転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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変化

 大熱狂のうちに幕を閉じた派閥大戦だが、その影響は年月を経るごとに表れることになった。

 その最たるものが、里を出て冒険者となるエルフが大きく増加していることだ。

 

 圧倒的な強さを誇る黒の王女に対して、何度叩きのめされても、不屈の闘志で立ち上がって挑んだ白の王女及び同胞達。

 そして、一度膝をついても勇気を持って、真っ先に立ち上がった小人族達。

 この出来事がエルフ達の胸を打ち、その考えを変えるきっかけとなった。

 

 そして、ダークエルフにおいても里を出る者が同じように増加していたが、こちらは理由がエルフとは異なっている。 

 一族の王女が『頂天』であると世界に示したこともあり、かつてないほどに晴れ晴れとした気持ちとなった。

 レヴェリアが容赦なくリヴェリアを叩きのめしたということも大きい。

 ダークエルフ達がどうして里を出るようになったのか、それは言うまでもなくレヴェリアが原因だ。

 

 

 王女はいずれ女王として君臨し、大いなる繁栄を一族に齎す――だが、自分達は何もしなくていいのか?

 王女が齎す栄光を貪っているだけでは、ただの豚ではないか?

 

 

 ダークエルフ達は遥かな古代、押し寄せる怪物共を相手に玉砕するまで戦った。

 元来、勇猛果敢な精神を持っている彼等彼女等は、豚になるのを良しとしなかった。

 

 理由は違えど、こういった動きがあるのは白黒妖精達だけに留まらない。

 勇気を出して自分達の力で脅威に立ち向かおう、という風潮が種族を問わず世界的に広がっていた。

 

 

 これによって冒険者となるべく、オラリオにやってくる者達が種族問わず激増した。

 そして、それだけ人が動けば商機を感じ取った商人達も動く。

 

 かつてない程に賑わうオラリオであったが、その大きな要因となったレヴェリアは――フレイヤの胸に顔を埋めていた。

 色々な仕事をやり終えたレヴェリアは、ようやく訪れたまとまった休暇、その初日を今まさに堪能している。

 そんな彼女を、フレイヤは慈愛に満ちた眼差しを向け、その頭を優しく撫でていた。

 

 

 レヴェリアが『学区』の建造費用を提供したことで、超巨大艦――『フリングホルニ』は無事に竣工・就役を予定通りに終えることができた。

 これは喜ばしいことであり感謝もする――だが、それとこれとは話が別であると言わんばかりに、ロイマンから彼女に対して指名依頼がとてもたくさん入った。

 どの依頼もレヴェリアでなければ達成できないものばかりであり、報酬も割に合ったものであるからタチが悪い。

 

 依頼を断ることも当然できるが、断ったら強制任務(ミッション)として出してくるのは火を見るより明らかだった。

 故に、レヴェリアは依頼の段階で渋々受けていた。

 これに加え、ダンジョンでのいつもの合宿や遠征、竜の谷から漏れ出てくる竜退治への参加などを全てこなした。

 

 竜退治は初回ということもあり、四派閥合同で討伐隊を組んだのだが――中々に厄介だった。

 谷を出た竜達が四方八方へ散っていることが予想できた為、派閥ごとにオラリオを出発し、竜の谷で合流するという形を取ったのだが、四派閥のいずれも谷から出てきたと思われる竜の群れと幾度も遭遇した。

 

 このことを踏まえて作戦は決まった。

 谷へ進入して竜を誘引し、谷の外まで出てきたところで袋叩きにするという積極的な間引きを行った。

 この作戦によって大量の竜を討伐できたのだが、この中には推定レベル5どころか、レベル7やレベル8に匹敵するのではないか、と思われる程の巨竜も複数匹いた。

 

 これならば谷の奥にはレベル9やレベル10に匹敵するような竜がいても不思議ではなく、最奥にいる黒竜は最低でもレベル11という当初の予想が当たっている可能性は高まった。

 

 とはいえ、大きな変化はない。

 黒竜がレベル11以上であるという予想も討伐延期も、派閥大戦終了直後には発表されていたことだ。

 

 

「静かねぇ……」

 

 レヴェリアの長い金髪を弄りながら、フレイヤは呟いた。

 

 レヴェリアがフレイヤに渡している『天界でやりたいことリスト』には性欲塗れのものも多いが、その一方でこういう一時を過ごしたい、というものもある。

 無論、フレイヤとしても大歓迎だ。

 

 しかしながら、静穏の一時は長く続かなかった。

 

 突如としてホーム全体を揺るがす振動と耳を聾する轟音。

 瞬間、フレイヤのおっぱいに顔を埋めてだらけきっていたレヴェリアは即応した。

 

 がばっと勢いよく顔を上げた彼女は、素晴らしい速さでフレイヤを抱きかかえて壁に掛けてあった己の得物を片手で取った。

 

 悲鳴と怒号が遠くから聞こえてくる中、レヴェリアは神速でもって治癒魔法を詠唱・発動した。

 たちまち展開された黄金色のドームは、ホーム全てを包み込んで団員達を癒やし尽くす。

 

「襲撃!? 襲撃なの!?」

 

 フレイヤの叫びは、焦りからくるものではなく――面白そうな事が向こうから走ってやってきたという喜びによるものだ。

 静穏の一時は大変良いものだが、下界にいるうちはドッタンバッタン大騒ぎして楽しみたいのが彼女であった。

 

 派閥大戦から2年程が経っているとはいえ、レヴェリアが『頂天』であることはまったく風化していない。

 そんな彼女が所属しているフレイヤ・ファミリアのホームを真っ昼間から堂々と襲撃してきたのだ。

 余程の大物か余程の馬鹿、そのどちらかであり、フレイヤ的にはどっちでも楽しめるので問題がなかった。

 

「ミアは買い出し、ディース姉妹は服飾店巡り、オッタルや第一級の子達はダンジョン篭もり……残っているのは満たす煤者達(アンドフリームニル)や原野で戦っている第二級以下の子達ばかり」

 

 丁寧に現状をレヴェリアに説明するフレイヤ。

 無論、レヴェリアとてそんなことは分かっているが、特に止めることはしない。

 話のオチは見えていたからだ。

 

「つまり、強い侵入者なら何の障害もなくここまで来れちゃう! 私を守って、レヴェリア!」

 

 レヴェリアにしがみつくフレイヤ。この女神、ノリノリである。

 こうなるのが分かっていたレヴェリアは、軽く溜息を吐く。

 状況をとても楽しんでいるフレイヤであったが、残念なことに彼女の予想は外れることとなった。

 

 最初の一撃から数分もしないうちに、レヴェリアの執務室の扉が勢いよく開かれた。

 扉には休憩中の札があったのだが、そんなものはお構いなしに入ってきた人物は――アルフィアであった。

 

 彼女の表情は近年稀に見る不機嫌具合だ。

 その表情に、レヴェリアとフレイヤは互いに顔を見合わせた。

 

「ねぇ、レヴェリア。何かやったの?」

「いや、何もやってないぞ……」

 

 本当に心当たりがないレヴェリアである。

 そもそも多忙であったことはアルフィアも同じだ。

 彼女もダンジョンの合宿や遠征、竜退治に参加していたのだから。

 無論、その時は当然とばかりにレヴェリアの横に引っ付いていた為、直近だけを見るならばフレイヤと接した時間よりも多いくらいである。

 

 何だか分からない2人に対して、アルフィアは大きく息を吸って吐いた。

 そして、彼女はドスの効いた声で告げる。

 

「メーテリアが、妊娠した……」

 

 一瞬、レヴェリアもフレイヤもアルフィアの言ったことが理解できなかった。

 呆気にとられた彼女達に対して、アルフィアは声を張り上げて再び告げた。

 

「メーテリアがっ! 妊娠したっ!」

 

 フレイヤは、神であるからこそ嘘ではないことが分かった。

 レヴェリアは、アルフィアが妹のことで嘘などつかないことをよく知っていた。

 

 故に――2人揃って驚愕の叫びを上げた。

 

 

 

 

「クラネル某か? 孕ませたのは」

「ああ、残念ながらな。おのれ、クラネル某め……」

「クラネル某って……名前で呼んであげればいいのに」

 

 レヴェリアの問いかけに重々しく頷くアルフィア。

 至極当然なツッコミを入れるフレイヤであるが、2人は揃ってスルーしたので、彼女はしょぼくれた。

 そんな彼女の頭を撫でて慰めるというマッチポンプ的な所業を行うレヴェリアであるが、そのことを指摘する輩はいない。

 ただし、より混沌を齎さんとする輩はいた。

 

 アルフィアが当然の権利だと言わんばかりに、頭をレヴェリアへ向けた。

 撫でろという意思表示であり、これまた当たり前のようにレヴェリアは彼女の頭を撫でる。

 

 レヴェリアが2人の頭を撫でるというよく分からない状況となったが、ツッコミ役はどこにもいない。

 彼女は自身が冷静であると思っているが、彼女は彼女でだいぶ混乱していた。

 しばらく撫で役に徹したレヴェリアであったが、このままでは埒が明かないと言わんばかりに切り出した。

 ひたすら2人の頭を撫でていたことで、どうにか彼女は落ち着くことに成功していた。

 

「それで、どうするんだ?」

「メーテリアは産むと言っている。クラネル某も責任を取ると……まあ、どうやら2人共、色々と準備はしていたみたいだが」

「準備?」

「結婚の準備だ。そこだけはクラネルの甲斐性を認めてやらねばならん。この私の目を掻い潜って準備をしていたのだからな」

 

 なるほど、とレヴェリアとフレイヤは揃って頷いた。

 今度はフレイヤが尋ねる。

 

「ねぇ、アルフィア。それが分かったのっていつなの?」

「つい先程だ。レヴェリアの治癒魔法に頼る前に、医者に診てもらいたいとメーテリアが希望してな。ホームに呼んで、診察してもらったんだ」

 

 アルフィアはそう告げて、レヴェリアへ視線を向ける。

 彼女の瞳をまっすぐに見つめ、真摯な表情でもって言葉を紡ぐ。

 

「産まれるのは来年になると思うが……出産の際、万が一があっては困る。だから、レヴェリア。その時はお前に立ち会ってほしい」

「勿論だとも」

 

 レヴェリアの即答に、アルフィアは胸を撫で下ろす。

 話が一区切りついたところで、フレイヤが尋ねる。

 

「ところでアルフィア、さっきの轟音とか何だったの?」

「お前のところの眷族共が、急いでいるのに絡んできたから吹っ飛ばした。レヴェリアの治癒魔法が飛んできたから、特に問題ないだろう」

「いつもよりも凄かった気がするんだけど?」

「加減を少し間違えたんだ、そこは許してくれ」

 

 そう答えたアルフィアは、軽く頭を下げてみせた。

 

 

 

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