転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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若さゆえに

 

 あんな化け物に勝てるわけがない――

 どうして挑めるんだ?

 

 その2つの思いは、ただ眺めることしかできない冒険者達にとって共通したものだった。

 レヴェリアと戦うと意気込んでいた血気盛んな者達も、暗殺してやろうと目論んでいた者達も、彼女の圧倒的な強さに戦意を失っていた。

 前者はともかく後者は隙あらば殺ってやろうという気概すらも出てこなかった。

 死角からの急襲どころか、それこそレヴェリアが素っ裸で熟睡しているところを狙ったとしても、普通に反撃されて吹き飛ばされるイメージしか沸かなかったからだ。

 

 数十年前、まだ治療師として売り出し中で、当時レベル1であったレヴェリアが数多の殺し屋や暗殺組織、犯罪系派閥や闇派閥に狙われるも、その全てを撃退し続けた――

 

 どこまでが本当か分からないが、その筋では有名な話だ。

 当時を知っている者達は引退したか、別任務で命を落として天に還っていることが多く、真実を知る者は少ない。

 また、そういった後ろ暗いことをしている連中に関わっている神々が、真面目に教えるわけもない為、実際はどうだったか不明であった。

 

 誰もが尾びれ背びれがついていると思っていた。

 だが、この惨状を目の当たりにして、レベル1の頃でもそのくらいはやりかねない、あの話は全て本当だったのではないか、と思えてしまう。

 

 レヴェリアと同格が派閥連合に多数いる以上、彼女は善戦するかもしれないが、勝てはしない。

 常識的に考えるならば、その結論しか出しようがない。

 

 だが、あいにくと彼女は神時代のバグと称される程の規格外にして非常識。

 常識を蹴り飛ばして粉砕することなどお手の物であった。

 

 大嵐に翻弄される小舟のように、レヴェリアに挑んだ者達はあっという間に蹴散らされていく。

 マトモな感覚では、あそこに突っ込むことなど自殺行為にしか思えない。

 瀕死になってもレヴェリアが癒やしてくれるとはいえ、激痛を味わう羽目になる。

 

 そんなことはするべきではない、それが真っ当な判断であるのだが――四派閥や一部冒険者達が戦っている姿を見て、感化される者達がいた。

 それは恩恵を授かったばかりの者達であり、総じて年が若かった。

 

 若いからこそ無謀と勇気を履き違えることもある彼等彼女等からすると、圧倒的な敵に対して果敢に挑んでいる四派閥や他派閥冒険者達の姿は――何よりも眩しく、憧れすら抱く程に格好良く見えた。

 そんな若者達の中で、真っ先に動いたのはヒューマンでもエルフでもドワーフでも獣人でもアマゾネスでもない。

 

 小人族だ。

 

 満身創痍となっても必死に食らいつくフィン・ディムナ。

 彼に憧れてロキ・ファミリアへ入団し、レベルで劣っていようとも臆することなく、レヴェリアに立ち向かう同胞達の姿に、小人族の若者達は光を見た。

 あの場に行っても何の役にも立たないことは明白だが、それでも溢れ出る勇気は止められない。

 

「俺は行くぞ!」

「僕も! 【勇者(ブレイバー)】みたいになるんだ!」

「【勇者(ブレイバー)】と肩を並べて戦えるなんて、もう二度とないかもしれない! 行くしかない!」

「進め進め! 小人族だってやれるんだ!」

「小人族の勇敢さを知らしめるぞ!」

「勇気は前にしかない! 行くぞ!」

 

 その手に自らの得物と何かしらの物資を持ち、小人族達は次々と戦場へ向かう。

 小人族の行動に対して、レヴェリアは無論、四派閥や戦っている冒険者達はすぐに気がついた。

 その動きを排除することなく、迎え入れる。

 

 顔を自身の血で染めながらも、フィンは口元に笑みを浮かべ――新たな参加者達に向けて、すぐさま指示を飛ばす。

 参戦した者達は派閥もレベルも全てがバラバラであるが、彼の指示は極めて的確だ。

 サポーターとして手伝ってもらう、あるいは肉の盾として使うなどということはしない。

 それは勇気を出してくれた同胞達に対して、あまりにも礼を失する行為だ。

 故に、レヴェリアと戦ってもらうと彼は即断していた。

 

 対するレヴェリアも、これまでと同様に即死こそは避けるが、それ以外に手加減などはしない。

 勇気を出した小人族がどれだけ手強いか、諦めが悪いか、フィン・ディムナという事例でよく知っている為だ。

 

 恐怖を抑え、勇気を胸に立ち向かう小人族達、その前衛を彼女は一瞬で斬断していく。

 血を流し倒れる同胞達を見ても、中衛・後衛は怯まない。

 あまりの惨事に顔を引きつらせても――攻撃の手は緩めない。

 

 そして、他種族の若者達も次々と手に得物と物資を持って動き出す。

 彼等彼女等の顔に浮かぶのは、小人族に一番槍を取られた悔しさだ。

 この借りは戦働きで返すとばかりに、一層奮起して戦場に乱入していく。 

 

 若者達が動けば、年長者達も動くしかない。

 蛮勇だ、無謀だ、とあれこれ言いながらも、覚悟を決めた。

 一度覚悟が決まれば、その動きは早かった。

 

 

 

 

 

 バベル30階では神々が大興奮していた。

 戦意を喪失し、脱落した者達が再び心に火を灯して立ち上がった――こういう展開は神々にとって大好物である。

 

「すげぇ! 小人族が真っ先に動いたぞ!」

「【勇者(ブレイバー)】がいるのが大きいな」

「勇者と肩を並べて戦えるとか最高に滾る展開だしな!」

「だが、待ってほしい。【勇者(ブレイバー)】だけが勇気を与えたわけじゃない」

「一番に動いたのが小人族ってだけだよな。レヴェリア様と戦っていた子達全員が勇気を与えたんだろ」

「ヒューマンもエルフもアマゾネスもドワーフも獣人も、皆動いたからな」

「圧倒的な強さの敵に立ち向かうという構図が、やっぱり皆に勇気を与えるんだよなぁ」

「この戦争遊戯、黒竜討伐の予行演習みたいになってるような気がするぜ」

「それは私も思った。世界中から集まった色んな子達が手を取り合って協力しているし」

「下界の危機に対して、下界が一致団結できるわけがないって思ってたわ、サーセン!」

「というかレヴェリア様、派閥連合全員をランクアップさせるおつもりか? 修行の作法を教えてやる的な?」

「そんな展開になったら、もうレヴェリア様と戦うしかなくなっちゃうじゃん……お手軽ランクアップの為に」

「なお、死んだほうがマシな状態になっても癒やされて戦うことをぶっ通しで繰り返す模様」

「ランクアップだけを考えれば効率は良い……のか?」

「精神が病みそうだけど、レヴェリア様の治癒魔法はそういうのにも効くらしいしな……」

 

 神々の会話を聞きながら、ロキはニンマリと笑みを浮かべて心に思う。

 

 もう一族の光になっとるやんけ、と。

 

 フィン本人に言えば、まだまだ全然だよ、と苦笑しながら返しそうだ。

 その時、ドスの効いた声でもって彼女は呼ばれた。

 

「おい、ロキ」

「何や、イシュタル。そんなおっかない顔をして」

 

 敵を睨みつけるかのような表情のイシュタルと、ついでにムスッとした顔のアフロディーテがロキの目に映る。

 この2柱はレヴェリアから何にも聞かされていないことは、これまでの反応で明らかだ。

 しかし、それが気に食わないというわけではなさそうだった。

 

「ロキ、この戦いはいつになったら終わるんだ?」

 

 イシュタルの核心を突いた問いかけに対して、ロキはさり気なくヘルメスへ視線を向ける。

 するとその視線に気がついた彼は軽く頷いた。

 

「夕方には終わらせるんちゃうかな、知らんけど」

 

 馬鹿にしているような答えだが、イシュタルもそして隣で聞き耳を立てていたアフロディーテも正確に理解する。

 ()()()()()と言ったことからレヴェリアの判断になる、と暗に示した。

 派閥連合の力戦奮闘は認めるものの、逆転の目など無いことは誰の目にも明らかだ。

 必然的に戦いの主導権を握っている彼女が終わりと言ったら終わりなのだろう――イシュタルもアフロディーテもそのように予想した。

 2柱からすれば、こんな戦いを魅せつけられて体が火照って仕方がない為、レヴェリアにしっかりと責任を取ってもらう必要がある。

 夕方までは我慢しよう――ロキの話を聞いた2柱はそう決めた。

 

「で、ロキ。これは全部、あなた達の狙い通り?」

 

 ヘファイストスからのさり気ない問いかけに、ロキは素知らぬ顔で首を傾げてみせる。

 何を言っても答える気はない、という露骨なアピールだ。

 しかし、それだけで十分だった。

 

 モヤモヤとしたものは心にあるが、口に出してまで批難する程でもない。

 派閥連合に参加した全ての眷族達はレヴェリアという強敵を相手に、一致団結して果敢に戦っている。

 レヴェリアの治癒魔法がある為、即死でなければ治療できるということが心情的には大きい。

 普通の治癒魔法ならどうにもならない重傷を頻繁に負うが、それでも臆することなく誰も彼もが必死に『頂天』に手を伸ばし、そこに届けと抗っている。

 

 自分達の武器が通じるかどうかを試すという椿達の目的はそれとは若干違うが、今回の経験は得難いもの――ヘファイストスはそう判断した。

 他の神々もこのことには気づいていたが、誰も問題にしていない。

 神によって程度の差こそあれど、基本的には面白ければ何でも良かった。

 

 

 

 

 

「嘘だろぉ!? 何でそこで立ち上がるんだよ! 雑魚共の癖に! さっさと諦めちまえよ!」

 

 ヴァレッタは鏡に向けて悪態をついていた。

 彼女からすれば大変面白くない状況だ。

 

「レヴェリアに勝てるわけがないだろ! アイツは『頂天』なんだよ!」

 

 ここから万が一、大逆転でレヴェリア敗北となったらヴァレッタとしては大変嫌な気持ちになる。

 そんなことはまずありえないと彼女自身も思ってはいるが、神々の大好きな下界の未知とやらが出はってくるかもしれない。

 

「あ、こらレヴェリア! 何で雑魚が立ち向かってきて嬉しそうな顔をしているんだ!? もう敵を癒やすな!」

 

 鏡に向かって言いたい放題のヴァレッタだが、現地に伝わるわけもない。

 

「鍛えることが目的だとしても、今やるんじゃねぇよ!」

 

 ヴァレッタの叫びは至極尤もであった。

 

 

 

 

 

「立ち上がった!? 嘘……あの状況で……!」

 

 アスフィは思わず声を漏らしてしまったが、それは彼女以外でも同じだった。

 予想外の事態に会場内は驚きの声があちこちから聞こえ、次いで立ち上がった冒険者達を称賛する声が上がる。

 

 あれほどの力を見せつけられた上で、脱落した冒険者達が再び立ち上がるのは並大抵の勇気ではない。

 しかも、総指揮官であるフィン・ディムナをはじめとした四派閥の誰かしらが、言葉でもって立ち上がらせたのではない。

 諦めることなく挑み続ける彼等彼女等の姿を見て、若い冒険者達が先陣を切り、それに影響されてベテラン勢もまた動いた。

 

「あれが、冒険者……!」

 

 たとえ諦めたように見えていたとしても、きっかけさえあれば立ち上がる。

 そのしぶとさにアスフィは息を呑む。

 

 派閥連合がどう足掻いたところで戦力差は歴然であり、レヴェリアの勝利は揺らがない。

 

 頭では理解しており、個人的にもレヴェリアの勝利は喜ばしいものだ。

 しかし、それでもその言葉が彼女の口から零れ出てきた。

 

「頑張れ……っ!」

 

 小さな応援であったが、その声は一つではなかった。

 会場内のあちこちから、派閥連合を応援する声が聞こえ始めていた。

 そして、その応援はここだけではない。

 大通りで、酒場で、食堂で、ダイダロス通りで、路地裏で――派閥連合への応援は種族を問わず、オラリオ全土で沸き起こりつつあった。

 観戦者の誰もがこの奮起をもってしても、戦況が変わることはなくレヴェリアの勝利が覆ることはない、と分かっていたが、それでも応援せずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 フレイヤは応援することも忘れて、戦いに魅入っていた。

 レヴェリアだけではなく、派閥連合の面々もまたフレイヤを見惚れさせている。

 派閥連合には曇っていたり、澱んでいる魂も多かったがレヴェリアとの戦いにより、今や誰も彼もがその魂を美しく輝かせている。

 輝き方は様々で、明るいものもあれば暗いものもあるが――その全てがフレイヤにとっては愛おしい。 

 

「宝石箱みたい……」

 

 そう呟いて、フレイヤは悩ましげに溜息を吐く。

 正直、ここまでの展開になるとは思ってもいなかった。

 【勇者(ブレイバー)】が適当に演説でもして、士気を上げて皆が立ち上がるという展開をフレイヤは予想していた。

 

 だが、そうではなかった。

 挑む姿を見た者達が自ら立ち上がり、後に続いたのだ。 

 最初に動いたのが小人族であったりだとか、若さゆえの無謀や蛮勇だとか、そういうことよりも、再び立ち上がったという事実こそが重要だ。

 戦意を失った冒険者達が再び立ち上がり、必死に抗っている姿は見る者全ての胸を打つだろう。

 

 しかしながら、フレイヤは天下無敵の暴走たわけ女神であり、空気を読まないことには定評があった。

 様々な魂の輝きに見惚れつつも、それとこれとは話が別と言わんばかりに彼女は告げる。

 

「ま、私のレヴェリアが勝つに決まっているけどね」

 

 そう言って、フレイヤは後方伴侶面で腕を組んだ。

 レヴェリアの魂は洗練された、とても力強い虹色の輝きであり、群を抜いた煌めきであった。

 

 

 

 

 

 

 ギルド本部ではロイマンが鏡の一つを食い入るように見ていた。

 彼と同じように職員達も鏡を見ていた為、ギルドは実質的には休業状態だが、誰も困っていない。

 冒険者達は派閥連合に参加して戦場にいるか、あるいは同じように鏡を見ている為だ。

 

 戦争遊戯開始直前まで、ロイマンは疲労困憊であった。

 前代未聞の戦争遊戯開催の準備によってただでさえ忙しいことに加えて、開催1ヶ月前から戦争遊戯観戦の為、オラリオに来訪する各国の要人達とほぼ毎日、秘密会談を行っていたことが原因だ。

 

 会談のテーマは黒竜討伐の延期についてだ。

 

 レヴェリアが事前に書状を各国に送付していた為、スムーズではあったのだが――それでも精神と胃に多大なダメージを受けて、胃薬頼りの日々であった。

 彼の頑張りによって、各国には黒竜討伐延期を理解してもらい、合意書を交わしていた。

 ギルドの豚などと罵られることも多いロイマンであったが、こういった表には出ないが重要な仕事を手抜かりなくやれるからこそ、ウラノスは彼を重用していた。

 

 だが、そんな疲労はレヴェリアと派閥連合の戦いを見て、すっかりどこかへ吹き飛んでいた。

 

「いいぞ、頑張れ! 派閥連合!」

 

 彼の熱の篭った応援に、職員達は信じられないものを見たと言わんばかりの表情だが、それに気づくことはない。

 

 ロイマンの残った仕事は戦争遊戯終了後に討伐延期の会見を開くことだ。

 幾度かの協議を経て、神の鏡を利用してロイマンだけでなく四派閥の主神達及び団長達も揃って会見を行うこととなった。

 黒竜の推定レベルも彼の竜による被害状況が記された数少ない資料を元に、推測を重ねた上でどうにか算出し、原稿に盛り込まれている。

 推定レベルがあったほうが民衆に分かりやすく、また討伐延期もやむなしと納得してもらう為だ。

 なお、この推定レベルは各国要人との会談の際にも、大いに役立ったのは言うまでもない。

 

 これだけの戦力があっても黒竜に届かないのか、という絶望を民衆に与えるという懸念もあるが、失敗できないからこそ万全を期すということを強調する。

 

 実際、失敗はできない。

 後にも先にも、これほどの戦力が揃うことはない為、過剰なほどに戦力を整えたいのは本音だ。

 討伐延期によってエルフを除いた高レベル冒険者の高齢化に伴う戦力低下が懸念されたが、それは既に解消されていた。

 ランクアップをすれば不老長寿になるとはよく囁かれるものだが、実際は全盛期の期間が長くなる、とロイマンはウラノスより教えられた為だ。

 全盛期=若い時分であるから不老とまではいかないが、若い期間が長いのは間違っていない。

 

 寿命に関しては未知数だ。

 高レベル冒険者が引退して、余生を過ごすという事例が皆無である為に。

 高レベルであるからこそ高齢になっても派閥に属し、いざという時に仲間達の盾になって散る――そういう事例は枚挙に暇がない。

 安穏とした引退生活よりも最後の瞬間まで仲間の為、あるいは自身の使命の為に己の命を使うことに躊躇いがない。

 ウラノスですらも、こちらに関しては通常よりも長寿になる可能性があるという程度に留めていた。

 

 ともあれ、ロイマンは冒険者側にのみ焦点を絞れば、まだしばらくは戦力維持及び拡充が十分に可能であると判断している。

 無論、このことはウラノスにも相談をしており、彼の神が出した結論も同じであった。

 それこそレベル9やレベル8ともなれば、ヒューマン換算で60歳どころか70歳を超えても若いままという可能性すらある為、黒竜に動きがなければ猶予は10年単位であるかもしれない。

 

 そして、今回の派閥大戦でもって、戦力の拡充に関しては期待できる。

 レヴェリアという理不尽の塊に、一度は膝をついたものの再び立ち上がった者達の存在だ。

 

 黒竜と直接戦闘ができるくらいになってくれれば言う事無しだが、少しでもランクアップをしてくれれば黒竜討伐の際、サポートを任せることができる。

 討伐隊を万全な状態で黒竜の下に辿り着かせる為にも、サポート役は多く必要だった。

 

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