手前らも行くぞ! 打った武器がどこまで通じるか、試すチャンスだ!」

 

 椿・コルブランドを筆頭とした、ヘファイストス・ファミリアからの個人参加者達も彼女の掛け声と共に突撃していった。

 ここまではまだ理解できるが、信じられなかったのはアフロディーテ・ファミリアから個人として記念参加している者達だ。

 

「せっかくだし、いっちょ行っとく?」

「行くべ行くべ! 俺達が本気のレヴェリア様と見えるなんて、この先絶対ないぞ!」

「レヴェリア様、終わったら店に来ないかなー? シャンパンバベルタワーで戦勝祝いやってほしい!」

 

 ウェーイ、と男も女も軽いノリで突っ込んでいった。

 シャンパンバベルタワーってなんだ、とシャクティは現実逃避してしまった。

 

「シャクティ、どうする……?」

「アレに突っ込むのか……?」

 

 そんな彼女に対して困惑混じりに声を掛けてきたのは、同じくガネーシャ・ファミリアから個人参加している者達だ。

 こういう催しには都市の憲兵として、オラリオの秩序を保つガネーシャ・ファミリアは通常参加しない。

 だが、この派閥大戦は貴重な経験を得られることから、希望者には個人としての参加を認めていた。

 今回、シャクティはガネーシャ・ファミリアからの参加者達の纏め役に抜擢されている。

 彼女は実力・人柄などから、早くも次期団長候補として有力視されている為だ。

 

 シャクティは迷う。

 

 死にかけたとしても、レヴェリアが癒やしてくれるだろう。

 だが、四派閥すらも歯牙にもかけない相手に対して、自分達が突っ込んだところで意味はあるのかと。

 

 その時、彼女の目の前に落下してきた人物がいた。

 シャクティ達は目を見開く。

 その人物はアルフィアだった。

 彼女は血まみれであったが、それ以上に衝撃的であったのは片腕が存在しなかったことだ。

 絶句するシャクティ達に、アルフィアは叫んだ。

 

「エリクサーはあるか!? あるなら寄越せ!」

「あ、あぁ……」

 

 剣幕に押されて、シャクティは自分の持っていたエリクサーを差し出す。

 それを引ったくるように受け取り、蓋を口で開けてアルフィアは一気に飲み干す。

 いくらエリクサーといえども失った腕を再生するような効果はない為、その片腕が戻ることはない。

 

「どうしてだ? どうして、そこまで戦うんだ?」

 

 思わずシャクティは尋ねてしまった。

 レヴェリアの力は圧倒的で、勝ち目があるとはまったく思えない。

 彼女の治癒魔法は破格であり、失った手足ですら再生すると噂によく聞くが、魔法を掛けてもらうまでは激痛であるのは想像に難くない。

 

 その問いかけに対するアルフィアの答えは、シャクティ達への問いかけだった。

 

「ガネーシャ・ファミリアは犯罪者が圧倒的に強かったならば……戦っても勝ち目がない、と諦めるのか?」

 

 その言葉にシャクティ達はハッとさせられた。

 お前達の返事は聞くまでもない、とばかりにアルフィアは再び戦場へ戻っていった。

 シャクティは槍を強く握り、キッと戦場を睨みつける。

 

「行くぞ」

 

 シャクティの決断に、反対する者はいなかった。

 各々が闘志を燃やし、恐怖を封じ込めて――おう、と大声で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「遊び過ぎだろ。終わらせられるのに、どうしてやらねぇんだ? なぜ、回復をする?」

 

 ヴァレッタは悪態をついていた。

 レヴェリアと交わらないと収まらないと思っていたが、自らの手でたっぷりと発散したことでそれなりには落ち着くことに成功していた。

 そんな彼女は鏡を見ながら、疑問を抱く。

 

 誰がどう見ても、もはや派閥連合に勝ち目はない。

 戦っている当事者に分からない筈はないが、四派閥の面々や一部の者達は幾度吹き飛ばされ、斬られ、毒に侵されようとも諦めない。

 ある程度痛めつけられた後、レヴェリアが治癒魔法を唱えて癒やされて――また痛めつけられる。

 そもそもどうして彼女は敵を癒やしているのか、そこがおかしいことにヴァレッタは今更ながらに気がついた。

 

「……もしかして、この戦争遊戯って……派閥連合、いや四派閥を鍛えることが目的なのか?」

 

 そう考えるとレヴェリアの行動が腑に落ちてしまう。

 ありえそうだ、とヴァレッタは思いつつ、鏡を眺める。

 

「しかし……容赦ねぇな」

 

 彼女は見た。

 レヴェリアと深い関係にあるアルフィアが重傷を負っているところを。

 普通は情が湧いているからこそ、手加減を加えたりするものだが――レヴェリアはそうではなかったようだ。

 アルフィアだけに限らず、イシュタル・ファミリアでのレヴェリアのお気に入り、フリュネにもまったく容赦していない。

 

「あ、【九魔姫(ナイン・ヘル)】が斬られて吹っ飛んだ」

 

 今まさに前衛・中衛を叩き潰しながら後衛に斬り込んで、レヴェリアがリヴェリアを斬って炎弾をぶち込んで、遠くに吹き飛ばしていた。

 家の外から窓ガラスが震える程の悲鳴があちこちから響き渡る中、喜びの声も少し聞こえてきた。

 エルフ達は悲嘆し、ダークエルフ達が狂喜乱舞しているのだろう。

 

 しかしながら、戦場にいるエルフ達は感情を乱したりすることはない。

 彼等彼女等はいつものことだと言わんばかりに、レヴェリアへの対処と部隊の立て直しを冷静に行う。

 そんな頑張りを一瞬で無に帰す大砲撃魔法がレヴェリアによって撃ち込まれた。

 その直後、何度目になるか分からない彼女の治癒魔法が展開され、本人以外の全員を癒やし尽くしていく。 

 

「……おもしれぇ」

 

 元々闇派閥に入って好き勝手やろうと考えていただけに、ヴァレッタはこういうシーンは大好物だ。

 一方的な蹂躙ほど気持ちの良いものはない、と彼女は思う。

 

「うーん……やっぱり私もどっかに入ろうかなぁ。恩恵があるとレベル1でも身体能力とか上がるって聞くし」

 

 身体能力が上がると日常生活で色々と便利であり、何よりレヴェリアとの逢瀬で激しいことがもっとできるようになる。

 何かしらのスキルでも発現して、それがプレイに有用なものならば最高だとヴァレッタは思う。

 また、ランクアップをすると神に近づくとかで不老長寿になるらしい、と噂でよく聞く。

 レヴェリアとは末永く一緒にいたいヴァレッタとしては、種族の違いからくる寿命の差を少しでも埋められるならばランクアップの為の苦行も頑張れる気がした。

 

 幸いにも、彼女にはレヴェリアという最強のコネがある。

 彼女に頼めば良い神を紹介してくれるだろうし、ランクアップの手伝いもしてくれそうだ。

 

 フレイヤ・ファミリアに転がり込むというのも手だが、レヴェリアの話を聞く限りでは蠱毒にしか思えない。

 噂には聞いていたが、団員達は毎日レヴェリアの命を狙ってきたり、団員同士の殺し合いに等しい鍛錬をしていることはレヴェリア本人から確認が取れていた。

 ファミリア内の雰囲気は最悪で、オラリオワーストワンかもしれなかった。

 

「ま、急ぐこともねぇや。じっくり考えるか……だが、レヴェリア。お前はさっさと終わらせろ。急げ。早く帰ってこい」

 

 ヴァレッタは言ったその時、レヴェリアが毒の結界を突如として解除した。

 同時に、その手に握る長剣へ黄金の粒子が集まっていく。

 そして、彼女は誰もいない方向へ剣を振るい――黄金の極撃が放たれた。

 

 ヴァレッタは思わず手を止め、ポカンとした顔でそれを見ていた。

 そして、その一撃が齎した被害が映し出され、思わず口笛を吹いてしまう。

 レヴェリアは誰もいない方向へ放ったが、それは正しいとヴァレッタですらも思えてしまう。

 黄金の斬撃は都市中央から外縁部を貫き、カルデラ湖を取り囲む山々のうちの一つにまで届いて、その一部を削っていた。

 先程まで外から聞こえていた喧騒もピタリと止んでいる。

 

「渾身の一撃ってやつか? アレ絶対気持ちいいだろうなぁ……私もやってみてぇ!」

 

 目を輝かせて、1人で盛り上がるヴァレッタだった。

 

 

 

 

 

 想像を絶するレヴェリアによる一撃。

 それを目の当たりにしたパーティー会場内の要人達が静まり返る中、アスフィは自身の予想が正しいことを確信する。

 あれほどの攻撃を繰り出せる上、治療師としても魔導士としても他の追随を許さないレヴェリアがいるならば、常識的に考えて黒竜討伐に乗り出す筈だ。

 戦争遊戯終了後に黒竜討伐へ乗り出すという旨の発表をするかもしれないが、その線は薄いとアスフィは考える。

 今回の戦争遊戯で大量に消耗しているアイテムや魔剣類、そこに費やされた金額が全て無駄になるからだ。

 戦争遊戯の狙いが公開鍛錬であったとしても、ここまで莫大な資金を費やす必要性がない。

 討伐は年単位で延期される、と彼女は予想した。

 

 しかし、とアスフィは思う。

 

 戦っている時のレヴェリアと普段の様子、その差が激し過ぎる。

 色ボケ何とかアールヴ様とか神々からは呼ばれていたが、とてもではないがそう見えない。

 今あの場にいるのは、派閥連合にとっては絶望の具現化だ。

 

 オラリオに来てから耳にした、レヴェリアに対する神々の評価の一つにはギャップ萌えというものがある。

 振る舞い・態度の違いによって生まれる尊い感情というものらしいが、記憶にあるレヴェリアと今の彼女の姿を比べたアスフィは、その評価はピッタリだと感じた。

 ついつい、自分の感想が口から小さく溢れ出てきた。

 

「普段の御姿は勿論ですが、今のように凛々しいレヴェリア様も……とても良いですね」

 

 アスフィは笑みを浮かべて、そう呟いた。

 しかし、そんな彼女を両親が微笑みながら、こっそりと見ていることには気が付いていなかった。

 





シャンパンバベルタワー

アフロディーテがレヴェリアからカネを毟り取ってやろうと目論んで作られた、実質レヴェリア専用メニュー。
シャンパンタワーの最終進化形態。名前の通りバベルみたいな高さで準備するのも大変。
1回1億ヴァリス以上とかいうバカみたいな金額。

※アフロディーテ・ファミリアの運営するホストクラブ・キャバクラはどちらでもシャンパンタワーを頼める。
レヴェリアが通っているのはキャバクラ。
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