転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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愉快な派閥

 

 アイシャ・ベルカは神の鏡が映し出す光景に、目を奪われていた。

 去年からレヴェリアのランクアップ耐久戦が開催されている事は、アイシャの故郷――カイオスの砂漠にも届いていた。

 以前より、彼女はレヴェリアに興味があった。

 その強さもさることながら、女なのに男のアレが生やせるという噂をよく聞いていたからだ。

 どうせなら初めての相手は『頂天』がいい、そう思ったアイシャはレヴェリアと寝るべく、13歳になったのを契機として、オラリオに単身やってきたわけである。

 

 彼女が到着したのは昨夕であり、当日の耐久戦は終了していた。

 故に、そこらの安宿に泊まって夜明け前から中央広場(セントラルパーク)のベンチにて、始まるのを待っていた。

 そして日の出と共に始まった、その戦闘は故郷では到底お目にかかれない程に熾烈なものだ。

 

 大地を砕くかのような一撃が頻繁に繰り出され、飛び交う魔法は1発で大穴を穿つ。

 手足が千切れ、臓物が零れようとも戦意を失う者は誰一人いない。

 しばらくすると、戦場全体を包み込む黄金のドームが展開され、瞬く間に傷ついた者達を癒やし尽くす――それが繰り返されていた。

 レヴェリアが治癒魔法を使う場合は己だけではなく、全員を癒やすというルールであるらしいことが窺えた。

 

「……良い」

 

 呟き、アイシャは唇をぺろりと舌で舐める。

 レベル10とレベル9の集団を相手に回し、一歩も引かぬ戦いを繰り広げるレヴェリア。

 さしもの彼女とて、かすり傷で済むわけもなく度々重傷を負っている。

 だが、どのような傷を負おうとも膝をつくどころか頭を下げることすらない。

 血に塗れながら戦うその姿に、アイシャはすっかり心を奪われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 日没を迎えて戦いを終えたレヴェリアは、オラリオに帰ってきていた。

 いつものように戦闘衣(バトルクロス)はボロボロだが、治癒魔法のおかげで傷一つなく体力は万全で疲労もなかった。

 合宿や竜の間引きで耐久戦の休止期間はあるものの、進捗状況は悪くない。

 フレイヤ曰く「もうちょっとでいけそう」とのことだ。

 

 ランクアップ耐久戦はオラリオの日常風景と化しており、観戦を目的にやってくる観光客も今ではあまりいない。

 レヴェリアと四派閥が延々と戦い続けるだけで、代わり映えのない展開であることが大きい。

 よほどの物好きでなければ、1日どころか1、2時間見ればもうお腹いっぱいであった。

 レヴェリア自身も、他人が同じことをしていたら毎日見たいとは思わなかった。

 ロイマンもそのことは分かっていたようで、短期的に利益を得ることに重点を置いて、成功していた。

 また、この1年でレヴェリアが指導しているアスフィ達だけでなく、注目しているアストレア・ファミリアの面々も順調にランクアップしていた。

 なお、ラキア王国もあれから動きがなく、侵攻を中止したようであった。

 

 

 夜の帳が下りた大通りをホームに向かって歩くレヴェリアに、声を掛ける者がいた。

 

「ちょっといいかい?」

 

 レヴェリアが視線を向けると、そこにいたのは10代前半くらいと思しきアマゾネスの少女。

 結わえた黒の長髪が特徴的だ。

 

「私はアイシャ・ベルカ。一晩、買わないか?」

「いいぞ」

 

 問いかけに対して即答したレヴェリアに、アイシャはくすりと笑って抱きつく。

 そして、その長耳に口元を寄せて囁く。

 

「あんたの戦いを見て、興奮したんだ。男のアレを生やせるんだろ? だから、私の初めてを貰ってくれよ」

 

 そのように言われて、レヴェリアがやる気にならないわけがない。

 少しだけ待っているようアイシャに伝え、彼女は目にも留まらぬ速さでホームへ向かった。

 色ボケという噂通りの欲望に忠実な動きに、思わずアイシャは笑ってしまう。

 そして、数分も経たずに戻ってきたレヴェリアは、妖艶な笑みを浮かべながらアイシャを抱き寄せて、その耳元で囁く。

 

「私以外では満足できないように、しっかりと刻み込んでやるからな」

 

 その腕に抱かれながら、アイシャは頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう行くの?」

「ああ、少し早いがホームに顔も出しておきたいからな」

 

 名残惜しい表情で尋ねたアイシャに、レヴェリアは答えた。

 その背中に、アイシャは抱きついて顔を埋める。

 たっぷりと甘い言葉を囁かれ、じっくりと解きほぐされ、身体の隅々まで貪られ、何度も快楽を与えられ――そして、女になった。

 レヴェリアが宣言した通り、もう彼女以外では満足できないという確信がアイシャにはあった。

 だが、それは問題にはならない。

 レヴェリア以外に抱かれるつもりはさらさらなかった為だ。

 

「今晩も会いたい」

「分かった。昨日と同じところにいてくれ」

 

 その言葉に頷いて、アイシャは告げる。

 

「あんたのこと、鏡でずっと見ているから……」

 

 健気だな、と思いつつレヴェリアは、姿勢を変えてアイシャを前から抱きしめる。

 そして、確認の意を込めて尋ねる。

 

「恩恵を得たことはないか?」

「ああ、一度もないよ」

「入団できるか確約はできないが……フレイヤの面談、受けてみないか?」

 

 その提案に対して、アイシャの答えは決まっていた。

 

 

 

 

 これより数日後、アイシャはフレイヤとの面談に臨み、入団することなった。

 世に名高い四派閥、その中でも常日頃団員同士で苛烈な闘争に明け暮れる超武闘派派閥――フレイヤ・ファミリア。

 アマゾネスの本能故に、アイシャはワクワクしたのだが――彼女の想像を色んな意味で超えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃいいいいん!」

 

 情けない泣き声が早朝のエントランスホールに響き渡る。

 多くの団員達から尊崇されている女神フレイヤは、簀巻きにされた上でエントランスホールの壁に鎖で固定されていた。

 その顔面には「たわけお仕置き中」と達筆で張り紙がされている。

 下界広しといえど、こんな事がフレイヤにできる人物は一人しかいない。

 

 そんな彼女を見て、アイシャは肩を竦めてしまう。

 入団して早2週間。

 フレイヤがやらかして、レヴェリアにお仕置きされるというのは最初こそ驚いたものの、もう驚きはない。

 フレイヤ・ファミリアでは日常茶飯事であった為、すっかり慣れてしまった。

 

 フレイヤの周りでオロオロしている侍従達の中に、アイシャはヘルンを見つけた。

 彼女の指導はアスフィ達と共にレヴェリアが日没後に行っており、アイシャ本人の性格もあってこの2週間で打ち解けていた。

 

「ヘルン、フレイヤ様は何をしたんだい?」

「アイシャ……それが、その……」

 

 困惑した顔で妙に歯切れの悪いヘルンに、アイシャは首を傾げてしまう。

 いつもならば溜息混じりにフレイヤがやらかしたことを教えてくれるのだが、今回はどうにも勝手が違いそうだ。

 その時、フレイヤが叫ぶ。

 

「唐揚げにレモンを掛けただけじゃない!」

 

 ヘルンは額に手を当てて、深く溜息を吐いた。

 他の侍従達も似たような反応だ。

 それを見てアイシャだけでなく集まってきていた大勢の団員達も、だいたい事情を察してしまう。

 ただレモンを掛けただけではない、という確信が彼等彼女等にはあった。

 

「ヘルン?」

 

 アイシャが名を呼べば、ヘルンは再度深く溜息を吐いて口を開く。

 

「レヴェリア様が承諾する前に掛けられたの」

 

 ヘルンは数時間前、目撃した光景を思い出しながら語る。

 

 

 おはよー! レヴェリア! 今日は朝から唐揚げなのね?

 眠気覚ましにもなるから、レモンを掛けてあげるわ!

 

 

 満面の笑みで告げたフレイヤはレヴェリアが止める間もなく、流れるような動きで唐揚げにレモンを掛けた。

 それだけならまだしも、うっかり強く絞りすぎてしまった為、唐揚げは哀れにもレモン果汁に沈んだ。

 

「レモンの味しかしない、と呟かれながらレヴェリア様は長耳を垂れさせて、哀愁を漂わせながら朝食を召し上がられていたわ。ミア様は既に出発されていたから、()()()()()()()()、とお伝えしたのだけど、勿体ないし時間もないからと……」

 

 ヘルンの説明を受けて、アイシャも含め団員達は誰もが微妙な顔となる。

 第三者の口から当時の状況を改めて説明されたことで、さすがのフレイヤもバツが悪そうな顔となった。

 もっとも、顔には張り紙がされている為に表情は周りから見えないのだが。

 

 アイシャは浮かんでいる神の鏡へ視線を向けた。

 フレイヤ・ファミリアではエントランスホールをはじめとして、複数の場所に鏡がフレイヤによって展開されている。

 既に戦いは始まっているのだが、レヴェリアは悲しみを帯びた表情をしているような気がする。

 

 もしも今日、レヴェリアがランクアップをしたならば、唐揚げにレモンを掛けられた悲しみゆえに……?

 

 この場にいる全員が、そのことに思い至る。

 張り紙の為、フレイヤは鏡に映し出されているレヴェリアの表情は見えなかったが、その可能性に気がつく。

 いくら何でも、そんな理由でランクアップはあんまりだった。

 オラリオの皆様方に愉快な話題をご提供である。

 

「本当、退屈しないところだね……」

 

 そう呟くアイシャは、にんまりと笑みを浮かべていた。

 

 

 

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