転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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進捗

 

「ふぅ……」

 

 作業の手を止めて、アスフィは一息ついた。

 9歳となった彼女はフレイヤ・ファミリアへ入団し、正式にレヴェリアの弟子となっていた。

 

 入団して感じたことは、レヴェリアの周囲は思っていたよりも和気藹々としていたことだ。

 また、他の団員達がやっている殺し合いみたいな鍛錬には参加しなくていい、とレヴェリアから言われていた。

 その鍛錬に参加しなくて良い理由は彼女自らが鍛え上げるという意味であった。

 冒険者としての基礎知識や戦闘面だけではなく、魔道具作成などアスフィが元々望んでいた分野の勉強まで、レヴェリアが細やかに指導していた。

 

「……ん?」

 

 その時、廊下を走る足音が聞こえた。

 入団してまだ数ヶ月しか経っていないが、ホームの廊下を走る輩は限られていることを既に知っていた。

 

 やがて、ノックすることもなく部屋の扉が勢いよく開かれた。

 そこにいた輩を見て、アスフィは軽く溜息を吐く。

 

「ひーーーーん! レヴェリアにいじめられたー!」

 

 えぐえぐ、とわざとらしく嘘泣きをしてみせるのはフレイヤであった。

 アスフィにとって、フレイヤは天真爛漫な少女みたいな女神である。

 心どころか魂を奪われるかもしれないと危惧する程に美しいのだが、色々と残念な部分が目立っていた。

 

 先輩団員達が言う、崇高な女神とはいったい誰のことなんだろうか、とアスフィには不思議で仕方がない。

 真面目な時は崇高になるのかもしれないが、レヴェリアからは雑に扱っていい、と以前から度々言われていた。

 事実、フレイヤも傅かれるよりもそのように扱われている時の方が活き活きとしているので、アスフィも礼を失さない程度に雑な扱いであった。

 

「で、何をやったんですか? フレイヤ様」

「忙しいレヴェリアの為に、久しぶりに張り切って手料理を作ったのよ!」

「ああ、もうオチが見えました。レシピ通りに作らなかったんですね?」

 

 入団にあたり、アスフィはレヴェリアよりフレイヤに関する注意事項を幾つか教えてもらっていた。

 その中の一つにはレシピ通りにすれば料理を作れるが、レシピから外れたことをすると見た目は問題ないが味に問題しかないものが生成されるとあった。

 アスフィはそのことをしっかり覚えていた。

 

「だってほら、ちょっと変更するくらいならセーフだと思って……」

「で?」

「一口食べたら、レヴェリアがすごい速さで治癒魔法を発動したの。で、こんなもん食えるかって口に突っ込まれたわ」

「どんな味がしたんですか?」

「……泥を食べるよりはマシな味」

 

 アスフィは再び溜息を吐いた。

 そこでフレイヤは視線を巡らせて、尋ねてきた。

 

「で、アスフィは何をやっているの? 今日もお勉強?」

「ええ、そうです。レヴェリア様から色々と課題を出されていまして」

「厳しいもんね、レヴェリア」

「そうでもないですよ。答えや結論が誤っていても、すごく気を遣って指摘してくれますし」

 

 入団する前から、定期的にオラリオを訪れて勉強を教わっていたアスフィが感じていたことだ。

 答えや結論が間違っていた場合、アスフィの頑張りをよく褒めてから諭すように、やんわりと指摘する。

 幼い頃につけられていた専属の家庭教師達は間違えると、誰もが厳しく叱りつけてきた為、天と地の差であった。

 

「あと、睡眠時間だけでなく余暇に関しても、しっかり取れているかとちょくちょく尋ねてきてくれまして……」

 

 アスフィとしても、レヴェリアが大切にしてくれていることをよく感じていた。

 ウンウンとフレイヤは頷いてみせる。

 

「その調子で頑張れば、レヴェリアをしっかりと支えられるようになるわ」

 

 誰もが見惚れるような微笑みを浮かべたフレイヤに、アスフィは思わず息を飲む。

 その表情、雰囲気は普段とはまったく違っており、天真爛漫な少女っぽさは消え去っていた。

 だが、それは一瞬だった。

 

「それはそれとして、レヴェリアに仕返ししたいの! ぎゃふんと言わせたいから、何かないかしら!?」

「料理のことはミアさんに言ってください」

 

 アスフィが冷静にそう答えた時、タイミング良く扉が叩かれた。

 許可を出せば、入ってきたのはレヴェリアだった。

 彼女はフレイヤを見て、溜息を吐く。

 

「おい、たわけ。アスフィの邪魔をするんじゃない」

「レヴェリアがいじめるから悪いのよ!」

「いじめてないだろ」

 

 聞いていたアスフィも、レヴェリアは被害者であるとしか思えない。

 すると、レヴェリアはフレイヤの首根っこを引っ掴んだ。

 

「さぁ、帰るぞ。今度こそ、レシピ通りに料理を作ってくれ」

「ひーーーーーん! 私のオリジナルアレンジがー! 創作料理がー!」

 

 そして、2人は部屋から出ていった。

 レヴェリアは勿論、フレイヤも言葉で嘆いているわりには、すごく楽しそうな顔であった。

 普段の日常がこういった感じで、2人が意識せずともイチャラブになっているのだが、アスフィに動揺はない。

 入団前から度々目撃していたからだ。

 むしろ、アスフィが気になったのはフレイヤの最後の言葉。

 

「……絶対、ちょっと変更しただけじゃない」

 

 オリジナルアレンジやら創作料理やら、いったいレヴェリアは何を食べさせられたんだろうか、と心配になってしまった。

 

「あとで、クッキーを焼いて持っていこう」

 

 レヴェリアに手料理を振る舞いたいが為、アスフィは料理や菓子作りを独学していた。

 

 

 

 

 

 

「戦力的には向上しているが、足りないな……」

 

 そう呟いてレヴェリアはクッキーを齧る。

 先ほど、アスフィが持ってきてくれた彼女手製のものだ。

 ちょうど15時であったことから、レヴェリアは仕事の手を休めて休憩を取っていた。

 

 派閥大戦から4年。

 定期的に竜の谷における間引き作戦が実行される傍らで、50階層での集中合宿が行われてきた。

 この4年で、フレイヤ・ファミリアでは主力となるレベル8であった者達が軒並みランクアップしていた。

 またロキ・ファミリアでも三首領がランクアップし、レベル9となっていた。

 そして、ゼウスとヘラの両派閥では【英傑】と【女帝】を筆頭に、遂にレベル10へ至った者が複数名いたが、まだ足りなかった。

 無論、ダンジョン攻略も進んでおり、四派閥合同遠征による到達階層は75階層だ。

 しかし、潜れば潜る程、モンスターの強さだけでなく、広大かつ複雑な階層構造及び物資の運搬が大きな足枷になっている。

 

 その為、安全階層に恒久的補給拠点を構築していく計画が進められており、手始めに下層の安全階層である28階層が拠点化されつつあった。

 一方ギルドではダンジョンに立杭(シャフト)を通してそこにエレベーターを設置してはどうか、という案がロイマンより出されており、四派閥は条件付き賛成の立場だ。

 

 ダンジョンに直接立杭(シャフト)を通してエレベーターを設置するのはリスクが大きい。

 よってダンジョンから距離を取ったところに立杭(シャフト)とエレベーターを構築し、ダンジョンとは通路で繋げるというのが条件だ。

 大量のモンスターが通路に侵入してくることも考慮し、通路はある程度の広さに加えて迎撃用の罠、そして戦力が常駐することも条件には組み込まれていた。

 

 もっとも、立杭(シャフト)計画は実現できるか怪しいところがあった。

 そもそも必要な最硬精製金属(オリハルコン)の量が膨大であることや、その主な調達先には『学区』が予定されていることが問題となっている。

 生産した最硬精製金属(オリハルコン)を半分ずつ分け合うならばともかく、ギルドの要求比率は8:2と『学区』側が低く設定されていた為に。 

 なお、レヴェリアはロイマンからの指名依頼、そして以前にイズンより打診されていた非常勤講師として度々『学区』に赴いて、教鞭を取っている。

 これは主に最硬精製金属(オリハルコン)の生産及びその生産量増大の為であり、赴く先はもっぱら『錬金学科』だったが、『戦技学科』などの他学科にも出向いていた。

 

「戦力といえば、アイズだが……」

 

 戦力が足りないなら、私も戦う―― 

 

 そう言い出したのである。

 いくら何でもまだ幼すぎる為、もう2、3年は待てとレヴェリアが伝えると、ある行動にアイズは出た。

 

「……今日の夕食も頑張ってしまうんだろうなぁ」

 

 たくさん食べて体を大きくすれば、歳なんて関係ないと考えたらしかった。

 傍目から見る分には可愛いのだが、食べすぎて動けなくなるのがいつものパターンだった。

 

 

 

 

 

 いつものように、オッタルは困っていた。

 ここ最近、食事時になるとアイズが自分の対面に陣取って、張り合うように料理を目一杯口に詰め込んでいた。

 料理が詰め込まれ、頬が大きく膨らんだその姿は、まるでリスのようだった。

 

 そんなことが何回か続いた後、彼は拙い言葉ながらも彼女に理由を尋ねた。

 すると、たくさんご飯を食べて早く大きくなりたい、という答えが返ってきた。

 それ自体は良いことなのだが、問題は2、3杯おかわりをした後、彼女が身動きできなくなってしまうことだ。

 うめき声を上げながら、テーブルに突っ伏す幼女を放置しておく程、オッタルは非情ではなかった。

 

 そして、アイズは今日も同じ末路を辿った。

 

「お馬鹿なアイズ。でも、そこが愛らしいわ」

「ええ、ディナお姉様。本当、可愛いらしいわ」

 

 微笑ましく見守るディース姉妹。

 だが、いつもと同じく助けることはしない。

 そして給仕で目が回る程に忙しいアーニャは、アイズに気を払っている余裕はない。

 

 仕方がなく、いつものようにオッタルはレヴェリアに助けを求めに行くのだった。

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