転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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今年もよろしくお願いします!


理不尽な連中に殴り込まれた結果

「こんなの、むーりぃー……」

 

 タナトスは水幕を見ながら、情けない声を上げた。

 四派閥及びアストレア・ファミリアの面々は、監視装置を壊すことなく進攻している為、行動が筒抜けだ。

 故に、進路妨害の為に最硬精製金属(オリハルコン)の隔壁を下ろしたり、隠し通路等からの信者による自爆特攻や眷族達による攻撃など、相手が並の派閥であったならば5、6個くらいは壊滅に追い込めそうな波状攻撃を仕掛けている。

 

 だが、相手は圧倒的な理不尽の塊であった。

 

 今まさに最硬精製金属(オリハルコン)の分厚い隔壁が進攻部隊の進路前方、十数M間隔で連続して3枚下ろされた。

 普通ならば突破は不可能。

 絶対の防護だと自負できるものだが、相手が悪すぎた。

 下ろされた隔壁を見て、隊列の先頭を進む【英傑】が大剣を振るう。

 

 雷霆の如き音と共に放たれた剛烈なる斬撃。

 その卓越した技は、距離も材質も無意味と言わんばかりに3枚の隔壁を斬断した。

 

人造迷宮(クノッソス)最硬精製金属(オリハルコン)の隔壁は木製だった……?」

 

 タナトスしかいない為に答える者は誰もいないが、そう問わずにはいられなかった。

 

 自爆特攻の為、火炎石と撃鉄装置を組み合わせた爆弾を持たせた信者達や眷族達は足止めにもならない。

 

 無論、前方で待ち構えるなどということはしていない。

 ゼウスの眷族共の理不尽な斬撃や魔法でもって、隔壁ごと両断されるのが予想できたからだ。

 故に、隠し通路を経由した左右後方からの奇襲を徹底しているのだが、姿を現した瞬間に斬撃が飛んできたり、魔法が飛んでくる。

 また、各所に仕掛けられた罠の類は四派閥の歴戦のドワーフ達によって見破られてしまう。

 発動前に各々の得物でもって破壊される方が多く、かろうじて発動したとしても瞬時に対処された。

 なお、落とし穴の可能性がある場合は床ごと魔法――リヴェリアの魔法、【ウィン・フィンブルヴェトル】によるもの――で凍りつかせて氷の回廊を構築することで回避していた。

 

「階層ごと崩壊させれば……」

 

 8年程前、バルカの異父兄弟であるディックスが派閥ごとオラリオから脱出する前に、作っていった特定階層の支柱を外し、崩壊を齎す装置。

 これを使えば四派閥も圧殺できるだろう。

 

 だが、とタナトスは思い直す。

 

 遅かれ早かれこうなることは予想ができていた。

 ワルサとの交易でかろうじて延命できていたが、巻き返しを図るには四派閥が根こそぎ消えた上で、さらにガネーシャやイシュタルなどの大手派閥の主要戦力が全滅でもしない限りは不可能だ。

 そして、そんなことが起こった状況はオラリオどころか下界そのものが滅びかかっている寸前だろう。

 とっくに詰んでいたが、それでもタナトスがここを離れなかったのは、眷族や自身を慕う信者達のことを彼なりに愛しているからだ。

 新天地で新たな生活を始める――その選択をできなかった子供達の為に。

 タナトス・ファミリアにはオラリオを出ていった派閥からの改宗組も多く、その大半は死に別れた者達との再会を強く望んでいた。

 

「皆が必死に生きてきた場所を、これ以上壊す必要はないよねぇ……」

 

 タナトスは決心した。

 

 

 

 

 

 

 

 人造迷宮(クノッソス)をマッピングしながら縦横無尽に駆け回り、最硬精製金属(オリハルコン)の隔壁を見つけると嬉々として壊しに行く。

 そういったことを繰り返していた進攻部隊、その中央に陣取っているレヴェリアはホクホク顔であった。

 もっとも彼女だけではなく、四派閥の眷族達――特に団長をはじめとする幹部達は皆同じような表情だ。

 

 最硬精製金属(オリハルコン)だけではなく、壁も床も全て素材として使えるものだ。

 そして、それらをふんだんに使って作られたこの人工的な迷宮は、補給基地として十分使用に耐えうることが証明されつつあった。

 

「うむ……! 大変結構!」

 

 ご機嫌なレヴェリアを見て、フレイヤはにこにこ笑顔だ。

 今この瞬間にも、左右後方から隠し通路を経由して闇派閥の信者やら眷族達が現れているが、出てきた瞬間に魔法や斬撃が飛んでいく。

 なるべく殺さないように、かつ必要以上に通路や壁を破壊しない為にも手加減をしているが、安全面からすぐに治癒魔法を掛けるわけにもいかない為、無力化して放置という方針だ。

 制圧完了後、生き残っていれば治癒魔法を掛けた上で拘束するが、運悪く死んでいても仕方がないという割り切りであった。

 

 一方、アストレア・ファミリアの面々は驚嘆の連続であった。

 四派閥はフルメンバーではない、という話が事前にあったものの、進攻速度は彼女達の想像を超えていた。

 ただ単に理不尽なまでに強いというのは勿論だが、60階層以下の超深層に幾度も遠征に赴いて得た探索ノウハウも進攻速度を高める大きな要因だ。

 なお、移動速度が一番遅いフレイヤはレヴェリアによって背負われていた。

 レヴェリアの両手が塞がらないようロープでしっかりと固定されていたが、その分背中に密着することになる為、フレイヤもすこぶる機嫌が良い。

 

「学びが多いわ! 皆、メモはしっかり取っているかしら!?」

「闇派閥の本拠地に乗り込んで、メモを取れる余裕があることがまずおかしいのでは?」

 

 アリーゼの言葉に対して、指摘した輝夜。

 しかし、彼女もメモこそ取っていないが、四派閥の剣士達が放つ斬撃を凝視していた。

 他の面々も似たようなものだ。

 

 その時、幾度目になるか分からない大きな広間(ルーム)に出た。

 これまでのように、闇派閥の眷族・信者による猛攻が待ち受けているかと思いきや、どうにも様子が違った。

 

 そこに佇んでいたのは見慣れぬ1柱の男神。

 

「レヴェリア、私の出番だわ」

「任せた」

 

 フレイヤに言われ、それに答えながらレヴェリアは彼女を背中から下ろした。

 そして、冒険者達の間を通り抜けて男神――タナトスへ近づいていく。

 フレイヤの表情、纏う雰囲気は女王であるかのようだ。

 

 だが、四派閥もアストレア・ファミリアも、そしてタナトスすらも、フレイヤの本性は知っていた。

 派閥大戦はタナトスも見ていたが故に。

 

「いきなりこう言うのも悪いけど……それっぽく振る舞っても、あなたの威厳は帰ってこないよ?」

 

 遠慮がちに声を掛けたタナトスに、フレイヤはムスッと頬を膨らませる。

 崇高な女神らしさは一瞬で消え失せて、いつものたわけ女神となった。

 空気が程よく弛緩したところで、タナトスが切り出した。

 

「初めまして、フレイヤ。俺はタナトス。死神さ」

「そして、さようなら……って言いながら、何だかスゴイ秘密兵器を出してきたりしない?」

 

 フレイヤの問いかけに、彼は肩を竦めた。

 

「残念だけど、なんにもないよ。戦力はもうスッカラカンだし、罠は潰されちゃうし、最硬精製金属(オリハルコン)の隔壁は斬られるし……」

 

 そう言いながら手を左右に振ってみせた後、彼は切り出す。

 

「もうどうにもならないから、降伏交渉をしにきたのさ。駄目かな?」

「いいわよ」

 

 問いかけに対するフレイヤの答えに、タナトスは思わず尋ねてしまった。

 

「……あっさり過ぎない? ほら、何かあるでしょ? ほとんど活動停止していたけどさ」

「うーん……正直、闇派閥に私や私の子達が何かされたって記憶がなくて……そういえば昔、レヴェリアにちょっかいを掛けたらしいけど、返り討ちにされたみたいね」

「ああ、あったねぇ……何であの子、レベル1だったのに1人で格上の集団相手に、消耗戦に持ち込んで勝利しちゃうわけ? おかしくない?」

「だって、レヴェリアだもん」

「もうそれだけで納得できちゃうのがスゴイよなぁ……」

 

 様々な勢力が暗殺組織や殺し屋等に金を湯水のように注ぎ込んでも仕留められず、大損をした者達は数知れず。

 そんな彼女がオラリオにやってきたことで、スポンサー達がじわじわと手を引いていき、枯死寸前にまでいったのだから、闇派閥からすると疫病神でしかない。

 

「んじゃ、条件を伝えてもいい?」

「聞くだけ聞いてあげる」

「ここ、人造迷宮(クノッソス)っていうんだけど、保全と拡張を許してほしいなーって。ここの完成を悲願にしている子達がいてね」

「ダンジョンのショートカットや補給基地として使うし、別にいいんじゃないかしら。でも、悪いことはしちゃ駄目よ?」

 

 あっさりと答えたフレイヤ。

 タナトスは彼女の背後にいる四派閥の面々へ視線を向けるが、誰も口を挟むことはない。

 

「その一族の子達は子孫を増やす為に、女の子を攫って孕ませているんだけど……?」

 

 恐る恐る問いかけたタナトス。

 その言葉に対してフレイヤは眉毛をハの字、口をヘの字にして腕を組み、視線を向けた。

 その先にいたのは、レヴェリアである。

 しっかりと聞こえていた彼女は厳しい表情でもって、答えた。

 

「まずはどういう理由か、詳しく教えてもらおう」

「いいよ」

 

 レヴェリアの言葉にタナトスは軽く答え、そしてダイダロスとその末裔達による、人造迷宮(クノッソス)への妄執について語り始めた。

 

 

 

 

 

「という感じで、子々孫々ずーっと作り続けているわけ。今の時点で進捗は3割くらいだって」

 

 そう締めくくり、タナトスは口を閉じた。

 レヴェリアからどういう答えが返ってくるか、彼にも予想はついていない。

 

「……こんなに大袈裟にせず、階段と踊り場だけでは駄目なのか? 設計変更はできないのか?」

「始祖が遺した設計図通りに完成させたいみたいだよ。単なる連絡路じゃなくて、作品だからさ」

 

 レヴェリアからの問いかけに、タナトスは素直に答えた。

 実際、彼も以前にバルカに同じようなことを聞いたことがあったが、その時に返ってきた言葉がそれであった。

 彼の答えに対して、レヴェリアは告げる。

 

「人を攫わない、囚えている者がいるならばその即時解放。この2点が約束・実行されるならば、関係各所と人造迷宮(クノッソス)の拡張協力について、最優先案件として協議・連携の上で前向きに検討し、善処しよう」

 

 タナトスもフレイヤも、レヴェリアが嘘を言っていないことは分かった。

 言葉の意味は勿論のこと、その表情や雰囲気・態度からも真摯なものであると察することができる。

 

 だが、付き合いの長いフレイヤや四派閥の面々、こういった迂遠な言い回しに家柄の都合で慣れているアスフィ、輝夜は隠された意味と狙いを悟った。

 

「……本当に大丈夫なの? 煙に巻こうとしてない?」

「何であろうとも、そちらにできることは何もない。違うか?」

 

 そして、やや遅れて違和感を覚えたタナトスの問いに対して、レヴェリアは答えつつも問い返した。

 実際、その通りだ。

 タナトスが最初に言った通り、戦力はもはやどこにも残っていなかった。

 

「拘束させてもらう。お前だけでなく、バルカとやらも含め残っている者達全員だ」

「いいよ、優しくしてね。俺達、そういうことをされるのは初めてだから……」

 

 タナトスの気色悪い言葉に、吹き出す者が複数名。

 そこへフレイヤは目を輝かせながら言った。

 

「ねぇねぇ、レヴェリア。拘束するなら私にやらせて。いつもやられてばかりだから、誰かを簀巻きにしてみたくて……」

 

 手をワキワキと動かす彼女に、レヴェリアは肩を竦めた。

 そこへ今度はタナトスが尋ねる。

 

「ところで、レヴェリアちゃん。ガネーシャ・ファミリアってカツ丼とか出るの?」

「……シャクティに伝えておこう」

 

 軽く溜息を吐いて、レヴェリアはそう答えた。

 

 




ソード・オラトリアでのクノッソス決戦時の戦力が闇派閥側にあったとしても、この面子に殴り込まれたら一方的に蹂躙される模様。

ちなみにオリヴァスは10年以上前に脱出してます。
現在とある国に雇われて、イキリ散らかしている模様。
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