「……おう、色ボケ。何かないんか? 暇過ぎてたまらん」
「何もないわねぇ……」
ぐでーっとだらしなくテーブルに突っ伏しながら、ロキは問いかけた。
対するフレイヤもまた、ぐでーっと突っ伏していたところを顔を上げて答える。
フレイヤ・ファミリアのホーム、その神室にて2柱は暇を持て余していた。
暇だから来た、とロキは来たもののフレイヤもまた暇であった。
互いに眷族達がダンジョン篭もりに出かけてしまった為に。
故に暇神が2柱揃って、ぐだぐだしていた。
この間、ガネーシャ・ファミリアによる徹底的な調査が行われて隅から隅まで
一連の情報は四派閥だけでなく、アストレア・ファミリアにも共有されていた。
彼女達ならば悪用はしないだろう、という信用があった為だ。
なお、あれやこれやと適当な理由をつけて拡張作業は無期限凍結されており、再開の目処は立っていない。
ダンジョンのショートカット及び補給基地は欲しいが、
また進攻側には死者どころか負傷者すらでなかったが、闇派閥側の生き残りは戦闘に直接参加しなかったバルカくらいなものだ。
四派閥による攻撃は手加減されていたとしても、相応の威力であったというのもあるが、そもそもが死別した者達と再会したいが為に死ぬという考えが根底にあり、生きる意思が皆無であったことも大きかった。
タナトスの処遇は神会にて決定されることになっているが、その送還は確実視されている。
そして、バルカも
「そういやフレイヤ」
「なにかしら?」
「アミッドって子、知っとる? 半年くらい前にディアンケヒトんとこに入団した、ちびっ子やけど」
「勿論、知っているわよ。今回のダンジョン篭もりには彼女もついて行っているもの」
フレイヤの言葉に、ロキはニヤリと笑みを浮かべた。
「さすがはレヴェリアちゃんや。もう手を出したんか」
「違うわ。ディアンケヒトからの指名依頼なんだけど、どうやら本人が希望したみたいなの。鍛えてほしいって。まぁ、将来的に手を出すかもしれないけどね」
レヴェリアに任せておけば知識や戦闘面も含めて纏めて真摯に教えてくれる上、ランクアップも確実だ。
その過程で手足が千切れたり臓物が零れ落ちて死にかけることが多々あるが、アミッドもまたランクアップ耐久戦は見ていた。
故に、そういった事は覚悟の上だ。
優れた治癒魔法の使い手として、入団して半年程度であるがアミッドの名はじわじわと広まりつつある。
彼女がレヴェリアによる教導を受け、ランクアップを重ねることはディアンケヒト・ファミリアだけでなく、オラリオ全体にとって有益となるだろう。
「まぁ、レヴェリアちゃんに任せておけば間違いないやろなぁ……どんくらい篭ってくるん?」
「合宿や間引きの前には帰ってくるって言ってたから、かなり長いと思うわ」
「ディアンケヒトはOKしたん?」
「言質は取ったってアミッド本人が言ってたから、大丈夫なんじゃない?」
「しっかりしとるなぁ……もしかして、合宿や間引きにも参加する流れなん?」
「たぶんね。たとえ戦闘に参加しなくても、治療師として良い経験になるし」
「全部終わってステイタス更新をしたら、
レヴェリアやヘイズに匹敵する治癒魔法の使い手として、その名がオラリオにて広まりつつあるアミッド。
彼女がランクアップを重ねていけば大きな儲けに繋げられるだけでなく、レヴェリアとアミッドが個人的な友好関係を築いておけば色々と融通が利く――とそういう狙いがディアンケヒトにはある、と2柱は予想した。
「ところで、ミアちゃんはいつになったら店を出すん?」
「黒竜討伐が終わるまでは待ってくれるみたい」
「黒竜のドロップアイテムをインテリアとして店に飾りたいとか、そういう考えがあったりせぇへん?」
「あるかもしれないわ」
ミアならばやりかねない、と2柱は思う。
フレイヤ・ファミリアの中では常識的な方であるが、豪快過ぎるところが割とあった。
そういえば、とフレイヤは切り出す。
「いつになるか分からないけど、レヴェリアが黒竜の偵察に行くわ。単独で」
「ヤバいことをポロッと言うなや。何がどうしてそうなったん?」
「新しい刺激を与えて、魂をより輝かせたくて……あと、どうせ誰かが見に行くことになるから、それならレヴェリアが適任だと思うの」
フレイヤの言葉に対して、ロキは肩を竦めてみせる。
前半はともかく、後半の理由には同意できるからだ。
そして、彼女は竜の谷について、確認するかのように告げる。
情報源はゼウスであり、フレイヤにも共有されているものだ。
「黒竜が下界中の竜達に号令をかけて、その大半が集まったところで大精霊が己の身を捧げて黒竜と竜達を竜巻によって封印。やけど
「封印に入りきらなかったり、遅れてやってきた竜達が
「封印直前にどんくらい集まっていたかは分からんけど、下界中っていうくらいやから100体や200体程度やないやろ。仮に10000体として、その大半……9割を封印したとしても、1000体は封印されずに残る計算や」
「封印の中にも外にも、強い個体がいるのがほぼ確実なのよね」
「せやろなぁ。70階層どころか80階層以下の未確認のヤバい竜がいても、おかしくはあらへん」
四派閥合同遠征による現時点での到達階層は76階層。
この階層では最低でも推定レベル6以上のモンスターが高頻度で生み出され、竜種に至ってはレベル7相当のヴェノムスカイ・センチピード・ドラゴンに加えて、推定レベル8やレベル9の個体が確認されていた。
レベル8やレベル9相当の竜達はヴェノムスカイ・センチピード・ドラゴンが可愛く思えてしまう、全長100M近い巨竜だ。
そのような巨竜が大群で襲いかかってくることもしばしばある、理不尽が極まっている世界だ。
また、80階層以降では出現モンスターは最低でも推定レベル7となることやレベル10、レベル11に相当する竜種が現れることも予想されている。
更に最悪の可能性として、ベヒーモスやリヴァイアサン、黒竜が最下層手前で階層主として待ち構えているのではないか、とも考えられていた。
ダンジョンによって産まれた――それも1000年以上前に――のだから、極めて長いインターバルの後に再び産まれていてもおかしくはない。
「最悪を想定すれば、ホンマに戦力足りるんかって思えてまうな」
「神時代史上、もっとも強い眷族達がたくさん揃っている筈なのにね」
2柱揃って、肩を竦めた。
四派閥内だけでなく、ガネーシャやイシュタルといった大手派閥においても、戦力強化と後進育成は活発に行われている。
新進気鋭の派閥としてはアストレア・ファミリアだ。
レヴェリアが目を掛け、
だが、どれだけ戦力を揃えても不足しているように思えてならなかった。
「んで、レヴェリアちゃんの偵察やけど……間引きをギリギリまでやってからやろ?」
「ええ、勿論よ。何かの拍子で黒竜の封印が解けちゃったりしたら大変だもの」
そう答えたフレイヤは、少しの間を置いて話題を変える。
己の計画について、ロキに見て見ぬふりをしてもらわないと、レヴェリアに即バレしかねない為だ。
「ところでロキ。実は私、ちょっとした計画があるんだけど……」
「何やねん急に。それ、おもろいやつなん?」
「少なくとも、私は最高に楽しいし、ワクワクドキドキするわね」
「ちゅーことは、ろくでもない計画やな。レヴェリアちゃんがはっ倒しにくるパターンや」
「いいえ、レヴェリアにとっても良いことよ」
にこにこ笑顔で答えるフレイヤに、ロキは胡散臭いものを見るような視線を向ける。
「……うちに何をさせようって言うんや?」
「基本的には見なかったことにしてくれればいいわ。美味しいお酒、あげるから」
「ほーん……ま、貰えるもん貰えるならええわ」
いったい何をやるつもりなんだ、とロキは内心面白く思いながらも、承諾した。
「【ゼオ・グルヴェイグ】――!」
四肢を潰され倒れ伏し、血反吐を吐きながらもヘイズは詠唱を完了させる。
自身も含め、瞬く間に全員を癒やし尽くしていく。
それを眼前に佇むレヴェリアは邪魔することなく、見守る。
立ち上がりながら、ヘイズが視線をそれとなく向けるのは見学しているアミッド・テアサナーレ。
年齢はヘイズやヘルンよりも1歳上だが、見た目や背丈はアイズとどっこいどっこいのちびっ子である。
彼女のことを年下だと思ったアイズがお姉さん面してムッフーと胸を張っていたのは御愛嬌。
今回のダンジョン篭もりにアミッドが参加するとアスフィ達が知った時、治療師として鍛えてほしいという意味であると思っていた。
様々な場面における治療師としての立ち回りだとか、あるいは詠唱速度向上の為の訓練だとか、そういう類である。
だが、アミッドの口から出てきたのは予想外の言葉だった。
レヴェリア様のように、戦える治療師になりたいんです――
ランクアップ耐久戦を見て、影響を受けたとのことだ。
戦闘経験自体があまりない為、一から教えるに等しい状況であったが、レヴェリアは事前に要望を聞いた上で依頼を承諾していた。
アミッドの手には鞘に入った長剣がある。
この剣は今回の指導にあたり、レヴェリアが用意した幾つかの得物を試した上でアミッド自身が選び、そのまま贈られたものだ。
彼女が剣を選んだのは手にしっくりきたからという理由だけではなく、レヴェリアへの憧れも含まれていた。
18階層の片隅で、レヴェリアとの戦いが始まって早数時間。
アミッドは速度が速すぎるが故に目で追えないところが多々ありながらも、片時も目を離すことなく戦闘を観察し続けていた。
程なくしてアスフィ達が戦闘態勢を整えたところで、頃合い良しと考えたレヴェリアは小休止を告げた。
「そういえば、皆さんは得物に剣を選んだ理由はありますか?」
18階層の森林地帯にある泉で水浴びをしている最中、アミッドがおもむろに尋ねた。
純粋な好奇心から出たものだ。
常日頃、レヴェリアから指導を受けている面々のうち、アイシャだけは大剣で他の6人は全員が長剣であるが、どちらも剣というカテゴリーに変わりはない。
「決まっているじゃない。レヴェリア様が得た経験を、そのまま賜わることができるもの」
真っ先にヘルンが答えた。
言葉通りに受け取れば、レヴェリアと同種の得物を使うことで効率的に教わることができる――という真っ当なものだ。
しかし、アミッドには他にも理由が含まれているような気がしてならない。
彼女がレヴェリアに対して、重い感情を抱いていることは短い付き合いながらも、薄々と感じていた。
「私の場合、レヴェリア様の戦闘スタイルを真似したいって思ったからですねー」
ヘルンに続いて答えたヘイズはそこで言葉を切り、からかうような口調といたずらっぽい笑みを浮かべて告げる。
「ここでマル秘情報なんですけど……実はヘルンが一番しっくりきた得物って、包丁とナイフなんですよ」
「ヘイズ、あなたは何を言っているの? そんなわけないじゃない」
「あなたと包丁、ナイフの組み合わせって……怖いくらいに似合っているじゃないですか」
アミッドは勿論のこと、アスフィ達ですらそんな情報は初耳だ。
彼女達は包丁あるいはナイフを持って戦うヘルンを想像してみた。
すると、ヘイズの言う通りに恐ろしいくらいに似合っていた。
般若の形相で振りかぶったり、あるいは腰だめに構えてぶっ刺してくる光景が簡単に思い浮かぶ程に。
ヘルンは苦々しい顔でもって答える。
「……包丁はともかく、ナイフもしっくりきたのは間違いないわ。サブウェポンとして持っているし」
「ほらー!」
「だけど! 私はそんなイメージを持たれる重い女じゃないわ! ヘイズの方が重いでしょうに!」
「本当ですかー?」
「当たり前じゃない!」
当然とばかりに胸を張るヘルン。
11歳という年齢には似つかわしくない大きな胸が、たゆんと揺れた。
アイズとアミッドは敗北感を覚えた。
そんな2人のことなど気にせず、ヘイズは挑発的に問いかける。
「レヴェリア様の良いところ、何個言えます?」
「まず100個は出てくるわね」
「やっぱり重くないですか?」
「重くないわ。むしろ、普通よ」
そんなことを言い始めている2人であったが、アスフィ達からすればいつものことである。
だが、初めて目の当たりにしたアミッドは目を丸くしてしまう。
そんな彼女にアイシャが告げる。
「アミッド、その2人はいつもこんな感じだから、放っておきな」
「……いつもなんですか?」
「いつもだよ。軽いじゃれ合いみたいなものさ」
そこで言葉を切って、少しの間を置いてアイシャは告げる。
「それで、私が大剣を選んだ理由だけど……威力があって、頑張れば斬撃を飛ばせるようになる。これで選ばない理由がないだろう?」
ニカッと笑ってみせるアイシャに、アミッドも納得する。
レヴェリアに対する思いで何やら白熱しているヘルンとヘイズとは違った清々しさが、アイシャにはあった。
「私は、お父さんが剣士だったから……」
伏し目がちで、ポツリと呟くように言ったのはアイズだ。
彼女はレヴェリアがどこからか拾ってきた孤児であり、そうなった理由には黒竜が関係しているとアミッドは噂に聞いていた。
彼女の心を傷つけないよう、うまく言葉を選ばねば――アミッドがそう思っていた時だった。
「だから、私……黒竜を斬る。レヴェリアが言っていた。大地を斬り、海を斬り、空を斬れば全てを斬れるって」
顔を上げたアイズは、お目々をキラキラ輝かせながら宣った。
幼いながらも【
「アイズ、鍛錬は構いませんが……そろそろ髪の手入れを自分でできるようになりさい」
「……皆にやってもらったほうが、綺麗に整うから……」
「駄目です」
そう嗜めるのはアウラだ。
エルフらしいエルフといった印象を抱かせる彼女の二つ名は、エルフらしくない極めて物騒なものであることは有名だ。
彼女とアイシャ、フィルヴィスも含めた3人は先の
二つ名はアイシャが【
アウラだけはやたらと物騒であるが、これは彼女に発現した風属性攻撃魔法に由来している。
この魔法は超短文詠唱によって風の刃を飛ばすものであり、発動の速さや燃費の良さ、それなりの威力、さらには追加鍵を唱えることで拡散させることもできる優れモノだ。
故に彼女はモンスターとの戦いで初手に首を狙って、この魔法を撃つという戦法を取っていた。
エイルには『慈悲』という意味があり、一撃でもって首を落とすことは最上の慈悲――そういう意味が込められたのが、アウラの二つ名であった。
ちなみに、アイシャとフィルヴィスは神々が候補を色々と出したところで、フレイヤの鶴の一声で決まったというプロセスであったが、アウラはフレイヤも含めて神会の満場一致、これしかないという具合に決まっていた。
なお、名付けた神々は【
栄誉なことであるのだが、そのように呼ばれる度に複雑な気分になるアウラである。
それはさておき、アミッドの質問に答えるべくアウラは切り出した。
「私の場合はレヴェリア様からご指導を賜っていくうちに、魔法剣士という戦闘スタイルがもっとも良いと判断したからです」
アウラが答えたところで、フィルヴィスが口を開く。
「私はレヴェリア様と肩を並べて戦うなら、同じ戦闘スタイルが一番良いと思ったから……」
言い終えたところで、皆の視線がアスフィへ向けられる。
残るは彼女だけだが、期待に満ちた視線を向けられても困るというのが本音だ。
「私は派閥大戦を間近で見て、レヴェリア様と肩を並べて戦うところを想像したことがきっかけでした」
「あの伝説の……! レヴェリア様が『頂天』であることを世界に示し、ついでにフレイヤ様の威厳が彼方に吹っ飛んでいったという……!」
目を輝かせるアミッドに、アスフィは得意げな顔だ。
この面々の中で、派閥大戦をリアルタイムで観戦していたのは彼女しかいない。
「ところで、アミッドはどうしてうちに来なかったんですか?」
「多くの人々を助けたいと思っていたので、オラリオでもっとも治療院の規模が大きいディアンケヒト・ファミリアを選びました」
ヘイズの素朴な疑問に対してアミッドは答える。
なるほど、と納得するヘイズや聞いていたアスフィ達。
それからも言葉を交わし、彼女達は交流を深めていった。
何かを間違えたアミッド「救護!」
7、8年前に組んだPC(7700KとGTX1080)がそろそろスペック的に不満なので、今年はPC組みたい。
壊れない限り10年くらいは問題なさそうなスペックの、9950X3DとRTX5090で夏頃に組みたい(願望)