転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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決着

「そろそろ終わりにするか……」

 

 懐中時計を見て時間を確認し、レヴェリアは呟いた。

 戦争遊戯の経過としては、途中で戦意を失った者達が再び立ち上がるなどがあったものの――最初から今に至るまで、彼女が圧倒的に優勢を保ったままであることに変わりはない。

 大威力の魔法が双方によって乱発されたこともあって、フレイヤがいる地点を除けば大広場どころか、周辺地区まで含めてすっかり更地になっている。

 

 レヴェリアも無傷とはいかなかった。

 彼女の戦闘衣(バトルクロス)には度重なる熾烈な攻撃によって大小さまざま穴が開いており、本人もあちこちにかすり傷を負っていた。

 また、精神力も総量が膨大であることに加えて、スキルによる回復の後押しがあるとはいえ、大きく消耗していた。

 

 対する派閥連合側は、彼女とは比べ物にならないくらいに酷いものだった。

 魔剣などを含むアイテム類はとっくに底をつき、精神疲弊(マインドダウン)に陥って脱落した者も少なくはない。

 大半の冒険者達の装備はボロボロであり、修理するよりも新調したほうが安いくらいであった。

 高レベルの冒険者達は装備の質が高い為、そこまでではなかったが、それでもすぐに整備を要する損耗具合だ。

 だが、肉体に関してはレヴェリアの治癒魔法により、誰も彼もが傷一つなく体力は万全で疲れもなかった。

 戦おうと思えば戦えるくらいには元気一杯だ。

 

 基本的に戦争遊戯には時間制限はない為、やろうと思えばいくらでもできる。

 過去の事例では決着がつくまでに1週間近く掛かった場合もあり、長期間に及ぶのは珍しいことではない。

 

 しかし、今回は勝手が違う。

 最初から今に至るまでレヴェリアが延々と己の強さを見せつけているだけであり、ダレる展開だ。

 その兆しが一番早く現れていたのは間近で見ていた、我儘なたわけ女神であった。

 

 レヴェリアが『頂天』であることは、もはや誰も疑うことはない。

 見どころも色々とあったので、フレイヤ的には大満足だが、代わり映えのしない構図を見続けるというのは飽きるもの。

 フレイヤはガーデンテーブルに頬杖をついて、終わりはまだか、とソワソワし始めていた。

 

 これ以上の鍛錬はいつもの階層で、いつものようにやればいい――フレイヤの様子から判断したレヴェリアは終わらせにかかる。

 治癒魔法は終わるまで使えないからこそ、手足を飛ばしたり内臓を傷つけないようにしようと考えながら。

 

 

 バベル30階でも神々は観戦そっちのけで、雑談に興じていた。

 実況と解説のヘルメスとゼウスですらも、役割を放棄して今後のことについてヘラやロキと話し合っている程だ。

 誰もそれを咎める神はいない。

 そんな神々であったが偶に鏡を覗いて、頑張っているなとウンウン頷いたり、あの子は俺・私が育てたとふんぞり返るのがこの短時間でテンプレと化していた。

 

「はいはいレヴェリア様強い強い。さすレヴェさすレヴェ」

「まだ終わらんの? 正直、飽きたわ」

「もう終わらせるだろ。フレイヤ様が早く終わらないかなってソワソワした感じになっているし」

「レヴェリア様、どうやって終わらせようか悩んでいる説あるんじゃね?」

「治癒魔法をやめて、相手を戦闘不能にすれば終わるだろ」

「今回のルール的には全員を戦闘不能にした後、1分以内に武器を持って立ち上がらなければレヴェリア様の勝ち」

「もう終わるし、見どころを語ろうぜ。やっぱり脱落した冒険者達が立ち上がって、四派閥と合流するところが一番熱い展開だったよな」

「3番目の魔法のお披露目だろ。絶望感半端なかった。あんな切り札があるとか、さすレヴェだわ」

「レヴェリア様なら黒竜討伐できるだろ。露払いに四派閥をくっつけとけば余裕余裕」

「おっ、慢心か? 慢心、ダメ絶対!」

「やだやだ! 黒竜にレヴェリア様がぶっ殺されるリョナグロ展開はやだ!」

「可哀想は可愛いだろ?」

「可哀想は抜けないだろ! 二次元の中だけにしろ!」

「都市外派閥も侮れんよな。レオンっていうバルドルんとこの子とかやばい」

「ダンジョン抜きでレベル6はやべぇよな」

「今回の派閥大戦の収穫は、レヴェリア様やっぱりすげえ、諦めない四派閥もすげぇ、中小派閥や都市外派閥も気合と根性がやべぇってことが分かったことだよな」

「すげぇとやべぇしか言ってないじゃない……まあ、事実だけども」

 

 好き放題の神々であるが、これが平常運転だ。

 そんな時、ある神がハッと気がついた。

 

「そういえば、賭けってレヴェリア様の勝利でいいんだよな?」

 

 神々の動きは止まった。

 まだ戦争遊戯は終わっていないものの、既に彼女の実力は示されている。

 そもそもレヴェリアが派閥連合を治癒しなければ、とっくに戦争遊戯は終わっていたことは自明の理だ。

 そこから幾度も癒やして叩きのめしていることを対戦としてカウントすれば、レヴェリアは派閥連合に対して何回も勝利を収めていることになる。

 誰もがガネーシャへ視線を向けると、彼はポーズを取って答えた。

 

「終わるまでは分からない! それこそがガネーシャだぁあああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 神々がバベルで盛り上がっている頃、人々の間でもレヴェリアと派閥連合の戦いを見飽きた者が少しずつ出始めていた。

 アスフィの周りでも見飽きた者はいたが、今もなお彼女は魅入っていた。

 そして、一連の戦いを見て彼女はある光景を脳内に思い描いていた。

 

 それは、大人になった自分(アスフィ)がレヴェリアと肩を並べて戦っている光景(妄想)だ。

 

 危機的場面をレヴェリアに助けてもらったりするのは勿論、自分が彼女の危機に――そんな状況があるかは不明というのは置いておく――颯爽と登場して助け出す。

 幼いながらに優秀な頭脳を存分に活かして、アスフィはそんな事を考えていた。

 

 これまで以上に勉学に励み、今のうちから少しずつ運動とかしておこう。

 そういえば、レヴェリア様って弟子は取っているのかな?

 今まで聞いたことがなかったけど、ダメ元で立候補してみようかな――

 

 アスフィは色んなことを考えながら、顔を綻ばせていた。

 その時、レヴェリアの動きが変わったことに気がつく。

 彼女は治癒魔法を掛けることなく、戦場を縦横無尽に駆け巡って、派閥連合を小隊単位で斬断していく。

 これで終わり、という明確なサインであった。

 

 

 

 

 

 

 

「あー、ようやく終わるのかぁ……待ちくたびれた」

 

 治癒魔法を使うことなく、派閥連合を次々と倒していくレヴェリアを見たヴァレッタは、ベッドに大の字になって寝転がった。

 

「……どういうプレイをしてやろうかな」

 

 レヴェリアが『頂天』であることは、今回で誰もがよく理解した。

 圧倒的な力でもって、派閥連合を打倒した彼女は畏怖されるだろうが――だからこそ、ヴァレッタは滾っていた。

 

「つっても、女神サマ達とかその他色々で、私んところに来るのは……しばらく先かなぁ」

 

 ほどほどに冷静になったヴァレッタは、順番待ちがあることに溜息を吐く。

 とはいえ、待たせた分、何らかのお土産を持ってくることは間違いない。

 希少な宝石か、高級な衣類か、あるいはもっと直接的に金塊とかかもしれない。

 そこで、彼女はあることに気がついた。

 

「アイツが勝ったから、どんくらいの金が手に入るんだかなぁ……」

 

 レヴェリアは自分の勝利に全財産を賭けている。

 それによって賭けが盛り上がって、我も我もとあちこちからカネが集まった。

 派閥大戦の結果はレヴェリアの勝ちは確定したようなものであることから、彼女は莫大な金を手にすることになる。

 なお、ヴァレッタも有り金を全てレヴェリアの勝利に突っ込んでいた為、いい感じに儲けが出ることは確定していた。

 

「そんな大金をアイツが、何に使うんだ?」

 

 そんな疑問をヴァレッタは抱く。

 商業系をはじめとした非探索系派閥に投資として、億単位のカネを定期的に寄付していることは有名な話だ。

 その成果は新製品の開発・販売などという形で表れていた。

 今まで以上にばら撒くのか、それともデカい買い物でもするのか。

 

「やっべ、気になるわ」

 

 性的なこともそうだが、カネの使い道についても気になったヴァレッタは、レヴェリアが早く来ることを願った。

 

 

 

 戦争遊戯の終わりを目前にして、観戦をしていたエルフ達はそこかしこで気炎を上げていた。

 

「やはり我等も救界(マキア)に参加すべきだろう!」

「これほどの戦いを魅せられて、動かねば恥ぞ!」

「小人族ですら、あれほどの勇気を示したのだ! 我等も動かねば、臆病者の誹りは免れない!」

 

 良くも悪くも誇り高い種族であるからこそ、今回の派閥大戦の影響をモロに受けていた。

 孤立主義かつ排他主義、里に引きこもっていた彼等彼女等は考え方を大きく変えた。

 一番衝撃的であったのは、やはり脱落した冒険者達が再び立ち上がったこと。

 その際、真っ先に勇気を示したのが小人族であったことは、開放的なウィーシェの森のエルフ達であっても驚いた程である。

 ウィーシェの森以外のエルフ達にとっては、それこそ天地がひっくり返ったかのような衝撃であった。

 

 

 

 一方、ダークエルフ達は意外にも静かであった。

 世界中から集まった強者達が束になっても、レヴェリアには敵わなかった。

 黒の王女たる彼女が『頂天』に立つこと、それは黒の一族の復権どころか大いなる繁栄の始まりを予感せずにはいられなかった。

 

 王女はいずれ、女王として君臨する。

 それも黒竜討伐という大偉業を成し遂げた上で。

 誰もがそれを確信しており、その一助とならねばならない、と決意していた。

 

 

 エルフやダークエルフだけでなく、今回の派閥大戦は観戦していた全ての者達に大きな影響を与えていた。

 考え方が変わった者から、勇気を貰った者、自分も冒険者になろうと決意した者など様々であった。

 

 

 

 

 そして、遂にその時がきた。

 仕事を放棄していたヘルメスが最後の1人となったことを告げれば、見飽きた者達も終わりが近いことを知り、鏡に再び視線を向けた。

 

 最後に残った敵は、名も知らぬ派閥の冒険者ではなかった。

 【英傑】でも【女帝】でも【勇者(ブレイバー)】でも【静寂】でも【暴喰】でもない。

 

 【猛者(もさ)】――オッタル。

 

 彼は最後に残されたわけではない。

 斬断されて倒れたが、己の気力だけで再び立ち上がったのだ。

 

 年若いながらもオッタルとて雄である。

 これほどの大舞台で一方的に叩きのめされて終わりでは、情けないにも程があった。

 その思いが満身創痍となった彼を立ち上がらせる原動力となった。

 

 遥かな頂きにて燦然と輝く黄金は遠い。

 どれだけ足掻いても、手を伸ばしても届かない。

 だが、それが目指すべき理由にはなっても、諦める理由にはならない。

 

 大剣を構え、彼は心の赴くままに叫ぶ。

 散々に叩きのめされて実力差をその身に味わってもなお、溢れ出てくる闘志を抑える術を知らなかった。

 

「俺は弱いっ……! あまりにも弱すぎるっ……! だが、それでも……!」

 

 そして、彼は一呼吸して、あらん限りの声でもって宣言した。

 

「俺が、お前を倒すっ! 倒してみせるっ! 『頂天(そこ)』には俺が立つ!」

 

 戦場に、オラリオに響き渡る彼の声。

 どうせレヴェリアが勝って終わり――そう思わせない、気迫がこれでもかと込められた叫び。

 

 その声を聞いて、真っ先にフィンが激痛を無視して震える体に力を込めて立ち上がった。

 彼はレヴェリアが治癒魔法を掛けてこないことから、終わらせにきたと察した。

 無論、終わりが見えたからといって手を抜くことなどなく、全力でもって抗ったが及ばなかった。

 しかし、死力を尽くしたわけではない。

 

 今回、総指揮官であることからフィンは【ヘル・フィネガス】を封印していた。

 リヴァイアサンの時のように、理性を保てるか分からなかったからだ。

 もしも早いうちから使って理性が無くなっていたならば、脱落した冒険者達が立ち上がって復帰した時に対応できなかっただろう。

 その後も指揮官として指示を下す必要があった為に、結局使わず今に至っていた。

 

 彼はゆっくりとした足取りで、血を地面に垂らしながらもオッタルの横に並び、槍を構えた。

 

「悪いね、オッタル。それは譲れないかな。彼女には随分世話になっているから、敬意を込めて僕が倒させてもらうよ」

 

 おどけたように言いながら、フィンは深呼吸した。

 これが指揮官として最後の仕事だ、と決めて彼は静かに言葉を紡ぐ。

 

「敵は圧倒的で、笑うしかないほどの強さだ。こちらはアイテムもなければ、装備はボロボロで、怪我人ばかり……」

 

 一拍の間を置いて、静かな口調から一転してフィンは声を張り上げた。

 

「だからこそ、ここで『勇気』を君達に示そう! 寝ながらゆっくり見ていてくれ!」

 

 シンプルな煽りであるからこそ、冒険者達はカチンときた。

 特に、リヴェリアとガレスはとてもカチンときた。

 両者共にズタボロであったが、痛みなど無視して立ち上がった。

 

「おい、高慢ちきなエルフ! クソ生意気な小僧が喚いているぞ!」

「黙れ、野蛮なドワーフ! アイツに先を越されてなるものか!」

 

 それをきっかけに、ロキ・ファミリアが息を吹き返す。

 全員揃って満身創痍だが、誰もがその目をギラつかせていた。

 特に、小人族の団員達はフィンだけに行かせるものか、と気炎を上げる。

 

 そのような中、オッタルにゆっくりと歩み寄る者がいた。

 足音に気が付き、彼が視線をそちらへ向ければ――そこにいた予想外の人物に目を見開く。

 

 ヘディンであった。

 彼もまた満身創痍であったが、血に塗れてもなお美しいその顔は忌々しげに歪んでいた。

 

「……今回だけだ、()()()()()。そこにいるクソ生意気な小人族に、先を越されるな」

 

 酷いね、とフィンは肩を竦めて笑った。

 そして、ヘディンの言葉の意味をオッタルは分からなかった。

 分かる筈もない。

 それは、これまで彼が一度も使ったことがない、3番目の魔法の発動に必要な儀式であったのだから。

 

「【永奏せよ、不滅の聖女】――【ラウルス・ヒルド】」

 

 ヘディンが認めた者にしか発動不可であり、使用時に全精神力を消費する付与魔法(エンチャント)

 彼は恩恵を刻んだ時から、他の2つの魔法と共にこの魔法も発現していた。

 発動条件が厳しいからこそ、その効果は絶大だ。

 発動した瞬間、オッタルの傷が全て癒えた上に、雷が鎧のように彼の体を覆っていた。

 

 これはレヴェリアが知らない魔法であり、初めて見るものだった。

 いくらフレイヤとて、眷族の情報をレヴェリアに教えたりはしない。

 故に、ヘディンが使わなければ存在が明らかになることはなかった。

 

 未知の魔法をヘディンが使ったことで、レヴェリアはワクワクしながら尋ねた。 

 

「ヘディン、後で教えてくれないか?」

「申し訳ありません、レヴェリア様。それは固辞させていただきたく」

「どうしても駄目か……?」

「駄目です。そこの猪小僧と戦って、把握する分には構いません」

 

 では、とヘディンは一礼してその場を後にした。

 精神力が空っぽになった彼であったが、レヴェリアの前で倒れるわけにはいかない、と気力だけで動いていた。

 その間にも、立ち上がる者達がいた。

 

「オッタルだけにいい格好はさせないわ」

「そうよ、レヴェリアお姉様をズタズタにしていいのは、私達だけだもの」

 

 ディース姉妹が立ち上がった。

 

「いい加減、一発くらいは食らわせたいもんだね」

 

 ミアが立ち上がり、そして、フレイヤ・ファミリアの団員達もまた続々と立ち上がっていく。

 レヴェリアを倒すことに全てを捧げている連中は、痛みなどないかのように立ち上がった。

 

 フレイヤとロキの眷族達が立ち上がったのを見て――昔日を知るゼウスとヘラの古参達は後進達の大きく成長した姿に嬉しそうに笑い、当時を知らぬ者達は負けてなるものか、とライバル心を剥き出しにして立ち上がった。

 

 四派閥に続くかのように次々と残る冒険者達も立ち上がっていく。

 気絶するなどして立ち上がれない者や怪我の程度が酷い者達は、精神力も回復薬も全て尽きて、役目を果たせなくなった治療師や薬師達が動き回って避難させていく。

 

 終わるまで治癒魔法を使えない為、手足や内臓にダメージを与えないようにしたことがレヴェリアにとって仇となった。

 

「というわけで、レヴェリア。最後の勝負だ。死力を尽くさせてもらうよ」

 

 槍を向けて、フィンは告げた。

 対するレヴェリアは不敵な笑みを浮かべ――動いた。

 

 彼女はこれまでと同じように剣でもってオッタルを斬ろうとしたが、その攻撃に対応したのは【英傑】だ。

 未知の魔法を纏ったオッタルから潰しに来る――そう読んでいた彼は、己の直感が命じるままに大剣を振るい、どうにかレヴェリアの一撃を受けた。

 馬鹿みたいな彼女の膂力に、大剣を取り落としそうになるが彼は気合で踏ん張る。

 

「オッタル! 全ての手札を使った上で挑め!」

 

 叫んだ直後、彼は吹き飛ばされたが、すぐに【女帝】がレヴェリアの前に立ち塞がった。

 

「いい男に育ってきたじゃない! 私の夫になりなさいよ!」

 

 そんな事を叫んだ彼女は、レヴェリアの攻撃によって【英傑】と同じく吹き飛ばされた。

 彼と彼女に続くように、次々とレヴェリアの前に立ち塞がっていく。

 その間にも、オッタルは魔法を詠唱していた。

 

 体力はともかく、残っている精神力は少ない。

 2つの魔法と『獣化』を使えば一撃しか繰り出せないだろう。

 だからこそ、オッタルは絶対に勝つと、これまで以上に強固な思いを込めて詠唱を紡ぐ。

 【ヘル・フィネガス】を使ったフィンがレヴェリアに猛攻を加えるのが見えた。

 彼が理性を保っているようには見えない為、この局面まで使わないのは正解だった。

 

 オッタルは彼の行動に感謝しつつも、勝利に向けて準備を整える。

 

 気絶したり怪我が酷く、立ち上がれなかった者達を引いたとしても、最後の力を振り絞って立ち上がった者達は多い。

 だが、レヴェリアの攻撃によってみるみるうちに倒れていく。

 その最中、彼女は『淫欲願望(ルクスリア)』を使い、チャージを始め――黄金の粒子を長剣へ伝播させた。

 

 

 

 

 

 バベル30階にて、神々は再び盛り上がっていた。

 

「この局面でこの展開かよ!?」

「同派閥対決とか熱すぎる!」

「勝ったら大逆転だぞ!」

「さすレヴェばかりで見飽きたわって思ってて、サーセンでした!」

「もっと早くやってくれよ!」

「むしろ、最後だから全員が死力を尽くしているんじゃね?」

「【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】が使った付与魔法(エンチャント)、ヤバそうだしな」

「あれは絶対大きな代償があるぞ。【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】、瓦礫に隠れたところで倒れてるし」

「あの付与魔法(エンチャント)に加えて、オッタル自身の強化魔法2種と『獣化』か……」

付与魔法(エンチャント)の強化率がランクアップみたいなものだったら、オッタルの手札を全て使えば……届くぞ」

「自己強化したレヴェリア様よりも、一時的にレベルが上になる……!」

「格上ならば、通るっ!」

「俺達のレヴェリア様が負けるだと!? 取り消せよ! 今の言葉!」

「やだやだ! レヴェリア様が最強無敵じゃないとやだ! 『頂天』にいるのは、ドスケベダークエロフがいい!」

「でも正直、レヴェリア様が負けるところは見たい」

「それはそう」

「レヴェリア様の泣き顔、正直見たい。泣いているレヴェリア様が、フレイヤ様に頭を撫で撫でされて慰めてもらっているところか、尊みしかない……」

「だが、待ってほしい……レヴェリア様の反則級(チート)魔法、忘れていないか?」

「【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】の魔法は再現できなくとも、オッタルのものならばいけるだろ」

「条件的には互角……なのか?」

「互角ってことは同格。つまり、同格には無敵のレヴェリア様の勝利は揺らがない……たぶん」

「というか、レヴェリア様の手札はこれまで披露したもので、本当に全部なのか?」

「まだ何か持ってそうな気がする。だって、レヴェリア様だし……」

 

 神々は最終局面にきて、新たな展開を迎えた派閥大戦は白熱していた。

 

 ジャイアント・キリングが出るか?

 それとも順当にレヴェリアが勝つか?

 

 興奮した面持ちであれこれ話す神々に加えて、ヘルメスの実況とゼウスの解説が更に盛り上げる。

 面白くないのはロキであった。

 2人の対決が面白くないというのではなく、どちらが勝っても『頂天』はフレイヤの眷族であることに変わりがないことだ。

 

「ま、しゃーないか。切り替えていこ」

 

 ロキは呟いて、即座に叫んだ。

 

「うぉおおお! レヴェリアちゃぁああああん! 猪ショタに負けるなぁああああ!」

 

 レヴェリアとオッタル、どっちを応援するかなど決まりきっていた。

 そんなロキの近くでは、カーリーがぶつぶつ呟いていた。

 

「セーフな筈じゃ。【猛者(もさ)】は娘達を倒しておらんし……」

 

 オッタルとアマゾネス達が子供を作れば、レヴェリアとの子供よりも強い子が生まれる――という考えはカーリーにはなかった。

 ここまでの戦闘を見れば、オッタルよりもレヴェリアの地力が勝っていることは明らかだ。

 

「ちょっとレヴェリア! 勝ちなさいよ!」

「レヴェリア、勝て! お前ならできる!」

 

 アフロディーテ、イシュタル共にそう言いながらも、そこは美の女神。

 もしも負けた場合はレヴェリアをいい感じに慰めつつも、その顔を堪能しようとなどと目論んでいた。 

 とはいえ、2柱としても負けてほしいわけがなかった。

 

 

 

 

 

 レヴェリアとオッタルでは、どちらかといえば後者を応援する者が多い。

 そのような中、アスフィが応援するのは当然レヴェリアだ。

 年齢に違わぬ聡明さは鳴りを潜め、年相応の子供のようにあらん限りの大声で。

 

「勝って! レヴェリア様!」

 

 彼女の声に押されるかのように、会場内はレヴェリアを応援する声が広がっていく。

 

「勝て! レヴェリア! お前は『頂天』だ! お前以外がそこに立つなど、私は見たくない!」

 

 ヴァレッタもまた叫んでいた。

 すっかり消化試合と化していたが、最後の最後でまさかの展開。

 治癒魔法なんて使わず、さっさと終わらせておけばよかったんだ、と彼女は思いつつ、叫ぶ。

 

「ここまで引っ張って最後に負けましたなんてなったら、ただの馬鹿だぞ! 勝て!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 様々な応援が鏡越しになされていたが、レヴェリアはいたって冷静だ。

 ヘディンの付与系魔法(エンチャント)がどのくらいの強化率か分からないが、ランクアップ相当と想定した。

 また、オッタルは強化魔法2種でレベル1つ分、『獣化』でレベル1つ分――合計2レベル分、短時間であるが自身の手札だけで底上げできることは過去の戦闘経験から彼女は知っていた。

 故に、現状のオッタルのレベルは一時的ながらも自身を超えた、と彼女は()()()()

 

 純粋な強化以外にも、ヘディンの付与系魔法(エンチャント)には副次的な強化効果があると睨んで、レヴェリアは幾つか予想していた。

 不用意に接触すれば感電する、と見た目から判断したものであったり、あるいは雷による強化という性質から生体電気などにまで強化効果が及ぶことで知覚機能そのものを強化している、といったものだ。

 

 この間にも、彼女は凄まじいペースで立ち塞がってきた者達を倒しており――やがてオッタル以外の立ち上がった者達を全て斬り倒した。

 さすがにもう立ち上がる力は彼等彼女等にはなく、どうにか顔だけは上げて、勝負の行方を見守るしかない。

 

 この段階に至って、レヴェリアが視線を向けたのはフレイヤだ。

 つい先程までは頬杖をついていた彼女であったが、目を輝かせて最後の戦いを観戦していた。 

 そして、レヴェリアからの視線に気づいたフレイヤは――いつものように微笑んだ。

 

 それだけで、レヴェリアには十分だった。

 我儘な願いに変わりはない、とよく理解できた。

 

 そういえば【女帝】がオッタルに夫になれとか言っていたな、たわけと共謀してくっつけるか――

 

 正真正銘、最後の一戦を前にして、レヴェリアは場違いなことを考える。

 彼女は己の勝利を確信しているが、万が一があってはならない。

 自身のリラックスの為、あえてこういった思考を許容していた。

 

 そして、おもむろに彼女は口を開く。

 

「オッタル、お前は一時的ながら格上となった。ならば、私も奥の手を使おう」

 

 まだそんなものがあったのか、と派閥連合の大半の冒険者達も観戦者達も驚くよりも困惑してしまう。

 しかし、四派閥でベヒーモス討伐に参加した者達には思い当たる節があった。

 

 巨体を誇った陸の王者が大きくよろめく程の、大威力の一撃。

 今になって思い返せば、『淫欲願望(ルクスリア)』によるチャージ攻撃にしては、間隔が短かったような気がした。

 それはオッタルも同じであったが、当時の彼はレベルも低く、また戦場が砂漠ということもあってベヒーモスの攻撃の度に大量の砂が降ってくるような状況であった。

 魔法や『淫欲願望(ルクスリア)』のような分かりやすい変化があるものを除けば、彼女が何をしたかは分からないというのが正直なところだった。

 

 あとは『獣化』を発動するだけとなっているオッタルは、今回こそレヴェリアに届く、と確信していた。

 だが、それを打ち砕くかのように彼女は告げる。

 

「フレイヤは私に『頂天』が誰であるか、世界に示せと言った。故に……」

 

 そこで彼女は言葉を切り、一拍の間を置いて宣言する。

 

「私の勝利以外にありえない。無論、それは辛勝ではなく圧勝だ」

 

 そして、彼女は静かにその単語を告げる。

 別に言う必要などないのだが、そこは雰囲気とノリだ。

 

「『不倶戴天(トモニテンヲイタダカズ)』――」

 

 レヴェリアに目立った変化はない。

 しかし、彼女が口にしたのだから何もないわけがないと誰もが確信した。

 オッタルとてそれは同じだが、彼に躊躇いはない。

 今この時、己が出せる最大の一撃でもってレヴェリアを打ち倒す、それしか考えていなかった。

 

 最後のトリガーとなる『獣化』を発動し、雄叫びを上げてオッタルは疾駆する。

 

「届け……!」

 

 【勇者(ブレイバー)】が呟く。

 

「超えろ……!」

 

 【英傑】が望む。

 

「行けっ……!」

 

 【女帝】が見据えた。

 

「譲ってやる……!」

 

 【静寂】が拳を握りしめる。

 

「勝て……!」

 

 【暴喰】が願う。

 

 派閥連合、そしてオッタルを応援する観戦者達の誰もが望み、祈り、願う。

 彼の勝利を。

 

 猛る猪の疾走、それはレヴェリアですらも()()()()()()()()()()()()

 彼女は『特殊嗜好(アブノーマル)』でもって、残る精神力全てを『力』の能力値向上に注ぎ込む。

 同時に『淫欲願望(ルクスリア)』のチャージを切り上げる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そして()()()()()

 その3つをレヴェリアは胸に秘めて――黄金の光と雷を纏った大剣を振り上げ、猛烈な勢いで迫りくる【猛者(もさ)】を()()()()()()()()()()()()

 

「おぉおおおおお!」

 

 雄叫びと共に、オッタルは全身全霊でもって大剣を斜めに振り下ろす。

 それはさながら雷霆のようであった。

 神も人も、誰もがこの極大の一撃をもってすればレヴェリアに届き、打倒できると確信した。

 

 

 だが、『頂天(レヴェリア)』。

 

 

 オッタルの一撃を、長剣で斜め下から振り上げる形で受けた。

 

 

 ()()()()()

 

 

 オッタルは見た。

 最硬精製金属(オリハルコン)でもって作られ、不壊属性(デュランダル)が付与された上で、魔法による強化が施された己の大剣が、レヴェリアの長剣によって刀身を切断されていくところを。

 それはゆっくりとしたもので、現実感がまるでなかった。

 

 レヴェリアの長剣とは素材も付与された属性も同じ。

 唯一の違いは長剣の作り手が担い手たる彼女自身であることだが、オッタルは武器の差ではないと直感していた。

 

 異様なほどの攻撃力、その答えは既に示されていたのだ。

 

 『不倶戴天(トモニテンヲイタダカズ)』――

 

 オッタルは、そのスキルの効果を悟った。

 おそらくは純粋な攻撃力の超強化であり、陸の王者(ベヒーモス)をもよろめかせていた一撃の正体だ、と。

 その名に相応しい効果だ、と感じつつも、このスキル以外にも何かありそうな予感がしてならなかった。

 

 それはともかく、レヴェリアが答えを教えてくれていたのに気づかなかったことや、ここまでお膳立てをしてもらっても届かなかった自分自身に、オッタルの心には憎悪が湧き出ていた。

 しかし、その心に反して彼の顔には笑みがあった。

 

 これこそ『頂天』。

 必ず、そこに至ってみせる――!

 

 その強い思いを胸に、オッタルは斬られ――大地に倒れ伏した。

 派閥連合、その最後の1人が倒れた。

 この場合、戦闘継続の意思がある者は1分以内に武器を持って立ち上がることが今回のルールでは定められている。

 

 もう終わった、とレヴェリアは油断することなく、周囲を警戒する。

 誰かが立ち上がった瞬間、斬りかかるように態勢を整えながら。

 

 しかし、もはや立ち上がる者は誰もいなかった。

 終了を告げる銅鑼の音が都市遺跡に響き渡ったところで、レヴェリアはようやく警戒を解いた。

 そして、彼女は即座に治癒魔法の詠唱を始めた。

 実はまだ終わっていなかったなどといった不測の事態に備えて、治癒魔法の範囲から自身は除外していた。

 

 

 

「終了ぉおおおお! 派閥大戦はレヴェリア様の勝利ぃいいいい!」

 

 ヘルメスの絶叫がオラリオ中に響き渡り、同時にオラリオが揺れる程の大歓声が沸き起こった。

 前代未聞の戦争遊戯――派閥大戦。

 後にも先にも起こり得ないだろう伝説的な戦いは、レヴェリアの勝利によって幕を閉じることとなった。

 




 レヴェリアの奥の手のスキル達。

 不倶戴天(トモニテンヲイタダカズ)
 任意発動。
 人類種に対し攻撃力の高域強化。
 怪物種・竜種に対し攻撃力の超域強化。
 闘志の丈に応じて効果向上。

 一騎当千(マイティ・ワン)
 単独戦闘時、全アビリティ能力に高補正。
 大敵交戦時、全能力超域強化及び所持スキル・全発展アビリティの効果増幅。

 美神信愛(ディア・ディース) 
 全アビリティ能力に高補正。
 思いの丈に応じて効果向上。

 美神信愛(ディア・ディース)は『美の女神達』にて、フレイヤ・イシュタル・アフロディーテの3柱と一緒に寝たことで発現。
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