転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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日々

「できた! レヴェリア、見て!」

 

 満面の笑みを浮かべたアイズは、子供用の椅子から降りてトテトテと歩いていき、羊皮紙をレヴェリアの執務机の上に置いた。

 

「どれどれ……おお、良くできているじゃないか。偉いぞ、アイズ」

 

 アイズが終わらせた共通語の書き取りを確認して、レヴェリアはにこやかな笑みを浮かべた。

 彼女がアイズの頭を優しく撫でると、嬉しそうに笑う。

 アイズが目覚めてもうすぐ2ヶ月になるが、レヴェリアは普通の子供として接し、信頼関係構築に努めてきた。

 

 肩車、抱っこは勿論、ごっこ遊びやボール遊び、御伽噺の読み聞かせなど目線を合わせて一緒に遊びまくったのである。

 そのおかげで今やすっかりレヴェリアに懐いており、彼女が仕事をしている間、アイズも書き取りなどの簡単な勉強をするのが日課となっていた。

 

「……私だって書き取りくらいできるもん」

 

 一方、ソファの上には膝を抱え、頬を膨らませて拗ねているフレイヤがいた。

 レヴェリアは軽く溜息を吐いて手招きすれば、彼女はスクっと立ち上がってスタスタと歩いて近寄っていく。

 

「よしよし」

 

 そしてレヴェリアが頭を撫でれば、フレイヤは満足気な笑みを浮かべる。

 対して、面白くないのはアイズである。

 

「フレイヤは何もやってないのに、頭を撫でてもらっていいの?」

 

 正論をぶつけるアイズに対して、フレイヤはドヤ顔となった。

 ろくでもないことを言いそうだ、とレヴェリアは思った直後、フレイヤは言った。

 

「レヴェリアは私の伴侶(オーズ)なの。だから、何もしなくても頭を撫でてもらっていいの」

「ずるい!」

「ずるくないもの。かかってきなさい、相手になってあげる」

 

 フレイヤの挑発から勃発するのは、もはや恒例となりつつあったじゃれ合い。

 アイズ的には果敢な突撃を敢行しているのだが、傍から見れば可愛いものである。

 何だかんだでフレイヤもアイズには構っており、ごっこ遊びでは面白そうだからという理由をつけて参加してくることがよくあった。

 

 なお、レヴェリア・フレイヤ・アイズの3人でおままごとをしていた時、エプロンを纏って新妻を演じたフレイヤを目撃した多数の団員が鼻血を吹き出してひっくり返るという珍事が起こっていたりする。

 ピュア過ぎるだろ、とレヴェリアは嘆息しつつも、可愛いのは事実であるので彼等彼女等の気持ちもよく分かった。

 

 レヴェリアはじゃれ合いを横目に見ながら、書類仕事を進める。

 勝敗は分かりきっていたからだ。

 

「ふっふっふ、今回も私の勝ちのようね!」

 

 アイズの両脇に両手を差し込んで、抱き上げたフレイヤの勝利である。

 そのまま彼女は、アイズを胸に抱く。

 

「むー……」

 

 不満であるものの、フレイヤの胸も心地良い為にアイズはなされるがままだ。

 微笑ましい光景に、レヴェリアはほっこりしながら声を掛ける。 

 

「ところでフレイヤ」

「なぁに? あなたも私の胸に抱かれたくなっちゃったの?」

「それもあるが……私は手放さないからな」

 

 何を、と問いかけるまでもなかった。

 アイズのことだ。

 そうなるだろうな、と前々から予想していたフレイヤは、くすりと笑って言う。

 

「やーい、色ボケ・ガチロリ・アールヴ様ー」

 

 まだ環境に慣れていないから、ということでホームからアイズを出したことはない。

 また、三派閥やギルドにも目覚めたことは伝えたものの、面会に関しては先延ばしにしてもらっている状態だ。

 だが、フレイヤ・ファミリアに見慣れぬ金髪幼女がおり、レヴェリアが面倒を見ていることは知られていた。

 年上(三女神)から年下まで、幅広く手を出しているレヴェリアがアスフィに続いて、新たに金髪幼女を育てて美味しく食べるつもりだと神々の間で瞬時に広まった。

 

 アスフィに関しては、レヴェリアとの関係を深めたい海洋国(ディザーラ)の意向であることは分かりきっていた為、神々もネタ感覚であった。

 だが、どこかから拾ってきた身元不明の金髪幼女を育てているとなれば、ガチとしか思えなかった。

 色ボケ・ガチロリ・アールヴ様という呼称の爆誕である。

 レヴェリアの個人的な思いはさておき、彼女には団長としての考えがあった。

 

 アイズの意思次第であるが、もしも共に戦うことを選ぶのならば――彼女の素質はピカイチであるとレヴェリアは予想している。

 暴走状態であったとはいえ、あの魔力は並大抵ではなかった。

 鍛えれば黒竜討伐において、大きな力になってくれるとレヴェリアは確信していたのだ。

 

「何とでも言うがいいさ。私の評判程度でいいのならば、安いものだ」

「今更だもんね。色ボケもロリコンも」

 

 そんな2人のやり取りを聞いた、アイズが何気なく尋ねる。

 

「色ボケ・ガチロリ・アールヴ様って何?」

 

 こてん、と首を傾げている彼女に、レヴェリアは穏やかな笑みを浮かべて答える。

 

「説明するのが難しいから、もう少し大きくなってからだな」

 

 うまく誤魔化したレヴェリアを、フレイヤは生暖かい目で見つめた。

 その時、執務室の扉が突然開かれ、駆け足で入ってきたのはディース姉妹だ。

 

「アイズ! ここにいたのね!」

「レヴェリアお姉様の邪魔をするなんて、悪い子だわ!」

「2人と違って、私は良い子だから勉強していた」

 

 ふんす、と胸を張るアイズ。

 ディナとヴェナは互いに顔を見合わせて、肩を竦めた。

 

「駄目よ、アイズ。お勉強で、レヴェリアお姉様の歓心を買おうなんて」

「アイズの癖に生意気だわ。お外で懲らしめてあげる」

「望むところ。今日こそ勝つ」

 

 物騒なことを言っているようにしか聞こえないが、これはいつものやり取りだ。

 姉妹もアイズのことをよく構っていた。

 2人の容姿も相まって、アイズからすれば少し年上の遊び相手という認識だ。

 元気良く3人が執務室を飛び出していくのを、レヴェリアとフレイヤは微笑ましく思いながら見送った。

 そして、フレイヤは何気なく尋ねる。

 

「そういえばレヴェリア、黒竜の鱗ってどう? ヤバい雰囲気が漂っているけど、大丈夫そう?」

「まだ軽く調べている段階だが、笑えんくらいに硬い。本体には鱗だけではなく、脂肪と筋肉だってあるだろうから……英雄アルバートが改めてヤバいことがよく分かった」

 

 ウンウンとフレイヤは頷いて、率直に尋ねる。

 

「倒せそう?」

「現時点では無理だ。それに、アイズが言っていることも気になるからな」

 

 この2ヶ月でアイズが発言した彼女自身にまつわることを、レヴェリアはレポートに纏めていた。

 レポートは随時更新されているが、その度にフレイヤに確認してもらい、彼女から三派閥及びギルドへ渡してもらっている。

 裏取りができない為、信憑性に乏しいものの無視できない情報であった。

 

「アイズの認識では、両親は英雄アルバートと大精霊アリア。そして、2人を黒竜から取り返すと本人は言っている。全て本当であると仮定して、その言葉通りに受け取ると……」

「黒竜に取り込まれたとか、そういう系かもしれないわね」

「アルバートはヒューマンだからともかくとして、精霊はそういうことがありえるのかもしれん。最悪、大精霊の力を黒竜が得ている可能性も否定できん」

 

 アイズが両親の死を認識したくない為、そう考えている可能性もある。

 だが、もしも彼女の言う通りであったならば極めて拙いことになる。

 ただでさえ攻防共に隙がないと予想されている黒竜が、さらに精霊の力で強化されているとなると、討伐隊の足切りラインがレベル12とかになりかねない。

 黒竜討伐よりもダンジョンを攻略する方が簡単ではないか、という意見も四派閥の会合では出る程だ。

 とはいえ、三大冒険者依頼のモンスターは全てダンジョンが生み出したものだ。

 より下の階層にはベヒーモスやリヴァイアサン、黒竜が階層主として存在している可能性は否定できなかった。

 

「黒竜を弱体化させるような、そんな手段があればいいんだがなぁ……」

「ゼウスが何か知っているかもしれないから、ヘラとロキも誘って今度聞いてみるわ」

「頼む。それと、アイズについても根掘り葉掘り聞いておいてくれ。ヤツならば何かしら知っているだろう」

「任せて」

 

 ふんす、と胸を張ってやる気に満ちたフレイヤだった。

 

 

 

 

 

 その頃、庭へと出たアイズ達3人は良く見知った猫人に絡まれていた。

 

「ふっふっふ、待っていたニャ。ミャーのお姉さん振りを今日こそ発揮してやるのニャ!」

 

 アーニャ・フローメルその人である。

 兄であるアレンと共にフレイヤに拾われた彼女は、当初こそ怯えていたが――レヴェリアとフレイヤがそれを見逃す筈もない。

 2人がいい感じに心を解きほぐした結果、キャラ付けとして一人称と語尾を変化させるくらいには、よく馴染んでいた。

 また、満たす煤者達(アンドフリームニル)所属であることも、彼女が精神的な余裕を持てる大きな要因だ。

 アーニャが満たす煤者達(アンドフリームニル)となったのはアレンが、そうしてくれるようレヴェリアとフレイヤに要望を出した為であるが、そのことは本人には秘密であった。

 

 この為、戦いの野(フォールクヴァング)でアレンがぶっ倒れるまで戦ったところにアーニャが駆け寄って、慣れない手つきで包帯を巻いたり、エリクサーを掛けたりしている光景はよく見られた。

 アレンは罵るものの、素直に彼女の手当や世話を受け入れていることから、悪くはない兄妹関係といえるだろう。

 

「アーニャが仕事をサボっているわ!」

「またミアに怒られるのね! 彼女の拳骨、とっても痛いって知っている癖に!」

「サボりじゃねーニャ! 今日はお休みニャ!」

 

 アーニャも姉妹にはよく構われていた。

 

「アイズ、ミャーも暇だから一緒に遊んでやるニャ」

「いつもみたいに尻尾、掴んで良い?」

「いつも言っているけど、それは駄目ニャ! というか、ミャーの方がアイズよりもお姉さんニャ! もっと敬うニャ!」

 

 ふんぞり返るアーニャであったが、ディース姉妹はくすくすと笑う。

 そして、2人は素早くアーニャの後ろに回り込んでその尻尾を程良い力加減で握った。

 

「フニャアアア!?」

「気持ち良いわね、ヴェナ」

「ええ、ディナお姉様。アイズ、あなたも触ってみなさい」

「うん、ありがとう」

「ありがとうじゃねーニャ! 乙女の尻尾を何だと思っているのニャ!」

 

 そう言うアーニャであるが、実のところ尻尾だけでなく耳もいいようにされる覚悟を決めていた。

 年下の我儘を受け入れるのも年上の仕事だ、と幼いながらに彼女は考えていた。

 とはいえ、やられっぱなしは性に合わなかった為、いつものように反撃に出る。

 

「アイズ、そこの姉妹の長耳も触ってやるのニャ!」

「うん、分かった」

「あら、別にいいわよ? 情けない声なんて上げたりしないもの」

「ええ、好きなだけ触って頂戴」

 

 余裕綽々といった態度のディース姉妹に、アーニャとアイズは視線を合わせて互いに頷いた。

 敵と味方は入れ替わり、今度は2人が同盟を結んで姉妹を攻める番であった。

 

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