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作業の休憩中に呟いて、レヴェリアは肩を竦めた。
つい先日、イズンが教えてくれた非公式の二つ名だ。
襲撃者達をことごとく痛めつけた後、癒やして帰すことが由来であるのは間違いないだろう。
レヴェリアがフレイヤと別れて5年が経過し、ここ最近は襲撃が激減していた。
イズンをはじめとした善神達の働きによるものだが、それだけではない。
レヴェリアの暗殺が掛かる費用と比べて割に合わない為、依頼を請け負う組織や個人がかなり少なくなっているとイズンから聞いていた。
前提として、レヴェリアと戦う際には多種多様な毒――ダンジョン産のもの――を仕込んだ武器と魔法封じのカースウェポンが複数必須である。
これらは決して安いものではなく、特に後者は稀少である為、恐ろしい程に高価だ。
無論、この他にも回復薬をはじめとしたアイテム類が必要となってくる。
レヴェリアに敗北しても人員だけは無傷で帰ってくるから、やろうと思えば何度でもやれてしまう。
そして、そこが罠となった。
暗殺失敗、しかし人員は無事という結果から依頼を受けた側としては、今後の商売に悪影響を与えない為にも再び実行する。
またもや失敗、しかし商売上の信用を失わない為にもまた実行というループが始まる。
これ以上の出費はまずいと途中で気づいたとしても、今更やめたら多額の金を失っただけでなく商売上の信用も失って大損だという思考がどうしても働いてしまう。
早々に手を引いたところを除き、彼女を狙った組織や個人は金欠に陥った。
そういった組織や個人だって商売だ。
暗殺者や殺し屋としての意地はあっても、先立つものがなければ通せない。
戦う度に多額の費用が掛かり、採算が取れないとなれば手を引くのは必然であった。
レヴェリアはポットからマグカップに2杯目となるコーヒーを注ぐ。
熱々のそれに砂糖とミルクを足して、ゆっくりと啜りながら思考を切り替える。
彼女が今いる場所は庭に新しく作った小さな工房。
そこには鍛冶に必要な設備が最低限ではあるが揃っていた。
襲撃が激減したことで纏まった時間が取れるようになり、魔導具製作や薬の調合や実験、錬金術など以前から続けていたものに加え、新しいことにも挑戦していた。
それが鍛冶だ。
自分で素材から精錬して、一から作ったほうが良いものができるかもしれないという単純な理由もあるが、別の思惑もあった。
「【魔導】と【神秘】で魔導書など様々なものが作れる、ならば【魔導】と【鍛冶】でも何かできる筈だ」
【魔導】の発展アビリティは種族的に修得できると確信しているからこそ、レヴェリアは試してみようと考えた。
可能であれば【神秘】も修得し、三つの発展アビリティを併用できるかを試してみたいと思っている。
「しかし、もう5年か……」
何気なく呟いて、フレイヤのことを思う。
フレイヤの状況はかなり前からイズンがちょくちょく教えてくれていた。
要約すればフレイヤを尊崇して寵愛を求める眷族達ばかりであり、フレイヤ・ファミリアならぬフレイヤ・ハーレムとなっているとのこと。
フレイヤにとってその状態は本人が望んだものではない、という確信がレヴェリアにはある。
「私はフレイヤを好ましく思う。そこに変わりはない。あの我儘な小娘がいないのは……楽しくない。寂しい……」
レヴェリアは素直に己の気持ちを吐露する。
惚れていることを明確に自覚しつつ、願望を口にする。
「しかし、ハーレムを諦めるのは嫌だ」
それもまた彼女の本心だ。
そもそも今回、そのことで10年という期間を開けている。
しかし、短い期間とはいえ共に暮らしたからこそ、フレイヤが我慢して素直に受け入れることはないと感じていた。
ハーレムは認められないから別れましょう――そう言われて振られる可能性が脳裏を過ぎったが、賽はとっくに投げられている。
「あいつが納得する対価が必要だな」
ひとまず振られないという前提でもって、ハーレムを認めてもらう為の対価をレヴェリアは考えることにした。
「【
レヴェリアと別れてから5年が過ぎ、ようやく襲撃が大きく減ったことをイズンからの手紙でフレイヤは把握していた。
以前、イズンに相談の手紙を出して以降、彼女とは頻繁に手紙でやり取りをするようになった。
仲が良くなったというのもあるが、レヴェリアに対する近況報告をイズン経由でやってもらっている為だ。
これはイズンのアドバイスによるもので、第三者から伝えた方が威力が高いとのこと。
勿論、レヴェリアがその近況に対してどう反応したかなどが事細かく手紙に書かれている。
それを読んでフレイヤは一喜一憂するのが恒例となっていたが、今回の手紙には非公式の二つ名が彼女につけられたことが書かれていた。
「それにしても、色んなことをやっているのね」
襲撃が減って纏まった時間が取れるようになったことで、これまでやっていたこと――魔道具の製作などに加えて鍛冶もやり始めているという。
自分の武器は自分で作ったほうが良いものができるかもしれないだの、【魔導】と【鍛冶】を組み合わせたら面白そうなどと理由も書かれていた。
イズンがレヴェリアからうまく聞き出したのだろうことは簡単に想像ができる。
色んなことに打ち込むなんてすごくアオハル☆
そんな彼女の注釈まであった。
「会いたいなぁ……」
まだ5年しか過ぎていないというのが信じられない程、時間の歩みが遅く感じられた。
しかし、彼女は答えを出せていない。
心の奥底に自分の望みはあり、それが答えだと感じていたが――レヴェリアに対して告げる勇気はなかった。
「もう、何で私がこんなに悩まないといけないのよ」
ハーレムを認めるか認めないかというだけの話であり、フレイヤの不満ももっともだ。
そもそもレヴェリアが一途に愛するとでも誓えば、こんな回り道をしなくて済んだことである。
「……レヴェリアを諦められるわけがないわ。だから、少し我慢すればいい……」
長年女神の仮面を被り、己の心を偽ってきたフレイヤにとっては慣れたものだった。