転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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姉妹のように

 

「クソがぁあああ!」

 

 悪態を付きながら、向かってくる自身と同格――レベル2の団員に対して、ヘイズ・ベルベットは冷静に対処する。

 自身の得物である長剣でもって攻撃を巧みに捌きつつ、相手の注意が疎かになった瞬間に足払い。

 転んだところを斬りつけ、確実に戦闘不能に追い込んだことを確認しつつ、彼女は詠唱を開始する。

 

 【ゼオ・グルヴェイグ】――それはヘイズが恩恵を得た時、発現した3つの魔法のうちの一つだ。

 レヴェリアの治癒魔法程ではないものの、手足や臓器が無くなった程度ならば再生・復元できる強力な効果を持つ。

 ランクアップに集中する為、レヴェリアが指導時間をあまり取れなくなったことから、用事や仕事がない時には原野での戦いに出るようになっていた。

 とりわけ、ヘイズは団員達の治療に自ら志願していた。

 

 あの日あの時あの場で助けられてから、レヴェリアへの強烈な憧憬と思いを抱いた彼女にとって、原野で傷ついた大量の団員達を根こそぎ癒やすことは、レヴェリアに近づけている証であった。

 

 だが、ヘイズは己の未熟さに憎悪し、憤怒する。

 

 遅い遅い遅い遅すぎる――

 

 年齢とレベルを考えれば十分過ぎる程に詠唱は速いのだが、彼女が満足することはない。

 己を憎みながら、詠唱を進めていき――やがて、原野は黄金の光に満たされる。

 倒れていた団員達が次々と起き上がり、ヘイズがつい先程倒したばかりの団員もまた起き上がった。

 

 アスフィ、ヘイズ、ヘルンそしてアイズと今のところレヴェリアは4人を指導しているが、その中で自身の経験から得たコツなどをそっくりそのまま流用しているのはヘイズのみだ。

 それがもっとも効率が良いという理由だけであったとしても、ヘイズにとっては喜ばしい。

 

 誰よりも死に臨み、乗り越えろ――

 さすれば、お前から勝利を奪い取れる者はいなくなるだろう――

 

 指導にあたり、レヴェリアから最初に告げられたこの言葉は、ヘイズにしか贈られていないものだ。

 その教えを胸に秘めて、格下同格格上の区別なく団員達を睥睨したその時だった。

 

 一陣の風となって、アイズが一直線に向かってくる。

 真正面からの突撃ゆえに迎撃は容易――そう思わせるのが、彼女の常套手段だ。

 付与(エンチャント)魔法【エアリエル】により風を纏って突撃してくる彼女に対して、ヘイズは詠唱を開始する。

 

「【黄金の輝き。満ち溢れる想い。我が想い阻むもの、尽く灰燼となれ】――【ヴルカン】」

 

 瞬間、ヘイズが持つ長剣、その刀身が金色の炎を纏う。

 直接斬りつけた際の威力増加だけでなく、剣を振るえば爆炎が巻き起こるという副次効果までもあった。

 これらは込める精神力の量によって威力の増減、そして爆炎に限っては効果範囲までも調整可能だ。

 

 レベル2となった時、神々より贈られた二つ名は【烈金の戦乙女(ラーズグリーズ)】。

 ラーズグリーズは『戦いを終わらせる者』を意味する言葉であったが、彼女が示す終わらせ方は敵対者の殲滅である。

 普段は温厚さに覆い隠されているが、その実、誰よりも苛烈な彼女は迫りくるアイズを迎え撃つべく、剣を振るった。

 

  

 

 

 

 

「レヴェリア様、お疲れ様です!」

 

 夕方、原野での戦いから館に戻ったところでヘイズは、外から帰ってきたばかりのレヴェリアと出会った。

 ボロボロの戦闘衣(バトルクロス)をどうにか整えて、満面の笑みで挨拶をする。

 

「ヘイズ、よく頑張っているな」

「いえいえ、全然駄目ですよ。もっともっと頑張ります」

 

 両手で握り拳を作ってみせる彼女に対して、レヴェリアは優しく微笑む。

 その笑みを向けてもらえただけで、ヘイズは全ての疲れが吹き飛んだような気がした。

 だが、彼女は満足しない。

 早朝より原野に出ていた為、今日レヴェリアと会ったのはこれが初めてだ。

 故に、ダメ元でお願いしてみることにした。 

 

「あの、レヴェリア様……まだ足りないので、夕食後に……」

「いいぞ」

 

 レヴェリアの即答に、ヘイズは華の咲いたような笑みを浮かべてみせる。

 これで彼女にマンツーマンで指導してもらえる、と思った時だった。

 

「ヘイズばっかりズルい。私もやる」

 

 横からの声に、2人が視線を向ければそこにはアイズがいた。

 ヘイズと同じように、戦闘衣(バトルクロス)こそボロボロであるが傷一つない。

 まだまだやれる、とアピールするかのように両手で握り拳を作ってみせる。

 レベル差もあったことや、付与(エンチャント)魔法でありながら範囲攻撃も可能な【ヴルカン】により、アイズは今回も敗北を喫していた。

 全身こんがり丸焼けにされるという、いつものやられ方である。

 

 アイズにとって戦闘面での課題は、広範囲攻撃をしてくる敵への対処法だ。

 彼女の戦闘スタイルは機動力を活かした高速襲撃。

 だが、速度が意味をなさなかったり、あるいは速度を殺されるような状況・相手には無力化されてしまうことが悩みの種であった。

 

「私も参加させてください。今日一日、ずっと部屋に缶詰だったんですから……」

 

 そう言いながら現れたのはアスフィだ。

 彼女は回されてきた書類の処理で、朝からずっとデスクワークであった。

 原野での戦いに参加したくともできなかったことから、鬱憤が溜まっていた。

 

 アイズ、アスフィと続けて現れたことで次に誰がやってくるか、ヘイズには予想がついてしまった。

 

「お帰りなさいませ、レヴェリア様。ところで指導をして頂けるのならば、私も参加を……」

「やっぱり出ましたね、ヘルン」

「何よ? その言い草は」

「いやー、アイズ、アスフィと来たので、あなたも来るだろうなと予想していました」

「フレイヤ様の従者として、伴侶たるレヴェリア様がお帰りになられたのならば、即座にお出迎えするのは当たり前よ」

 

 従者としての心構えを言っているように聞こえるが、アスフィとヘイズにはどうにもそうとは聞こえなかった。

 なお、アイズは言葉通りに受け取り、さすがはヘルンだと尊敬の眼差しを向けていた。

 

「それでは皆で、ダンジョンに行くぞ。夕食後、エントランスホールに集合だ」

 

 やり取りを微笑ましく思いながら、レヴェリアは告げるのだった。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、こら! アイズ、駄目ですよ! ちゃんと洗わないと!」

「むぎゅっ!」

 

 身体を少し洗っただけで、湯船に飛び込もうとするアイズの首根っこを素早くヘイズは引っ掴んだ。

 掴まれたアイズはちょっぴり涙目になりながらも、素直に従う。

 

 時刻は真夜中。

 つい先程までダンジョンにて、レヴェリアに徹底的に扱かれていたアスフィ達はホームに戻ってくるなり、女性団員専用の大浴場へ直行していた。

 時刻が時刻である為、4人以外には誰もおらず実質的な貸し切り状態だ。

 なお、レヴェリアは門前で待ち構えていたフレイヤによって、部屋に連行されていった。

 

「そういえばアスフィ、今朝レヴェリア様がカースウェポンのようでそうではない、モーニングスターを持ち出したわ」

「ああ、『おはようフレイヤ、はよ起きんといてこましたるぞ1号君』ですね」

「……何であんなものができたの?」

「私も詳しく知らないんですけど、レヴェリア様が言うにはフレイヤ様との朝の戦いに終止符を打つ為とかなんとか」

「徹夜明けに作ったのかしら?」

「さぁ、そこまでは。作ったのは、私が入団する前のことらしいですし」

 

 横に並んで髪を洗いながら、そのような会話をするヘルンとアスフィ。

 2人から少し離れたところではヘイズによって、アイズは髪と身体を徹底的に洗われ、全身泡まみれになっていた。

 やがてヘイズがシャワーで一気に洗い流すと、アイズはぶんぶんと首を左右に振って水滴を払った。

 その光景を見てヘルンが言う。

 

「すっかり姉じゃない」

「だって、アイズですし。それに、ヘルンもそうじゃないですか」

「……それもそうね」

 

 寝癖がついたまま起きてきたアイズを、ヘルンが見るに見かねて髪を整えるなど、そういった事例がそれなりの頻度であった。

 2人のやり取りに、アイズは頬を膨らませる。

 子供扱いされると気に入らないお年頃であるが、あいにくとここ最近、彼女は派閥内でも末っ子扱いされつつあった。

 フレイヤの寵愛を得ようとしていないことが大きな理由であり、団員達から何だかんだで可愛がられていた。

 頬を膨らませながらも、湯船に浸かろうとアイズはそそくさと洗い場から移動した。

 その時だった、ヘイズが言い出し始めたのは。

 

「アスフィが長姉、四姉はアイズ……さて、ヘルン。次姉は私とあなた、どっちだと思いますか?」

「何を下らないことを言っているの?」

「ガリバー兄弟に対抗しようと思いまして」

「……私が次姉に決まっているわ」

「いやいや、やっぱり私ですよー」

「表に出なさい」

「いいですよ。やりましょうか」

 

 不穏な空気が漂い出した2人に対して、アスフィは軽く溜息を吐いた。

 

「バカなことを言ってないで、さっさと湯船に浸かりますよ。もうアイズは浸かってます」

「ちなみに、アスフィはどっちだと思います?」

「……どっちも次姉でいいんじゃないですか」

「それは逃げよ、アスフィ」

 

 ヘルンの指摘に対して、アスフィは仕方がなく答えることにした。

 

「じゃあ、ヘイズです」

 

 まさかの答えに目を見開くヘルン、けらけらと笑うヘイズ。

 アスフィは肩を竦め、聞こえていたアイズが解決策を提示する。

 

「……私が次姉。ヘイズもヘルンも末っ子」

「それはないです」

「ないですねー」

「ないわ」

 

 3人揃った否定に、アイズは頬を大きく膨らませ、そっぽを向いてしまう。

 末っ子の機嫌を大きく損ねてしまった為、アスフィ達は一時休戦をして、湯船に浸かりつつ機嫌を取ることにする。

 いい感じに構い倒すと、機嫌が良くなることを3人は知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私がランクアップしたら、どんな二つ名をつけてもらえるのかな」

 

 構い倒されて、すっかり機嫌が良くなったところで、アイズは何気なく呟いた。

 

「シンプルに【剣姫】とか【戦姫】とか……」

「……アスフィ達みたいのが良い」

 

 アスフィの予想に、アイズはそう答えた。

 

「【叡智の戦乙女(アルヴィト)】ですもんねー」

 

 ヘイズが告げたのはアスフィの二つ名だ。

 名前負けしている、とアスフィは思いつつも、呼ばれると嬉しいのは否定できなかった。

 

「私が【烈金の戦乙女(ラーズグリーズ)】で、ヘルンが【神々の娘(レギンレイヴ)】」

 

 本来ならばヘルンに二つ名がつけられることはなかった。

 何者にもなれないから、とフレイヤは神会で断るつもりであり、この事はヘルン本人にも伝えられていた。

 だが、二つ名をつけないということを、レヴェリアが偶然知ったことで風向きが変わった。

 

 ヘルンとフレイヤの関係性をレヴェリアに明かすわけにはいかない。

 フレイヤが考えている大いなる計画、その前提が崩れてしまう為だ。

 

 何者にもなれない、とレヴェリアに伝えれば確実に疑われる。

 ただでさえ、『ヘルン』はフレイヤの数ある名の一つだと知っている彼女だからこそ、下手に情報を与えれば、どういう関係にあるかを探り当てられてしまう可能性すらあった。

 故に、フレイヤは諸事情があってヘルンの二つ名は見送る云々という感じでレヴェリアに伝えたのだが、それで通じるわけもなく。

 

 どのような事情があったとしても、主神なのだから相応しいものをつけてやれ――

 ひぃん……

 

 正論をぶつけられ、反論できなかったフレイヤは三日三晩悩んで考え出した――という経緯であった。

 なお、神々の娘とはどういう意味か、とレヴェリアが問いかけてきたが、フレイヤは屁理屈を捏ねくり回してどうにか逃げ切っていた。

 

「【神々の娘(レギンレイヴ)】……カッコイイ」

「迫力が凄いですよねー」

「特別感がありますね」

 

 アイズ、ヘイズ、アスフィからの言葉に、ヘルンは喜びが込み上げてくる。

 ついつい頬が緩んでしまうが、抑えることなどできなかった。

 そんな彼女をアスフィとヘイズが微笑ましく思っているところで、アイズが告げる。

 

「レヴェリアのランクアップ、方法が決まったね」

 

 それはつい先程、レヴェリアから帰り道に教えてもらったことだ。

 オラリオから離れたところで、レベル9以上の挑戦者達と日の出から日没までランクアップするまで毎日戦い続ける――という方法だった。

 今日、彼女が出かけていた理由はその事に関してギルドの許可を取ったり、三派閥(ゼウス・ヘラ・ロキ)に話をつけに行っていたからだった。

 次の神会で許可を取ったら正式にスタートすることになるが、許可が取れること前提で動くとのことだ。

 とはいえ、優先順位は竜の間引き、合同遠征、合宿の順番であり、これらの実施の際にはランクアップの為の戦いは中止となるとのことだった。

 

「いちいち50階層まで行くのは正直、面倒ですし」

「毎日お疲れになられるだろうから、心身をリフレッシュして頂く準備を整える必要があるわね」

「レベル制限があるから参加できないけど、日没後なら挑める。今日みたいに」

 

 呑気な3人に対して、げんなりとした表情でアスフィは言う。

 

「それ関連で書類が増えそうなんですが、そこはどうなんですかね……? 現状でも私、原野で戦えていないんですけど……」

「治癒魔法が必要ならいつでも言ってください」

「フレイヤ様とレヴェリア様が気に入ってらっしゃる紅茶とお茶菓子を差し入れするわ」

「アスフィ、すごくすごい」

 

 ヘイズとヘルンに応援され、アイズに頭を撫で撫でされたアスフィは溜息を吐いた。

 それからも4人は色々なことを話しながら、のんびりと入浴を楽しむのだった。

 

 

 

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