レヴェリアの胸に顔を埋め、アルフィアはだらけていた。
彼女のことを知る者が見たならば、二度見どころか三度見するくらいには驚くべき光景だ。
ここはオラリオ某所にある一軒家。
互いのホームでは何かしら邪魔が入るということで、以前に2人で物件を選んで購入していた。
今回、2人がここにいるのはいつものようにデートからの流れで、というものではなかった。
メーテリアの出産を控え、アルフィアは東奔西走。
良かれと思って色々と気を回しているものの、全体的に空回り気味である。
エリクサー1000本の作成を依頼してきた時もレヴェリアが強制的に休ませていたが、一時的なものに過ぎなかった。
メーテリアの出産が終わるまでこの調子であり、落ち着かないだろうというのが大方の予想だ。
しかし、アルフィアを少しでも休ませたいレヴェリアとヘラ、メーテリアの三者による思惑が一致して、強制休暇となったのである。
アルフィアは大層不満であったが、ヘラとメーテリアから言われて渋々受け入れた。
受け入れたからには、楽しまねば損だとアルフィアは、思う存分にレヴェリアを独占していた。
メーテリアに何かがあった時、レヴェリアと一緒にいればすぐにすっ飛んでいけることも、気持ちの切り替えに役立っていた。
「お前は可愛らしいな」
「誰にでも言っているんだろう」
何気ないレヴェリアの言葉に、アルフィアは顔を上げてムスッとした表情で答える。
色ボケにはちょうどいい対応だ、と思うアルフィアだが、これまで彼女はレヴェリアとの舌戦で勝てた試しがない。
「ああ、言っているとも。だが、今この瞬間のお前の可愛いさは唯一無二のものだ。具体的に言ってやろうか?」
「やめろ、恥ずかしい」
以前、こういう問いかけに対して言ってみろ、とアルフィアは答えたことがある。
その結果、嬉しさと恥ずかしさで顔が真っ赤になる言葉の数々がレヴェリアの口から紡ぎ出された。
もう二度と言うまい、とアルフィアは決意したのだ。
その時、レヴェリアの手がアルフィアの耳に触れ、優しく弄り始める。
対するアルフィアは両手で彼女の体を抱きしめながら、胸に顔を埋めてぐりぐりと動かす。
柔らかでありながらも、程よく弾力があって心地が良い。
この胸を枕にできるのは、かなりの贅沢ではないかとアルフィアは密かに思っている。
やがて彼女は体勢を変えて、仰向けになってレヴェリアの顔を見上げた。
対するレヴェリアは、アルフィアの顔を覗き込むような形だ。
互いに無言で見つめ合い、やがて2人は口づけを交わした。
1週間、レヴェリアはアルフィアと2人きりで過ごし、彼女を休養させつつ程よく落ち着かせることに成功した。
レヴェリアにとっても良い休暇となったのだが、ホームに戻ると待ち受けていたかのように、重要案件が舞い込んできた。
その案件は黒竜討伐に関わることだった。
しげしげとレヴェリアは目の前に設置された
ホームの敷地内にある、周りに何もない草原となっている場所に
かつて英雄アルバートによって、片目を失った黒竜は北へ飛び去った。
その時に落っことしていった鱗をヘルメス・ファミリアが回収し、レヴェリアのところへ持ってきたのだ。
ヘルメスによると、地面に埋まっていたものを掘り出したり、モンスター避けのお守りとして使われていたものを支障が出ない程度で対価を支払って譲ってもらったという。
回収した鱗はフレイヤ・ファミリア以外にも
防御の要である黒竜の鱗が手に入ったことは討伐に向けて、大きく前進したと言っても過言ではない。
どれほどの威力があれば鱗を貫通できるのか、具体的に分かる為だ。
ただ、恐るべきは1000年も前に肉体から剥がれたものであるというのに、経年劣化を感じられないことだ。
モンスターから剥がれ落ちた鱗等は持ち主が死ぬまで灰とならずに残り続けるのだが、その法則が黒竜にまで適用されているのは驚きであった。
また、モンスター避けに使われていたことも理解できた。
ただの鱗であるのに、異様な気配を放っていたからだ。
「禍々しいものを感じるな……」
そう言いながら、レヴェリアは鱗を軽く叩いてみると硬質な音が響く。
調査・試験をしなければ具体的には分からないが、リヴァイアサン以上の防御力はあると彼女は予想する。
「ベヒーモスのドロップアイテムを遂に使う時がきたのか……」
レヴェリアは呟き、軽く溜息を吐いた。
ポセイドン・ファミリアによって引き揚げられたリヴァイアサンのドロップアイテムは加工され、ダンジョンとロログ湖を繋いでいた穴を塞ぐ為に使われたり、『フリングホルニ』の調光器となっていた。
対するベヒーモスのドロップアイテムは、手つかずで保管されていた。
ドロップアイテムであったベヒーモスの心臓、アレが生きていたことから他のドロップアイテムも下手に触るとヤバいんじゃないか、という懸念を誰もが抱いた為に。
心臓だけでドックンドックンと脈打っていたのだから、その印象は強烈であった。
「黒竜を倒す為に黒竜のドロップアイテムが必要……そんな馬鹿げたことにならんよう、祈るしかないな」
レヴェリアが言った直後、ガラスの割れる音が聞こえてきた。
その方向へ即座に視線を向ければ、幼女がいる離れがあった。
こじんまりとした平屋建てであるのだが、そこの窓が1つ割れていた。
そして、割れた窓近くの地面に佇んでいたのは――般若の如き形相で、敵意と憎悪を剥き出しにした金髪幼女だった。
大きく開かれた眼は髪と同じく金色であり、彼女の周囲には大きな魔力が渦巻いて、何かしらの魔法を形作ろうとしていた。
「ヒューマンに精霊の血が混じっているとかいうレベルじゃないぞ……!」
フレイヤ経由で聞いていた、ゼウスの勘とやらをレヴェリアは否定しながら動く。
どう見ても我を忘れた暴走状態であることや、ガラスを破った時にできたであろう切り傷を癒やす為に、彼女は効力を絞って治癒魔法を詠唱する。
瞬く間に展開される黄金色のドームは幼女を包み込んだ。
すると、彼女から放出されていた魔力は徐々に収まっていき――やがて完全に消えた。
同時にレヴェリアの治癒魔法も効果時間を終え、ドームは消え去った。
幼女の怪我は傷跡一つなく治っていたが、その表情は険しいままだ。
そんな彼女へ、レヴェリアはゆっくりと歩み寄る。
そして、屈んで幼女と視線を合わせて微笑みながら尋ねた。
「気分はどうだ?」
「……どうして、あんなものがあるの?」
レヴェリアの問いには答えることなく、逆に問いかけつつ幼女が指し示した先にあったものは黒竜の鱗。
幼女の問いに対して、レヴェリアは不敵な笑みを浮かべ、一切の躊躇なく告げた。
「黒竜を殺す為だ」
分かりやすいように、レヴェリアはそう答えた。
すると、幼女は大きく目を見開いた。
その反応と短いやり取りから、幼女がどういうわけか黒竜に因縁があり、恨み辛みを抱いていることは容易に分かった。
だからこそ、レヴェリアは幼女を安心させるように言葉掛けをする。
「お前の憎しみは私が晴らそう。証拠として黒竜の首でも持ってこれるといいが、灰になってしまうかもしれん」
そこで言葉を切ったレヴェリアは利き手を差し出し、にこやかな笑みを浮かべて尋ねた。
「私はレヴェリアだ。名は?」
「……アイズ、アイズ・ヴァレンシュタイン」
答えながら、アイズは差し出されていたレヴェリアの手をおずおずと握った。
その時、アイズは小さく声を漏らし、レヴェリアの顔をまじまじと見つめる。
彼女の様子に、レヴェリアは尋ねる。
「どうかしたか?」
「……この手だ。暖かい……」
たどたどしい言葉に、レヴェリアはピンときた。
「アイズが眠っている間、私が時折手を握っていたんだ。お前には色々と聞きたいこともあるんだが……まず、やるべきことがある」
「やるべきこと?」
小首を傾げるアイズに対して、レヴェリアは大きく頷いてみせる。
「割れたガラスの掃除をしないとな。一緒にやろう」
穏やかな笑みを浮かべてレヴェリアから言われたことに、アイズは小さく頷いた。
アルフィア「レヴェリアの胸枕で休んだりしたから、落ち着いたぞ(お肌艶々)」
ヘルメス「黒竜の鱗、持ってきたで! 主要派閥に配るで!」
レヴェリア「よっしゃ! これで黒竜の防御力がどんなもんか分かる! え、経年劣化なし? なにそれ怖い。あと硬すぎワロタ」
謎の金髪幼女改、黒竜の気配によって飛び起きたヴァレン某さん
「黒竜コロス! 黒竜絶許!(無意識魔力振り絞り暴走状態)」
レヴェリア「ぅゎょぅι゛ょっょぃ。治癒魔法で落ち着かせたろ! 黒竜に憎悪を抱いているみたいだし、いい感じに言葉を掛けて安心させたろ! 〆に握手もすればかんぺき〜や!」
アイズ「見つけた」