転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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グランドスラム

 

「……大きい」

 

 これでもかと目を見開いて、アイズは目の前にある巨大な紡錘形の物体を見上げていた。

 その物体の胴体中央部には4つの大きな翼、そして持ち運びの為に取っ手が2つあり、また尾部には胴体と同数の小翼が取り付けられていた。

 通算6回目の攻撃実験に失敗してから、レヴェリアが半年間、心血を注いで作り上げたものだ。

 7回目となる今回は、あらかじめ告知してあったこともあり、遠目に見学している団員達もそれなりにいた。

 そして、誰もが巨大物体に視線を奪われていた。

 

「改めて、レヴェリア様の凄さというかヤバさというか、そういうものがよく分かりました」

 

 アイズの隣にやってきたアスフィが言った。

 設計から製造までレヴェリアが全て行ったのだが、彼女はアスフィの指導を忘れてはいなかった。

 納期があるわけでもない為、レヴェリアは授業の一環として一から十まで丁寧に説明していた。

 そのおかげでアスフィにとって、大きな学びとなった。

 

「アスフィ、これって何でできているの?」

「翼や取っ手も含めて、全部最硬精製金属(オリハルコン)、なおかつ不壊(デュランダル)属性も付与されています」

「……すごい」

 

 最硬精製金属(オリハルコン)以上の金属は確認されていないことは、アイズも知っている。

 そして、その値段が高いことも。

 

 

 

 

 2人から少し離れたところには、巨大物体を眺めるフレイヤとロキがいた。 

 ロキがいるのは偶然だ。

 眷族達がダンジョンに行ってしまい、暇だからやってきたといういつものパターンである。

 

「厳つすぎるやろ」

 

 物体を見た瞬間、開口一番にロキはそう言った。

 彼女はフレイヤから、分厚い装甲をぶち抜くことだけに特化したものを作っている、と聞いていた為、槍もしくは銛だと思っていた。

 しかし、レヴェリアが作ったものは想像の斜め上であった。

 

「フレイヤ、レヴェリアちゃん……頭アレス(脳筋)やろ」

「……ちょっと否定できないわね」

 

 フレイヤは視線を逸らして、そう答えた。

 まあそういうところもええねんけど、とロキは思いつつ尋ねる。 

 

「そういや、フレイヤ。オッタルで実験はしたん?」

「まだしてないわ。今回の実験後にやってもらうってレヴェリアが決めたの」

「鱗を自分で叩き割りたくてムキになっとるレヴェリアちゃん……可愛くね?」

 

 問いかけに対して、フレイヤは大きく頷いてみせた時だった。

 レヴェリアが工房から大股で歩いてきた。

 彼女は両手で黒竜の鱗を抱きかかえる形で持っており、それを50M程離れたところにある特製の台座にしっかりと固定した。

 やや傾斜がついている鱗の表面は、落書きによって変わり果てていた。

 以前に訪れた時、落書きをロキはじっくりと見たが、レヴェリアとアイズの合作と聞いて大爆笑していた。

 

 なお、アイズの処遇については再び協議がもたれたが、そのまま変わりなくフレイヤ・ファミリア預かりとなっている。

 レヴェリアが強く希望したことと、アイズが彼女に懐いていることが大きな後押しとなった為に。

 ヘラとロキは一緒になって悔しがり、自棄酒をするという珍事が発生したのは余談だ。

 

 やがて鱗を設置したレヴェリアは、巨大物体の傍へ赴いた。

 

「レヴェリア、持てるの……?」

 

 アイズの問いかけに、レヴェリアは大きく頷いた。

 そして、彼女は2つの取っ手を持ち、巨大物体を持ち上げてみせる。

 

「ねぇ……それ、竜の谷まで持って行けるの?」

「計算上では、投擲はレベル8以上の前衛が望ましいが、運搬はレベル7ならば1人でも可能だ。レベル6なら2人いたほうが良いだろう」

 

 フレイヤからの問いかけに、レヴェリアは地面に置いて答えた。

 高レベル冒険者が多数いるからこそできる、力技の解決方法だ。

 ロキも聞きたいことがあったが、実験が終わるまで口を噤むことにした。

 

 そんなわけで早速実験開始である。

 といっても、やることは単純だ。

 ぶん投げて、鱗に当てるだけである。

 深呼吸を数回して、レヴェリアは思いっきり鱗目掛けて投げた。

 

 風切音と共に、あっという間に距離を詰めていき――着弾、大轟音。

 台座ごと鱗はひっくり返って、物体によって押されて地面にめり込み、衝撃によって土煙が巻き起こった。

 

「これで駄目だったら、もっと大きくして重くしてやる……」

 

 レヴェリアの呟きは、この場にいる全員に聞こえた。

 その執念にアイズは息を呑み、アスフィは技術的には可能だと考え、フレイヤとロキはムキになっているところが可愛いとほっこりした。

 

 土煙が収まったところで、レヴェリアはゆっくりと結果を見るべく歩いていく。

 アイズ達も、彼女から少し遅れて鱗の元へ。

 

 そして、鱗は物体によって着弾箇所から無数のヒビが入り、割れていた。

 最硬精製金属(オリハルコン)製の大質量物体が高速でぶち当たっては、さすがに黒竜の鱗といえど耐えられなかった。

 むしろ、これでも木っ端微塵にならなかったことから、鱗の強度を窺い知れる結果でもあった。

 

 それはともかく鱗の状態を確認した瞬間、レヴェリアは雄叫びを上げ、両手でガッツポーズ。

 

「やったぞ! トカゲの鱗をぶち抜いてやった!」

 

 狂喜乱舞して飛び跳ねるレヴェリアに、アイズとアスフィは素直に一緒になって喜ぶが、女神達は違った。

 無論、黒竜に対する有効と思われる武器を手に入れたことは喜ばしいが、それよりもレヴェリアの反応だ。

 

 あそこまで喜びを爆発させるレヴェリアは滅多にない。

 まさしく良いものが見れた、とホクホク顔である。

 それはそれとして、ロキとフレイヤも揃って今回の実験成功を祝った。

 

 ひとしきり喜んで、落ち着いたレヴェリアはドヤ顔であったが、そこへロキが気になっていたことを尋ねる。

 

「なぁ、レヴェリアちゃん。それ1つ作るのに、どんくらいのお値段なん?」

 

 ロキからの質問に、レヴェリアは指を3本立てた。

 300万とか3000万という()()()()()()ではないことは明らかである為、ロキは告げる。

 

「3億?」

 

 ふるふるとレヴェリアは首を左右に振った。

 ロキもフレイヤも察し、アイズは首を傾げて、既に知っていたアスフィは視線を逸らした。

 そして、レヴェリアも視線を思いっきり逸らして、おずおずと言う。

 

「……今回は私が生産して貯め込んでいた最硬精製金属(オリハルコン)を使ったんだが、一から揃えるとなると」

 

 そう前置きした上で、彼女は小さな声でボソッと告げた。

 

「だいたい30億くらい……かな」

「破産するわ!」

 

 ロキ、渾身のツッコミ。

 アイズは30億という額が大きすぎて、理解が追いつかない。

 故に、この前レヴェリアと一緒に街に繰り出した時に出会った、衝撃的な美味しさの食べ物に例えてもらうことにした。

 

「フレイヤ、ジャガ丸くん何個分?」

「ジャガ丸くんは1個、30ヴァリスだったわね?」

「うん、そう」

「それならちょうど1億個よ。だいたい91年くらい、毎日1000個ジャガ丸くんを食べられる金額ね」

 

 ジャガ丸くんが1個30ヴァリス、1日1000個で30000ヴァリス、1年365日で1095000ヴァリス。

 およそ91年程続けることで1億個を達成できる数字だ。

 

 フレイヤの言葉に、アイズは大きく目を見開いた。

 とんでもない金額だと彼女は完璧に理解したのだ。

 

 朝昼晩とおやつをジャガ丸くんにすれば、1日100個はいけるという予感がアイズにはある。

 だが1000個となると、もはや想像もできない。

 起きてから寝るまでずっとジャガ丸くんを食べ続ければ1000個を達成できるかもしれないが、さすがの彼女も嫌であった。

 

 そのやり取りを横目に見ながら、レヴェリアは説明を続ける。

 

「価格の大部分が最硬精製金属(オリハルコン)の調達費用だ。こればかりは生産量が増えねばどうにもならん」

「レヴェリアちゃんの色んな研究成果も『学区』に持ち込んどるらしいけど、どうなん? 目はありそうなん?」

「工程改善などで、少しずつ前進はしている。だが、生産量の急激な増大に繋がるような技術革新は、奇跡でも起きない限り無理だ」

 

 肩を竦めてみせるレヴェリアに、フレイヤが尋ねる。

 

「どのくらいほしいの?」

「最低でも100発、理想は1000発だ。黒竜にダメージを与えられうる()()()だからな」

 

 金額換算すれば3000億から3兆ヴァリス。

 そして、たとえ金を積んでも材料である最硬精製金属(オリハルコン)が必要量、すぐに入手できるわけではない。

 また、最硬精製金属(オリハルコン)の価格が上がることはあっても、下がることは生産量の増大なくしてありえなかった。

 

「手段の一つとしてはあってもいいけど、あなたも含めて眷族の子達が今よりもっと強くなる方が手っ取り早い気がするわ」

「私もそう思う。とはいえ、これくらいのものであれば、黒竜にも通用すると分かったことは大きな収穫だ」

 

 フレイヤの言葉に、そう答えたレヴェリア。

 レベル9以下では傷つけられないかもしれない、と考えられていた黒竜の鱗を叩き割ることができた意義は大きい。

 またフレイヤが言うように選択肢が増えたというのは、素直に歓迎できることだった。

 

「ちなみに、レヴェリアちゃん。コレ、名前とかつけたん?」

 

 そういえば、とロキは今更ながらに尋ねた。

 良くぞ聞いてくれました、と言わんばかりにレヴェリアは胸を張って答えた。

 

 彼女の口から告げられた名は『グランドスラム』だった。

 

 




対黒竜用試製徹甲弾『グランドスラム』

全長:13.1m
直径:1.8m
重量:約30t
貫通力:傾斜のついた黒竜の鱗に対して、50m先からブン投げて叩き割ることができる。
材料:最硬精製金属(オリハルコン)
特殊効果:不壊(デュランダル)属性
調達費用:約30億ヴァリス(材料費高騰による価格上昇の可能性あり)


アスフィメモ
最硬精製金属(オリハルコン)の巨大な塊を高速(発射は人力)で当てるというコンセプト。
レヴェリア様は尾部に何らかの推進機関を取り付けて一定速度に達した段階で機関始動、より加速して音を超えた速さで突っ込ませたかったようだが、コスト及び技術面から断念した。
執念がすごい。




オラトリア4巻でガレスが大破した巨大(ガレオン)船――ガレオン船は軽くても数百トン――を1人で持ち上げた逸話があるらしいので、レベル9が30トンを石みたいにぶん投げても問題ないはず。
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