「アイズ、顔がにやけているわよ」
ステイタス更新を終えて羊皮紙を眺めるアイズに対して、フレイヤは微笑ましく思いつつ、そう告げた。
「嬉しいから、仕方がない」
笑みを浮かべたまま、アイズはそう返した。
彼女が恩恵を得てもうすぐ半年となるが、既にその熟練度は全てが上限を超えて、今もなお成長していた。
ランクアップも既に可能であるが、保留してひたすら熟練度を積み上げている状況だ。
レヴェリアに続く、2人目の熟練度の限界突破――それは本人の頑張りは勿論だが、恩恵を刻んだ時に『
スキルとは名称も含めて本人の望みや本質を反映したものであるが、アイズにとってそのスキルは特別なものだ。
『
早熟する。
英雄に並び立つまで効果持続。
英雄への想いに応じて効果向上。
英雄との共闘時、全アビリティ能力高補正。修得発展アビリティ強化。魔法効果増幅。
成長スキルと自己強化スキルが合わさったものであり、前者の効果が消えても後者は残るという破格のものだ。
英雄が誰であるかはフレイヤにも丸分かりだ。
レヴェリアには言わないほうがいい、とフレイヤは判断して、彼女には『
逆にアイズには当初『
羊皮紙を眺めていたアイズは、やがて顔をフレイヤへ向けて口を開く。
「フレイヤ」
「なぁに?」
「私は、レヴェリアが一番強くあってほしい」
その言葉の意味を察し、フレイヤはくすりと笑ってアイズの頭を撫でる。
「そうね、私や他の子達も同じ思いだわ」
ここ最近ステイタス更新時に、フレイヤは他の眷族達からもアイズと同じような話を聞くことが多い。
彼等彼女等にとって、レヴェリアはフレイヤの寵愛を独占している為、倒すべき相手であるとしながらも、これまでの比類なき功績及び圧倒的実力などにより、大きな嫉妬はあったが心の奥底では認めていた。
だが、近年ゼウスやヘラでレベル10に至った者が複数名出たことから、ある思いを抱いていた。
自分達の団長ならば、『頂天』にあり続けてほしい――というものだ。
誰かしらに負けた、ということは合宿含めて今のところはないが、このままではいずれそうなるだろう。
それはともかくとして、彼女に挑むこともホームでの殺し合いに等しい鍛錬もやめることはない。
派閥大戦によって『頂天』であると示されようとも関係なかった。
その理由はシンプルなものだ。
レヴェリアだけが強くて、他はオマケ――
彼女が突出した強さであるからこそ、そういった屈辱的な評価を受けかねない。
これは自分達を眷族として迎え入れてくれた、フレイヤの顔に泥を塗るに等しい行為であり、それだけは我慢ならなかった。
故に、ある言葉が派閥内で生まれ、いつしかそれは標語となった。
『精鋭無比』――その言葉を掲げ、フレイヤの眷族として相応しい強さである為に、彼等彼女等は苛烈な闘争を繰り広げていた。
「レヴェリア、すごく忙しいものね」
フレイヤの言葉に、アイズもまた頷いた。
アスフィ達への指導に加えて、団長としての業務などでレヴェリアは忙しく、合宿以外で自身の鍛錬に割ける時間があまりなかった。
だが、色々な仕事をすっ飛ばして、彼女を鍛錬に集中させる方法があった。
それは冒険者依頼だ。
「もうすぐアスフィの総括試験があるから、それが終わってからレヴェリアへ一緒に依頼を出しましょう」
「アスフィ達も誘っていい?」
「勿論よ。彼女達だけじゃなくて、他の子達も誘えるだけ誘いましょう」
アイズの問いかけに、フレイヤはそう答えた。
「アスフィ、大丈夫?」
アイズの問いかけに、机に突っ伏したアスフィは手をひらひらさせてみせる。
「これ、飲んで」
「ありがとうございます……」
お盆に載せて持ってきた紅茶が入ったティーカップをアイズが差し出せば、アスフィは礼を言って手に取り、口に運ぶ。
毎年、この時期になるとお世話になっている恩を返すのだ、とアイズは張り切ってアスフィに世話を焼いていた。
アスフィがレベル2になった時から始まった、年に一度の総括試験。
仰々しい名前がついているものの、不合格であってもレヴェリアとの補習授業・追試があるだけで、それ以外にペナルティはない。
そもそもこの試験が行われているのは、アスフィだけだ。
試験内容は戦闘における実技こそないものの、レヴェリアが指定する用途の魔道具作成・提出があり、さらに試験が3日間に渡って行われる。
魔道具作成は勿論のこと、ダンジョン探索、派閥運営など幅広い知識・判断を問う短答式試験及び論述試験がそれぞれ1日目、2日目だ。
そして、最後の3日目には口頭試問が待ち受けている。
事前に提出した魔道具は勿論、派閥運営やダンジョン探索時の具体的事例について問われるものだ。
体力・精神を消耗するタフな試験であるが、これまで一発合格していることがアスフィの自慢であった。
「今回も自信はあります。しんどかったですけど」
「アスフィは、すごいね」
「もっと褒めてください」
「すごくすごい」
アスフィの求めに、アイズは素直に応じる。
それは社交辞令ではなく、心から思っていることだ。
アスフィは戦闘面だけでなく、魔道具作成などの専門分野でも勉強して結果を出しており、彼女が作った魔道具が人気となっていることはアイズも知っていた。
「ところでアイズ。報告書の進捗はどうですか?」
「もう終わった」
問いかけに、アイズは胸を張って答えた。
レヴェリアによるアイズへの冒険者依頼は初回以降も定期的に出されており、先週はメレンでの市場調査だ。
アスフィは試験勉強があったので同行はできなかったが、ヘイズとヘルン、そしてアーニャが同行した。
これまでのように、アイズは調査を行った後にビーチで遊んだり、新鮮な海の幸を堪能したりと良い休暇になったようだ。
アーニャがいちいちうるさかった、とアイズとヘイズとヘルン――つまり本人以外の全員――から聞いて、アスフィは苦笑してしまったが。
それはさておき、最近は報告書もアイズが1人で書くようになっており、仕上がったものをアスフィが確認をしているという形だ。
「では、あとで確認しますから持ってきてくださいね」
「うん、分かった。でもアスフィ、まずは休んでほしい。提出期限に余裕はあるから……」
「ありがとうございます」
レヴェリアへの冒険者依頼のことは報告書を見てもらう時に伝えよう、とアイズは決める。
試験が終わったばかりのアスフィには、休んでもらうことが先決だった。
総括試験の採点が終わり、今回もアスフィが合格であったことを伝えて彼女と一緒に喜んでから早1週間。
執務室で1人、レヴェリアが書類仕事を黙々と進めていた時だった。
部屋の外から複数の気配を感じたと思ったら、突如として扉が勢い良く開かれた。
視線を向けるまでもなく、彼女には誰が来たか分かってしまった。
「私が来た!」
「はいはい、たわけたわけ」
「ひぃん! レヴェリアが塩対応する! 泣くわよ!?」
「哭け、フレイヤ」
「ひぃいいいん!」
話が前に進まないが、これが彼女達の日常だ。
「それで、レヴェリア」
扉を開け放ったまま、執務机の前に歩いてきたフレイヤは改めて声を掛けた。
「何だ?」
問いかけに対して、フレイヤは告げた。
「あなたに冒険者依頼を出したいの」
「却下」
「せめて依頼内容は聞いて」
「当ててやろう。私もオラリオの観光名所やレストランとかメレンの市場調査をしたいから、付き添って……違うか?」
そのやり方を思いつかなかったわけではないが、やらなかったのはフレイヤなりの配慮である。
我儘な小娘もちょびっと成長していた。
故に、ドヤ顔で彼女は否定する。
「ふふん、違うわ」
「じゃあ、1週間くらい前にオープンした、持ち帰り専門のスイーツ店で販売している限定シュークリームが欲しい……これだろう?」
「え、ちょっと待って。それ本当? 知らなかったわ」
「……違うのか?」
「それも欲しいけど、違うわ。依頼とは別で買ってきてくれない?」
「自分で行け」
「ひぃん……」
その直後、部屋の外から大勢の足音が遠ざかっていくのが聞こえた。
気配の正体が団員達であることはレヴェリアも予想していたが、執務室の前に集まるというのは今までにない行動だ。
そして、全員がシュークリームを買いに行ったわけでもないようで、まだ気配はそれなりに残っている。
何をやっているんだ、とレヴェリアは団員達に呆れつつも問いかける。
「じゃあ、何だ?」
問いかけに、フレイヤは羊皮紙を差し出した。
それを手に取り、書かれている内容を確認したレヴェリアは目を疑った。
依頼人はフレイヤ及び
内容はレヴェリアのランクアップ。
手段は問わず、長期不在も可。
その間、レヴェリアが行っていた事務仕事は各団員が分担して処理する――
前代未聞の依頼であったが、依頼内容よりも重要な部分を要望としてレヴェリアは伝える。
「……各団員が書類仕事を分担してやるというのは、今回だけではなくて、これからも継続的にしてくれ」
「そこは要交渉ね。苦手な子も多いから……」
「……そうか」
レヴェリアは軽く溜息を吐いた。
団員達がどうして部屋の外で待機していたのかも理解した。
この依頼を受けるかどうか、気になったのだろう。
「というか、事務仕事の分担はお前が頼んだのか?」
「と、思うでしょ? 実はそうじゃないの。皆から言い出してくれたの」
「本当か?」
訝しげな視線を向けてくるレヴェリアに、フレイヤは大きく頷いてみせる。
そして、彼女は最後の一押しとなる言葉を告げた。
「私も含めて皆、あなたに『頂天』でいてほしいのよ」
「……では、ありがたく依頼を受けるとしよう」
若干照れくささを感じつつ、レヴェリアは依頼を受ける旨を伝えた。
すると、部屋の外から安堵の声であったり、レヴェリアがいないから、私が頑張るなどという声が聞こえてきた。
思わずレヴェリアはくすり、と笑うのだった。
ドラクエ3とか色々とやりたいゲームがあるので、更新遅れるかもしれません。