転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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壁の中にいる

「……っ!」

 

 フレイヤは言葉を失った。

 いつもとは違う様子を感じ取り、背中を向けているレヴェリアも気がつく。

 

 ランクアップ耐久戦が始まっておよそ2年。

 ようやくその時がきたのだ、とレヴェリアは察した。

 

「おめでとう、レヴェリア。ランクアップできるわ」

 

 そう言いながら、フレイヤはレヴェリアの背中に抱きつく。

 そして、そのまま頬擦りを始めた。

 なされるがままのレヴェリアであったが、咎めるようなことはしない。

 

「これで依頼達成か?」

「まだよ。あなたがランクアップを保留するって言うかもしれないもの」

「さすがに言わないぞ」

 

 保留する理由がどこにもない為、レヴェリアはそう答えた。

 それを聞いたフレイヤはランクアップの作業を始め、指を動かしていく。

 すると、新しい発展アビリティが発現できることが判明した。

 

「発展アビリティが発現できるわ。たぶん稀少なものだと思う」

「どういうものだ?」

「【教導】よ。誰かに教える時に、何かしらのメリットがあるんじゃないかな」

「具体的にはどんなメリットが?」

「分かんない。初めて見たもん」

 

 そう答えたフレイヤに、レヴェリアは軽く溜息を吐く。

 素直なのは良いところであるのだが、もうちょっと頑張ってほしいところだ。

 いつぞやのフィルヴィス、アウラの髪を梳いている最中、覗き見してきたことといい、相も変わらぬ自由奔放女神である。

 

「で、レヴェリア。これで耐久戦は終わったから、時間ができるわけだけど……今後の予定はあるの?」

「空いた時間はアスフィ達や団員達の指導に費やし、全体的なランクアップをより加速させたい」

 

 レヴェリアの言葉に頷きつつ、フレイヤは更に尋ねる。

 

「実際のところ、黒竜討伐っていつ実行できそう?」

「このペースでランクアップしていけば、もう5、6年で私も含めて主要な面々はレベル11に至ることができると思う。その頃なら参加制限をレベル10以上に設定しても、大規模な討伐隊を組めるだろう」

「今はまだ無理そう? レベル10なら強化込みで実質的にレベル11みたいなものだけど……」

「分からん。だが、相手が圧倒的強大だと分かっているのだから、やれそうとかできそうとか、根拠のない理由では挑みたくない」

 

 毅然と告げるレヴェリアに、フレイヤは頷いてみせる。

 そして、彼女は前々から考えていたことを提案する。

 

「ね、レヴェリア。あなたが単独で黒竜を偵察してくるってどうかしら?」

 

 即答せず、レヴェリアは思案する。

 単独ならば自身の能力をフルに発揮できる上、万が一の場合も脇目も振らずに撤退できる。

 また、映像と音声を保存あるいは遠隔に伝えることができるカメラ的な魔道具を作って持っていけば、情報共有も容易だ。

 

 神の鏡を使えば手っ取り早いのだが、使用はウラノスによって禁止されていた。

 漆黒のモンスターは神の力(アルカナム)に特に敏感であり、僅かな気配であっても気づかれる可能性がある為だ。

 黒竜が反応して大暴れしたら結界が保つかどうか怪しく、予期せぬ形で解き放たれてしまえば救界(マキア)どころではない。

 

 フレイヤは更に己の予想を述べる。

 

「黒竜の偵察は誰も成し遂げていないから、偉業として認められるには十分だと思うの」

「道中の戦闘なく、黒竜を見て帰ってくるだけでもランクアップできると思うか?」

「可能性はあるわ」

 

 にこりと笑って肯定したフレイヤに対して、レヴェリアはジト目で彼女を見つめる。

 

「で、お前の本音はどこにあるんだ?」

「ランクアップ耐久戦ばっかりでマンネリだったから、新しい刺激を与えてあなたの魂を輝かせてほしいの」

「だろうと思った」

 

 素直に答えたフレイヤに、レヴェリアは肩を竦めた。

 フレイヤの本音はともかくとして、偵察は必要であることは間違いない。

 誰かがやらなければいけないのなら、それは自分の役目だと彼女は考える。

 

「分かった。だが、すぐには無理だ」

 

 レヴェリアはそこで言葉を切り、少しの間を置いて更に告げる。

 

「ズレの修正と熟練度の積み上げ、また映像と音声を保存なり中継できる魔道具の開発も必要だからな」

「勿論よ。しっかりと準備を整えてから実行して頂戴」

 

 レヴェリアの言葉に、フレイヤは満面の笑みを浮かべてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……」

 

 やる気のない声を上げながら、ぼーっと虚空を見つめる男神――タナトス。

 ここはオラリオの地下に広がる、人造迷宮(クノッソス)と呼ばれているところだ。

 

 かつてはオラリオにおける闇派閥の一大拠点として、大勢の眷族や信者達が居住し、またスポンサー達が出入りしていたが――今や閑古鳥が鳴いていた。

 

 闇派閥と一言に言っても、その実態は多数の犯罪系派閥による寄り合い所帯であり、現行秩序への反逆、オラリオ崩壊などといった方向性で一致していた為、纏まっていた。

 だが、フレイヤ・ファミリアがオラリオに進出して以降、櫛の歯が欠けるかのようにオラリオから出ていった。

 スポンサー達もじわじわと引き揚げていき、一時は枯死する寸前にまで追い詰められた。

 

「首の皮一枚繋がっているけどさ、これもう無理だわ」

 

 もう何百回目になるか分からない、現状に対する認識をタナトスは口にする。

 

 現在、スポンサーはたった1つ。

 カイオスの覇権を握るべく、軍拡に励んでいるワルサだけだ。

 闇派閥側は眷族達がダンジョンで集めた魔石やドロップアイテムをワルサへ提供し、ワルサ側は食料等の物資を提供している。

 

 二者の仲介はワルサに傭兵として雇われていたラシャプ・ファミリアの主神ラシャプだ。

 

 かつてフレイヤとレヴェリアによって与えられた屈辱を晴らす為――などということではなく、単純なビジネスである。

 相変わらず傭兵業を続けて悪逆非道なことをしていた彼の派閥は、より多く儲けられるチャンスだとラシャプが判断し、これまでに築いた神脈・人脈を駆使してワルサとタナトスを結びつけた。

 

 ワルサからの支援により、どうにか息を吹き返してはいるものの、勢力拡大どころか現状維持が手一杯だ。

 人造迷宮(クノッソス)から出ていった派閥はどこも戻ってくる気配はなく、新天地で気楽にやっているらしいという話をタナトスはラシャプから聞いていた。

 

 今の闇派閥ができることといえば、鬱陶しい蝿みたいな嫌がらせくらいだ。

 タナトス的には、それでも人類がいい感じに天に還ってくれるならやる意味はあるが――そうはならないという確信があった。

 レヴェリアが何もかも癒やし尽くしてしまうからだ。

 彼女が出てきた時点で全てが台無し、御破算である。

 タナトスからすれば、クソゲーの極みであった。

 

「レヴェリアちゃんが反則的なんだよな……あの子のおかげで、死ぬべき運命にあった子達が死ななかった」

 

 タナトスが思うに、彼女がいなかったならば桁違いで人類は死んでいた筈だ。

 直接治癒魔法で救ったというだけではなく、その行動や功績が人類そのものに与えた影響が大きい。

 

 レヴェリアを始末すれば丸く収まるというわけでもない。

 この流れはもはや止まらない。

 彼女が倒れようとも、その意思は受け継がれていく。

 というか、そもそも彼女をどうにかしようとしたら、黒竜でも引っ張ってこない限りは無理であった。

 ダンジョンの60階層とかの超深層で神威を解放して、黒竜クラスのモンスターを生み出してもらうという手もなくはないが――問題は、どうやってそこまで無力な神を連れて行くのかである。

 

 人造迷宮(クノッソス)を経由してショートカットできるにしても、現状の戦力では無理をしても40階層かそこら。

 そこで生み出されたとしても、今のオラリオの平均レベルを考えれば経験値を提供しただけに終わってしまう。

 

「八方塞がり。ゲームオーバー間近だわ」

 

 踏み止まれているのは人造迷宮(クノッソス)の存在がバレていないから。

 それに尽きる。

 バレたならば、レベル10にランクアップしたレヴェリア――数日前、ギルドが公表――を筆頭に、四派閥の連中が押し寄せてくるだろう。

 レベル10やレベル9の連中ならば、最硬精製金属(オリハルコン)の扉を膂力でぶち壊して入ってきかねない。

 それだけではなく、その扉を遠慮なく持っていきそうだ。

 

 そんな乱暴な入り方はバルカちゃんが激怒する、とタナトスは肩を竦めた。

 

 故に、彼は人造迷宮(クノッソス)と外部を行き来する際は厳重に注意するよう、眷族達や信者達に伝えていた。

 特に要警戒はリヴィラがある18階層と行き来する場合だ。

 バレる危険があるからといって、封鎖するわけにもいかない。

 ぼったくりであるが、余計な詮索をされず売買できるリヴィラは闇派閥にとって、貴重な補給拠点であった。

 

 リヴィラでの補給は2週間に1回くらいのペースであり、なおかつ行き来は夜間のみに限定している為、見つかる可能性は低いとタナトスは考えていた。

 

 

 

 

 

 

「うーーーん? 普通の壁……っぽいわね」

 

 18階層にて、アストレア・ファミリアは団員総出で傍目から見れば変なことをしていた。

 ダンジョンの壁を叩いたり、得物で斬りつけてみたりとそんなことである。

 しかし、これはれっきとした依頼であり、ギルドの掲示板に張られていたものを見たアリーゼが面白そうだから、と受けてきたものだ。

 

 2週間程前に18階層の壁から、冒険者らしき格好をした者達が出てきたのを見たので調査してほしい――という依頼内容だ。

 ただし、依頼主は当時ベロンベロンに酔っ払っていた上に夜間であった為、どこら辺の壁かは不明とのこと。

 携帯式魔石灯らしき灯りが小さく見えた為、目を凝らしたら壁から出てくるのが見えて、仰天しながらリヴィラに戻ったという経緯だ。

 

 依頼内容を聞いた団員達はリューも含めてやる気は低かったが、受けちゃったものは仕方がない。

 やる気満々のアリーゼに率いられて、ここまでやってきたというわけである。

 

「アリーゼ、こう言っては何ですが……酔っ払いの戯言では?」

「……ちょっとそう思い始めたわ」

 

 遠慮がちに問いかけたリューに対して、アリーゼもそう答える。

 既に壁を調べ始めてから数時間は経過しているが、18階層全体からすれば僅かな範囲しか調べられていなかった。

 しかも何の成果もない。

 

「団長様、何にもありませんでした、と報告すればいいのでは?」

「賛成。全部調べるとか、何年掛かるか分かんねぇ」

 

 輝夜の提案に、即座に賛同したのはライラだ。

 他の団員達も提案には賛成のようで、各々が彼女と似たような反応であった。

 

「ひとまず休憩にしましょう! それからどうするか、考えるわ!」

 

 アリーゼの宣言に、異論を挟む者はいなかった。

 

 

 

 休憩の為、アリーゼ達はリヴィラに向かった。

 全体的にぼったくり価格ではあるが、酒場は比較的マシな方であり、アリーゼの奢りで一杯やろうという話になった為だ。

 だが、そこで予想外の人物に出会う。

 

「レヴェリア様! ランクアップおめでとうございますっ!」

「ありがとう、アリーゼ。皆も久しぶりだな」

 

 元気満々に挨拶をしてきたアリーゼを見てその人物――レヴェリアは相好を崩す。

 アリーゼを皮切りに、輝夜やライラ、リューとアストレア・ファミリアの面々がレヴェリアにランクアップのお祝いを述べていく。

 対するレヴェリアは1人ずつ感謝を伝えていき、終わったところで尋ねる。

 

「アストレア・ファミリアは総出で遠征か? それともダンジョン篭もりか?」

「いえ、【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】様。うちの団長様が変な依頼を受けてきまして、それを遂行している途中です」

「変な依頼?」

 

 レヴェリアが問いかければ、話をややこしくしない為にライラがすかさず依頼内容と依頼主について説明していく。

 それを聞いたレヴェリアは面白そうな気配を感じ取り、尋ねる。

 

「面白そうだ。私達も参加させてくれないか?」

「私()……ですか?」

 

 リューがおずおずと尋ねると、レヴェリアは頷いて答える。

 

「アスフィ達と一緒に来ていてな。今は休憩時間で各自自由行動中だ」

 

 そう言ったところで、レヴェリアは提案する。

 

「せっかくだし、そちらの依頼に協力する対価としてアスフィ達と模擬戦をしてほしい。治療は私がやるから安心してくれ」

「分かったわ! レヴェリア様とアスフィ達がいるなら百人力ね!」

 

 レヴェリアからの言葉に、アリーゼは即答するのだった。

 





四派閥「オラッ! 最硬精製金属(オリハルコン)寄越せ!」
タナトス「やめて! バルカちゃん泣いちゃうから壊さないで! ああ、扉持ってかないでー!」
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