転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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一度やってみたかった、などと供述している模様

 

 ベル・クラネルは、昨年より始まったレヴェリアのランクアップ耐久戦を、鏡を通して毎日欠かさずに見続けてきた物好きである。

 後方祖父面したゼウスにより、幼い頃から英雄譚を読み聞かせられてきたことや、レヴェリアやアルフィアを通じて四派閥の眷族達と交流があったことが要因だ。

 

 見知った冒険者達やアルフィアを敵に回して、たった1人で戦う英雄の如きレヴェリアの姿を見たベルの心は決まった。

 もっとも、リューに対する思いとレヴェリアへの思いは違うものだ、と幼いながらに彼は認識していた。

 

 そんな彼は現在、フレイヤ・ファミリアのアイズ・ヴァレンシュタインと行動を共にしていた。

 彼女とはレヴェリアを通じて前々から交流があり、幼馴染と呼べる存在だ。

 ちなみにアイズのほうが年上である為、ベルに対してお姉ちゃん振るという、微笑ましい光景がよく見られた。

 だが、今回はお姉ちゃん振ることもなかった。

 それもその筈で、アイズはそんなことをしている場合ではなかったのだ。

 

「何でこうなったんだろう……?」

「ジャガ丸くんを多く得る為」

 

 呟いたベルの言葉に、アイズはそう返した。 

 彼女が狙っているのは『約束された勝利のジャガ丸くん』という期間限定お一人様一点限りのジャガ丸くんである。

 将来に備えて体力作りの一環として、6歳となった今年からランニングを始めたベルは、いつものようにヘラ・ファミリアのホームを出て走っていた。

 そして、限定ジャガ丸くんに目が眩んだアイズに捕捉されてしまったのである。

 

 私がお金を出すから、一緒にジャガ丸くんを買いに行ってほしい――

 

 それがベルを見つけたアイズの第一声であった。

 お一人様一点限り、つまり仲間を募って行けば人数分買える、お金は自分が出せば独り占めできる――という考えである。

 マナー的に良くない為、普通ならば店に迷惑がられる。

 だが、この限定ジャガ丸くんを買っている物好きはアイズくらいしかいなかったので、店側は密かに有り難く思っていた。

 

「アスフィさん達に頼めば良かったんじゃ……?」

「駄目。アスフィ達には頼めない」

「何で?」

 

 さらなるベルの問いかけに、アイズは足を止めた。

 そして、絞り出すような声で告げる。

 

「……今月のお小遣い、もうギリギリなの。 約束された勝利のジャガ丸くん、高いから……!」

「もしかして、今日だけじゃなくて……?」

「発売されたその日から、毎日買っている。朝昼晩、買う日も……」

「えぇ……」

 

 ベルは困惑した。

 彼は最新の冒険者事情にも詳しい。

 レヴェリアやアルフィアに教えてもらったり、彼を可愛がっているゼウスとヘラの眷族達に教わったりしている為だ。

 

 姉のように振る舞う幼馴染がレベル2の冒険者であり、二つ名として【輝ける戦乙女(ブリュンヒルド)】という超カッコイイものを神々より賜っていることは当然把握していた。

 

 彼が驚いたところは自分と同じくお小遣い制であったことだ。

 恩恵を得ると、子供であっても一人前として扱われることが多い為、てっきり金銭も自己管理だと思っていた。

 次いで、限定のお高いジャガ丸くんを毎日買っているということ。

 ジャガ丸くんが大好物というのは以前より知っていたが、ここまでだとは思いもしなかった。

 

「アスフィ達にそのことがバレると……とても良くないことが起こる」

 

 お小遣いをジャガ丸くんに費やしていることに、レヴェリアはとやかく言わない。

 だが、アスフィ・ヘルン・ヘイズがやばい。

 とてもとてもやばい。

 

 アスフィには長いお説教をされ、ヘルンからは無言でじっと見つめられて、ヘイズはニコニコ笑顔で心を抉るような指摘をしてくるだろう。

 唯一の逃げどころはアイシャだ。

 

「ともかく、早く行かないと……バレる前に……」

「何がバレる前にですかー?」

 

 その声が聞こえた瞬間、アイズは仰天して跳び上がった。

 ベルが視線を向ければ、数M程離れたところにヘイズ・ベルベットが佇んでいた。

 紙袋を片手で抱えており、買い物帰りなのだろう。

 

「ヘイズさん、こんにちは」

「こんにちは、ベル。うちの末っ子に拉致されかけてますけど、助けはいりますか?」

「えーっと……拉致ではないです」

「なるほど、助けは必要と」

 

 拉致は否定したが、助けに関しては言及しなかったベルに、ヘイズはそう返した。

 実のところ彼女は買い物帰りに見掛けたから近寄っただけであるが、その最中にアイズの言葉はしっかりと聞こえていた。

 今月のお小遣い云々という段階からだ。

 

「まったく、アイズのジャガ丸好きにも困ったものです」

「『ジャガ丸くん』だから……! 『くん』をつけないと駄目だから……!」

「はいはい。で、また『約束された勝利のジャガ丸くん』ですか?」

 

 問いかけに、こくりと頷くアイズ。

 ヘイズは溜息を吐いて告げる。

 

「発売されてから毎日買っていますよねー? お小遣い、大丈夫なんですか?」

「……ギリギリセーフ」

「本当に?」

「……だ、大丈夫」

「何だか怪しいので、通りすがりの神に嘘かどうか判定してもらいましょうか?」

「そ、それは駄目」

 

 さすがにベルも悟った。

 これはかなりお小遣いがやばいんだ、と。

 

「期間限定とはいえ、販売期間はそれなりに長いんですから。少しは我慢しましょうね?」

 

 ヘイズの言葉に、しょんぼりしながら頷くアイズ。

 だが、予想外の言葉がヘイズより飛び出してきた。

 

「まあ、今回は私が奢ってあげましょう。ベルも一緒にどうぞ」

 

 眉をハの字にして告げたヘイズ。

 まさかの展開にアイズは目を輝かせる一方で、ベルは目を丸くする。

 

「いいの!?」

「勿論です。ただし、帰ったらアスフィとヘルンも交えてお話をしましょう。ヘルンは見ているだけかもしれませんけど」

「うぐっ……! あ、アイシャも一緒に……!」

「いいですよ。けれど、アイシャにはあなたから伝えてくださいね」

 

 これによって、アイズ自身の口からアイシャに事情を話さねばならなくなった。

 怒られたりすることはないだろうが、それでも恥ずかしさはある。

 がっくりとアイズは項垂れてしまった。

 

「さ、ベル。行きますよ。アイズも観念して、ついてきなさい」

 

 ヘイズは歩き出し、ベルとアイズはその後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、濡羽色髪に赤緋色の瞳を持つエルフの少女――フィルヴィス・シャリアは中央広場(セントラルパーク)の一角に浮かぶ神の鏡から目を離せなかった。

 11歳である彼女は、レヴェリアによるランクアップ耐久戦の話を聞いて、オラリオにやってきていた。

 派閥大戦時、レヴェリア様の御姿を鏡越しに見たんだぞと両親から常々言われたこともあって、興味があったからだ。

 そして、いざレヴェリアの姿を見た時、断片的であるが当時の記憶が蘇った。

 あの時と変わらない、あるいはあの時よりも鮮烈に戦うレヴェリアの姿に魅了された。

 

 しかし、フィルヴィスは気づいていた。

 自分と同じように、鏡が映し出すレヴェリアの姿に虜になっている白の髪に紫紺の瞳が特徴的な同胞を。

 

 そして、向こうも――アウラ・モーリエルも同じくフィルヴィスの存在に気がついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 レヴェリアは落ち着かず、ソワソワしていた。

 今日の耐久戦が終わり、オラリオに帰ってきた彼女はホーム近くでエルフの少女2人から声を掛けられた。

 フィルヴィス・シャリア、アウラ・モーリエルと名乗った2人に入団させてほしい、と乞われた。

 尊崇の念を込めて接してくれる2人に、すっかり気を良くしたレヴェリアはフレイヤ次第である為に確約はできないと伝えて、2人をホームに連れてきた。

 

 そしてフレイヤに事情を説明し、早速面談となった。

 2人同時に面談をするというわけではなく、1人ずつ神室に呼ばれるという形式だ。

 レヴェリアは執務室で待っているように、とフレイヤから言われた為に大人しく待っていた。

 

 既に執務室で待ち始めてから1時間は経過しており、コーヒーでも飲もうかなと考え始めた時だった。

 扉が叩かれ、レヴェリアが許可を出せば――フレイヤではなくヘルンが緊張した面持ちで入ってきた。

 アイズがお小遣いを使い過ぎていたことが判明しました、とレヴェリアが帰ってきて早々、報告をしてきた時とはえらい違いだ。

 

 ヘルンは無言のまま、その手に持った垂れ幕のようなもの――即報用手持幡――を広げた。

 そこに書かれていたのは【入団決定】である。

 

 いつの間にこんなものを用意したんだ、とレヴェリアは思いつつ、確認の為に尋ねる。

 

「ヘルン、それは誰が用意して、誰の指示によるものだ?」

「全てフレイヤ様です」

「そうか……やり方は、教えてもらわなかったのか?」

「申し訳ありませんっ……! 私が無知であるばかりにっ……!」

 

 そのような作法があるとは知らず勉強不足だ、とヘルンは己を呪った。

 だが、これは彼女が悪いわけではない。

 

「ヘルン、フレイヤを呼んできてくれ。私が手本を見せよう」

 

 実は一度、やってみたかったレヴェリアは内心ウキウキしながらも表情には一切出さず、澄まし顔で告げた。

 そして、このことをヘルンから聞いたフレイヤは面白そうな気配を感じ取る。

 彼女はエントランスホールに手隙の団員全員集合を命じ、レヴェリアには15分後にエントランスホールで待っている、とヘルンに伝言を頼んだ。

 

 直ちに遅滞なく、フレイヤの神意は実行される。

 アスフィ達や入団したばかりのフィルヴィスとアウラも含め、10分以内にホームにいる全ての団員が集合した。 

 

 やがて、廊下を走る足音を団員達の多くが聞いた。

 足音はどんどんエントランスホールに近づき――勢い良く扉が開け放たれ、レヴェリアが駆け込んできた。

 大勢の団員達が集まっていることは、何となく予想がついていた為、彼女が動じることはない。

 恥ずかしいなどよりも、やってみたいという欲望の方が勝っていた。

 

 そして、彼女はフレイヤ達の前で、思いっきり即報用手持幡を広げた。

 

「フィルヴィス・シャリア! アウラ・モーリエル! 【入団決定】!」

 

 間髪入れずにレヴェリアは叫んだ。

 何かをやり遂げたような、達成感に満ち溢れた活き活きとした表情だった。

 

 フレイヤは目を輝かせ、ヘルンはそのようにやるのか流石レヴェリア様云々と脳内高速詠唱でもって褒め称えつつ、無知な己を呪う。

 一方、フィルヴィスとアウラは歓喜していた。

 レヴェリアが手ずから自分達の入団を全団員に知らせつつ、簡易ながらも紹介をしてくれた為に。

 実際、その通りであることからアスフィ達も含め、大半の団員達はそうとしか思わなかった。

 

 やることをやって満足したのはレヴェリアで、それを見て楽しんだのはフレイヤ、深く感動したのはヘルンくらいなものであった。




即報用手持幡

裁判の判決を知らせる為、裁判所の敷地外でびろーんってするやつ。
若手弁護士の仕事らしい。ただし、この名前自体がネタツイから始まった模様。
フレイヤが用意してあったのは、垂れ幕で知らせることでドキドキ・ワクワク感を味わってもらえるんじゃないかなと閃いた為であり、こういうものがあるとは知らなかった。

レヴェリアが使い方を披露したことで、これからはヘルンがドタドタ走ってきて、無表情で勢い良くびろーんするかもしれない。



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